桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

赤い髪のリリス 戦いの風 24

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70、

両断されたと思った手紙は元の姿のまま床に落ち、短剣をしまったセレスが指で挟んで拾い上げる。

「さて、お読みになりますか?」

「そうだな。」

ニヤリと笑うガルシアがうなずき、呆然と見ていた傍らのレイトがあわててその手紙を受け取ってガルシアに差し出す。
「御館様……」
レイトの手が心配なのか少し震えている。
ガルシアは大丈夫だと手を握り、そして何事もなく受け取った。
手紙を広げ、ガルシアが無言で目を通す。

やがて手紙から視線をはずし、騎士に訪ねた。

「手紙の内容は聞いたかね?」

「はい、素性のわからぬ魔導師を何とか排除できぬかと、城のこれからを王女は危惧しておいでです。
私も、今の城の現状は良いものとは思えません。」

「なるほど、トラン王はひどく啓蒙しておいでだと手紙にはある。
どうも、今回の騒ぎは原因がはっきりしているようだな。」

「私も、こちらの現状に驚きました。
ますますあの魔導師に不信感がつのります。
ですが、王と王子は最近ご不幸が続きまして、お話を聞いていただける状態ではないのです。
まして、城内でのリューズ様のお力は大きくなるばかり、しかもあの方のことを調べようとする者は、何故か不幸に見舞われます。
トランであの方に意見する者はありません。
どうか、アトラーナのお力添えがいただければと……」

「わかった、こちらも検討はしてみよう。
だが、他国が内政に関わることは、下手をすれば戦になる。
その覚悟も王女はおありなのかね?」

びくっと騎士の手が震え、唇をかむ。
戦……の覚悟……
それは、助けを借りようとしているこの国にも言えることだ。

「そ……れは……」

セレスは腕を組み、壁にもたれる。
じっと、騎士の言葉を待った。




沈黙の重さは、判断の付かない事の重大さに比例する。
答えない騎士に、ガルシアがフフッと笑った。

「言葉で何と言おうと、誰しも平穏な毎日を望んでいる。戦いを望まぬ気持ちを信じよう。
それは貴方らを大した武装もなくよこした、トラン王の人選を見ればよく分かる。
王女の手助けができるかどうかは分からぬ、だが、現状のままで良しとするには、こちらはすでにあまりにも犠牲が大きいのだよ。
王女には落ち着いて行動されるようお伝え願おう。
貴重な情報、助かった。」

「王女に、返事はいただけませぬか?」

「そうだな、検討するとだけ書いて置こう。
手紙を魔導師にも知られた今、具体的なことを書くのは王女にも危険が及ぶ可能性がある。
貴方もそのことは頭に留め置いたが良かろう。」

「は、元よりこの手紙を預かりましたときから、死は覚悟しております。」

ギュッと唇をかむ騎士は、厳しい顔をして余裕もないのだろう。
それほどリューズという魔導師に対する恐怖は計り知れないのだ。

「命がけか、大儀な事よ。」

ガルシアが、腕を組んで目を閉じる。
そしてペンを取り、サラサラとペンを走らせて一枚書くと、横のレントに渡した。
レントはそれをたたみ、封筒に入れて蝋で封をする。
騎士はその手紙を受け取り、ホッとした様子で頭を下げ部屋をあとにした。

「まあ、想像通りではあるが、どうした物かな。」

騎士が去ったあと、ガルシアが大きくため息をついて目を閉じる。

「さて、どう考えても、その魔導師はこちらとあちらを戦わせたい様子。
いっそ戦いますか?」

クスッとセレスが笑う。
ガルシアはひょいと肩を上げ、ため息を漏らし椅子にもたれて首を回した。

「まったく、俺は剣が苦手なんだ。レントを担いで山にでも逃げるか。」

「ご冗談はここだけになさいませ。
私は遠慮いたします。」

レントが笑うに笑えず、複雑な顔でセレスに椅子を薦めてグラスを用意し、軽い果実酒を注いだ。
今日はひどく足が痛い。でも、それをひたすら隠しているつもりなのに、ガルシアには簡単に見破られてしまった。
確かに、自分は担がれでもしなければ山などはとても無理だろう。

不甲斐ない。

うつむくレイトに、ガルシアがまた肩を揉めと指で誘う。
レイトはホッと微笑み、彼の背後に回って肩を揉み始めた。

「はてさて、どうしたものか。
兵を連れて王宮魔導師をやめさせろと怒鳴り込むと、戦争になるかな。」

「なりますね。間違いなく。
トランは大国と接しているので、兵も魔導師もかなりの戦力ですよ。
アトラーナの平和ボケの兵や、精霊と共にのんびり魔導の勉強している魔導師とは全然違います。」

「ひどい言われようだ。
まあ、精霊の国と言われるこの国はドラゴンの加護があったからな。
皆どこか、最後はドラゴンがと心の中で思っている節がある。
今まで攻め込まれたことがないのも、運が良かったんだろうな。」

「この国は聖域ですから、ヴァシュラム様もお怒りになるとどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。その辺、どなたもおわかりです。だからこそ、そのリューズという魔導師の真意も分かりません。
もしかしたら……
リューズという魔導師、魔導師ではないかもしれません。」

「魔物かね?」

「さあ、会えば分かるんですが。」

ガルシアが、大きくため息をついた。
相手が魔物だろうが何だろうが、こちらに災いしていることははっきりしている。
しかも、それが王の意志ではなく、魔導師が一人でやっているらしいことが自体をややこしくしているのだ。

「こういう時……彼なら、どう答えるかね?」

「彼?」

首を傾げ、セレスが天を仰ぐ。

「まさか、またリリに答えを聞く気ですか?」

少々呆れながらも、リリスの資質に気がついたガルシアに目をやった。

「フフ……本城があの子をいらんというなら、俺が養子に貰おうかな。
あれは磨けばもっと光る、そこらの魔導師で終わるには惜しい。」

「おやおや……でも、それもいいかもしれませんね。」

セレスが果実酒を一口飲んで息をつく。
神殿に来るときのリリスは、ルランにいるときのリリスとはまったく違うと、昔セフィーリアは残念そうに話していた。
いかにルランというところが緊張を強いられるか、生まれついてとは言え、監視付きの下働きは想像以上に辛かっただろう。

王子であると認めないなら、また別の王族に引き取られるのもいいかもしれない。
このガルシアなら、ルランの意向などまったく無視して思うように実行するだろう。

本城の奴らは歯がみして嫌がらせするかもしれないけどな……

想像すると面白い。
でも、その前にセフィーリアという大きな壁が立ちはだかっているな。

セフィーリアがリリスにしがみついて離さない様子を思い浮かべ、セレスはクスッと笑った。

71、

夜は更け、しんと静まる中を兵が交代する。
一寝入りしてきたのか、寝起きのあくびをして窓から星の瞬く空をのぞき込んだ。
まだまだ夜明けは先だ。
気を引き締め、隣国の人々が休むフロアーの廊下で、警護する仲間同士無言で手を挙げた。


剣を枕元において、疲れからかぐっすりとエルガルドが眠った頃、壁のろうそくが消えて黒い煙が上がり、それは次第に部屋を満たして行った。
やがてエルガルドの頭上にポッと青い炎が輝き、炎が大きくなってゆく。
室内が青い炎で照らされる中、炎の中に白い顔が現れた。
その顔は部屋を見回し、ほくそ笑んでずるりと半身を乗り出してくる。
そして片手を頭上で振り、炎を手の中に納めた。
闇に覆われたその少年は、不釣り合いな白い衣に包まれ踊るように一つ回り、大きなため息をつく。

「ふう、まったく厄介な事よ。巫子の結界が強いせいで自ら出る羽目となってしまった。」

面倒くさいとでも言った様子で、その少年、メイスが首筋から頬へ這ってきたトカゲの入れ墨を撫でる。

「ああ、そうだね。これも愛しいリューズ様のため。
今宵は静かすぎる。
さて………始めようか。
その前に……お前は先に永遠の眠りにつくがいい。」


ニヤリと、不気味にメイスが微笑む。
眠るエルガルドに手を伸ばすと、その手から閃光がひらめいた。

バシッ!!

「何ッ?ツッ!」

閃光はエルガルドの寸前で跳ね返され、メイスの指を一本傷つける。
「また結界の罠か!忌々しい!」
身をひいた瞬間天井板が一つ外れ、ルビーが飛び降りてきた。

「お前は!」

メイスが力をふるう間も与えず、ルビーが踏み込みメイスの胸を掌打する。

「がはっ!」

メイスの身体が後方へ吹っ飛び、間髪を入れずルビーは腰から聖水を入れた小袋を一つ引きちぎり、メイスの身体に投げつけると銀の小刀を抜き彼の胸を刺した。

「ひっ!」


「縛せよ!」


小刀に向け、右手の指2本で指差す。
すると小刀から光りのツタが無数に伸びて、メイスの身体を縛り上げた。


「な、なにが……」
エルガルドがベッドから飛び起きて、部屋の隅で剣を握りしめている。

「おけがは?」

ルビーが聞くと横に首を振り、慌てて外へとドアに手をかけた。
だが、闇のようなもやも晴れずドアはビクとも開かない。

「くく……ククク……」

縛られ倒れたまま、メイスが不気味に笑い声を上げる。
ルビーは唇をかみ、とっさに心で兄を呼ぶ。
セレスも恐らく自分が動いたことは気がついたはず。
なんとか時間を稼ぎ、エルガルドを逃がすことを考える。
しかしそれを見透かすように、メイスがルビーを見てほくそ笑んだ。

「お前はミスリルの血族だな。小ざかしい、半精霊がヴァシュラムの飼い犬!」

「だまれ、魔物に魂を売った下賤が!」

半精霊と言われ、ルビーがカッとしてメイスの頬を一つ殴る。
その瞬間、メイスの左頬にトカゲの入れ墨が這ってくると、ルビーに向けて口から炎を吐き出した。

「はっ!」

思わず身体を引いたが、右足が引かれる。
動かない足を見ると、青いヘビが絡みついていた。

「しまった。」

「汚らわしい手で、我に触れた報いを受けよ!」

ルビーが舌打ち、腰から一本の小さな剣をヘビの頭に投げる。
同時にメイスの身体が青い閃光を放つ。
ルビーの目が見開かれ、その閃光は次の瞬間炎となって爆発的にメイスの身体から吹き出した。




廊下には、エルガルドの部屋の異変に気がつき、兵が武器を持って集まってくる。
だが、ドアがビクとも開かない。

「どけ!」

セレスが駆けつけ、廊下を走りながら腰の剣を抜いて刃に呪をかける。
そして着くなりドアへ剣を突き立てた。
剣が閃光を放ちドアを千々に破壊する。
壊れた扉から青い光があふれ、部屋から音を立てて青い炎が吹き出した。

「うわあっ!」
「ひいっ!」

「ルビー!」

セレスが部屋に飛び込む。
窓が吹き飛び白装束のメイスがバルコニーに立ち、クスクスと笑っている。

ルビーはエルガルドを背に、破魔の剣を盾にしたまま目を見開き微動だにしない。
エルガルドは壁にもたれたまま、ズルズルと足下にうずくまる。
しかしルビーは、あまりの惨状に死んでいるようにも見えた。

「ルビー!」

セレスが駆け寄ると、ルビーの手の破魔の剣が崩れて落ちる。
手を触れようとして、目を見開いたまま気を失った様子に思わず引いた。
黒髪が焦げ、紺のツナギの服は至る所が引き裂かれボロボロに焼けている。

「レニン……」

ルビーの本当の名を、セレスがつぶやく。

「セレス様、一体何が……」

兵がセレスの後ろに押し寄せ、そしてゾッと総毛立ち思わず引いた。

セレスの身体が、怒りで震えている。
その顔は、見えないが見えないことが救いに思えた。
巫子にあるまじき禍々しいその気配。

セレスの手が、無言でゆらりとメイスに向け上がる。

気がつくとメイスは、顔を引きつらせ恐怖で身体が石の様に動かない自分に気がついた。

「こ……レが……巫子だと?馬鹿げてる……」

凍り付く身体が、逃げることを忘れる。

パシッ!パシッ!

セレスの手首にあるリングが、スパークを上げセレスを牽制する。

「セレス様!」

部屋に飛び込んできたサファイアが、とっさに声を上げルビーの生死を確かめた。

「生きております!ルビーは無事です、セレス様!」

だが、怒りに震えるセレスは、手を下ろすことをやめない。
やがて二人の間の空間が大きくひずみ、メイスは死を覚悟した。


「兄様!!」
「セレス様……ルビー様!!」
遅れてイネスとリリスが部屋に飛び込み、イネスが思わずセレスの背中に抱きついた。

「おやめ下さい兄様!ここには沢山人がいます!どうか静まり下さい!」

セレスを止めるイネスの横で、ルビーに駆け寄るリリスの姿に、メイスが目を見開く。

「生きて……生きて我が前に……リリス!
髪を金に?!そこまでして身分を上げたいか!」

メイスが宙に浮きバルコニーを出ると、人差し指で横に空を切る。
闇が指に沿って空間に裂け目を作り、そこから顔の無い魔導師が二人現れた。

「あれは!!……メイス!!なぜ君が……!」

リリスが叫びを上げ、顔の無い魔導師の恐怖に思わず身をひいた。

「殺せ!破壊せよ!リリスを殺せ!」

メイスが顔の無い魔導師に命令する。
一人の顔の無い魔導師が彼の前に出ると、杖を振り上げた。

72、

『破砕セヨ!』

その歪んだ声に、立ち尽くす人々の中リリスはとっさに目を閉じ身を伏せる。
あの戦いの時の恐怖が沸き上がり、死んで行く人々の悲鳴が耳に浮かんだ。

しかし、杖を振り下ろしかけた魔導師の動きが止まる。

「なにをして……」

メイスがヒッと息をのむ。
目前で顔の無い魔導師の身体が、砂のように微塵に散って行く。
それはサラサラと、まるで分子レベルで破壊されたように跡形もなく。
そしてその先には、石でできたバルコニーの一部が消え去り、室内にはセレスがゆっくりとメイスの方に手の平をむける。

それは、まるでセレスの作り出す何かに、それこそ一瞬で粉砕されたような。
思わぬ攻撃に、メイスの身体が凍り付いた。

「ひいっ!ば……馬鹿な!」

メイスが思わずセレスのいる部屋に火を放つ。
しかし火炎までもが砂のようになって消し飛び、瞳を輝かせ不気味に笑うセレスの顔がこちらを捕らえていた。

「兄様、もうおやめ下さい!城を壊す気ですか!」

「イネス様、危のうございます!伏せて!」

危険を感じて、サファイアがイネスをセレスから引きはがし伏せる。



だめだ!死ぬ!
リューズ様!



メイスが息をのみ、目を見開く。
リューズの名を呼びながら、しかしなぜか頭にはラインの優しい微笑みと、リリスと楽しく話をしたあの時の情景が浮かんだ。



なぜ……!



『めいす殿!』

呆然とするメイスに、もう一人の顔の無い魔導師が、とっさにメイスをかばって前に出る。

『一旦オ逃ゲ下サ……』

「ああっ!」

言葉を残し、その魔導師も散って消えた。
頭の中に、リューズのメッセージが閃く。



『  ……メイス、引いて良い……  』



「リューズ様……
くっ!この失態、次こそ倍に返してやるぞ!」

メイスは指を立ててその指の先に炎を灯すと、一息に横にないで身の回りに大きな炎を生み出した。
そしてこちらを見るリリスとセレスに唇をかみ、屈辱のうちに炎の中に消えてゆく。

「メイス!待って!」

バルコニーに走り出たリリスが、手を伸ばす先に青い炎がその手を舐めて消える。

「ルビー、ルビー、しっかりしろ!」

振り向くと、サファイアが崩れるルビーを抱きそっと揺らす。
セレスはバルコニーを向いたままゆっくりとうつむき目を閉じて、心を落ち着け穏やかないつもの表情でくるりとルビーの方へ歩み寄った。

「ルビー」

ルビーがゆっくりと目を開き、セレスに視線を向ける。

「……申し訳……」

「よい、急ぎ傷を治せ。お前無くては私は何をするか知れぬぞ。
部屋で待っていろ、すぐに行く。
カナンに傷の手当てを。」

「は……
サファイア殿、……立てます。うっ、……つうっ……」

ルビーは腕を押さえ、よろめきながら誰の手も借りず部屋を下がって行く。
サファイアはルビーの背にチラリと視線を送りながらも、彼に手を貸そうとしない。
イネスが地団駄踏んで、サファイアを怒鳴った。

「何をしている!弟に手を貸さぬか!」

「いえ、私はイネス様をお守りする仕事がございますので。
ルビーも守(もり)としての仕事を貫いております。あれに手を貸しイネス様を離れる事は、今は賢明ではありません。」

「石頭め、だからお前たちは冷血だと言われるんだ!」

「はい、主のために命を落とすのは本望でございます。」

「なんて融通の利かない奴らだ。」
イネスがプイとサファイアから顔を背け、右手を押さえバルコニーに立ち尽くすリリスに歩み寄る。

「リリ、どうした?やけどしたのか?」

イネスがリリスをのぞき込み、その手を包む。
そしてハッとして彼の腕を強くにぎった。

「あいつか、友達って。
あいつ魔物の一人じゃないか!やっぱり騙されたんだよ、お前は!」

「……違……きっとワケが……」

「ワケなんかあるもんか、あの青い紐だってあいつが贈った物だったんだろう?
友達なんて……友達なんて……ウソだったんだ。」

リリスが、ギュッと唇をかんで顔を上げる。
イネスはドキッとして、握りしめていた手を思わず離した。

「違う、違う、違う!」

リリスはいっぱい目に涙を溜めて、ブンブン首を振る。

「違います!きっとワケがあるんです!
だって、友達になって下さいと……」

「口では何とでも言えるじゃないか!」

やめて!「ピピッ!!チュッ、チュ!」
ヨーコ鳥が、イネスの頭をつつく。

リリスは本当にメイスを信じていたのだ。
彼から貰ったリボンが、たとえ呪いがかかっている物だとわかっていても。

「リリス殿!」

遅れて駆けつけたガーラントが、二人の間に割ってはいった。
気がつくと、後ろでは兵が魔物と友人だというリリスに怪訝な視線を送っている。

「それはここで話すことではない。
イネス様も一旦部屋へお帰り下さい。」

後を任せ、ガーラントがリリスを連れて部屋を出て行く。
イネスも気になって後を追う。
まだ、夜も深く朝は遠い。
エルガルドは無事に、別室に移され側近と共に休むことになった。

「また襲ってくるやも知れぬ。警備を増やせ!必要とあれば部屋に乗り込んでも構わぬ!」

「はっ!」

「気を引き締めよ!巫子殿に甘えてはならぬ!」

兵に檄が飛ぶ。
その声を聞きながら廊下を進むリリスたちの前に、魔導師ルネイが現れた。

「先ほどの……お前の友人と言うたな。」

厳しい顔のルネイに、リリスが涙を拭いて小さくうなずいた。

「共に御館様へ報告に来るがいい。重要なことだ。」

「は……はい……」
うつむくリリスが唇をかむ。
また、不信を買ってしまうかも知れないと不安感も大きい。

でも、メイスは友達だ。
同じ身分で同じ境遇の、互いをわかり合えると初めて感じた友達なんだ。

彼の味方でいたい。でも……
どうしたらいいのか苦しい胸を押さえるように、胸元をギュッと掴む。
しかしこの事態でもそのメイスをかばいたい気持ちが、ルネイの言葉に大きく揺らいだ。

「本城の……魔導師の塔が崩れ落ちたそうだよ。」

「えっ!!」

「魔導師二人が殺されたとか。
下働きの子供が潜んでいた魔物だったそうだ。
名はメイスとか、知っていような。」

「は……い……存じております。
先ほどの……と……も…だちで……ございました。
でも、でも!彼からは何も感じなかったのでござ……」

ルネイがリリスの言葉を手で遮った。
無言でうなずき、前を歩き始める。
ガーラントが小さく首を振り、厳しい顔でため息をつく。
「本城も……か……」
こうなれば、崩れたのが城本体でなかったのが幸いというしかなかろう。

「行こうリリ、ちゃんと話をしなきゃ。」
「はい」
リリスはイネスに促されて、ゆっくりと後を追う。
暗い瞳をあげ、星の瞬く空にぼんやりとメイスの微笑みを思い浮かべた。

「私は………僕は………メイス………」


自分の道の答えは、わからない。


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