桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

腹ぺこイミテーション

コロニーアクセスの、一般人による歩合制ポリス「イミテーション」。
万年貧乏居候ソードは、今日も行き倒れ寸前で犯人を追う!

>>その1(1〜3)
>>その2(4〜NEW!5)完結

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**お礼画面に掌編あります。(現在連載中の、赤い髪のリリスの短編です)

4、

ぽてぽて歩いて、その場所を目指す。
いるかどうかはわからないが、何だか今回は楽に行きそうだ。やっぱり日頃の行いがいいらしい。すんなり捕まえられそうな、そんな予感。
ルンルンと、足取りも軽く歩いてようやくそこにたどり着くと、うろうろ地図を頼りに倉庫を探す。
「むうー、ここらへんかなあ。ここがシリウスの配送工場だし……」
やっぱり似たような建物が多くて、地図もよくわからない。
一体自分が今どこにいるのかさえ、なんだか怪しくなってきた。
「どうしよう、何か道に迷ったような気がしてきた。」

キョロキョロ辺りを見回すと、ちょうどごそごそゴミ箱をのぞき込んでいる、汚れきったおじさんが見えた。
通りかかった人は、汚れた様子と臭いに眉をひそめて遠巻きを歩いて行く。
しかしソードはパッと明るい顔で、嬉しそうに駆け寄った。

「しーしーのおっちゃん!」

「んあ?」

しーしーのおっちゃんは、真っ黒の顔を上げて拾った段ボールを手にいっぱい抱えている。
黒い顔にきらきら光る目をきょろりと動かし、ニッコリ黄色い歯を見せた。

「おお!チビじゃねえか!随分小ぎれいになって、出世したなあ。まだミオばあの所にいるのか?」

「えへへ、これでもイミテーションだもん。ミオの所にいるけど、まあ何とか死なない程度にやってる。
おっちゃんベッド探してんの?」
ベッドとは、ダンボール。
これが意外と暖かい。

「おお、どうも今のベッドが湿気っちまって、寒くてなあ。」
「そっか、俺も手伝うよ。おっちゃんこの辺に移ったの?」
「いやいや、こっちは別荘よ。向こうの本宅は最近役所の手入れがあってな。
まあこっちの方が、残飯も多いしこまらねえってわけよ。」
「良かったあ、なんか道がわかんなくてね。」
「そうか、この辺は似たような建物ばかりだからなあ。まあ付いて来いや。」

段ボールを抱え、おっちゃんの後ろをついて行く。
そこは配送工場の裏側、工場の脇に立ち並ぶ寮から離れて人目を避け、隣の区画に渡る車両倉庫の陸橋の下だった。
肝心の水も古い水道が放置してあり、ひねるとちゃんと水が出る。
水はねぐら探しの重要事項だ。

「へえ!こりゃいい場所見つけたねおっちゃん。
でも公園に遠いけど、たまには顔出してるの?」

「ああ、公園グループには時々合うよ。大丈夫、心配するな。」

おっちゃんは残飯やゴミで汚れていた真っ黒の手を貴重品の石けんで洗い、汚れたタオルで拭いて「ヨシ」という。
そしてのぞき込むソードの頭をようやく思い切り撫でた。

「わわ、なんだよおっちゃん、俺の頭撫でるために手洗ったんだ!」

「あったりまえよ!こんなきれーな髪汚せるか!
綺麗にしてろよチビ。綺麗にしてたら、みんなちっとは優しくしてくれる。
お前はまだガキだし見た目もいい、いつかちゃんと食っていけるまでがんばれよ。」

「うん、俺がんばる!がんばって綺麗にするよ!」

元気なソードの返答に、しーしーのおじちゃんががっくりする。
どうも昔からずれた子だとは思っていたが、まあ、そこが可愛い。

「いや、そこをがんばるんじゃなくてだな……ま、いいか。
で、今日はなんであそこにいたんだ?残飯か?道に迷ったって言ってたな。」

「違うよ。なあおっちゃん、こんな男見たこと無い?」
ソードがいそいそ写真を出してみせる。
おっちゃんはフムと考え、歩いてきた道を指さした。

「ほれ、あの赤いラインの煙突が見えるだろ。あの右横の建物が古い倉庫なんだが、そこで2度ばかり見たなあ。
何か危ない物やってるような、ちょっとまともじゃねえ感じだ。
どうも噂じゃあの辺の倉庫街のどこかにヤクの受け渡し場所があるとかで、この辺の仲間じゃ近づかない方がいいって言ってるんだよ。
まさか、こいつを捕まえる気かい?」

「う、うん、賞金がでっかいんだ。食堂の払いも貯まってるし、ごはん代稼ぎたいし……」

一気におっちゃんの顔が心配そうに変わった。
でも、本当に、ほんとーーーにこいつを捕まえないとマズイ。
その辺、あまり状況に変わりのないおっちゃんには、ソードの気持ちもわかっている。
こういう路上生活者には、生きること自体が戦いなのだ。

「そうか……お前は走るのは速いから、ヤバイと思ったらすぐに逃げろよ。
「うん、足には自信があるから。」

公園のおっちゃんに書いて貰った地図を出して、しーしーのおっちゃんに詳しく教えて貰う。
ソードはしーしーのおっちゃんの寝床を出ると、ちょっと不安な気持ちでまた倉庫街に行ってみることにした。



おっちゃんの心配な顔を胸に、慎重に人気のない工場裏手の道を進む。
結局随分遠回りしたわけだけど、昼間だというのに車も通っていない。
タマにどこかの工場関係者なのか作業服姿の人に会うけれど、ちょっぴり心さみしい。

「あの、赤いラインの煙突の……右横の倉庫……」

クイッと曲がったところで、人の怒鳴り声が聞こえた。
「てめえ!裏切ったなっ」
「バーカ!金もヤクも俺のもんだ!」

パンパンパン!

アワアワと、慌てて後ろに引き返す。
もちろんそれが銃声だと、容易にわかった。
そうっと角から顔を出すと、配送工場裏手の延々と続く壁の向かいには倉庫がずらりと並び、その前で誰かが倒れた人をじっと見ている。
ハッと声を上げそうになって口を押さえたとき、また銃声がして目の前の壁にビシッと命中した。

「ひいいい!」

ハタと、しっかり男と目が合う。
すくみ上がるソードに向かってニヤリと笑った男は、これ以上ないほど写真とそっくりだ。

「もしかして、ご本人様?」
「見ーたーなー」

ニヤリと不気味に笑う顔。
運がいいのか悪いのか。
それは間違いなく手配犯クレイ・ガナッシュ。
麻薬中毒のうえに、わかっているだけで7人殺した……いや、今一人死んだから8人か、とんでもなく凶悪なお方。
ソードは頭から冷水かぶったような気持ちで、足がすくみ上がって震え始めた。

5、

パンパンパン!キューン、チュイーン

「ぎゃああ!やっぱりご本人!」

ラッキーどころじゃない、追わなきゃいけないのに、追われてソードが慌てて逃げ出す。
辺りには車しか通らず、人通りは皆無。
ガナッシュは変な薬でもやっているのか、意味不明の奇声を上げながら、パンパンと銃を乱射する。

「ひいい、誰か助けてえっ」

ソードの身体を何発かかすって弾が飛び、それでもソードはおっちゃんたちに自慢できるほど逃げ足だけは自信がある。
のだが、3日ぶりのライス一杯では体力もたかが知れている。
しかも弾が尽きたか今度はナイフを出してしつこく追ってくる男に、徐々に追いつかれてソードは悲鳴を上げた。

「駄目だあ!ライス一杯分じゃこれが限界!」

周りを見回し、脇にあった倉庫の非常階段をダッと駆け上がる。
置いてあったデッキブラシを掴み、階段に足をかけたガナッシュに向けて、デッキブラシを振りかざし上から飛びかかった。

「うおおおおっっ」

窮鼠猫を咬む!
死ぬのは一回、やるしかない!

「キエエエ!この野郎!」

奇声を上げて繰り出すナイフが、振り下ろしたブラシにガッと突き刺さる。
ゾッとソードが恐怖で切れて、ブンブンとナイフの刺さったブラシを振り回した。

「ぎゃああん!怖いよう!このこのこのおっ」

怖い怖い怖いいっ!

目をギュッと閉じて、バンバンと目蔵滅法叩きながら叫ぶ。


「誰か助けてえ!」


ソードの悲鳴に答えるように、パトカーのサイレンの音が辺りにこだまする。
誰かが通報してくれたのだろう。

「あっ!パトカーだ、助かった!」

ああっ!これで来月は悠々自適、飯も満足に食えるし風呂も久しぶりにお湯を浴びることが出来る。
しかも贅沢して石けんも買えるから、ワックスの効いた洗車液で洗わないで済むのだ!


バンザーイ!神様ありがとう!


ホッとして足下のガナッシュを見ると、ボカボカに殴られてすでにのびている。
パトカーが止まると、脇から作業服の男達がわらわら出てきた。

「おまわりさん!おまわりさん!」

バタバタとポリスに飛びつき、皆が一斉にソードを指さす。


「こっちです!ほら!あのガキを捕まえてください!」


「え?」

ソードがポリスに囲まれ、ガチャンと手錠を掛けられる。
ガナッシュはあとから来た救急車に被害者として収容され、病院へと走り去って行った。

「さあ、来るんだ。殺人と、殺人未遂の現行犯で逮捕する。」

「え?」

呆然と、ソードがパトカーに乗せられる。

「待って、犯人は向こうで、俺は犯人を捕まえに来て、俺は犯人じゃないんだあ。」

「いいから話は署で聞こう。まったく、とんでもない奴だ。」

「ちょっと待って、誰か助けてえ!」


バタン、ヒュンヒュンヒュン


パトカーが、凶悪犯ソードを乗せて走り去る。
残された作業服の善良な市民が、やれやれと肩を下ろした。

「最近の若い奴は怖いねえ。ありゃあかなりのワルだな」

ウンウンと、皆で頷き合う。
ホッとしながらおじさん達は、犯人が捕まって良かったとみんな喜び合った。





月が開けて3日。
ソードはこの3日を水で過ごしてフラフラだった。
たまにミオが置いていた角砂糖をかすめてなめていたが、もう限界だ。
もうろうとした頭で、ようやくこの日を迎えて拾ったパイプを杖にポリスに向かった。

「まあ!いらっしゃい、犯人に間違われたイミテーションの星!」

イミテーション事務局のドアをくぐると、ポーリー女史がまあっと立ち上がって手を叩く。
オーバーなアクションに、ムウッとソードがむかつきながら、デスクの椅子に倒れるようにかけた。

「いいから……お金…ちょうだい。腹減ってんだ」

「ホホ、まあ現金で貰うのはいいけど、盗まれないようにね。
あ、そうそう。はい、あたしから差し入れ。」

やっすいクッキーを一袋差し出され、ソードが奪い取るように飛びつく。
急いで袋を破ると勢いでクッキーが床に散らばり、慌てて拾いながら口に入れた。

「ずいぶん飢えてるわねえ。」

床を這い回るソードの横にしゃがみ込み、ポーリー女子がため息をつく。

「うう、食い物久しぶり。ううう……」

半泣きで食い終わり、ようやく一息ついてキッとにらみつけた。

「盗られるもんかい、俺あイミテーションだぜ。
ああ、ようやく飯がまともに食えるんだ。うう、長かったあ」

女史がクスクスと笑いながら、パソコンでソードのコードを打ち込み確認する。

「あら?」

「なあ、なあ、早くくれよ。ごはん食べに行くんだ。
お風呂も入って暖かくなって……そうだ、お買い物にも行かなきゃ。
何買おうかなあ、今日はパンの耳じゃなくて、食パンが買える。久しぶりだなあ、えへへ、へへ」

ソードはキラキラした目でポーリーを見て、幸せそうに夢見ている。
ポーリーは、とても言いにくそうにため息をつくと首を振った。

カチャカチャカチャ・・

印刷された今月の明細を、ソードに差し出す。

「やったあ!」

明細を見て、ポーリーを見て、目をごしごし。

明細の金額には、きらびやかにあっさりと0が並んでいた。

「あれ?これって間違い?」

「いいえ、残念だけど間違いじゃないわ。
締め日に捕まえたガナッシュの分、あなた掴まって確認が遅れたでしょう?
丁度ここの就業時間が終わったあとだったから、翌日受付になってるのよ。
だから支給は来月になるわね。」

ぐらり

ソードの足下が大きく揺らいだ。


「うそ…………」




あんぐり開けたソードの口から、ひよひよと魂が抜ける。
そしてそのショックの大きさを表すように、来月までの長い道のりは、ソードにとって最凶最悪の日々となって待っていた。


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