桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

赤い髪のリリス 戦いの風 4

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10、

風の精霊が、リリスにまとわりついて彼の不安な心を解きほぐす。ホッと息をつき顔を上げると、4人の魔導師が並ぶ奥に、1人の老人が腰掛けていた。
それは魔道師長ゲール。先の旅立ちの時挨拶に上がったが、ベールの向こうで顔はほとんど見えなかった。

「これが、2度目だな風よ。」
「は、はい。お久しぶりでございます。」

慌てて膝を付き床に伏せる。
横にいる魔導師が、カツンと杖で床を鳴らし強い口調で言った。

「先の旅では、勤めを果たしたか?」
「はい、未熟な為に王子にご迷惑もおかけしましたが、おかげをもちま……」

「お前は本当に勤めを果たしたのか?!」

横にいた中年の少し太った魔導師に言葉を遮られ、ドキリとリリスの身体がすくんだ。
なんと返せばいいのかわからない。
無事に帰っただけでは許されないのだろうか。
確かに王子を危険にさらしたことは……

「フレアゴート殿はお前にある話しを告げたはず。その言葉を聞き、お前はどう思ったのか?」

ビクッとリリスが顔を上げた。
全員が険しい顔を向け、リリスを冷たく見下ろす。
彼らは知っているのだ。

「私は……」

「お主にかせられた真の旅の目的は、フレア殿に会ってお前にもわかったはず。何故果たさなかった。
それとも生まれを知り、心に野心が芽生えたか?
この城を騒がせる事態、お主が引き起こしたと知るがいい。」

「野心など、とんでもございません。」

「王には赤い髪の子など存在しない。王の長子はキアナルーサ様のみ。ラグンベルク公をそそのかしたのはお前か?」

「いいえ、いいえ、私は一切口外しておりません。」

「元より、国の平安のために仕えるべき魔導師自ら国を乱すなどあってはならないこと。
それは力があるからこそ、最優先されねばならない。アトラーナでは、リリサレーンの前例があるからこそ厳守されなければならないのだ。」

そうしなければ、魔導師の存在自体が危ぶまれてしまう。
恐れられる存在だからこそ、謙虚さが必要なのだ。

「お前は何だ、お前は風の魔導師である前になんなのだ。」

苦々しい顔で、一番背の高い魔導師がかすれた声で問いつめる。
リリスはギュッと手を握りしめ、うつむいて今まで何度語っただろうその言葉を彼らにも繰り返した。

「私は……親無し子で……慈悲深いセフィーリア様に育てて頂いた……ただの召使いでございます。」

ああ……たとえ長子であっても、不要のレッテルを貼られた自分はなんと惨めな。
同じ腹から生まれ出て、色の違いでこうも人生が変わってしまうなんて。

『お前は、私の子だよ』

セフィーリアの、母の声が浮かび彼を支えた。

母上、母上どうか助けて下さい。

ふと、一人の魔導師が、彼に短剣を差し出す。
訳がわからず受け取ったリリスが、次の言葉でその剣を落とした。

「自害せよ。お前も国を思うなら、勤めを果たせ。」

思わず立ち上がり数歩下がる彼を、ルークが支えた。
足が震え、全身を冷たい物が走り身体がすくむ。
並んだ魔導師達皆が期待するそれは、自分のこれからの事ではない。ただ、現状を乱す自分の存在を消し去ってしまうことでしかないということか。
しかしリリスはグッと足に力を入れて踏みしめ、一つ深呼吸して身を正した。

「いいえ……私の勤めは生きてこそ果たされる物。生まれのことは過去のこと、その為に自ら命を絶つことはいたしません。
今の私は身分の低い孤児の召使い。
ですが魔導師なのです。
私は生きてこの国のために働きたい。死んで良いと神がお許しになるその時まで。」

びょう!
一陣の風が、部屋を吹き荒れた。

リリスの身体がフワリと浮いて、彼の背を押す。
気付かぬうちに、頬を涙が伝っていた。
でも、彼の目は強く輝き、意志の強さを表している。
沢山の精霊が彼の力になり、ほのかに光が身体を覆っていた。

なんという、精霊を惹きつける力。
やはり、この少年はリリサレーンの再来か。

座した魔道師長のゲールが、眉をひそめ立ち上がった。

「風の覚悟はわかった。では、お前にはこの騒ぎを収める手があるのか。」
「ベスレムへ、説得に。」
「それはならん。
彼らと接触すると、お主の立場を更に悪くするであろう。フレア様は公と懇意になることで浮き足立っておられる。
うわさがこれ以上アトラーナを乱すことになれば、お前はたとえどこにいようと殺されることになろう。」

それは、またベスレムとリリスの関係を悪い方へ誤解させてしまうのか。
リリスがどうした物かと唇をかむ。
ザレルはどんな考えで私を呼び寄せたのか……

『王子のもとに忠誠を持って仕えて欲しい』

ザレルはそう言った。
忠誠を。
まず、自分は信頼されなければならない。
リリスがキッと顔を上げ、胸に手を当てる。

「では、私は王子に忠誠を誓い、心から尽くすのみでございます。他になにもありません。」

透き通った声が、部屋にひびき一同が目をむく。
死ねと言われ、心折れそうになりながらもなお、前を見据えるこの強さ。
柔らかい見た目と違う、鋼のような……

この、聡明さがラグンベルク公には惜しいのだ。

ゲールが目を細め、一つ息をついた。
「よい、それでよい、風の息子。
辛いことにもなお風によどみなく、真っ直ぐに涼やかな風を送ることの出来るお主なら、今のアトラーナを救う王子の助けとなるだろう。」

「ありがとうございます。」
ゲールの穏やかな言葉に、リリスが涙を拭いて頭を下げた。

「今は隣国トランと諍いが起きつつある。
いざ戦いとなったとき、我らは民を守るために矢面に立たねばならぬ。
風よ、お前は一番若い。そして最も身が軽かろう。当てにして良いか?」

「はい。未熟ながら、戦いとなりましたとき私は真っ先に最前線へと赴きましょう。アトラーナのために。」

ひざまずき、誓いを立てるリリスに、ルークが眉をひそめる。
これは暗に、争いが起きたとき、真っ先に戦地へ行けと言われているのだ。
そして、それに当たり前のように誓いを立てねばならない状況にリリスはいる。

なんと……卑怯な…………

ゲールはルークの師でもある。
だが、どうにもここまでまだ子供のリリスを追い込むことには解せない物があった。

「しかし」

強い言葉を上げ、リリスが立ち上がった。
「私は戦いとなる前に、戦いを避けることに力を尽くすことをお誓いいたします。
王子はきっと戦いをお望みにはならないでしょう。
この命をかけて、私はアトラーナの平安と繁栄のために尽くします。」

魔導師達が、思わず顔を引いた。
言葉もなく、互いに顔を合わせる。
ゲールに視線が集中し、リリスはふと目を閉じて唇をかんだ。
もう、これ以上ここにいてはいけないと、誰かが耳元でささやいた気がする。
身体中が鉛を浴びたような倦怠感に襲われ、足下が揺らいだ。

「それでは、私はこれにて失礼いたします。」
「うむ」

一つ頭を下げ、くるりときびすを返す。


「風よ、今はお前にとって試練か?それとも好機か?」

ゲールが最後に問う。
リリスは立ち止まり、そして笑みを浮かべて振り返った。

「それは、これからの私次第。私がここにいる、それだけで試練。しかし、私が魔導師としてゲール様方に認めて頂くには、これこそ好機でございましょう。
では」

「なんと……豪気な……」
驚く魔導師達をよそにルークがサッとドアを開け、一礼して部屋を出る彼の肩をポンと叩いた。

「また後で会おう。」
「はい、失礼いたします。」

ドアを向くリリスの顔は疲れ切った様子で、身体が少し震えている。
気丈な子だ。
階段を下りて行く彼を見送りドアを閉めたルークは、ゲールを向いて首を振った。

「彼はまだ子供ではありませんか、何故ここまで亡き者となさろうとするのかわかりません。」

いつもは穏やかな魔導師達が、ため息をつきうなだれる。
ゲールが疲れたように椅子にかけ、そして頭を抱えた。

「お前も遠見なればわかっておろう。あの子はリリサレーンの再来やもしれぬ。」
「まさか、私には何も感じませんでしたが。」
「予見ではない。占いで何度やっても出るのだ。」
「星占ですか?で、なんと?」
「赤い髪の者、火の翼を持って国を滅ぼすと。
あれは精霊王たるドラゴンはじめ、精霊達に愛されている。それだけ惹きつける力を持っていると言うことだ。
もし占い通りのことがあれば、アトラーナだけの事では済むまい。」

リリサレーンの再来。

それが言い伝えではなくなるのか、魔物と呼ばれ育ったと言ったリリスの顔が思い浮かぶ。
ルークは占いが間違いであって欲しいと、その時初めて願った。

11、

「また後で会おう。」
「はい、失礼いたします。」

パタンとドアが閉じ、リリスが階段を数歩降りたところでつんのめった。
足がガタガタ震え、全身の血が下がったように感じてめまいがする。
大見得を切っておきながら、こんな所で情けない。
同じ魔導師として少し気を許していただけに、自害を突きつけられるとは思わなかった。
まして、戦争になったら真っ先に戦場にいけなどと……
いまだ父である王の、首を落とせという声が耳について離れない。

ああ……確かにここは、私がいてはいけない所なのですね、ヴァシュラム様。

顔を覆ってその場に座り込み、少し気分が良くなることを待った。

「……何故ここまで……」

ルークの声がかすかに聞こえる。
あの方は、確かあのゲール様の弟子だと母上は言われてなかったかな。
ゲール様は遠見の長けた方。
星の位置から星占を、あのほかの魔導師様と……

「……あの子はリリサレーンの再来……」

ビクンと顔を上げた。

ゲールの声が、途切れ途切れに聞こえてくる。
恐ろしい言葉が次々と聞こえ、リリスはたまらず震える足を踏ん張り、急いで階段を下りていった。

「お話しはお済みで……大丈夫ですか?お顔の色が真っ青です。」
迎えてくれた少年が、小さく震えるリリスの手を取り背を撫でてくれた。

「ええ、大丈夫です。申し訳ございません。」
「こちらへおいで下さい。部屋は王子のお近くと聞いております。しかしそのまま王子の元へ行かれてはご心配をおかけしましょう。
何か温かい飲み物を準備いたしますので、客間の方へ。」

客間と聞いて、リリスが驚いて首を振る。
客間に行く身分ではないし、これ以上この魔導師の塔にはいたくない。
でも、この少年の優しさがひどく心にしみる。

「大丈夫です。それに……私も召使いの……身分で……」

顔を上げたリリスの目から、せきを切ってポロポロ涙が流れる。
それを見て、少年は優しく微笑み奥にある別の階段へと誘った。

「ではリリス様、私の部屋に行きましょう。最下の狭く暗いところですが、意外と落ち着くのですよ。
お疲れのようですから、少し休まれるといい。
魔導師様方は恐いおじさんに見えたでしょうか?大丈夫、皆お優しい方ばかりですよ。」

「あ……いいえ、その……リリスとお呼び下さい。」

戸惑うリリスを、少年はグイと手を引き奥の狭い階段を下りて行く。
かすかに薬草の香りがして、ひどく懐かしく気持ちが落ち着いていった。

「さあさあ足下に気をつけて、こちらの塔は狭く見えるでしょう?でも良くできているのです、魔導師様方もこちらに住んでいらっしゃるんですよ。ここは魔導師の塔と呼ばれています。
私はそのお世話をしているんです。
ああ、私の名はメイスと申します。」

一番下のフロアにつき、見回すと薄暗い廊下に明かり取りの窓が一つ。
並ぶドアからは薬草や食物の色々な匂いが混ざって漂っている。
部屋に案内されるとそこは、質素なベッドに小さな椅子とテーブル、そして数冊のノートや本が並ぶ本棚があるだけの殺風景でそれは狭い部屋だった。

「隣が貯蔵庫や薬草室で……臭いでしょう、大丈夫?
私のベッドで申し訳ありませんが、横になられますか?」

勧められてベッドに座ると、足の震えがだいぶおさまっている。
今ウトウトすると、恐ろしい夢を見そうで恐い。

「ありがとうございます。この香り、なんだかとても懐かしゅうございます、メイス様。」
「様はおよし下さい、リリス様。私は召使いですよ。」
「私こそ、魔導師ではありますが、本当は召使いなのです。様はおよし下さいませ。」

2人、顔を合わせてクスクス笑う。
メイスは部屋を出て茶器を持ってくると、ハチミツをおやつに部屋でお茶を入れてくれた。

「これ、ほんの少しですが、いただいたのです。舐めると甘くて美味しいですよ。
私はお茶に入れるのが好きなんです。」

小さな皿のハチミツを、さじですくってぺろりとなめる。
さわやかな甘さが、口に広がり息をついた。
そういえば、向こうの世界は物は沢山あふれているけど、ハチミツ一つでも味が違う。
アトラーナの食事を取ると、身体の調子がとても良くなる。

「さあ、元気が出るお茶ですよ、どうぞ。」

温かなお茶も、薬草が入ってメイスの配慮がうかがえる。
なんて優しい方だろうと、リリスは顔を上げニッコリ微笑んだ。

「ああ、本当に染み渡るようです。気持ちが落ち着きました。」
「良かった。やっと笑いましたね。
この部屋、何もないでしょう?本当に、ここはただ眠るだけの場所で……私は流行病で早くに親を亡くしたもので、自分の物はそこにある本だけなのです。」
「私も孤児で物心付いたときより働いて参りました。自分の物など似たような感じです。でも、私の師はたいそう可愛がって下さいましたから、それだけ幸運だったかも知れません。」

メイスがひざまずき、リリスの手を取った。
何のちゅうちょもなく、微笑むその顔にリリスの方が戸惑ってしまう。

「お友達になれそうな気がします。ね、いかがですか?」
「えっ!で、でも、本当にいいのですか?恐くないのですか?」
「アハハ、もう慣れました。それにババ様が、年下は大事にするようにと言ってましたから。」
「年下?私の方が背は高いのに?」
「おや?リリスより僕の方が背が高いと思うよ。」

張り合うように、ピョンと2人が立ち上がる。
リリスも背が低いとはいえ、この2年ほどあまり旅に出なかったし、向こうの世界の豊富な食生活で凄く背が伸びた気がする。
自信を持って並び、愕然とした。
やっぱりリリスの方が、背が低い。

「ほら、私は17になるんですよ。」
「ああ……だったら私が下です。だって15だもの。」

リリスがガッカリ、ベッドにヘタッと座り込んだ。
メイスがリリスの膝にそっと触れて、ポンポン叩く。

「ほら、震えてたの止まったね。」
「あ、本当だ。ありがとうございます……メ…イス……」

様を飲み込んだ。人様を呼び捨てにするなんて、なんて勇気がいるんだろう。
メイスの顔を覗うと、いやな表情を見せる気配は無さそうでホッとした。
嬉しくて、心臓がドキドキする。

「気にしないで。また、遊びに来てくれる?」
「は……はい」

気恥ずかしそうなリリスにメイスが隣に座り、一緒にお茶を飲んで話しをする。
メイスは両親が生きていた頃のことや、ここへ来た頃のことなど、リリスも小さい頃旅によく出ていたことを話ししばらく語り合った。

12、

すでに日の傾いた中廊下を歩きながら、うつむいてクスリと笑う。
アトラーナでの初めての友達に、父王や魔導師達の冷たい言葉は胸の中で静かに眠っていた。
ここが針山のような場所であることは先刻承知できたのだ。
心を静め、自分にできることをしなければ。

でも……なんて嬉しいこと

「メイス……」

彼の微笑みを浮かべるだけで、胸が温かく自然に顔が緩む。
友人とは、なんと素晴らしいものか。
名を気楽に呼び合い、髪の色も目の色も関係なく、気兼ねなく心を許しあえる……ともだち。
そんな方が自分にもできるなんて。
すぐにも母やヴァシュラム様に伝えたい。
そんな気持ちになった。

「おい!」

ハッと顔を上げる。
すっかり忘れていたが、フェリアが憤怒の表情で仁王立ちしていた。
「これはフェリア様、お父様はいかがされました?」
「お父ちゃまはしばらく城にお泊まりだそうじゃ。わしはリーリと一緒にいる。」
「それは構いませんが、私の部屋にお泊まりは出来ませんよ。ここではリリスはフェリア様の使用人です。身分が違いますから、お家にいる時のようには参りません。夜は用意されたお部屋へお戻り下さい。」
「イヤじゃ、ずっと一緒にいる!
人の目など気にするな、わしらは家族ではないか。お父ちゃまもそう仰っておる。」
「フェリア様……」
力強いフェリアの言葉が、リリスには嬉しい。
家族は、本当の家族はここにあるのだ。
「わしは常にリーリと共にある。わしがリーリを守るのじゃ。」
「フフ……それはどうもありがとうございます。
でも、大きなお世話にございますよ。ちゃんとのちほどお送りしますからね。」
ピンクのコットンドレスに着替えているフェリアの服の乱れを直し、ハンカチで口に付いている焼き菓子のクズを払う。
ちっとも当てにされないフェリアが、プウッと頰を膨らませた。
「ムカツクのう、リーリに舐められぬよう早く育たねば。」
「急に育つのはご遠慮下さい。お母様がまた火のように怒られますよ。さ、参りましょう。」
手を引き、歩きながらクスッと笑う。
「リーリ、何があった?なにやら嬉しそうだのう。」
「いいえ、別になにも。」
リリスはまた思い出したように微笑む。
何も語らなくても、リリスの喜びはフェリアにも嬉しい。
フェリアがリリスの顔を覗き込み、キュッと笑ってスキップを踏んだ。




部屋の掃除を終わり、持っていた美しい瓶の水で四方を清めメイスが部屋を出る。
替えたシーツを持って階段を上りかけたとき、階上からリンリンとベルの音が響いた。
慌ててシーツをカゴに放り上へ上へと急ぎ、魔導師でもあり薬師のラインの元を訪れる。
ドアを開けると、ラインが本に目を通しながら薬を調合している最中だった。
「ああ、急がせて悪いね。」
「申し訳ありません、時間を忘れておりました。」
「メイス、時間にきっちりな君が時を忘れるほど、何をしていたんだい?」
「はい、部屋で気味が悪い物を見ましたので、掃除と清めを。」
「気味が悪い物?地下に虫でも入ったかな?」
「ええ、醜い大きな虫が。でも丹念に掃除をいたしましたので大丈夫です。」
「そうか、じゃあこの薬を王妃の元へ届けておくれ。いつものように、煎じて食後にお召し上がりになるようにと。粗相の無いように、確実にね。」
「承知しました。」
薬草を細かくしたものが袋に入っている物を受け取り、一礼して出て行く。
階段を下り、そして小走りで塔を出るとまわりを見回す。
見回りの兵に微笑んで頭を下げた。
「お使いかい?メイス。」
「ええ、後宮へ。」
「それは粗相の無いように、気をつけてな。」
「ありがとうございます。」
兵と別れ、サッと物陰に隠れた。
そして懐から短剣を取り出し、薬草の入った袋に差し込んでブツブツなにやらつぶやいた。
薬草は一瞬暗く変色し、やがて元の色へと戻る。
メイスはそれを確認してほくそ笑むと、王妃のいる後宮へゆっくり向かっていった。


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