桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

1、

 幼なじみの、真咲(男)がいきなりぽっくり死んだ。

13歳のくせに、なぜかぽっくり。
真咲の両親は、悲しみのあまり内輪で葬式を済ませ、ずっと仲が良かった隣の舞子もお参りに行ったのは、葬式を終えたあとだった。
祭壇には、黒いリボンがかかった真咲のぼんやりと呆けた顔。
「真咲い……」
舞子はショックで泣き通し、目が真っ赤で顔も思い切り浮腫んでいる。
写真の向こうにある小さな骨壺の入った箱が、どうにも信じられない。
人は死ぬと、あんなに小さくなるのかと、写真のどこ見てるかわからない、真咲のぼやっとした顔に、舞子はぐっしょり濡れたハンカチで目を覆って大きな溜息をついた。
「舞子ちゃん、お茶でもどうぞ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「あの子、いつもボウッとしていたでしょう?だからこんな間の抜けた顔の写真しかなくてねえ。」
言われてもう一度写真を見ると、アホのような顔にまた涙が浮かぶ。
「も少しキリッとしてたらジャニーズ系なのになあ。おばさんごめんね、あたしがもっと小さい頃、カツ入れとけば良かった。
ほんっとガキんちょの時から、ぼけーーーっとして、すぐ泣くし、根性無いし、頭悪いし、アホだし…ほんっとに……うっ。」
また涙が出てくる。
2人は写真を前に、お茶を飲みながら思いを馳せた。
「いいのよ、舞ちゃん。舞ちゃんは良くやってくれたわ。幼稚園の時は剣道…」
「ああ、毎日先生に叩かれて、泣いて挫折したわねえ。あたしは初段取ったけど。」
「小学校じゃ、空手に柔道。」
「ウンウン、空手じゃ突きやっただけで肩が抜けたし、柔道は受け身で気を失ってやっぱり挫折したわねえ。」
「跳び箱は1段も跳べず、鉄棒はぶら下がるだけでポトッと落ちるもんでいつも体育は『がんばりましょう』。水泳じゃ溺れて救急車まで呼んで、ようやく一人前に出来たのは……」
ようやく、舞子が自信たっぷりにうなずく。
「おばさん、短距離だけは自慢できます。」
「そうかしら?」
「ええ、逃げ足だけは小さい頃からピカイチでしたから。」

「はあああああ……」

故人をしのぶつもりが、あまりの不甲斐なさに溜息しかでない。
真咲の両親は、物心付いた頃からしきりに強くなるようにと鍛えてきた。
隣の舞子は仲良しで、それにずっと付き合ってきたのだ。
しかし人には得手不得手があり、元々ボーッと鈍い真咲は格闘技に向いていない。
虐められても口喧嘩じゃいつも一緒の舞子が負けないし、相手の手が出そうになったら逃げ足だけは早かった。
後はいいのは顔だけで、勉強も覚えが悪くて授業中は寝てばかりのとことん落ちこぼれだ。
いい事を思い出そうにも抜けた話しか思い浮かばずに、写真のほけっとした顔がますます締まりがなく見えていく。
やがて舞子は真咲の母親とどうにも落ちこぼれの話しに花を咲かせ、泣いては溜息をついて挨拶すると家へと帰っていった。
「ただいまあ。」
家の中はシンとして、トテトテ入ってゆくと奥の居間では、母親がパソコンに向かってひたすらキーを打っている。
「ママ、隣り行ってきたよ。ママもお参り行ったの?」
カチャカチャ打っていた手が、はたと止まる。
「ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あーー!!」
いきなりノートパソコンをバンと閉じた。
「駄目よ、あーもう駄目!締め切りが近いのに、ネタが浮かばない!」
「今の連載?」
舞子の母親は、程々売れてる小説家だ。
舞子が小さい頃離婚して、一匹狼でやっている。
しかし、どうも最近行き詰まっているのだ。
「ああどうしよう。もう1本連載やらないかって話が来てるのに、プロットが浮かばないのよ。何か壮大な冒険ファンタジーって思うのに。」
「壮大ねえ……」
むぐむぐクッキーを食べて、頭を抱える母親を冷ややかに見る。
この人には、隣の息子が死んだこともあまり人生には関係ないのかも知れない。
「ねえ、隣の……」
言いかけたところで、ガタンと母親が立ち上がり、ダアッと家を飛び出してゆく。
「舞、あたし気分転換に行くから。じゃ!」
バタンと閉じられる玄関ドアを耳にして、舞子が大きな溜息をつきポツンとつぶやいた。
「じゃって、あんたあたしの気持ちチッとは考えてんの?」
ずっと一緒に育ってきた真咲は、舞子にとって大きな心の一部だった。それがいきなり無くなって、ポッカリ空いた心を埋める物が何もない。
死んだと聞いて、あれから学校も行く気がせず休んでいる。
一緒に通った道を一人で通うのは、舞子にはひどく辛くて心の整理がまだ付かなかった。
 ため息混じりに、自分の部屋へとガチャリとドアを開けた。
居間の隣りの自分の部屋からは、真咲の家が正面に見える。
真咲が生きていた頃は、よく窓から覗き込まれてセクハラだと竹刀で殴って……

「よう、舞子。」

真咲の亡霊が、いきなり窓から覗き込んだ。
じっと見つめ合い、見なかったことにして、バタンとドアを閉める。
「まさか、私って病気になったのかな?」
幻覚か何かが見えたら最後だ。精神病院へ行くしかない。
スッと息を吸い、ハアッと吐いた。
気を取り直し、もう一度ガチャッと開ける。
「よう、舞子。元気?」
ジイッと亡霊を見つめる。
ぽっくり死んだら、やっぱり人は思いを残すのだろうか?
きっと真咲と舞子の絆の強さに、亡霊も出る場所をここに選んだに違いない。
嬉しい半分怖さもあって、フッと目をそらし足を動かしてみる。
動く。
良かった、金縛りにはなってない。
亡霊に気付いていないフリをして、自分の机に向かい教科書を広げた。

真咲、成仏してね。
あたしもきっと早く立ち直って学校行くわ。

「なあ、舞子ってばよう。」
無視していると、亡霊はチェッと舌打ちしてピョンと窓に飛び上がってくる。
冗談じゃない、いくら幽霊でもここは乙女の部屋。
舞子はハッとして思わず横に立てかけている竹刀を握りしめ、ビュンと亡霊に向かって振り上げた。
「このっ!セクハラッ!!」
バキィッン!
「いてえっっ!!」
ドタッと窓の下に倒れ込む。
「え?いてって何?」
確かに手には、打った感触が残っている。
「まさか、まさか、最近の幽霊って、感触まで残るのっー?」
ゾオッと思わずたたりを恐れた。
「どうしよう、まさかこれから次々と我が家に不幸が雨アラレ。」
ポッとあの無責任母親の顔が浮かぶ。
「フッ、あんなババアどうなってもいいや。」
それならいっそ、悪霊でも真咲の方がマシかも知れない。
「いてえじゃん、舞子お。俺だよ、真咲だよ、ほらあ。」
ヨッと短い足を上げてみせる。
「幽霊じゃなくてえ、俺って生きてるわけ。どうよ。」
「え?」
「死んでねえのよ、ざんねーん!なんちゃって。へへへへ。」
呆然と、舞子が真咲の顔を見る。
頭のどこかでスウッと血の気が失せた。

ドタッ

「おい!こら、お前が死んでどうするよ、舞子!」
ピョンと部屋に侵入し、真咲が舞子を起こしてグラグラ身体を揺する。
ハッと気が付いた瞬間、叫ぼうとした口をパッと覆われた。
「キ…(ャアアアアアア)」
「おっと、叫ぶなよ、傷つくなあ。」
その手は温かく、確かに見上げればあの、のんびりした真咲の顔。
「あ、あんた、マジ生きてるの?」
「そーなのよ、仕方なく死んだの。」
「ほんとに?そうなんだ。良かったあ、真咲!」
ようやく身体を起こした舞子が、ああと手を広げて真咲に抱きつこうとする。真咲も受け止めようと手を広げた。
「舞子!」
「ああ、真咲、この……」

バシイッ!「ぶっ!」

思い切り頬を殴られた。
「痛いジャン!さっきから殴ってばっか!」
「バカッ!いきなり死んだなんて、人をびっくりさせて、なんて奴!なんて…大馬鹿!うわーーーんっ!」
おいおい泣いて、枯れたと思った涙がまたボロボロと流れてくる。
「舞子、ごめんな。」
こんな時、漫画なら彼は彼女を抱いてくれるのに、真咲は横で鼻をポリポリかいている。
ようやく落ち着いて改めてよく見ると、やっぱり本物だ。
「うん、確かにこのアホ面は真咲だ。」
「母ちゃんとひどい言いようだったじゃねえの?昨日さ。」
「まあ、今のまんま死ねばアホなことしか思い出せないわねえ。何であんた生きてるのに死んだの?」
「うーん、話せば長いんだけど。」
「短くしてよ。」
「うーん、つまりー俺って王子様なわけよ。」
ブンッと舞子が竹刀を振り上げた。
「待てよ!ほんとだって、俺は王子なの。」
「あたしはねえ、真面目に聞いてんのよっ!」
「実は……」

「ちょっと待ったああ!!」

バーンといきなりドアが開いて、舞子のママが飛び込んできた。
「マーちゃん、良く生きててくれたわ。いいじゃない?いいわよ、その話。おばさん、是非!聞きたいわ。」
「マーマあ。」
がっかり、このおばさんには異常なことはすべてがネタらしい。
サアサアとお茶と菓子を出して、いそいそとメモとペンを手に真咲の前に座ると、キラキラした目で真咲を見つめた。
「えー、実は俺、異世界のリトビアって国の王子なの。そこは300年ばかし前に、混沌ってとこからグリトーって魔物が出てきて悪さしたんだけど、俺のご先祖さんと封印の戦士って奴がそのグリトーを封印するのに成功したんだとさ。」
「ふむふむ、成る程ありがちだわね。で?」
ママが頷きながらメモを取る。
「そいつの封印が解けて魔物がまた現れるとき、国にはまた封印の戦士が現れるんだと、それが俺ってわけ。」
「ふうん、なんでマーちゃんが封印の戦士ってわかるの?」
「よねえ、あんた逃げ足だけジャン。」
真咲がフッと笑い、シャツのボタンを上からはずし中からジャランと金のネックレスを取り出す。
自慢げにそれを見せて、ニヤリと笑った。
「コレ、握って生まれたんだとさ。金のグリフォン。」
「グリフォンって何?」
舞子の質問に、ママがペンダントヘッドをグイッと引っ張り、老眼で顔をしかめながら見る。
「グリフォンってのはライオンの身体にワシの羽、蛇の尻尾…まあ色々バリエーションあるのよ。でもこれはそんな感じよね。黄金を好むモンスターだけど、マーちゃんの国じゃ守護の要なのね。」
「へえ……」
こんな物握って生まれたなんて、真咲の母親は大変だと思う。
「その封印の戦士ってマーちゃんだけ?」
「いや、あと3人、そいつ等はこのグリフォンのアザが身体にあるんだってさ。で、要の俺は13歳まで命が狙われるの恐れて、こっちの世界に避難してたわけ。俺の母ちゃん、向こうの世界の人間なのよ。」
「なんで13歳?中学卒業するまで待ってくれって言わなかったの?」
「いんや、お告げだってさ。向こうは何でも占いなんよ。俺もこないだ13歳になったからよ、向こうに帰って封印し直しに行くわけよ。」
「誰が。」
「だから俺が」
「グリトーっておっさん?おばさん?そいつ怖くないの?」
「人じゃねえよ魔物だって。300年前の封印も、そいつのせいで腐りかけてるんだってよ。近くに行くだけで腐るんだって。」
「だからあ、怖くないの?」
ふと、真咲が顔を上げた。
ニイッと笑った顔の目が、次第にウルウルと引きつってくる。
「実は……もの凄く怖いんだよお。舞子お。」
「やっぱし。」
必死でメモを取るママを横目に、舞子が溜息をついて頬杖を付く。
うーんと眉間にしわを寄せて考えた。
「いつ行くの?」
「明日。俺、怖くて心細くてよう。舞子、かくまってくれよお。」
むうう、なんと頼りない。
これで一国を背負って立てるのだろうか、とっても不安。
手を合わせる真咲を前に、舞子がひとしきり考える。
そしてパンと膝を叩いた。
「むー、決めた」
舞子がズッと身体をずらし、ママを向いて両手をつく。
「ママ、あたし真咲と一緒に行くから。」
「何であんたが。」
ハタと、ママのペンが止まる。
「あたし、良くわかったんよ。あたしにはこいつが必要だし、こいつにはあたしが必要なんだって。」
じいっとママが目を丸くする。
しかしその目がスッと細く閉じられると、メモをパタンと閉じて真っ直ぐに舞子と向き合う。
舞子は胸がドキリと鳴って、これが初めてママと向き合う真剣勝負だと感じた。
「あんた、何言ったかわかってんの?」
「わかってるよ。危険だって言うんだろ?でも、あたしはここまで聞いて、真咲を一人でやれないよ!あたしは付いて行く。これは真剣に言ってるんだよママ。」
「あんた、まだ13歳のガキじゃない。何も出来ない女の子が、何が出来るって言うのよ。」
それはそうだ。返す言葉もない。
「舞子お、俺をかくまってくれればいいんだって。あんな所にわざわざ行く事ねえよ。」
「真咲!おだまりっ!」
ギンッと睨み付けた。
キュウンと小さくなる彼を従え、舞子が母に頭を下げる。何も言わない母は無言で立ち上がり、ガチャリとドアを開けた。
「あたしはあんたの親だよ、うんって言うもんかい。勝手にしな。」
「ママ!勝手にするよ!」
バタンと無情に扉が閉じる。
「舞子お、行きたくねえよお。」
ほろりと涙を流す真咲を睨み付け、舞子が毅然と立ち上がった。
「真咲っ、おやつは500円まで!リュックに着替えとか、しこたま詰めていくわよっ。」
「マジ行くのお?」
「平和のために戦って、あんたを本物の王子にしてみせるわ!」
舞子の目がメラメラと燃え上がる。
しかしその脳裏には、なぜか王子の真咲の隣りに、豪華なドレス姿の自分が浮かぶ。
こうなったら玉の輿狙いよっ!
すがる真咲を蹴散らし、彼女はさっそく準備に取りかかった。

2、

 「こーんにーちわあ!」
リュックにいっぱいの食べ物と着替えと洗面具を詰めて、ヨッと背負った舞子が竹刀片手にジーパンにTシャツ、そしてジージャンを羽織って真咲の家に現れた。
「あら、まあ舞子ちゃん。」
真咲のママが、目を丸くする。
「おばちゃん、あたし、ぜっっっったいついて行くから!反対しないでねっ!」
「はいはい、とにかくどうぞ。」
鼻息荒い舞子に、にっこり微笑んで奥へと通してくれた。
廊下から見える、いまだ真咲の写真が飾ってある祭壇の前に、その本人がきちんと学校の制服姿で座っている。
「真咲、あんたその格好で行くの?」
ちらっと見る真咲が、クイッと顎で正面を指す。
居間に入ってそこを見ると、何と舞子のママが鎮座して睨みを利かせていた。
「ママ!何でここにいるの?!締め切りは?」
「娘がとんでもないこと言ってるのに、締め切りも何もないでしょうが。アホ。」
「アホって……」
カチンときながら、真咲のママに言われて向かいに真咲と並んで座る。
「ママ!あたしは絶対行くよ!」
ウルウルと気弱にもじもじしている真咲の横で、舞子はメラメラと燃えさかりながら母親を睨み付ける。
「さて、どうしましょう?」
真咲のママが、舞子のママを窺う。
「可愛い子には旅をさせろと言いますけど、私にはこの子しかいないんですよ。この子が財産なんです。」
思いがけないことを言われ、舞子がケッとふてた。
「何言ってンのよ、いつだって締め切りに追われて自分の事バッカじゃん。」
いつだって人の事は放っていたくせに、こんな時は親だと出しゃばる。
舞子はむかついてきた。
「うう、舞子やめてくでー、うう……」
睨み合う母娘の横で、真咲がポロポロ涙を流す。
「ちょっと、何であんたが泣いて…」
「だって……俺はもう、母ちゃんとはお別れなんだ。そしたら、もう一緒に暮らせないんだぜ?そしたらよお、いい事ばっか思い出すんだ、楽しかったことばっか。行きたくないよお。」
じゅるるるっと鼻をすすり、涙で顔がグシャグシャになった。
「真咲。」
真咲のママが、目頭を押さえて流れる涙をハンカチで押さえる。
いつも怒鳴ってばっかりだった真咲の母親の悲しそうな顔に、舞子が自分の母親の顔を見る。
ふと顔を上げた母親と、舞子は思わず顔を見合わせ、カアッと顔が熱くなった。
もう、会えなくなるなんて…………
舞子の目に涙が浮かび、ヒックヒックとしゃくり上げる。
するとその背に、真咲がそうっと手を当てた。
「舞子お、もういいよ、もう俺はいい。一人で行ってくる。いや、帰るんだ。
ああ俺もう…やっぱりマジで死ぬんだ……」
「死ぬ?!」
ガーーーンと舞子の頭にショックが来た。
バキッと脳味噌の中で竹刀が折れる。

「このお………バカッッッ!」
バシイッ!

「ふぎゃっ!いてえっ!」
「この、何言うかと思えば、死ぬだとおお。」
心配するおばさんの前で、何言うか、このクソ息子があ!
ムカアッと頭に血が上る。
「おばさんっ、あたしやっぱり行くわ。こんな馬鹿一人で行かせると、すぐに何でもかんでも諦めるに決まってる。」
「舞ちゃん。」

「おばさん!あたしが、絶対死なせませんっ!!ママ!あたしも絶対死にません!!そこんとこよろしく!」

「おお、よく言った我が娘!」
パチパチパチ
「奥さん、本当によろしいんですか?」
「仕方ないでしょう、昔からこの子は言い出すと聞きませんからねえ。
奥さん、この子はまだ13歳だけど、今マー君に人生賭けてるんですよ。」
キョトンと真咲が舞子のママを見る。
「俺に賭けてって?」
「ふ、王子様のお嫁さん!うまく行けば玉の輿よ!ね、舞子?」
ウッと舞子が言葉を失う。
さすが母親、しっかりバレバレ。
「舞子、行くのはいいけど、この母はあんたのことをいつだって思ってるんだからね。そこんとこよろしく。」
グッと指を立てる。舞子がクスッと笑って指を立てて返し、そしてブンッと竹刀を振った。
「何かあっても、きっとこいつで切り抜けてみせるわ。」
「竹刀ねえ…これ、あんたにプレゼント。」
「なに?」
取り出す大きな袋は量販店の物だ。開けてみると、ツールナイフに百円ライター、そしてホルダー付きの小さな警棒だった。
「なに?これ。」
「護身用よ。女の子だからね、力がないならそれなりの装備は必要でしょう。
警棒はスタンガンよ。ま、悪い奴限定で使いなさい。」
「うん、わかった…って言うかあ、いつ買って来たのよこんなの。」
「優しい母の親心よ、あたしはあんたの親ですから。」
「あーそーですか。どうもありがとー。」
舞子がそそくさとそれぞれを身につける。
腰にパチンとホルダーを付けると、まるでウエスタンだ。
成る程、竹刀だけより心強い。
確かに敵は、何が通じるかもわからない相手なのだ。
羨ましそうに、真咲がズイッと身を乗り出す。
「いいなあ舞子、俺もそんなの欲しい。なあ母ちゃん。」
じいっと物欲しそうな顔で見る息子に、真咲の母親がバンッとテーブルを叩いた。
「真咲にはグリフォンがいるでしょう。お前は一応、力さえ使いこなせれば最強なんだ。心配しないでも大丈夫!」
「でも、さあ。」
ブツブツこの期に及んで弱気を吐く息子に、母親の顔がヒクヒクと引きつる。
「…真咲、カツ入れて欲しいようだねえ。」
「い、いやあ、結構です。」
ドキッと真咲が顔を上げ、青ざめた顔でブンブン首を振る。
舞子がプウッと笑う母親の「カツ」は、この年で今時お尻ペンペンだ。
真咲の母親が、一つ咳払いしてきちんと正座する。そして真っ直ぐに息子を見た。
「真咲、お前はお母ちゃんの一番可愛い息子だ。本当の息子じゃなくても、本当以上の息子だよ。真咲、お前なら出来るよ。
大丈夫、神様が定めた運命を信じて、お前は自分のために自分のやるべき事をやり遂げなさい。ちゃんと舞子ちゃんに男を見せるんだよ。」
「お母ちゃん……う、うん。」
グスグス涙を拭いて、真咲が一つ、ペコリと頭を下げる。
パンと膝を叩き、さあてと真咲のママが立ち上がった。
「あなた!あなた!真咲ちゃんが行っちゃうわよ!」
真咲のママが、奥の方へ声を上げた。
「あら、旦那さんは?」
「それが、昨日から泣いて泣いて、寝室から出てこないのよ。変なところは似るんだから。」
成る程、奥からぐすんぐすんとタオルを当てたおじさんが、パジャマ姿でそうっと顔を出す。
「親父い」「真咲い」
グスグス父と息子がはっしと抱き合って、何だか鬱陶しい。
「さて、時間よ。ほらほらあなた、あたしがいるでしょ。じゃあね真咲、しっかり働くのよ。」
くすんと涙を拭いて、みんなが立ち上がった。
「で、奥さん、どうやって向こうの世界へ行くんですか?」
ワクワクと、舞子のママが目を輝かせる。
すると、真咲のママがホホホホッと笑った。
「実は奥様、私普通の主婦してますけど、魔女なんですのよ。」
「は?魔女?」
スッと、真咲のママが振り返ると、背後の壁に手を伸ばす。
するとその手の甲に、ポウッと紋章のような模様が赤く浮き上がった。

「ベリル、メイア、ルースルーン、輝ける彼方の世界、美しきリトビアへの道よ開け。門を統べる女神メイアよ、我が下に異なる世界の接点をこれへ」

空気が、まるで水のように波打ち震える。
そして真咲のママの手を中心に、そこにはまるで緑の水底を覗き込んだような空間が現れた。
「あら、まあ、奥さんすごいわ。」
舞子のママが、手を合わせてキラキラした目で身を乗り出す。
「ホホ、さあさ真咲ちゃん、舞子ちゃんどうぞ。頑張って立派な王様になって頂戴。」
「母ちゃん〜」
「ほら、行くわよ真咲!おばさん、ママ、行ってきます!」
竹刀片手に情けない声の真咲の手を握り、舞子がそうっと足を一歩踏み入れる。
「舞子、よっく見聞きして、ママにネタを頂戴ねっ!頑張って生きて帰るのよ。」
「あーはいはい。」
やっぱりママはネタ狙いかも、なんてがっかり。
「あ、おばさん、向こうから帰るときはどうするの?」
「ああ、そうだわこれ……」
そう言って、首のネックレスをはずして舞子にかける。
「これを水に入れると、そこが一時的に通路になるから。いざと言うときのためにお持ちなさいな。ただし、水面が波打ったら駄目よ。」
ネックレスは、アクアマリンのような水色の澄んだ大きな石だ。
「うん、ありがとうおばさん。有効に使うよ。」
「じゃあ、情けない息子だけどよろしくね。」
「うん、行ってきまーす。」
「母ちゃんー、父ちゃんー。」
「おお…真咲いー、行かないでくれえ。」
「行くわよっ、真咲!」
すがる真咲のパパを振りきって、真咲と舞子が空間に消える。
残された親たちが、溜息をつきながら手を合わせて、空間が閉じるのを見つめた。
あとは本人達次第。
そしてこれから、2人のリトビアの旅が始まるのだ。

3、

 異世界との接点を越え、舞子達がやってきたそこは、薄暗い地味な狭い部屋だった。
床には赤いカーペットが敷いてあり、正面の壁にもグリフォンの繊細な織物が下がって、燭台には数本のロウソクが立っている。
シンとした部屋は無人で、着くなり真咲が先を歩き始めた。
「こっちだよ、こっちに俺の親って人が居る。今から出立式なんだ。」
「親って人って、あんたの親でしょ?」
「へ、たまに会うだけで親もねえだろうよ。」
真咲の家庭は確かに複雑だ。
「昨日まで毎日、前祝いだって色々行事があってよ、ゲンばかりかついで面倒くせえ世界だぜ。」
部屋を出ると、並んでいた中世のドレス姿の女性が、驚いた顔で数人奥へと走って行く。
「こ、これは殿下。王もお待ちでございます、ただ今ご報告を。」
屋敷はお城と言うには思ったより地味な物で、全体に薄暗くて電気はなく、灯りは外からの日の光とロウソクやランプの灯りだけだ。
金持ちっぽいと言えば、廊下や部屋、すべてに赤い絨毯がホテルのように敷き詰めてあり、至る所に織物が掛けてあって壷や中世の鎧が置いてある。
振り向くと、先程いた女性達がぞろぞろ付いてきていた。
「あんま、リッチっぽくないわねえ。」
「だろ?こっちには電気も無いからよう、テレビもMDも聞けないんだぜ。最悪、退屈なんよ。」
「昔のヨーロッパの中世って感じ?」
「そうそう、みんな女はドレス着てる。」
「マジ?」
キャアッと舞子が歓声を上げる。
しかしなぜか、真咲がニヤリと笑った。
「でもトイレはポットン。しかも布で拭いて洗う。」
「うぞっ!」
「こっちは紙が貴重品なの。」
ハタと舞子が立ち止まった。
「あたし、帰ろっかな。」
「げ、うそっ!ほらほら、いいところ見せてやるよ。こっち来ればそんな事些細だってば。」
慌てて真咲が舞子の腕を掴み、奥へ奥へと廊下を歩く。
すると、立派なマントを羽織り偉そうにヒゲを蓄えた中年の男が、隣りに真咲達と同い年ほどの少年を置いて、じろりと目を向けた。
「これは殿下、ようやくお見えか?」
フンと小馬鹿にしたように、真咲を見下げて後ろに手を組んでいる。
その身体にはふんだんに香水がまかれているのか、匂いが凄い。
「あ、はあ。」
思わず鼻をつまみそうになって舞子が、後ろからドンと動かない真咲の背を小突いた。
「あ、ああ、えーと、これはドリスナー叔父上。遅れてすいません。」
「馬鹿、あんた、王子でしょ!」
耳元に囁く舞子を、叔父がジロッと睨み付ける。
真咲が慌てて舞子を横に並べ紹介した。
「えと、これ俺の友達で舞子です。」
「えー、よろしく、おじさん。」
「これ」は気に入らないが、叔父の睨み付ける顔に、負けじと睨み付ける。
「へえ、これが従兄弟殿下の婚約者?」
叔父の隣にいた金髪の少年が、そばかすが可愛い顔で憎らしげにクッと笑う。
違う香りでも、親子してオシャレなのかやっぱり臭い。
お互いの悪印象も相まって、思い切り舞子がムッとした。
「婚約者っていうかー、幼なじみです。」
「いーえ!婚約者よっ!」
グイッと真咲を差し置いて、舞子が少年の前に出た。
「お前馬鹿か?殿下の婚約者はこの国の時期王妃だぞ。お前なんかが…」
「オホホホホ!ンまあ失礼!私、王妃やる気バリバリですから。そこんとこよろしく。」
自信満々の舞子に、少年が目を剥いてゲラゲラ笑い出す。
「はは、あははは!父上、やはりこれでは国民も心配でございましょう。」
どうやら親子らしいが、似たもの親子とはよく言ったものだ。揃って嫌な感じ。
「まったくだな、行くぞ。殿下の冗談には付き合いきれん。」
「まっ!冗談じゃないわよっ!」
キーッと竹刀を振り上げる舞子を、真咲がグッと押さえる。
「まあまあ、あんな奴バッカだから、いちいち怒ってちゃ身が持たないよ。」
「なんでよっ!王子はどうしたのよっ?あんな臭い振りまいてるような香水バカ!」
「王子って言っても、ほとんど向こうで過ごしたからね、こっちじゃあ余所者、厄介者さ。
まあ、魔物封じてくれたら、あとはどうでもいい感じ?王様になれるかどうかも怪しいね。
バリントは・・今の従兄弟なんだけど。俺と違って頭いいから、王様も叔父さんもお気に入りらしいしね。」
ガーーーン!玉の輿も怪しいなんて、それじゃあ命賭ける意味がない。
ポカンと口を開ける舞子に、真咲が慌てて言い直す。
「ほら!でも手柄立てたら俺のお株もドーンと上がるかも。きっとみんなが、ばんざーいって感じ?」
「『かも』と『きっと』をはずしてくれなきゃやだ。」
「大丈夫さ!俺が一応一人息子の王位継承者だしい、王様間違いなしって。…きっと。」
『一応』『きっと』がはずれない。
ハアッと大きく溜息が出る。
でも、まあそれならそれでもいいか。
「まあさ、別にあんたと結婚する気もないしい、ただのお友達なんだし関係ないと言えば関係ないか。」
「エッ、関係ないの?」
じいっと2人が見つめ合う。
フッと、舞子が顔を逸らして首を振った。
「舞子お、俺一人は怖いよお。見捨てないでくれよお。」
ウルウル声の真咲が、舞子の腕にすがりつく。
「アホ」ドカッと思わず蹴ると、後ろのメイドらしい女達がヒソヒソと怪訝な顔で噂する。
ハッと舞子が、オホホホホッとごまかした。
「こっちでしょ、行くわよ。」
「あ、待ってえ。」
何だか印象悪くして、チッと舞子が舌打ちながら先を行く。真咲はオロオロと自信なさそうに、先を案内して進んだ。

暗い階段を下りて次第に人が多くなって行く先には、物々しい兵士が数人立っている。
「王子」「殿下のおなりだ!」「殿下!」
口々に叫びながら、その顔が妙に明るい。
案内されて大きな扉の前に立つと、剣を携えた兵士が2人、その扉を両側から開いた。

「殿下のおなりでございます!」

ザッと一斉に向けられた、大勢の人々の目に、おお、と舞子が思わず引く。
開け放たれたドアの向こうはまるでホールのように大きな空間が広がり、天井からは豪華なシャンデリアが窓からの光でキラキラと輝いてぶら下がっている。
そして床には赤く薄い絨毯の上に、更に大きな円形の絨毯が敷いてあり、高窓からの日の光を浴びて色が冴え渡っていた。
しかし、部屋にはそれ程華美な装飾はなく、どちらかと言えば地味にさえ思える。
人々の服も装飾品も、シンプルでいぶし銀のようにギラギラとしていない。
ベルサイユ宮殿のような城を思い浮かべていた舞子は、いささか拍子抜けした。

「良く来た、我が息子よ!待ちわびたぞ。」

いきなり野太い声に、お、と顔を上げる。
奥の玉座には、大きなグリフォンの織物を掛けた前に、白いヒゲを蓄えた王と華奢な冠をかぶり薄いブルーのドレスを着た、ほっそりとした后が立っていた。
「はい、父上。」
真咲が一つお辞儀して、真っ直ぐに中央を歩いて進む。
両側には、神妙な顔のドレス姿の女性や、中世の騎士のような剣を腰に下げた男達が並んでいる。
真咲は玉座の前に進むと片膝を付き頭を下げ,舞子も並んでひざまずいた。
「おお、なんと、その者は向こうの世界の者ではないか?連れてきて何とする。」
「お前の使命を忘れたのですか?王子よ。」
んー?と舞子が顔を上げて王様達の顔を見た。
どうにも迷惑そうな顔をしている。
つまり、何で今から危険なところに行くのに、こんな女を連れてきた?と責めているのだろう。
真咲は舞子の顔を見て、またウルウルしていた。
「あんたの親でしょ。」
「だってー……」
フッ、煮え切らない奴。
舞子は顔を上げて王ににっこり微笑みかけると、急に真顔になって片足を立て、握り拳をドンと腰に当てた。

「私も王子にお供しますから!よろしく!」

思い切り勇ましく声を上げる。
この世界はどうも女はお淑やかにってのが見え見えでイライラしそうだ。
一瞬シンとした後で、やっぱりザワザワと誰もが驚いていた。
「まあ、あちらの世界の女性はなんてはしたない」「勇敢なのですわ」「事の重大さを、わかっていないのだ」
好き勝手な話し声が、舞子の地獄耳にしっかり入ってくる。
「話は真咲・・じゃなくて、王子からしっかり聞いています。ここへは覚悟してきました。どーぞご心配なく!」
フンッと鼻息荒く、竹刀を片手にドンと床を突く。
おお・・と人々の声が上がり、王がフムと一歩踏みだした。
「わかった。では供を許そう。くれぐれもカセにならぬよう。」
ふう、やっとお許しが出たようだ。
「ン?でもカセって何?」
「足引っ張るなってことさ。」
「むかっ」
ムッとしながら、真咲に手を引かれ立ち上がる。すると後ろに、いつの間に来たのか一人の少年が控えていた。
「アイズよ、最年少でありながら我が国一となりし、騎士の中の騎士。王子を頼んだぞ。」
「はっ」
思わずキャッと舞子が歓声を上げる。
顔を上げたその騎士は、白髪に青い瞳をした美しい少年だったのだ。
年は17歳ほどだろうか、立つと舞子達より10センチほど背が高く、スラリとした身体を白いコートに包んでいる。
そのコートの胸には3本の短剣が飾りのようにベルトで固定してあり、腰のベルトには細い剣が下がって、背には銀糸でグリフォンの紋章が刺繍してある。
それは騎士であることを示していた。
「アイズ、皆に封印の戦士である証を示すがよい。」
アイズが肩まであるストレートの髪を、さらりとかき上げ白い首を見せる。
すると右の首筋には、大きくくっきりと赤くグリフォンのアザが浮き上がっていた。
「それこそ確かに封印の戦士。王子と共に、行ってグリトーを封印してくるのだ。」
「身に余る光栄。きっとこの重責を果たして参ります。」

ヒュウウウウウ……

その時、明かり取りの窓から突然生暖かい風が吹き込んだ。
不安な顔の人々が、恐怖にざわめく。
すると晴れ渡った青空が急に暗くなり、ビクンと身体を跳ね上げ、王妃が髪を逆立てていきなり笑い始めた。

「ホホ、クホホホホ!笑止!グリトー様を封印だと?」

「なんと、王妃の気が狂うたか?」
王が驚いて兵に守られながら玉座の端に寄り、まわりも騒ぎ立てて後ろへ引いてゆく。騎士達はそれぞれが剣に手を掛け、それでも相手が王妃だけに今は見守るしかなかった。
「切ってみよ!腰抜けどもめ。封印の王子を、異世界へ避難させるとは姑息な。すぐにでも八つ裂きにしてくれようぞ。」
異様な顔つきの王妃が、スッと真咲を指さす。
真咲はガタガタと震え、凍り付いたように足がすくんで動けない。
「ま、ま、まさ、まさ、早く、早く。」
舞子もガクガク顎が震え、言葉が出なかった。
すると、スッとアイズが真咲の横に並ぶ。
その顔は涼しげで、少しも動揺が見られない。
「王子よ、私は憑き物だけは切れませぬ。肉も切ってしまいますがよろしいか?」
チャキッとアイズが剣に手を掛ける。
それを見て王妃が、甲高い声を上げて笑い出す。すると背後のグリフォンのタペストリーや足下の絨毯が、次々と燃え上がった。
「ホホホホ!お前が魔を人ごと切って顔色一つ変えぬと言う、冷血の騎士か!」
絨毯が燃えて、3人の足下が青白い火に包まれてゆく。その火はなぜか冷たく、熱いと言うより痛い。
「火を消せ!」「王よ!お逃げ下さい」
ホールの中は、逃げまどいパニック状態に陥った人々が出口に殺到し、ただポツンと3人が中央に立ちつくした。
「この世界はグリトー様の物。まずはお前を殺してその首を献上しよう。」
ちろりと長く細い舌を出して、王妃が不気味にほくそ笑む。
舞子は凍り付いて動かない真咲の腕をギュッと握りしめながら、剣を今にも抜こうとするアイズの姿に、頭をグルグルと王妃の言葉が巡っていた。

人ごと切った?
人ごと…お母さんごと切る?

ドキッと舞子の背に冷たい物が走る。
この魔物が憑いた王妃は、真咲の生みの親ではないか。それを真咲の前で切るなんて。
「真咲、あんた手はないの?」
「い、いや、ねえことねえんだけどお。まだ一度も召還した事ねえんだよお。」
頼りない真咲の言葉に、キッと舞子が竹刀を握りしめ顔を上げた。

「キエエエエイ!」
バシィッッ!!
「ぎゃっ!いてええ!」

思い切り真咲の背を打ち、ギャッと真咲が呻いてよろける。
「いてええっ、死ぬう。」
「真咲、死ぬ気でやれっ。」
舞子の言葉に、ギリッと真咲が足を踏ん張り唇を噛みしめ、胸元からグリフォンのネックレスを取り出す。
チャリッとそれを王妃に向けると、自然に気がそれに集中した。

「グリフォンよっ!力を貸してくれ!」

カッと黄金のグリフォンが輝く。
「ヒッ、な、なんだ?」
ひるむ王妃の前に、突然グワッとそのペンダントヘッドの光の中から、黄金のグリフォンが飛び出した。

「グオオオオオン!」

バサッと背の翼をひるがえし、グリフォンが咆哮を上げて王妃を突き抜けてゆく。
「ギャアアアアッ!」
ドサリと倒れた王妃の背後には、真っ黒の大蛇をくわえたグリフォンが立っていた。
「く、く、おのれ……」
ヘビが首をもたげながら、グリフォンの首にグルグルとその黒い身体を巻き付ける。
「どうだこの、わしが絞め殺して…ギャ、ギヤアアアア……」
「フッ」一息吐いて、グリフォンはむしゃむしゃとそのヘビを頭から食べていった。
「あ、あ、あ、た、食べちゃったよ。」
「食べちゃったねえ……なんか、イメージと違うねえ。」
呆然とする2人を前に、チュルッとヘビの尻尾を飲み込み満足そうにべろりと口元を舐め、そして真咲をギロリと見る。
「ひぃっ!」
すくみ上がる真咲に、グリフォンがペコリと頭を下げた。

「我が名は?」

「は、は?」
「主(あるじ)よ、我が名は?」
「な、な、名?え、ええ、と、ポ、ポチ。」
「承知した。我が名はポチ。」
シュウウッと煙のように、またネックレスへと消えてゆく。
立ちつくす真咲に、舞子がキョトンと首を傾げた。
「ポチって?」
「あいつの名前かな?」
「よねえ。」
「ライオンにワシの羽、ヘビの尻尾……」
「それが、ポチ。」
「最低の名だな。」
アイズがボソッとつぶやく。
「うわああああああ!!」ガシガシと真咲が頭をかいて、叫び声を上げた。
「もっと強そうな名前にするんだったああ!」
「やり直しって駄目?今のなしっ、とか。いきなり聞くって反則よお!真咲はアホなのに。」
焦る2人を、アイズが冷ややかに見てフッと溜息を漏らす。

「これが、これから仕える俺の主か……」

もう一度、大きな溜息。
頼りない最強は、最強の下僕がポチ。
「あら?私は…?どうしたのかしら?」
玉座では母親の王妃が、気が付いてゆっくり身体を起こす。
頭がパニックになっている真咲達一行は、それから皆に見送られて城を北へと旅立っていった。


4、

 ワイワイと見送られて3人が歩いて城を出ると、城門を出た先には初めて見るこの世界の光景が広がっていた。
空の灰色と、そして緑。
緑ただ一色だ。
延々と続く緑の草原を下ると、一面を森が広がり、山々が連なっている。
城下町はほんの一握りが、森の手前にメルヘンチックな家を密集させて、集落を作っていた。
「まあ、随分人が少ないのねえ。」
ぼつぼつ歩き出して、舞子がキョロキョロしながらつぶやく。
「ここは森の中を切り開いて集落作ってるんだ。向こうほど人間だらけじゃねえよ。」
振り向けば、城からは沢山の見送りがあるけれど誰も護衛などはない。ただ一人、白髪の騎士アイズが無言で後を付いてくるだけだ。
王子と言いながら、随分寂しい。
「ねえ、家来は誰もいないじゃない?」
「うん、何人か付いてくるって言ったけど、占いで旅のメンバーは決まってるんだ。」
何だか諦めがちな言葉、舞子は溜息が出た。
「ねえアイズさん、あと2人ってどこに住んでいるの?」
聞いてもアイズは無言で前をむいて、ただひたすら歩いている。
ちらりと舞子を見て、フンと顔を逸らした。
「ちょっとお、何か言ったらあ?」
ムッとする舞子の肩を叩き、まあまあと真咲がなだめる。
「アイズは剣一筋なんだってさ。人付き合いは最低らしいから。な、アイズ。」
アイズは立ち止まり、真咲にうやうやしく頭を垂れて一つ挨拶すると、サッと前を歩き出す。
「急ぎませんと、我々は使命を背負っているのです。」
ちらりと青い瞳で舞子を見て、フンと先を見る。どうも嫌われているらしい。
「なによう、ちょっとアイズ!あんたあたしに喧嘩売ってるわけ?」
アイズは無言でスタスタ歩く。
「あんたちょっと顔がいいからって、のぼせてんじゃないわよっ!」
ぺぺぺっと喧嘩を売った。
「まあまあ、先は長いんだから怒るなよ。」
なだめる真咲にも不甲斐ないが、まあそれはわかっていたことだ。
足を速めたアイズを追いかけて、走るように追いかける。
やがて舞子と真咲はハアハア息が切れ、腹を立てる余裕もなくなっていった。
「ちょっと……はあはあはあ」
道は草原の中を真っ直ぐに森へと向かっている。
その道も舗装されているわけもなく、草を踏み分けたような道に、足が慣れない。
「ねえ、はあはあ、真咲、馬とか借りられなかったの?」
確かに、ロバのように小さな馬が、時々すれ違う市場へ行く人々も使っている。
大きな荷物を載せて、人がそれを引いているのだ。
「まだ封印の戦士を2人、捜さないと駄目だろ?これが、こうした旅の途中で出会うって占いなんだ。それに乗馬用の馬ってさ、向こうとちょっと違うから乗れないのよ。」
「なんで!」
「だって空を飛ぶんだもん、怖いよう。」
空!
思わず見上げると、大きな鷹のような鳥がブワッと頭上を城へと飛んで行く。
「ぎゃあああ!!」
アワアワ慌てて走って逃げる舞子の手を掴み、真咲が引きずられた。
「舞子って!ありゃ数少ねえんだ、そうそういねえよ、大丈夫だってば!」
「なによ!あれえ!」
「だから、あれがこっちの馬。フライトホース。」
「何が馬よっ、鳥じゃない、猛禽類!」
「いや、草食うんだ。一度頭からフンかぶってさあ、青臭いの何のって。」

ひいいいい!!
聞きたくない、聞きたくない、そんな事聞きたくなーーーい!

ここはまさに別世界。舞子が目をグルグルさせて、思い切り後悔する。

「帰りたあああい!」

「ふん、くだらん。」
アイズが呆れたように漏らす。
立ち止まり振り返ると、ヒュッと舞子の鼻先を指さした。
「お前は、何しに来たんだ。」
冷たい、刺すような言葉に舞子もムッとして、アイズの指す手を横に叩く。
澄んだ美しい顔も今は憎々しくて、噛みつくように前に出た。
「そりゃもちろん、真咲のケツを叩きに来たのよ!」

「…ケツ……」

一瞬ポカンとして、何だか、脱力したようにアイズが手を下ろす。
あまりの下品さに、呆れたかもしれない。
そしてさっさと先を歩き始めた。
「ちょっと真咲!なんで家来があれなんよ。ムカツクッ」
「だって、今のところ封印の戦士はアイズ一人なんだ。占いで、もう一人は北にいるって聞いたんだけど。」
「北って…それだけ?!またおおざっぱな占いねえ。」
「まあ、北へはそれ程広くないし、目的地の途中だからいいんじゃねえの?問題は、あと一人なんだよなあ。」
森の道を進み、薄暗い中を進むと結構空気が澄んで気持ちがいい。
奥深くまで進むとやがて突然集落が目前に開け、そこには泉を囲うように小さな家が十軒近く並んでいた。
集落の真ん中を通る道を突っ切っていると、噂を聞いていたのかザワザワと人が出てきて、3人を見送ってくれる。
「アイズ!」
突然、中年の女の声がして、太ったおばさんが慌てて走って来た。
アイズが立ち止まり、表情もなく彼女を向く。
「これは王子様、アイズの叔母でございます。アイズや、ほら、最低限の荷物は入れて置いたからね。ちゃんと持ってお行き。」
おばさんが息を切らせながら、麻の袋を彼に差し出した。
「いらん」彼はまったく表情のない顔で、顔を背けて手で押し返す。
「駄目だよっ、何も持たずに旅が出来るもんかね。お腹が空いたときは、木の実を入れておいたからね。火打ち石も入れたから、火をたいたら後始末はちゃんとするんだよ。」
子供に話すような言葉に、プイとアイズが無視して先を行く。
「アイズッ、持ってお行き。」
「いらんっ。」
「ちょっとあんたっ!」
負けずに突きつけるおばさんを応援して、舞子がグイと彼の腕を掴んだ。
「おばさんがせっかく持ってきてくれたんじゃない。ひねくれてないで持って行きなさいよ。」
「いらん」
イランイランって、あんたはアラブかっ!
「おばさん、貸して。」
荷物を受け取り、真咲にハイと渡す。
真咲はキョトンとした顔で舞子の顔を見た。
「真咲、あんたの出番よっ。あんたには決め言葉があるでしょ!」
言われて頭をひねり、ああと頷く。そしてアイズに優しく言った。

「じゃあ、俺が持つから。」

なに考えとんじゃーーっっ、下手に出てどうする。
「かーーっ、違う!あんたは上司でしょっ!」
「え?あ、ああ、そうだったな。アイズの方が年上だもんでつい。」
ハアーッと舞子が溜息。
真咲は改めてアイズを向いた。
「おいっ、アイズ。王子の命令だ、荷物をちゃんと受け取れ。」
ブランと差し出された袋をじっと見つめて、アイズが静かに溜息をつく。
じろりと舞子を睨み付け、ようやく受け取って袋をたすきにかけた。
「ありがとうございます、お嬢さん。」
おばさんが舞子に礼を言って頭を下げる。
「こんな子ですが優しい子です。剣で右に出る者はおりません。必ずお役に立つと思います。どうかよろしくお願いいたします。」
「心配しないで、おばさん。きっと帰ってくるよ。」
明るく微笑む舞子と真咲に、心配そうな叔母がホッと微笑み返す。
不機嫌そうなアイズが背中を見せたとき、舞子達の影からヌッと黒い影が現れた。
それは大きな剣を構えた、黒い甲冑姿の男。
「魔物だあ!」
数人が叫びを上げて、村人が散ってゆく。
「ひえっ!」
いきなりの事に、思わずすくみ上がる舞子とおばさんへ、男はブンッと剣を振り上げる。
「舞子お!」
真咲がへっぴり腰で腰の剣を抜こうとした瞬間、アイズがシャンッと剣を抜いた。

「封印の騎士はここぞ!」

アイズの声に、ぐるんと甲冑の男の首が後ろに回る。
すると身体を返すことなく男の身体はいびつに変形して方向を変え、アイズに向けてガシャンと一歩踏みだした。
スウッとアイズが剣先を下へと向ける。
息を整え、フッと一息吐いた。

ビュンッ!

下から上へ一凪した剣圧が、男のいる舞子達の影を切り裂く。
「きゃっ!」
驚いて下がる舞子達の前で、男の姿はブルッと震え、ザッと影から踏み出した。
ガシャンッ
甲冑姿が剣を構え、金属音を立てる。
ズオッと剣を掲げると、その姿はまるで数メーターにも見えるほど恐ろしく大きい。
しかし震え上がる周りとうって変わり、アイズはひどく落ち着いて、冷めた目で見上げる。
ブンッ
「ふっ!」シャーン!
甲冑が振り下ろした剣を、アイズが横から受け流す。
そして次の瞬間、その細身からは考えられないほどの力強さで、ドッと甲冑を切り裂いた。
甲冑が、ボロボロと一塊りの土塊となって崩れ落ちてゆく。
「な、なに?これえ。」
恐る恐る覗き込む舞子に、叔母がサッと手を掴んで引き寄せた。
「まだ危ないよ。最近、こんなのが良く出てきて人が死ぬんだ。アイズの剣は、白魔道師様よりいただいた破魔の剣。あの子に任せれば大丈夫だよ。」
「マジで?やだあ…」
見ていると、土塊からは身体を2つに切り裂かれた小さな黒いトカゲが、ズルズルと這いだしてきた。
アイズがツカツカと歩み寄り、ドカッとその頭に剣を突き立てる。
トカゲはズブズブと形を崩し、そして地中に吸い込まれるように姿を消した。
ほうっと皆が息を付く。
チンッとアイズが剣を直し、顔を上げて叔母に軽く頭を下げた。
「今まで世話になった。行ってくる。」
「ああ、行っといで。立派にお勤めを果たすんだよ。」
顔を上げたアイズが、フッとほのかに微笑む。
「あら」
ポカンと驚いた叔母や2人を残し、さっさと歩き出した。
「あいつ、笑った?おばさん。」
「笑ったわねえ、まあ珍しいこと!」
おばさんの顔がパッと明るく笑った。
「じゃあ、行ってきます!」
「どうぞお気をつけて!」
おばさんや、見送りに来た近所の人々に手を振って、舞子と真咲がアイズを追う。
「ちょっと待ってよ!家来のくせに、さっさと行ってどうするのよ!」
「俺はお前の家来じゃない。」
「あーそーですか。」
どこの世界にも、こんな不器用な奴はいるのねえと、舞子がニヤニヤしてアイズを見る。
ヒョイと前に出て、下から探るように覗き込んだ。
「ねえ、あんたわざとあそこ通ったんじゃない?他にも道はあるんでしょ?」
「ふん」
アイズの白くて表情のない顔に、うっすらと赤く色が浮き上がり、心なしかまた笑っているようにも見える。
「ねえ、親はどこにいるの?」
「遠くだ、お前には関係ない。」
「んま」
まあつっけんどんで腹も立つが、おばさんの言った「優しい子」には少し笑える。
親代わりなら親と同じだろうが、親の欲目とはよく言ったものだ。
「さて!では行きますか!」
振り返ると、まだおばさん達が見送っている。
「ほら、もう一度くらい手を振りなさいよ!」
「フン、余計な世話……な、なにをするっ!」
「こっち向け!真咲、手を振らせるのよ!」
「おうっ!」
真咲がグイッとアイズを羽交い締めて振り向かせ、すかさず舞子が腕を掴んで無理矢理手を振らせた。
「この、やめろおおお!」
無理矢理振る手はぎこちなく、それでもおばさん達の姿に、アイズの引きつった顔が次第に真顔になってくる。
小さい頃から命をたびたび狙われながら、それでも命がけで守ってくれた。
それはこの国の運命を背負う封印の戦士である為でもあったが、この集落の人々はそれにとらわれず一人の子供として他の子と同じように接してくれた。
重荷に耐えきれなかった親にさえ放棄されたアイズは、だからこそこうして騎士として独り立ち出来たのだ。
危険を顧みず育ててくれた叔母や集落の人々に、アイズは心の中できっとやり遂げてみせることを誓っていた。


5、

 森をテクテク歩いて、奥へ奥へと進んでゆく。
次第に鬱そうとして薄暗くなって行く景色に、真咲が舞子の腕をギュッと掴んだ。
「なによう。」
「いや、なんかさあ。怖くない?」
「あんた、そりゃあたしのセリフでしょ!」
「舞子お、うう、手え離さないでくれよ。」
「あんたが離せっての。」
強がりを言いながら、舞子も内心は怖い。ブンブン振り回す竹刀は、こっち来るなの警戒行動だ。
スタスタと先を行くアイズは、相変わらず能面のように冷たい顔で、まったく感情が見えない。
舞子がぶら下がる真咲を引っ張りながら、アイズにススッと近づいた。
「ねえねえ、アイズは怖くないわけ?」
「ない」
「じゃあ、怖い物とかあるの?」
「ない」
「嫌いな食べ物は?」
「ない」
「じゃあ、好きな物は?」
「ない」
「あたしのこと嫌いじゃ?」
「嫌い」
チェッ、聞いてないようで聞いているのか。
可愛い奴。
苦笑いで頬をヒクヒクさせていると、いきなりピタッと止まる。
「キャッ、急に止まるなバカッ!」
ドンと舞子が背中にぶつかって、真咲が玉突き衝突のようにその背にぶつかった。
「殿下、今宵はこの辺で休む事になりますが、よろしいでしょうか?」
「また野宿かー。」
ちょっと溜息。
辺りは鬱蒼とした森で、夜になれば真っ暗闇になるだろう。
旅立ってからの数日は、上手いこと集落に世話になったが、この3日は山深い場所に野宿ばかりだ。
開けた場所を見つけての野宿は、満天の星空に夜も結構明るかったが、ここは鬱蒼と昼間でも暗い。
「こんな所で夜明かしなんて、眠れるわけないじゃないよー。」
舞子が大きく溜息。
「フン、さっそく弱言をもらすか。女、お前ここで引き返すか?」
アイズが思い切り蔑視線。
「こんの美少年がーっ、喧嘩売るかこの!」
キーーッと舞子が竹刀をブンブン振り回した。
「まあまあ、舞子。俺が守るから。」
「あんたが頼りないからあたしが来てるんでしょーがっ!でかいこと言うな!」
バキッ!
「いてえっ、竹刀で叩くより蹴った方が痛くないよう。」
「じゃあ、今度から竹刀で叩くわ。あんたの目が覚めるように。」
「ちぇー」
と言うわけで、3人は野宿の準備を始めた。

 立ち寄った村で仕入れていた食べ物や、道中つみ取った木の実などの食事を済ませ、ジャンケンして火の見張り番を決めて横になる。
今夜はアイズが1番で、真咲が2番で舞子が3番。
2番は寝て起きて、また寝てと寝た気がしないが、ぶつ切りでも疲れているだけに寝付きはいい。
3人いるだけに楽だというアイズの言葉も、あながちウソではないだろう。
この世界も向こうの世界と変わりない時間で、目安にするための舞子が持ってきた時計をアイズに渡し、2人は焚き火の傍ですやすやとすぐに寝入ってしまった。

 シンとした闇の中、時々虫や鳥達の声が響く。パチパチと木のはぜる音を響かせ、焚き火の火が明るくまわりを照らしていた。
「殿下、殿下。」
アイズが真咲の肩を軽く叩き、耳元に囁く。
真咲がボウッとした顔で目を開け、のっそりと起きあがった。
「んあ?ああうー、もう交代かあ。ふぁーあ。」
「申し訳ございません。本当は、この馬鹿女と2人で見張りをしなければならないところを殿下にまで。」
「いいっていいって、3人の方が楽ちんだもん。じゃあ、アイズお休み、ご苦労さん。」
座って頭をボリボリかきながら、時計を見る。
まだ2時だ。
それでも、交代は1時の予定だから、アイズが気を使って1時間寝かせてくれたんだろう。
冷たそうで怖そうだなと思っていたけど、凄く気を使ってくれるのは以外だった。
寝顔もこうしてみると可愛いじゃねえ?
フッと微笑み、焚き火に木をくべる。

コーン、コーン……

「え?」遠くから、何か木を切るような音が聞こえた。
こんな夜中、しかもこんな場所で人が仕事をしているとは思えない。ドキッと闇に包まれたまわりを見渡し、じっと耳を澄ます。

コーン、コーン……「ブツブツ」コーン、コーン……

やっぱり聞こえる!
真咲は真っ青になると、たまらずアイズに飛びついた。
アイズはまだ眠っていなかったのだろう。サッと身体を起こし、真咲にシッと指を立てる。
真咲はブルブル震えながら、思わずアイズのコートの裾を握りしめた。
「ど、どうする?」
「殿下、私が様子を見て参ります。ここを動かないでください。」
「え?え?行っちゃうの?俺怖いよう。」
「私の剣が騒ぎませんゆえ、魔物ではないのかと……殿下にはグリフォンが付いておりましょう。この馬鹿女を守るのは、殿下しかおりません。どうか気をしっかり持ってください。」
ちらっと舞子を見ると、何も知らずスウスウ寝ている。
「舞子、起こした方がいい?」
「いいえ、馬鹿女はうるさく騒ぐでしょうから、このままにしておきましょう。では。」
サッとアイズが闇に消える。
「うう、怖いー。」
ポツンと取り残された真咲が急に心細くなり、じりじりと舞子の傍によりピトッとくっつく。
「んんー……」

ドカッ!

「ギャッ!うう、舞子って寝てても暴力女。」
寝ぼけた舞子にドカッと蹴られ、真咲はヨロヨロと舞子から少し離れて座り込んだ。

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