桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

赤い髪のリリス 戦いの風 1

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1、

暑い夏を乗り越え、秋も終わり年末の足音も近づく冬の始まり。
冬休みを利用してアイとヨーコは、電車で数時間離れた大きな街でウインドーショッピングを楽しんでいた。
アトラーナの旅も終えて、すでに2年ほどになる。
2人は3年生だが私立の学校なので、受験勉強など無縁だ。そろってエレベーター式に同じ高校へと上がる予定。
受験がないのは楽だけど、今ひとつ緊張感がないのは否めない。
「ね、この服いいと思わない?」
有名ブランド店のウィンドウで、アイが指さすそれは純白のロングコート。
襟にファーが付いているのを除けば、何となく見覚えがあるデザインだ。
「どっかで見たような気がしない?」
「そうだよねえ。これと似たようなの誰か着てたよねえ。」

「キャーーーん!これ欲しい!欲しいのー!」

突然、女の子の声が辺りに響いて、人々の視線が声の持ち主に集中する。
それは見ると、10才ほどの女の子。いや、超美少女だ。
愛くるしい顔に金色の瞳。そしてつややかな黒髪を腰まで伸ばし、白いファーのベレー帽がよく似合う。
赤いベルベットのワンピースに、クマのポシェットがとても可愛い。
地団駄踏んで、誰かに駄々を言っては困らせている様子だ。
「あは、可愛い子。外人かな?黒髪だけど。」
「ほんと、美少女じゃん。あ……」

「ねえねえ!お正月の前祝いで買って!ねえ!」
「お正月はまだです!前祝いなどございません!先日クリスマスでこのバックを頂いたばかりでしょう?さあ、帰りますよ。先ほどお約束なさったでしょう?」

声変わり前の、少年の声が高く強くひびく。
それは、どこかで聞いた……

アイがハッとして駆け寄った。
少女が駄々をこねる相手。それは自分たちと同じくらいの背丈に、スラリとしたスリムな白いコートをまとい、白いズボンに白のショートブーツという白へのこだわり。
そして白い革の手袋で少女の頭をなでるその少年の姿。
少し伸びた緩やかなウェーブの赤い髪を燃えるように背中になびかせ、相変わらず白ずくめがよく似合う。

「リリス!」

他にこれほど美しい少年が二人といるものか、アイが確信を持って叫んだ。

「あ……アイ……様?!」

振り向いた少年は、百人いれば百人が振り向きそうなほどにきめの細かい肌は美しさに磨きがかかり、整った鼻梁に赤とグレーの色違いの瞳が宝石のように輝いてアイを見つめている。

「う……!」
くらりとめまいがした。

アイが思わず立ち止まり、鼻を押さえてうつむく。
「アイ様お久しゅうございます。どうなさいました?お加減が?」
「ちょっと待って、鼻血が出そう。」

な、な、なんてきれーな奴!

「お加減がお悪いのですね?どちらかにお休みになられた方が!」
慌てるリリスに、横からプウッとヨーコが笑って近づいてきた。
「違うわよ、あんまりリリスがパワーアップしてたから鼻血が出そうなだけ。そうでしょ?アイ。」
アイがコックリ、うなずきようやく顔を上げた。

「リーーリーースーーー!!」

「ア、アイ様!」

彼に抱きつくアイに、苦笑しながらヨーコが手を挙げる。
「久しぶり、リリス。背、少し伸びたんだね。」
「あ、はい。ヨーコ様もお元気で何よりでございます。」
「ふふ、リリスも相変わらずご丁寧な言い方ねえ。」
「わーん、久しぶりぃ。リリスぜんぜん顔見せないでさあ、何してたのよう。」
「は……はい、ちょっとあちらの世界で忙しかったものですから。申し訳ございません。」
リリスに抱きつき離さないアイに、ムウッとした少女が彼女の足にドカッと蹴りを入れた。

「いったあ!」

「離さぬか!リーリはわしのムコなのじゃ!」
「はあ?ムコぉ?」
無理矢理アイとリリスの間に入り、リリスのコートにしがみつく。
そして思い切り舌を出して二人にあっかんべー。
「んま!可愛くないわ。」
「リリス、この子誰?」
「はい、え……と……」
答えに窮するリリスを押しのけ、少女が前に出て腰に手を当てツンと顔を上げた。

「ババアども、わらわは風のドラゴンなるぞ!リーリはわしの巫子じゃ!けがすことは許さぬ!」

「か、風の?……って?」
「お師様は?えーとお母さんだっけ?」
「はい、ご健在であらせられます。ですが少々色々とございまして。」
なんだか言葉の重い彼に、と言うか……
もの凄くこの、目立つ容姿の二人。
立ち止まって見る人さえいる。
携帯で写真撮る奴さえ。
「ねえ、とにかく場所移さない?」
「は?」
「時間あるでしょ!ていうかさ、作りなさいよ。」

「はい、でも……あっ!失礼します。」

突然リリスが顔を上げ、少女を抱え上げた。
「お、なんじゃ?抱っこならお姫様抱っこがいい。……無理か。」
気持ちはわかるが、リリスもそれほど腕力がない。少女も不服そうにリリスの首に手を回して掴まった。
「ご希望に添えず申し訳ございません。皆様走ります。」
「えっ?どこに?」
「とりあえずこちらへ。」
ダッといきなりリリスが走り始める。
慌ててそれを、アイ達が追った。
後ろを見ると、スーツを着た女性と中年の男がこちらを見て走ってくる。
「まさか、また追われてるの?!」
「はい、やはり私の髪は目立つようです。」
彼との出会いはいつも追われて始まる。
そしてそれは、思いもかけないほど大きな事柄に通じていた。

2、

道を歩く人々の波をすり抜け、そして入り組んだ細い道へと入る。
そろそろ息も上がった所で、振り向くとまだ追ってくる。
「お待ちを!」
「リリス殿!」
相手も年相応に息が上がっている。
切れ切れの声を上げ、舌打ちして男が立ち止まり4人に向けて手を差し伸べた。
その手がかすかに輝きを集めるのを見て、少女が左を指した。
「リーリ!向こうへ!」
「はい!」
方向を変え、ビル間の路地へと4人が消える。
「ちぃ!」
追われる4人は路地へと入ると、リリスがささやくように口ずさみ始めた。

「風よ、風よ我が元へ集え。風よ、我らの盾となり、そして我らの翼となれ!
ルーナ・ビルド!フィード・ラス・ファラス!」

ゴオオオオオオッ!!

突然ビル風が巻き、そして追う二人の前に吹き上げた。

「ギャッ!」「ひいっ!」

あまりの風圧に顔を覆って後ろに下がる。
同時に4人の身体が、巻き上がる風にフワリと舞い上がった。

「ま、まさか!」

スカートのアイが懸命にスカートを押さえる。

「また空飛ぶのお?!」
「キャアアア…………」

スピードを増して一気に屋上を飛び越え大空へ。
下を見るとビルがニョキニョキ建って、間をアリのように人がうじゃうじゃ歩いている。
キャアキャア悲鳴を上げ続けるアイ達をよそに、リリスは涼しい顔であたりを見下ろした。

「あちらに降りましょうか。」
「でぱあとじゃ!デパートが良いぞ!」
「ハイハイ、承知いたしました。」

やがて近くのデパートの屋上へと、柵を越えて着地する。
「ふう」
「はあ、はあ、ちょ、ちょっとこんな目立つ所……」
目を丸くして、それを偶然見た子供遊園地で遊ぶ子供達の目が点になる。
リリスがニッコリ笑い、そして少女を降ろして服を払った。
「さ、参りましょう。」
「おお!わしはパフェが食べたい!のう、のう、リーリ。」
「ハイ、参りましょう。」
アイとヨーコもどうした物か、子供達にニッコリ微笑みあとをついて行く。
4人が屋上をあとにしたのを見送って、子供の1人が友人と話し込む母親に駆け寄った。
「ねえ、ママ。お姉ちゃん達が空から来たんだよ。」
「そう、すごいねー。帰ったらまたビデオ見ようね。」
「違うんだよ、ホントなんだよ〜」
「あーはいはい、それでさー……」
母親は、ちっとも子供の話しを聞いてない。
子供は走ってまた空の見える場所へ行くと、青い空にポッカリ浮かぶ雲に手を振った。



デパートの中を4人で歩いて行く。
手をつないだ少女に引かれ、やや振り回されている感じのリリスも楽しそうだ。
やはりリリスの容姿は目立つのか、人々の視線もいつもよりやけに気になった。
それでもこの世界では、赤い髪も色違いの目もあまり気にならない。アトラーナで忌み嫌われる彼も、こちらでは解放されるのかもしれない。
「でもさ、なんだか変な感じ。リリスとデパートを歩いてるなんてさ。」
「ほんと、こっちで暮らしてるの?」
「ええ、最近参りました。」
「リーリ、あっちじゃ、パフェがある!大きいのがいいぞ!」
少女が彼の手を引き、喫茶店と急ぐ。
ちょうど空いた時間で、入ると目立たない席に座った。



「うまいのう、リーリは食べないのか、そうか。わしがリーリの分まで食べてやろうぞ。
おい、そこのメイドよ!もう一つフルーツパフェじゃ!スペシャルじゃぞ!」
「フェリア様、お腹を壊しますよ。」
「わしの腹はいまだ壊れたことなど無い!」
高飛車な少女に、リリスもやや手を焼いている。
しかし、こうして前に座るリリスの姿に、アイとヨーコはしばし言葉を探していた。

「……なんかさあ、リリス……また美少年レベル上がったよね。」
「ウン、ちょっと大人びた感じだからかな。髪も伸びたよね。」
「いえ、あまり変わった所はないつもりですが。髪は母上様が長い方がいいから切るなと何度もおっしゃるものですから。」

なるほど。

「その服もお母さんの趣味なんでしょ?結局あのスケベジジイ……ラグン何とかの所には行かなかったんだね。」
スケベジジイとは、アトラーナのベスレムと言う地方を統治しているラグンベルク公のことだ。
彼は王様の弟で、かつて同級生の河原が拉致され、その後エッチ疑惑がある。
河原はもちろん男、ヨーコの彼氏未満の奴だ。
公はリリスの生い立ちを知るらしく、とても気にかけて優しかった。
「いえ、あのあと傷の治りが悪かった物ですから、療養に来るようお誘いを受けてしばらくお世話になりました。とても良くして頂きまして、傷もようやく治りました。」
「えーーー、なんかさ、エッチされなかった?」

「は?」

キョトンと何のことかわからない様子だ。まあリリスは襲われそうで、利口すぎて襲いにくい奴だろう。
アイは手を挙げヒラヒラと振った。

「いや、なんでもない。」

「で、この子は?どうしてこっちの世界に来てるの?」
核心をヨーコがついた。
リリスが紅茶を一口飲んで、カップを静かに降ろす。
手袋を外した手は白く、以前より荒れた様子も見受けられない。綺麗な手だ。
師が母親宣言をして、待遇が良くなったのだろう。以前は下働きのせいなのか、ひどく荒れていた。
「フェリア様は……あの……」
「わしはリーリの妹になるのじゃ。ま、一応な。でも大きゅうなったらムコにすると決めておる。」
ベロンとクリームをなめる。
「ああ、はしたのうございますよ。」
彼女の口の端に付いたクリームを、リリスがハンカチで拭き取った。
「えーと、妹っていたっけ?」
「いえ、フェリア様はお師様とザレルの間にお生まれになったお子様です。」

「ザ、ザレルの娘えーー!!」

愕然と、アイ達がマジマジ見る。
「美女と野獣ねえ、まさに。」
驚く二人を、フェリアがにらんだ。

「お父ちゃまを野獣とは何じゃ!無礼者!」

クリームいっぱいのスプーンをビシッと二人に向け、ピョンと椅子に飛び上がる。
「お父ちゃまは騎士の中の騎士ぞ!お父ちゃまを悪く言うと……」

「フェリア様、これ以上粗相なさるとリリスは怒りますよ。」

ぎくっ

リリスの一声に高飛車少女の顔が引きつり、そうっと椅子を降りてパンパンと座席を払う。
そして大人しく座りパフェをつついた。
「わしはイイ子じゃ、リーリも大好きじゃ。」
エヘッと可愛くニッコリ。
リリスが大きくため息をついた。
「でもさ、じゃあこの子一体いくつ?」
「もうすぐ初めてのお誕生日じゃ。プレゼントは絶賛受付中じゃ。遠慮するでないぞ。」
「……と、いうわけで。何しろお師様のお子様ですから。」
どう見ても1才未満に見えないけれど。
でもあの御師様の娘となれば……
「なるほど」
妙に納得していた。

3、

「で、なんでこっちに?」

「はい、実は私が王子と兄弟であることが、臣下の一部の方々に漏れてしまったようなのです。」
「えっ!ダレがしゃべったの?……まさかあの恐い奴?」

パッと思い浮かぶのは、フレアゴート。リリス達も彼から真実を聞かされたのだ。
フレアゴートは炎のドラゴン。アトラーナで忌み嫌われる赤い髪、赤い瞳の魔女リリサレーンは、フレアの巫子だった。
リリスはその生まれ変わりなのだ。

「え?ええ、フレア様がベスレムの手をお借りになって、神殿を再建されているのですが……」
「まだ諦めてなかったんだ。」
「はい、それでベスレムでのうわさを聞き王子の身を案じた御家臣の方が……」

「つまり、王位継承権がリリスにも?認められたって事?」

「いえ、うわさは単なるうわさとして、何とか処理されようとなさっているようです。
ただ王位継承に一点の曇りも許せない方々が強硬に出られているらしく……母上様がしばらくこちらの世界に避難せよと申されまして。」
「でも、王様が認めれば召使いから王子格上げじゃない?」

「とんでもございません。王位継承はキアナルーサ様にあるのみでございます。
私はそれに述べる身分でもありません。
私はこのまま召使いと魔導師として、何とか身を立てることができそうですし。今のまま静かに暮らせれば……」

「相変わらず無欲よねえ。まったく。」
ヨーコが呆れて首を振った。
「リーリはわしの巫子じゃ、巫子はわしと共にある。わしは生まれる前から決めていた。」
「巫子って、確か生まれる前に決まって、
家族と離れて神殿に入るって奴?」
「はい、そのようなものですが、私は……」
リリスが言葉を探す。
そして、沈黙して目を逸らした。

「リーリはわしが嫌いなのか?」

「いいえ。ただ、風の神殿はありませんし、もとより私が巫子になることはきっと許されません。そのことは、フェリア様が大きくなられればわかることです。」

「何故じゃ!なんでなれないのじゃ。」

「あちらの世界では、私のこの姿は……その内おわかりになりましょう。」
「わしは、わかりとうない!」
フェリアが目を潤ませ、鼻水をすすりながらパフェをがっつく。
実際いまだアトラーナでは、リリスは魔物扱いされて町に出ても買い出し一つまともに出来ない。
あの旅を無事に終えても、近くの人々からは賞賛の言葉など聞くこともなく何も変わらなかった。

「分からず屋ばかりじゃ、大人の事情など聞きとうもない。」
フェリアが鼻をすすり、綺麗に平らげたパフェの皿を舐めあげ、リリスの飲みかけの紅茶を横から一口飲んだ。

「リーリよ、もう帰ろう。」

「えっ、ちょっと待ってよ。今どこに住んでるの?あたし達旅行でこっちに来てるのよ。」
「良ければ教えてくれない?それほど遠くない所だから河原達にも伝えたいし。」

ここで別れたら二度と会えない。
それはちょっと避けたい気持ち。

「お世話になっておりますのは……10分ほど歩いた場所で、ヴァシュラム様がお住まいの所でございます。」
「えー、あのジジイ?そう言えば用務員やめて見なくなったわよねえ。こんな所にいたんだ。」

ヴァシュラムは、アトラーナでうやまわれる地のドラゴン。しかしこの世界ではアイ達の通う中学の用務員をしていたのだ。

「はい、お仕事が良い方向へ向かわれたことで学校はお辞めになられたのです。」
「ふうん、元気でやってるんだ。ねえ、家に行ったらダメ?」
「それは構いませんが、ヴァシュラム様がいらっしゃるかどうか……」
「いいの、いいの、爺さんいなくても。」
結局、リリスの家へそのまま一緒に行くことになり、4人は席を立ち、喫茶店を出るとヴァシュラムの家を目指して歩き出した。
リリスはずいぶんこちらの世界に慣れた様子で、金銭的にも困った様子はない。
聞くと、母に持たされた金銀などが高値で売れたようで、ひっそり暮らしていると話した。


静かな住宅地に入り、あまり通行人もいない道を進む。
新しい家が多いのは、最近開かれた様子の土地柄だろうか。所々に見える古い家は、元々建っていた物だろう、時代に取り残されたようにひっそりとしている。

「どうぞ、こちらでございます。」

リリスが少しさびた洋風の門を開くと、少女が先に入って家の玄関へと駆け出す。
「へえ、何か洒落た家ねえ。」
アイ達が見上げるヴァシュラムの家は、やや古いながらもしょうしゃな洋館風の一軒家だった。

「リーリよ、誰か来ておるぞ。」

玄関先でフェリアが立ち止まった。
「お仕事のお客様でしょうか。アイ様、ヨーコ様どうぞお入り下さい。今お茶を入れますので。」
二人を先に入れてドアを閉める。
脱いである靴を見ると男二人に女1人。
「ヴァッシュ!帰ったぞ!」
ポイポイと靴を脱ぎ捨て、フェリアはどたどた中へと駆け込んで行く。
「ああ、またはしたないことを……」
ため息混じりでリリスが靴をそろえ、自分のブーツのファスナーを降ろした。
「なかなか趣味いいね、じいさん。」
アイが横にある置物の女性像を撫でる。
「ここは借り物でございます。先にお世話になりました、学校の理事長様の物とお聞きしております。」
「えー、うちの学校の理事長の?じゃあ、最初から知り合いなんだ。」
だから、ツテで学校にいたのかと納得。
すると先に入っていったフェリアが、また血相変えて駆け戻ってきた。

「リーリ!大変じゃ!ヤバイのじゃ!」

「フェリア様、家の中で走ってはいけませんと何度も……」
「ええい!良いから来るのじゃ!」
フェリアにグイグイ引かれて入って行く。
すると居間に、先ほど追ってきた男女ともう一人、20代の美しい金髪に緑の瞳をした男が座っていた。

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