桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

赤い髪のリリス 戦いの風 27

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79、

「なにか!何が起きた?!」

「御館様!結界が破られました!
中庭に魔物が、奥の棟にお逃げ下さい!」

廊下で兵が、慌てふためいた様子で走り回る。
ガルシアたちが中庭の見える窓に駆け寄った。
ここは2階だが、青い炎がごうごうと立ち上っているのが見える。

「なんと!巫子殿の結界も駄目か?」
「そのようで。」

兵があとからも、転げるように報告に走ってきた。
焦る顔は、悪い知らせだと告げる。

「城下にも数軒家が破壊されたと報告が!
先ほど煙が見えましたので、確認に行かせております!」

「水では消えんかもしれぬな。城下にルネイを向かわせよ!大火にしてはならぬ!」

「はっ!」

とうとう、被害は城だけでは済まなくなってきたのか。
元より城だけで済んでいたのは、敵の考えも有ってのことであったのだろう。
窓から下を見ると、大きな炎の翼を持つ少年が四つん這いで青い火を吐いている。
少年の回りは土がえぐれ、何か大きな力が働いたのか美しい中庭の庭園は破壊され、樹木が四方に倒れ青い炎になめられた場所は黒こげになっていた。

「あれか!あっ、馬鹿者!下がれ!」

聞こえるわけもなく、中庭では真っ正面から兵が数人向かってゆく。
四つ足の少年はゆっくりそちらを向き、衝撃波をともなった炎を吐き出し、兵はあっという間に吹き飛ばされ視界から消えた。

「クリス!正面の兵を下がらせろ!城は壊れても構わん、盾になる必要はない!
後ろに回り込むように伝えよ!」

「リリス、参ります!ガーラント様はガルシア様を!」

「あっ、待てリリス!」

リリスの声が響き、隣の窓から赤い髪の少年が飛び降りてゆく。
ガーラントが思わず窓から手を伸ばし、身を乗り出した。

「待て!俺はお前の守りだ!」

リリスが呪を唱え手を伸ばすと、風が集まり魔物を地面に押さえつけた。
ガルシアが頬を打ち、思わず呆れた様子で首を振る。

「なんて奴だ。
あいつは危ないとか、怖いとか教わってないのか?」

「御館様!ここは危のうございます!お守りしますのであちらへ。」
ばらばらと、背後には兵が集まってくる。
ガーラントも迷いながらガルシアの元に歩もうとした時、大柄の騎士ケルトが目の前にグッと拳を出した。

「お前はお前の守りたい者の元へゆけ!御館様は我らがお守りする!」

ガーラントが、ハッと顔を上げるとガルシアが大きくうなずく。
ガーラントはその場に膝をつき、そして一目散に部屋を飛び出していった。



風をまとい、宙を舞うリリスが呪を唱え大きく両手を魔物に向ける。
魔物は少年の姿でありながら、見えない重量があるかのように、風に押されて地響きを立て地面に押さえつけられた。
魔物を押さえつけている間に、兵達が背後に回って矢を放つ。
しかし、矢は届くことなく寸前で青い炎に包まれ燃え尽きてゆく。

「グウッ」

少年は苦しげな声を上げ首をひねってリリスを見上げると、背中の炎の羽を大きく持ち上げリリスを払いのけた。

「あっ!……つっ!」

青い炎は冷たく熱い。
それは触れただけで骨まで焦がしそうだ。
風の精霊達がリリスをかばい、彼を正面の兵達の所まで一旦引かせた。

「ああ……メイス……」

魔物の少年は、やはりメイス。
四つ足で這い回る様はまるでトカゲのようだ。
しかしその顔はうつろな目をつり上げ、激しく息を吐く口からはよだれを流しながら舌を出し、時々青い炎がこぼれ出す。

「リリ!ケガはないか?!」

「あいつは昨夜の?!いや、様子が違うぞ。」

駆け寄ってきたイネス達に、背後から兵が声をかける。
「巫子様!先ほど吹き飛ばされた兵が……」

振り向くと、兵が3人身体を半分焦がしながらうつろな顔で、ゆらりゆらりと身体を揺らして剣を振り回している。

「馬鹿な、息に触れただけで汚れるとは。
こちらの兵は下がれ!これ以上被害が出ると足手まといだ!
リリ、俺が魔物を押さえる、お前はこいつらを押さえよ。」

メイスの背後で、弓を持つ兵が数人建物の影から次次と弓を射る。
しかし相手はそれを虫でも払うように青い炎の羽根を大きく羽ばたかせ、軽々と矢を払う。
それでも兵達はなんとかメイスを狭い中庭から開けた場所へおびき出そうと、繰り返し矢を放つ。
矢の攻撃がことごとく無効になる中、城の魔導師が呪をかけた1本の矢がメイスの足に刺さった。
思わぬ攻撃にメイスの身体がびくりと跳ね上がり、大きな叫びを上げる。

「やったぞ!」

「ギャッ!ギギ……」

メイスが矢を口にくわえて抜き、苦しそうな声を上げ振り向くと羽ばたく。

「引けっ!」

矢を持つ兵が慌てて下がり、メイスは飛び立つとそれを追い始めた。

「サファイアゆくぞ!魔物を封じ被害を早く食い止めるのだ。
リリ、こちらは任せ、お前は兵を押さえよ!」

「イネス様!」

リリスが追いかけようとして足を止め、背後の3人に目をやる。
どう見ても、汚れの大元であるメイスを巫女に任せた方がいいのはわかっている。
恐らくは、ただの魔導師である自分にはどうしようもないだろう。
でもメイスを自分の手で助けたい。

だが…………

クッと唇をかみ、リリスが3人へ向かう。

「リリス殿!こいつらの動きを止めよう、我らも手伝う!」

心にまとまりが無く戸惑っていたリリスに、騎士のブルースが仲間と共に現れ声を上げた。
ハッとしてそちらに気を引かれた瞬間、横からフラフラと歩み寄っていた他の兵士が一人、リリスに剣を上げた。
もう一人、呪いを受けてしまったのだ。

「あっ!危ない!」
「あ…………」

リリスが腰の剣を忘れ、呪を唱えようと指を組む。
だが遅い。

ギインッ!

とっさに呪文を唱えるより早く、横から男がリリスの前でその剣を受けた。

「馬鹿ものっ!集中せよ!」

ガーラントが兵と剣を交わし、隙を見て思い切り蹴り飛ばす。

「ガーラント様、ガルシア様は……」

「俺はお前の守だと言ったはず。子供は黙って守られよ!」

「そうだ!魔導師殿、この4人は我らの仲間。
我らに任せ、貴方らは友に向かえ!」

ブルースが、兵を率いて己を失っている4人を取り押さえる為に立ち向かう。

「お前はお前の決した道を行くのだ。
皆が力になる。」

ガーラントがリリスの背を押す。
「はい!」リリスは大きくうなずき、そしてブルース達に手を挙げた。

「風よ、呪われし者の動きを制約せよ!
彼らを救いし者らに加護を!」

風が吹いて精霊達が兵の手助けに向かう。

「お願いします!」

リリスはくるりときびすを返し、ガーラントと共にメイスのもとへ走り出した。

80、

メイスが兵にさそわれ、中庭を出て広い庭園へと出て行く。
その動きは、華奢な少年とは思えないほどにゆっくりとして、まるで巨大な質量の物に覆われて身動きが取りにくいようにも見えた。

「こっちだ!化け物!」

3人の兵達は、矢を射ながら庭の端まで走り、眼下に広がる森が見えてくると左右に散った。

「ギギ、コシャクナ。ハア、ハア、ウウ……
ギアアアアアッ!コノ腐ッタ巫子風情ガ!」

メイスはようやく気がついたのか、歯を剥いて振り返る。
よだれのように青い火を口からこぼし、奇妙な声を上げ立ちはだかるイネスに威嚇する。

「良くやった、兵は下がれ!サファイアっ、結界を作る!」

「はっ」

サファイアが腰から小刀を取りだし、両の手の指の間に8本構え、魔物へ向かって駆け一気に飛び上がった。
炎の翼が払うように動く。
それを難なく空中で避け、サファイアが小刀をメイスを囲むように八方へに放った。

「カッ!」 ゴウッ

メイスがそれを目で追い、口から障気をともなった火を吐く。
サファイアが呪を唱え拳を振り下ろすと、ドスンと地響きを上げてメイスが横倒しになった。

サファイアが気を引く間に、イネスが剣を抜く。

「地を統べる精霊の名において、この地を閉じよ!」

ビュンとうなりを上げて一つ振り、剣を地に刺す。
剣が光を放ち、サファイアが放った剣に向けて次々と光が走った。

「グロス!この剣を守れ!」

遅れて息を切らし駆けつけた魔導師グロスに、イネスが命令する。

「承知いたしました!」

グロスも地の魔導師、この剣が結界の要である事を知っている。
だが、この城の二重の結界を簡単に破ったこの魔物に効くかは分からない。

「本当に、魔物なのか?ようわからぬ……
だが、考えるのは後じゃ。
地を統べるヴァシュラムドーンの名において、大地の精よ盾となれ!」

剣を守る為にグロスが呪を唱え、杖で自分の周りをぐるりと撫でた。
土が盛り上がり、それが人の形を成して兵となる。
そしてグロスと要の剣を守るため、周りを取り巻いた。
メイスが、腹立たしい様子でグロスに向けて火を吐く。
しかし、土の兵が変化して盾となり跳ね返す。

「ウウ……」

メイスはなぜか苦しい様子で、手が猛禽類の足のように変化し、グッと地に爪を立てる。
するとメイスの周りの草木が一斉に枯れ、吐き出される火が燃え移った。
そしてまるで人間を寄せ付けないように、メイスの周りがぼうぼうと燃える。

「弓以外は下がれ!」

「弓は効かぬ!皆下がれ!」

サファイアが気をぶつけ、隙を見て破魔の短剣を投げた。
イネスは剣を抜き、刃に呪をかけてメイスに向かってゆく。

「イネス様!風の翼よ剣となれ!ガルド!」
「リリ!」

あとから来たリリスも、風を次々とぶつけてゆく。
が、まったく堪えていない。
このままでは、周りの被害が広がるばかりだ。

「イネス様、メイスと私が話をしてみます!何とか、この力を……」
「ならぬ!あれは昨夜とは違う!お前にもわかっているだろう、あれは何かに取り込まれている魔物だ!」

「でも!」

言い合う二人に、メイスが奇妙な声を上げて笑った。

「グググ……カカカカカ!ナント愚カナ巫子ヨ。
不様ナ姿ヲ晒スガイイ、地ノ巫子ノ権威ナド地二落チタワ!
ガガガ……コノ身体、ナントココチヨイ。
ココヲ滅ボシ、りゅーず様ヘノ手土産トイタソウ。」

メイスはニイッと笑い、身体をグッと持ち上げると、方翼をボウッと燃え上がらせた。
すると炎の翼から、無数の青い火が飛び立ち、その火の玉が結界の中を満たしてゆく。
そして、その火は難なく結界を打ち破り、レナントの空に飛び立って青い火をまき散らした。

「結界が!役を果たさぬとはどう言うことだ!」
「水だ!水をかけろ!」

城の庭木から周りの森の至る所で、青い火に晒され火の手が上がる。
火は空へ無数に散らばって町に向かい、くるりと森を旋回して飛んで行った。

「クカカカ!燃エロ!コノ地ハ我ラガ主ニ献上スル」

「矢を射れ!早く!火を落とせ!」
言われて次々と兵が矢を射るが届かない。

「私が参ります!風よ集え!フィード・ラス・ファラス!
風よ、親しき水の精霊と供に、大地を燃やす炎を沈めよ!」

リリスの言葉に風が彼を舞上げ、泉や池から水を巻き上げて火を収めながら、一息に町へ向かう。
火は精霊の力も相まって、彼が指さす所は次々と消火されてゆく。
だが、それは一人では到底追いつかないほどに広がっていった。

「このままでは被害が広がる!巫子殿!」

「ちょっとあんた、もったいぶってないで何か力出しなさいよ!チュンッ!」
リリスから離れて様子を見ていたヨーコ鳥が、何も進展しない様子にイライラしてイネスに突っ込んだ。

「くっ、うるさい、俺の力はまだ……」

どうして兄巫子がここに来ないのか、イネスがぎゅっと唇をかむ。
周りの兵達の視線を感じ、イネスは一つ大きく息を吸って意を決した様子で、剣を鞘に戻し両の手を地に向けた。
結界の中、向かってくるメイスをサファイアが兵達と共に牽制する。
イネスは両手に意識を集中させると、声を上げ手を合わせた。


「地の力充ち満ちて、とおとき御魂ここにあり。我が身、我が血その力を宿し者なり。
ここに、力あれ!
出でよ!我が刃(やいば)!」

ごおと、かすかに地がうなりを上げイネスに答えた。
息を整え、心を集中する。

「我が、手に!」

イネスが合わせた手を横に広げる。
その手の間に地面から土や石がふわりと浮いて瞬く間に剣の形を成し、イネスが柄を握るとそれは巨大な黒く輝く一降りの剣となった。

「イネス様!どうかメイスの命だけは!」

リリスが宙でイネスに叫ぶ。
イネスは無言で剣を下げ、地に付けた。

「ギギ、剣ナド、無意味」

メイスが羽根を羽ばたかせ、イネスに向かって飛び上がった。
イネスは動じることもなく、黒い剣を真っ直ぐに上げる。
キリキリと、音を上げるようにイネスの心が集中する。
黒い剣は重く、身体中から力を吸い取って妖しく輝く。
ギュッと唇を血が出るほどかみしめ、迫ったメイスの爪を受け流し、上段から剣を振り下ろした。

「ガッ!!ナ、ナニッ!」

剣が触れる事無く、突然メイスの身体が縦に裂ける。

「ギャアッ」

メイスの裂けた背中から、一斉に数百の美しい瑠璃色の羽根を持つ青い鳥が羽ばたいた。

81、

バササッ!!バタバタバタ!バババッ!!


「わあっ!」
「あれは!鳥?!」
「鳥か?!一体……見たこともない!」
「なんて数!」

鳥たちは結界から出る事ができず、要の剣を目指してグロスに向かう。
「うお!」
あまりの数にグロスがすくみながら、呪を唱え杖を向けた。
土で出来た兵が一つになり、壁を作る。


キアアア!!キイアアアア!!!


鳥が一斉に切り裂くような声を上げ、土の壁をもろくも打ち砕いた。

「なんと!うおおお!」

あまりの鳥の数にグロスが頭を守り、思わず地に伏せる。
鳥は次々と剣に体当たりをかけ、剣を打ち倒して結界をとくと一斉に空へ飛び立った。

「リリス!」

ガーラントの叫びは、遠く離れて空で術に集中する彼には届かない。
鳥たちはその半数がリリスの追う火球へと向かい、そして気配に振り向くリリスの姿を最後に、鳥の軍勢が彼を飲み込んだ。

「リリ!」

イネスが重い剣を握りしめ、リリスを救おうとそちらへ身を向けた。
「くっ!」
渾身の力で、剣を振り上げる。

「ならぬ!」

兄巫子の声が響き、黒い剣が一瞬で霧散する。

「うわっ!」
イネスは急に身体が軽くなり、反動で前へとつんのめると、芝生の中へ顔から突っ込んで倒れた。

「兄様!なぜ!」

「見よ!空を!力の源の炎を抜き出されていた聖なる鳥キュアが炎を得て姿を取り戻すのだ!」

身を起こして振り向くと、咲き乱れる花壇の中、兄巫子が空に広がる火の玉を追う鳥たちの軍勢を指さす。
それは火を捕らえると、次々と火を飲み込み身体が青い火に包まれてゆく。
そして青く燃える火の鳥は、その姿が重なっては一つになり、数を減らしてやがて1羽の巨大な鳥となった。

鳥たちの中から姿を現したリリスは赤く燃えるように輝いて、巨大な火の鳥を操り背に乗って燃える町へ向かってゆく。

「一体……あれはなんだ?」

呆然とそれを見送り、煙の上がる城下の方向を見ると次第に煙が減ってゆくのが見える。
それはあまりに劇的で、その場に行くまでもなくリリスが空から難なく火を消している様が頭に浮かんだ。

しかし呆然と空を見つめる人々の中で、数人の兵が我を取り戻しメイスに剣を向ける。
その動きに誘われ、他の兵達も次々と声を上げ倒れて動かないメイスに迫った。

「こいつだ!昨日も来た奴だぞ。」
「殺せ!またどんな力で襲ってくるかしれん!」

兵達が倒れたメイスの元に駆け寄り、剣を抜いて一斉に振りかざす。
恐怖と怨恨とが入り交じり、まだ少年の彼を殺すには十分すぎる刃が迫った。

「やめよ!」

セレスの声が辺りに響き、それが全身を突き抜け皆の動きが止まった。
まるで金縛りのように、動けない彼らに他の兵も足を止める。
セレスはそれに目もくれず、倒れているメイスの元に足を進め腰を落とした。

「兄様、危のうございます。」

心配するイネスに答えず、セレスは伏せた彼の身体を返し、胸に手を当て覗き込む。
メイスは急な変化にショックを起こしているのか、ひきつけを起こしているように小さく震え、顔は土色となり生気が消えていた。

「気の乱れか、しっかりせよ。」

セレスは小さく唱えて息を大きく吸い、メイスに口づけして吹き込む。
そしてメイスの身体を抱き、胸を自分の胸に押し当てた。

「汝、迷えるものに祝福を。
この血、この気、この力を弱りし者に分け与える。
地よ、祝福あれ!」

セレスの身体が、まぶしいほどに光り輝く。
その光はメイスに取り込まれ、メイスが大きく息を吸って顔色を取り戻した。

「これでよい。」

そっと寝かせ、それでもまだ苦しそうに息をつくメイスの顔をそっと撫でる。

「セレス様、何をなされる!」
「これは敵ですぞ、ご乱心召されたか?」

「兄様、一体……」

「この少年は巫子だ。」

「巫子!!??」


「そうだ、心身を鍛える修行をしなかった為に、巫子としての力のある身体だけが利用され、未成熟な心とのバランスを大きく崩しているのだよ。
恐らくはまだ、精霊の道も見えていないだろう。」

「馬鹿なことを仰いますな!巫子があんな禍々しい……!」

セレスが顔を上げ、金縛りの兵達に手を振って解き、混乱する人々をチラリと見る。
フッと目をそらし、メイスに視線を落とした。

「神殿を失った巫子は精霊にも迎えられず、実質放置状態。
護ってくれる者も無く、心身を鍛える場所もない。何事もなく一生を終えることを祈るのみだ。
だが巫子としての力は身体に秘めている。
それを悪用された、この子は不運な巫子なのだ。」

「しかし…………我らでは判断しがたい。御館様にご報告を。」

「私が報告しよう、この子の身は地の神殿で預かる。
ひどく汚されていたが、イネスの剣で汚れが消えたようだ。大丈夫、これから修行すればよい。」

「巫子?一体何の……」
その時ヨーコ鳥が飛んできて、イネスの肩に留まり耳にささやく。

「イネス、リリスが帰ってきた。けど、なんか変だわ。」

変?怪訝な顔で、イネスが振り向き立ち上がった。


バサバサッ!バサッ!


呆然と見る人々の前に、髪を赤く燃え上がらせるリリスが青い炎の鳥の背に乗り下りてくる。
リリスは身体をほのかに赤く輝かせ、両眼は赤く、風をまとって妖しく微笑んでいた。
彼は優雅に鳥の背から滑り降りると、右手を空へと向ける。
炎の鳥はまるでリリスの下僕のように、軽く羽ばたいて小さくなると、その手に留まり頭を下げた。

「リリ……?」

駆け寄ろうとしたイネスが、サファイアに遮られ足を止める。
兄巫子が、リリスに向けて胸に手を当て膝を折り、頭を下げた。

『久しいな、ガラリア。今は……セレスと申すか。』

「は、お久しゅうございます。」

『レナントの城も変わりないのう。
おお、あれがグラシャスの血筋の者か、よう似ておるわ。ホホ……』

リリスが顔を上げ、窓から見下ろすガルシアに微笑み辺りを見回す。
セレスがチラと後ろを見る。
兵や弟巫子さえ、何があっているのか分からず立ち尽くしている。

「無礼な、控えよ」

セレスは眉をひそめ、すべての者に向けてスッと手を振った。

「うおっ!」「おわっ!」
「わあっ!」

様々な叫びを上げて、人々が足をさらわれひっくり返った。

「失礼を。」

『良い。わらわも仮初めの身、この現世(うつしよ)では咎人(とがびと)よ。
だが、これも覚悟を決めたゆえ、また現れることもあろう。
ガラリア、この少年がヴァシュラムの巫子か?』

「はい、イネスと申します。」

『そうか。
イネスよ、剣に振り回されしはおぬしの力不足ではない。
お前の剣に足りぬのは火の力。
剣は土より生まれ、火で成される。
そしてその剣は風を起こし、水を呼ぶ。
なればこそ、ドラゴンの依り代となり現世の王に力を貸すことになろう。』

その言葉に、ハッとイネスがリリスに顔を上げた。

「なれば!誰に頼めば?!」

『わらわはすでにこの世にない。なれば、現世の火の巫子に頼むが良かろう。』

「でも!火の巫子は、今はないのです!」

『巫子は転生を繰り返す。火の巫子は気高く、その多くが王家より出でるもの。良く見極めよ。』

「王家?それは……一体……?!」

『我が先代は、王であり巫子であった。
火の巫子は……たとえ殺されようと滅することはない。』

火の巫子……今から見つける事なんて……
イネスががっくりと肩を落とす。

『さてガラリアよ、迷えし巫子の事は頼んだぞ。』

「はい、この子は地の神殿でお預かりします。我が兄弟が巫子として鍛えましょう、お任せを。」

『うむ。では火の化身キュアよ、しばし未熟な巫子に付いていておあげ。』

リリスが鳥に小さくささやくと、青い火の鳥が手から飛び立ち、倒れて動かないメイスのかたわらに寄り添う。
リリスの姿は全身をなめるように赤い火に包まれ、風が巻いてその火が消える。
意識を失いぐらりとよろめくその身体を、セレスが抱いて受け止めた。

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