腹ぺこイミテーション

コロニーアクセスの、一般人による歩合制ポリス「イミテーション」。
万年貧乏居候ソードは、今日も行き倒れ寸前で犯人を追う!

>>その1(1〜3)
>>その2(4〜NEW!5)完結

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**お礼画面に掌編あります。(現在連載中の、赤い髪のリリスの短編です)

1、

ここは、アクセス。

人間が、地球と月と火星に住むようになって、地球と火星の中間に作られたコロニーだ。
中継点であるだけに人と金と物が激しく行き交い、それだけに犯罪も増加している。
凶悪な犯罪の多発や検挙率の低下に歯止めをかけるため、政府はそこで歩合制のポリスのイミテーション制度を発足した。
つまり、一般人もイミテーションに登録し、犯罪者を捕まえると政府から金を貰える、まあ賞金稼ぎに似たものだ。
昨今の不況の中、これに登録する者も多く、やもすれば犯人の取り合いにもなる。
しかしそこはお役所、金銭的にはなかなか厳しい物があった。



「ああ、腹減った」

町の中心部にある『にこにこ駐車場』の事務所のソファーで、ソードが寝っ転がって気が抜けた声を出す。

駐車場の事務所は四畳半もない狭い空間だが、奥に置いてあるソファーの上がソードのベッドであり居間であり、彼の生活のスペースだ。
窓口からは見えないように、つぎはぎのカーテンがぶら下がっている。
そしてその窓口の前には、大きな身体を窮屈そうに、ミオおばさんがのしっと座り、金も払わず逃げる奴はいないか睨みを利かせていた。

ガサッと傍らの袋を開け、ミオが今日のおやつを取りだしてモニターの前に置く。
カップにコーヒーを入れて、角砂糖を7個いつものように放り込んだ。
部屋にはコーヒーのいい香りが漂い、ソードがグッタリとカーテンの隙間から覗く。

「俺にも何かめぐんでよ」

「働かない奴は食うんじゃないよ」

「3日食べてねえんだ。もう動けねえよ」

「動きもしないで何が食える。若い奴が寝ぼけてんじゃないよ」

ミオの物言いは、いつも冷たい。
「くすん、意地悪」

「意地悪なもんかい、倉庫のスミでネズミにかじられながら寝っ転がってたあんたを、こんないい所に住まわせたのはあたしだよ」

うーん、いい所かどうかはわからないが、確かに感謝はしている。
トイレもあるし、シャワーは洗車場で寒さに震えながら水を浴びることが出来る。

うーん、つくづくいい所かはわからない。
まあ人間が暮らすのに最低限ではあるだろう。

「いい加減に家に帰ったらどうだい?家は金持ちなんだろ?」

「俺は金持ちじゃねえもん」

「親が金持ちならいいじゃないか。生まれてラッキー、ってぐらい思ってればいいだろ」

「バーカ、そう簡単に帰るもんかよ。あんな家、何やってっか、わかったもんじゃねえ」
家を持ち出されて、ソードがガバッと起きる。

「せっかく家族が迎えに来たのに、追い返してばかりなんだから」

「あれは親でも何でもねえ、執事だよっ」
こんな所に親兄弟が自ら来るものか、地球にいたくないからここまで逃げてきたんだ。

「フンッ」立ち上がった瞬間、クラッと来てぽてっとミオに寄りかかった。

「鬱陶しいねえ、この子は」

「バブルトップで何か食ってくるから、そこまでの体力ちょうだい」

手を差し出されて、チッとミオが舌打ちながら角砂糖を一個めぐんでやる。
それをポイと口に放り込み、ようやく事務所をヨロヨロ出ていった。
ミオがそれを見送って、大きな溜息をつく。

「あのツラで食えばいいだろうに、意地だけじゃ食いっぱぐれるよ!」

ソードはまだ17才。
金髪にエメラルドグリーンの瞳、そして整った容姿にスラリとした長身と、その上仕草もかなり生まれがいい。
家を飛び出し世間の荒波に負けてどん底を味わい、ようやく育ちの良さが抜けつつもある。
モデルやホストと、道を歩けば声を掛けられることも多いが、彼は顔ではなく自分の腕で食うのが一番の目標だ。
よってミオに拾われたあとイミテーションになった物の、ようやく月に1人安っぽい犯人を捕まえるのがやっとの落ちこぼれだった。


カラン、カラン

「いらっしゃいま…なんだ、ツケ野郎か」

バブルトップの看板娘、レナがいきなり声色を変える。
ズルズルとカウンターの端っこに座るソードに、ドンと水を置いた。

「で?今日はツケを払いに来たの?」

「ウウ、ごめん、明後日が入金日だから、絶対払うから、お願い食わせてえ」

手を合わせる彼に、フウッと溜息が出る。
奥から出てきた親父さんが、無言で彼の横にライスをドンと置いた。
来るのは忙しい時間を過ぎた昼過ぎ、注文はいつもライスだけ。
そしてほんの少し残り物のスープを分けて貰う。
のどを通りにくい古米の堅さに、スープをかけてしゃぶしゃぶ食べるのだ。

「ああ、美味しい、ああ、んめえ」
それ程腹が減っても音も立てずに絶対ガツガツと食べないところは、ちょっと育ちが出る。

「あんたさあ、全然お金余らないのに、良くやってるねえ。洗濯とかどうしてるの?」

彼は確かにいつもゴワゴワしているが綺麗なシャツを着て、荒れた髪でちょっと変わった香りを漂わせている。
食べ終わってホッと水を飲む彼は、幸せそうな余韻に浸りながら、ああと答えた。

「洗濯はね、お客が残した洗車液でやってる。身体もそれで洗うんだ」


「えっ!」


思わずレナが引いた。
確かに駐車場の隣で、がめつい…いや、しっかり者のミオはコイン洗車場もやっている。

「そんなので洗って、かぶれたりしないの?」

「最初かぶれたけど、今は慣れたみたい。うんと薄めてるから。
ちょっとワックス入ってるし、リンスみたいでいいだろ?」

「ワックスが、リンス…」

あんまり惨めで、ちょっと可哀想になってくる。レナはキッチンに入り使いかけの石鹸を袋に入れて戸棚を開くと、果物でも一番安いオレンジの缶詰を取って皿にあけた。

「これ、使いかけだけど石鹸あげるわ。それとこのオレンジ、デザートにあげるから食べていいわ。
もうちょっと人並みになれるように、働きなさいな」

「ありがとう!レナ様」

ソードがパアッと明るい顔でレナの手を握る。
レナはカッと赤い顔で彼の喜ぶ顔を見ると、飼い犬でも可愛がるように食べる姿を眺めていた。

2、

久しぶりに、腹に食い物が入って少し元気が出てきた。
腹が減る前に仕事だ。

今日中にぎりぎり成功すれば、報酬が4日後にもらえる。
今月は取り逃がしてばっかりで1人も捕まえることが出来なかったから、マジでヤバイ。
このままでは、本当に来月は水飲んで暮らさねばならない。

ずっとこんなギリギリの状態だから、家を出た頃より随分ダイエットに成功した。
以前はいていたズボンはガバガバになって、やっと古着で手に入れた、たった1本のGパンを履いている。
コロニーはずっとコロニー風という、空気を循環させるための換気システムが動いているので、いつも乾いた風が吹き、夜洗えば朝までには乾く。
おかげで下着も2枚あれば十分だ。
だいぶ、すれてるけども。


ソードは久しぶりに、ポリスへ指名手配の情報を仕入れに訪れた。
イミテーションも、金さえ出せばポリスからの情報をいつでも取り出せる端末を買える。
しかし、それも貧乏ソードには高嶺の花だ。

「こんちは、どーも、ちわっす!」

行き交う本物のポリスに軽く挨拶しながら、イミテーション事務局へ向かう。
本物のポリスとはほとんど面識がないので、この事務局までの通路が一番苦手だ。
局の事務所に入ると、デスクにいるポーリー女史が、あら!と眼鏡を上げた。

「どーもー」

軽ーく挨拶をして、端末に座る。
IDを入力して、身分証明書のカードをセンサーに通すと、パッと画面に情報が現れた。

「ソード坊や、ずいぶん久しぶりじゃない?とうとう行き倒れたかと思って噂してたのよ。
なんだ、生きてたのね。」

「そりゃどうも。ちょっと腹が減って動けなかっただけさ。」

「ちょっと……?って、ねえ。いい加減にしないと、栄養失調で病院行きよ」

「いいもん、病院行く金ねえから」

ピッピッピッ

最近からお蔵入り、窃盗、詐欺、殺人事件。
犯人が指名手配されている物もあれば、わからない物まで多岐に渡るが、イミテーションは犯人がわかっている物しか手は出せない。
手当は凶悪な物ほど高額になる。

「あれ?」

少し見覚えがあるような顔が出てきた。
年は42。髪型は違うが、目の様子が似ている。童顔だが表情のない目に、やや猫背でうつむき加減。

「ゲゲッ、と言うか、ラッキーなんだろうなあ。」


でも、怖いよ〜


クレイ・ガナッシュ、なんと罪状は強盗殺人。
盗みに入って3人殺し、逃走途中で2人殺している。
しかも薬物中毒で、ヤクの売人も2人殺して薬を強奪。

あまり……というか、すごくお近づきになりたくない方だ。

危険度を示すゲージはレッドゾーン。
しかし、お手当は窃盗の8倍。
こいつを捕まえれば、今までのツケがチャラになり、それでもお釣りが来るので腹一杯飯が食える!お風呂も入れる!石鹸が買える!

「あら、いいのが見つかった?」

女史が、クスッと笑って肘をつく。
ソードはブイサインを送って、容疑者の写真をプリントアウトした。

「手錠はまだ持ってるの?」

「当たり前だろ!ほら!」

ジャランと、ポケットから取りだしてみせる。

「まあ!とっくに闇に売ったと思ったのに、おりこうさんね。」

「フンッ!子供だと思って、いつまでも馬鹿にしてなよ!」

ソードはイミテーションの最年少。
アクセス自体は自然など皆無で環境のいい所でもないので、移住する人は少なく子供の数は圧倒的に少ない。
つまり、このコロニーはビジネス人口が多い。
だからこそ、ストレスから来る犯罪の増加や浮浪者の増加。
密航者に加えて、犯罪者が逃げ込む場所にも適している。ソード自身も家は地球にあった。

3、

人口太陽の輝く中、無機質でやたら交通量の多い町を行く。

コロニー内は、4つの宇宙港がフルで動いて地球と火星を物が行き来する。
各星から来た物資をここで分けて相手の星の各宇宙港へ直接運ぶ事が多いので、コロニー内は倉庫や配送基地が多く、各宇宙港間を激しくトラックが行き来しているのだ。

ガナッシュを見たのは、腹が減ってゴミをあさっていた裏通りだと思うが、とにかく腹が減って余裕がなかったので良く覚えていない。
あれは確か2日前だから、それ程前でもないので、知り合いに尋ねることにした。

知り合いの溜まり場は、公園にある人工林。

人目を避けるように、昼間はそこに集まっているはずだ。
人々が明るく太陽浴を楽しんでいる表の公園を横目に、ざくざくと林に踏み込んでいくと、幽鬼のような男の姿が目に入った。

「ちわ、生きてるかい?」

路上生活者同士の、合い言葉のような挨拶を交わす。

「おお!チビか、久しぶりだな。生きてたかい?」

「うん、なんとかミオババアの所でやってるよ。たまに食いっぱぐれるけどね」
ほとんど食いっぱぐれているけど。

「まあいいさ、子供はちゃんとした所で暮らさなきゃ、ろくな大人にならねえ」

「俺はもう大人だよ!あー、そんな事より、聞きたいことがあるんだ。こいつ知らない?」

「どれどれ、チビの仕事なら、みんな協力するさ。みんなの所へ行こうや」

「うん」

一緒に溜まり場に行って、写真を取り出しオッチャン達に見せる。
十数人はいる中で、2人のオッチャンがああ、と身を乗り出した。

「こいつは俺達も見たことがあるよ。
うん、確か……4番港の近くにシリウス社の配送工場があるだろう?
その裏の倉庫らへんで2度ばかり出っくわしたな。
あそこの社員食堂のゴミ置き場には、以外と美味い物があって穴場なんだ。」

「へえ、俺も行ってみようかな。」

チッチッチッとオッチャンが指を振った。

「いつもはねえんだ、決まった時間にどっさり捨てて、決まった時間に回収される。
しかも、簡単に中には入れねえときた。」

「おお、教えてくれよ。俺も腹減ったとき行きてえなあ。」

「ヒヒヒ、秘密だよ、秘密。」

すっかり食事の話になってしまったが、ソードも話を聞きながら口の中がよだれで一杯になる。
ジュルッと口の端をすすって、慌ててコシコシと袖でこすった。

「なあなあ、それはいいから男のこと詳しく教えてくれよ。」

「おうおう、そうだった。
えーと、だからそのシリウス社の倉庫のゴミ置き場よ。
ああ、業務用じゃねえんだ、社員食堂だぜ。社員食堂の裏。
うっかり目を合わせたときにジロッと睨まれてよう、背筋がゾッとしたぜ」

「俺、行けば分かる?」

「わかんねえなあ。似たような建物が並んでるんだ。地図を書いてやらあな」

そう言って、オッチャンが拾ってきた広告に、やっぱり拾った短い鉛筆でスルスルと地図を描いてくれる。そして丹念に説明してくれた。

「1人でやるのは感心しねえ、無理してあぶねえ事に手えだすな。
最近は4番港の周辺で、裏の世界の奴らが麻薬の受け渡しやってるって話だ。
捕まって宇宙に放り出されたら、運が悪いと死体も見つからねえ。
いいか?逃げ道だけはとっておけ」

「うん、無理はしないよ。約束する。俺だって、まだ死にたくねえもん」

「よし、がんばれよ、チビ」

「うん、見ててくれ、俺はイミテーションの星になってやらあ!」

「おおっ」パチパチパチ

オッチャン達が拍手で送ってくれる。
ソードは意気揚々と、地図片手に歩き出した。


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