桜がちる夜に

HOME | 赤い髪のリリス 戦いの風10

更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

赤い髪のリリス 戦いの風 10

>>目次のページへ

28、

うっすらと微笑む寝顔のリリスに、ガーラントが複雑な顔でそっと髪を撫でた。
ベッドに留まっているヨーコが、小さく鳴いて彼の顔を覗き込む。

「ザレル殿か……」

自分の主人をそこまで信用しているのか。
ザレル殿がこの子を養子にしたいと言われた時は、魔導師とはいえ奴隷がずいぶん上手く取り入った物だと皆うわさしていたが……違う……本当に、素直なのだな。

皆、この子を知らないのだ。
ただ、身分だけが先にある。

アトラーナで、子供と言え貴族が家もない孤児の召使いを養子にするのは難しいことだ。
全く前例が無いわけでもないが、養子になった者はたとえ貴族の一員となっても肩身は狭い。
特に王都ルランは、貴族もプライドが飛び抜けて高い。

ふと、ガーラントが顔を上げた。

そうだ、孤児だと聞いたが、たとえこの容姿だとしても精霊であるセフィーリアがなぜ引き取ったのだ?
しかも、赤子からもっとも身分の低い下働きにするためにとはおかしいではないか。
そんな話聞いたことがない。
孤児ならまだ、養育園にいれば子のいない家に養子で引き取られる希望がある。
男の子ならなおさら、家の働き手として多少容姿に問題があっても、引き取り手は多いはずだ。
保護者もない孤児の召使いは奴隷と変わらない身分だ、主人に手打ちにされても文句も言えず墓もない。
牛馬のように働かされ、病気になってうち捨てられることもある。それ程厳しい状況にあるのだ。
ごく普通の家に引き取られても、それよりはましだっただろう。
腑に落ちないことが多い。

身分にしばったのは、誰だ?
まさか、本当に王のお子なのか?

ドアが音を立て、ゆっくりと開いた。
ハッとガーラントが顔を上げ、胸に手を当て膝を付く。
ドアから入ってきた美しい女は、白い髪に金の瞳を持つ風の精霊の女王、そしてリリスの師であり母代わりであるセフィーリアだった。

「お前がザレルの部下か?」
「はい、ガーラントと、申します。」

セフィーリアは怪訝な顔で彼を見下ろしながら、リリスの元へ行き優しく顔を撫でる。

「我が息子を無事届けてくれたことは礼を言おう。援軍も半数近く減り、さぞ平静を保つのは困難であったろう。」
「は、報告は……」
「よい。私は風の精霊、風のあるところ我が配下が存在する。それは私の目となり耳となる。知らぬ事はない。
リリスの器は大きい。これの戦いにはたいそう力を送ったが、相手が異質ゆえ太刀打ちできなんだ。我が力の及ばぬばかりに恐ろしい目に遭わせ、可哀想なことをした。」

知らぬ事はない。

その言葉に、ガーラントが緊張する。
前の晩に襲ったことは、知られているのだろうか。
彼女の金の瞳が、キラリと輝き冷たく見下ろした。

「何故この子を救った?」

問われてガーラントが目を伏せる。

何故……
何故だろうか……

あの、皆がパニックにおちいった状況で、自分は1人平静だった。
そうでなければ、自分もどうしたかわからない。




「魔女を見つけたぞ!」

気を失い横たわるリリスに、剣を振り上げる騎士の声が辺りにひびき、ヨーコ鳥の悲鳴が上がった。

「や、やめてー!!」

思わずヨーコが庇うように、リリスの胸に降り立つ。
狂気の顔で、騎士が満身の力を込めリリスの胸に剣を振り下ろす。
ヨーコが死を覚悟した刹那、突然どこからか剣が飛んできて横の木にドンと刺さった。

「ピーーッ!」

ガインッ!「うおっ?!」

振り下ろされた剣が、木に刺さった剣に弾かれ火花が散り、騎士が反動で後ろによろける。
彼は驚いた様子で、辺りを見回した。

「な!なに?!」
「待たれよ!その少年なくして無事に城へは行き着くまいぞ!」

ガーラントが駆け寄り、木に刺さる剣を抜いてリリスの前に立つ。

「邪魔をしたのは貴様か、ガーラント殿!
城は目の前だ、しかし半数がすでに無い。この有様に何を言う。
この惨状だからこそ、今殺せばセフィーリア殿にも言い訳も立とう。」

「この子がいなければ、今ごろ我らも生きてはいない。ギルバ殿、貴方もわかっているはずだ、我々騎士には何も抗う術がなかった。今我らがここにあるのは、この子の術が有ってこそ。」

バラバラと他の騎士も集まってくる。そして2人を次第に取り巻いた。

「こいつがいたからこそ凶事を呼んだのだ!ガーラント殿、貴様も見たであろう!あの化け物を!」
「凶事ではない、あれは敵の奇襲だ。髪や眼の色が違うだけで何を呼ぶと言うのか?
たわけたことを……冷静になられよ!」

「ぬう……」

一同が剣を手に、じりじりと寄ってくる。
ガーラントは剣を降ろしたまま、冷や汗を全身に感じながらすでに腹を決めていた。
「お主、昨夜はこの子を殺そうとしていたではないか?!わしは見たぞ。」

ギクリ、ガーラントの顔色が変わった。

「それは故あってのこと。
しかし、その修羅場で私はこの子の器を見た。
私は騎士だ、命には従わねばならぬ。だが、その命をたがえても行く先を見たいと思わせる、そんな人としての器の太さをこの子に感じ剣を引いたのだ。」

「馬鹿な、あのうわさを知っておろう。だからこそ殺せとお主も命を受けたのではないのか?身分違いがうわさに乗じてどんな野望を持っているか知れんのだぞ。だまされるな!」

「承知している。だが、この乱世の入り口にあるアトラーナには必要な魔導師でもあるのだ。わかってくれ。」

「魔導師など、こんな指輪も持たぬ者、代わりはいくらでも有るではないか!
まして魔導師とは名ばかりのたかが奴隷1人、消耗品でしかないのだぞ。何故ここまで庇い立てられる。」

「戦って生き残ることの出来る魔導師が、どれほどいると思う。
見たであろう、あの敵の魔導師は異質だ。
この子は良く戦った。もうすでにただの召使いなどではない、一人前の魔導師なのだ。
我らの命の恩人ではないか!」

一同が息を飲み、次第に騎士達が剣を降ろすとサヤにもどした。
ギルバは、皆の様子に戸惑い慌てて近くの騎士ににじり寄る。

「何故剣を降ろすのだ?!」
「見よ、この短剣を残し我が友も死んだ。だが、殺したのはその少年ではない。その子がいなければ、私もすでにここにはいないだろう。
私が真に剣を向ける相手は、その少年ではない。危うく違えるところだった。貴方も真を見定められるがよい。」

静かに語ると相手の騎士は背を向ける。
ぞろぞろと他の者も疲れたように馬や道を探し歩き始め、ギルバもガクリと剣を降ろした。
そしてその目がキッとリリスに向く。

「しかしその姿、アトラーナにはそぐわぬのだ!」

一息に剣を振り上げ迫るその鼻先に、ガーラントが切っ先を向ける。
その顔には厳しく堅持な意志が見て取れ、グッと詰まったギルバはとうとう剣を降ろした。

「お主の主は誰だ。主を思うならば、たとえうわさでも王位継承を乱すこの少年の命をなんとする。
俺が命を受けたなら、確実に命を取って見せようぞ。」

苦虫をかみつぶすようなその言葉を吐くこの騎士は、それだけ王に忠誠心が高いのだ。
ガーラントは一つ息を吐き剣を引いて納めると、リリスの血に染まった上着を緩め、身体を抱き上げた。

「私の主は王族以外無い。
うわさに揺らぐなど、それこそ王子に失礼であろう。王位継承者は他にない。
私は命を受ける以前に、ザレル騎士長からこの子をくれぐれもと頼まれている。
あの方が息子にしたいとまで語られる子だ。私もうかつであった。」

「命令は……王ではないのか……」
ガーラントは無言で歩き出す。

「ガーラント殿!」

「王や王妃には少しの揺らぎもない。うわさに揺らぐのは滑稽なことだ。だが、一部の身分の高い方にも揺らぎが見えるのは残念と言えよう。
まあ、とりあえずは人選を誤られたのが幸いしたか。あの方にすれば、貴方に頼んだが正解だったのだろうな。」

薄く笑い、ガーラントが近くにいた馬を捕まえ乗り込む。
ヨーコがその肩に留まり、耳元に話しかけた。

「助けてくれて、ありがとう」

29、

ガーラントが、リリスの枕元に留まる鳥のヨーコに目を移す。

何故……この子を救ったのか、それは……

たとえこの子が、ただの召使いだとしても……
……この鳥のように、この子に仕えたいと思ったのだ。

強く、心に決めた。


「私は、ザレル騎士長に頼まれておりましたので。それに……
この少年の行く先を見てみたいと思いました。」

「そうか。それも良かろう、これ以上は聞くまい。だが、再度お前がこの子に牙を剥くことあれば、私はお前の命を奪うやも知れぬ。
たとえ人間どもが認めようとせずともこの子は我が子、心せよ。」

「は」

なるほど、聞きしにまさる溺愛ぶりか……
塔の魔導師殿の方々が気になさるはずだ。

「ただ……今少し気になることが。」
「なにか?」

「肩にひどい傷を負われたと思いましたが?服も血に染まっておりました。」
確かに前夜切ったはずの腕も、赤いスジを残したのみで消えていた。

チュピッ!

ヨーコがドキッと飛び立ち、セフィーリアの肩に留まる。

「癒しの術が効いたのであろう。もともと得意ではないのだが、修行は積んでいる。」
ガーラントの眉がぴくりと動いた。
しかし怪訝な様子もなく、うなずいて立ち上がる。

「なるほど。しかし動かせば痛みがあるようでしたので、少々気になったものですから。
それと……このヒモをその鳥が大事そうにくわえて飛んでおりましたので、お渡ししておきます。」

それはメイスに貰ったブルーの、髪を束ねていたあのヒモだ。
焦げてボロボロで、以前は異様な力を感じていたのだが今は何も感じない、ただの粗末なヒモだった。

「わかった、渡しておこう。お主もしばし休むがよい。」
「は、ではまたのちほど。」
ガーラントが一礼して部屋を出る。
セフィーリアはホッと息を吐き、眠るリリスのひたいを撫でた。

「これが始まりとなるのか……また…………」

ヨーコが羽ばたき、ベッドに留まる。
「お師様は知っていたの?」

セフィーリアは無言でリリスを見つめている。
「ヨーコよ、時が来たらこの子には私から話そう。」

時が来たら?その時っていつ?

「ダメよ、ちゃんと話してあげて、お師様。チュチュッ」
自分の中に、違う意識が眠っている。
そんなこと、自分なら不安で仕方ないに決まってる。

「この子は、リリサレーンを恐れている。まだ早い。」
「じゃあ、どんな人だったのか教えてあげなきゃ。知らないって事がどんなに不安で恐いことか、お師様わかってあげて。」

「知らなかったからこそ……」これまでの艱難辛苦を乗り越えられた……

「知らなかったから、知ったときのショックが大きかったじゃない。
あたしはまた、リリスが崖から飛び降りるのなんて見たくない。」

セフィーリアが息を飲み、絶句した。

自分が王の長子であると知ったとき、自分の居場所を失ってとっさに崖から飛び降りてしまったリリスの、あの絶望感。

「そうであった、そうであったな……」

立ち上がり、そして考えるように部屋をあとにする。
その背には、重く、戸惑いと思い悩む姿が見える。

つらいね、つらいねお師様……

「う……ん……」
リリスがどんな夢を見ているのか、眉を寄せて辛そうに寝返りを打つ。
ヨーコは何も出来ない自分の姿に、せめてと窓辺へ飛び立ち木の枝に止まって涼やかな声で歌い出した。



ふと、夜の闇の中、目を覚ましたリリスが辺りに目をやる。
かすかに虫の音がひびき、窓の外には星が瞬いている。
月が明るく輝き、夜も深い頃だとわかった。

ここは……レナント?
無事にたどり着けたんだろうか……

ベッドには、ヨーコが留まって眠っているようだ。
身体は至る所が痛み、寝返りを打つのも一苦労する。
しかし、ひどいケガをしたと思っていた左肩は傷がないのか手当てをした様子もない。
ガーラントに切られたはずの腕も、何故かふさがっている。
ただ、触れるとやはり、ケガをしていたらしい所はピリピリとした痛みがそこから広がる。

腕が、ちぎれたかと思ったのに……
だれか魔導師の方が助けて下さったのだろうか……

そっとため息を吐き、目を閉じた。

きっと、沢山、沢山の人が死んでしまった。

自分の力はまったく歯が立たず、何の役にも立たなかった。
いったいどうやって生き延びたのか、きっと術に長けた魔導師が来てくれたのだろうと思う。
最初から、自分でなくその方がいてくれたら。
みんなそう思っていることだろう。
きっと役にも立たない、忌まわしい凶事を呼ぶ悪魔だと、またののしられる。
それも仕方ない。
本当のことだから。

恐かった…………
恐くて恐くて、恐ろしくて

思い出せば、口惜しさと恐怖とが入り交じってまた涙があふれてくる。
自分は今までどんな修行を積んできたのか、なんて甘ったれていたんだろう。
命をかけることがどんなことか、その覚悟がまったく足りなかった。
お師様にどれだけ恥をかかせてしまったのか。
もう母上なんて、とても呼ぶ資格がないように思える。

涙を流し、しゃくり上げ息を飲む。
ヨーコに気付かれぬよう、リリスはまた眠りにつくまでひっそりと泣いていた。

30、

翌朝、セフィーリアがメイドを連れてリリスの部屋を訪れると、リリスはすでに服を着替え身支度を調えていた。

服はボロボロだったからだろう、代わりの服が用意してあったので着てみたが、生地は柔らかい上等の絹が使ってあり、身分の高い人が着る物で自分には過ぎる物だ。
夜着でウロウロするわけにも行かず、使用人の服を探してくるまで借りることにした。

「あ、お師様おはようございます。
この服、お借りして良かったのでしょうか。
こんな上等の物に袖を通し申し訳ありません。すぐにお返ししますので。」

「何をしているのじゃ、まだ休んでいた方が良いのであろうに。さ、ベッドに戻るのじゃ。」

心配するセフィーリアが、驚いてリリスに手を伸ばした。
メイドはセフィーリアの指示で湯の入った手桶とタオルを置き、部屋を出て行く。
しかしリリスはくるりと身を返し、微笑んで彼女に一礼した。

「そうだ、挨拶がまだでした。
お師様、お久しゅうございます。お元気そうで何よりでございます。」

「良いから、そこへ座るがよい。まだ顔色が悪いではないか。さあ、母が身体を拭いてあげよう。」

「いいえ、とんでもない。リリスはもう大丈夫です。
それよりまだ皆様にご挨拶も出来ておりません。未熟者がこのように良い部屋にのんびり横になっていることなど、とても許される物では……」

「何を言う、母が良いと言うておるのだ。挨拶など、いつでも出来るではないか。」

「いえ、とにかく召使い頭の方にご挨拶を済ませませんと。使用人の服をお借りして、少しでもこちらでのお仕事を習わなければ、風のセフィーリア様の召使いはとんだ役立たずよとお師様に恥をかかせてしまいます。
ああ、そのあと許しを得られるなら魔導師の方にもお会いしなければなりません。
そうだ、不甲斐ない私を助けていただいたお礼も言わなくては……」

「礼?誰に礼を言うのじゃ。それにお前はもう、召使いに挨拶などせずとも良い。」

「そうは行きません。お師様はよろしくても、私はやることが沢山あるのですよ。
お師様、朝食は済まれたのですか?朝のお掃除はどうなっているのでしょうか。さあ、急がないと……」

部屋を出ようとするリリスの前に、ガーラントが立ちはだかった。
「これは……ガーラント様、おはようございます。」

「どこへ行くのだ。」
ムスッと大きな手を、リリスの肩に当て押し戻す。

「あっ、何をなさいます。」

驚き、抗うリリスの姿にヨーコが飛んできて、ガーラントの肩に留まった。
「チュチュッ、リリス話しを聞いて、それからよ。」


話し?


不安な面持ちのリリスを部屋に押し込むガーラントのあとを、メイドの女が朝食を載せたトレイを持って入ってきた。

「どうぞ、お食事をお持ちいたしました。こちらにご用意させていただきます。
他に御用がございましたら、何なりとお呼び下さい。」
小さなテーブルに食事を並べ、給仕をしてくれる女にリリスが驚いて師の顔を見る。

「私は……このような事をしていただくことなど……」
「よい。腹がすいたであろう?昨日は眠って何も食べておらぬからな。さあ、ゆっくりと腰をかけ食べよ。母が食べさせてやろうか?」

「お師様!そのような……」

メイドがニッコリと微笑み、一礼して部屋を出る。
困り果てた彼の背を優しく撫で、セフィーリアが椅子に座らせた。
「先ほどから何故母と呼んでくれぬのじゃ。寂しいのう。何を気にしておる。」


「だって……」自分には……


ガーラントが一つ息を吐き窓から外を見る。
さわやかな風が頰を撫で、食事を前にしてうつむくリリスに目を移した。

「リリス殿、食事が終わったのちに話しをしよう。しかしこれだけはお聞かせしておかねばなるまい。
リリス殿、皆はあなたに感謝している。
あなたが決死で戦ってくれたからこそ、我ら半数がここへたどり着けたのだ。あなたが同行してくれていたのは、本当に幸運であった。
風の魔導師リリス殿。」

リリスが顔を上げ、ガーラントを見る。
それは慰めなのだろうか。

「でも、半数の方が亡くなったのですね……」
「いいや、半数が生き残ったのだ。」

「もっと術に長けた方が最初からいらっしゃったなら、もっと早く打ち負かすことが出来たでしょうに……
私はなんて未熟な……」
とうとう耐えきれず、リリスの目からポロポロと涙が流れる。

しかしガーラントが眉をひそめ、彼を覗き込んだ。
「まさか、リリス殿はご自分で倒したことを覚えておらぬのか?」
「え??私が?」
「そうだ、あなたがあの2人を倒したのだ。それは……」


「そこまでじゃ」


セフィーリアが横から割って入った。
「それ以上は私から話す。とにかく食事を取るのじゃ。
ほら涙を拭いて、いつものように可愛くニッコリ笑うてみよ。しばらく会えなかったゆえ、母は寂しかったぞ。」

タオルを湯で濡らし、ギュッと絞ってリリスの顔をゴシゴシと拭いてやる。
するとその手をリリスが握りしめてきた。
今日は泣くまいと決めていたのに、母の優しさにどんどん涙があふれてくる。

「うう、母上様、母上様、リリスは口惜しかったのです。とても恐かったのです。ごめんなさい、ごめんなさい。」

人前では泣くまいと思っていたのに、15にもなって男らしくない。
みんな、みんな悲しいのに、やっぱり自分はなんて子供なんだろう。

もっとしっかりしなきゃ、もっともっとしっかり……

タオルを置いて、泣きながら食事を食べ始めた。腹はとっくにグーグー鳴っている。
セフィーリアは何故かとても嬉しそうに笑って、リリスの背をずっと撫でてくれる。
ガーラントはフッと笑い、部屋を出てドアの前に立ち、その場に目を閉じた。



>>赤い髪のリリス 戦いの風9へ戻る
>>赤い髪のリリス 戦いの風11へ進む