桜がちる夜に

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更新日 2018-08-10 | 作成日 2018-05-20

**お気に召したら拍手お願いします、創作の力になります。よろしくお願いします。

赤い髪のリリス 戦いの風 52

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154、

急に訪れた地の巫子に、王は怪訝な表情を隠さず不機嫌な様子だった。
王としても、古来から粛々と守られてきたほこらを壊され不安を感じなかったと言えばウソになる。
だが、来たのはまだ修行途中と聞く三の巫子、肩書きを重んじる本城には酷く不安の残る小さな少年だ。
傍らを見ると王子はなぜか、王から少し離れた所に様子をうかがうように立っている。
なぜ巫子にコソコソしているのか不可解で、ちらりとそちらを見て小さなため息を吐いた。


「三の巫子か・・、赤子の時以降は・・はて?覚えておらぬな。一度ヴァシュラムと来たのか?」

謁見の間で王の前に片膝を付き頭を下げる少年に、王は突き放したような不粋な言葉を言い放った。
アデルの後ろに控えるオパールが、ピクリと手を震わせる。
が、アデルは臆する事無く澄んだ声を響かせた。

「はい、物心つきましてからは4年ほど前に一度。兄巫子セレスと共に王子の誕生日の祝いに参りました。
再びお会いできて恐悦至極に存じます。
国境の大事に兄巫子二人はまだレナントより戻りませぬゆえ、ほこらが壊され封じられていた物が消えたと聞きまして未熟者ですが三の巫子アデルがはせ参じました。」

「未熟者か・・。ほう、このわしもなめられた物よ。
地の神殿は城の危機に未熟者をよこすのか。」

「恐れながら、賢知果敢で知れわたる王のましますこの城に。ここに城を揺るがすほどの危機などありましょうや。
もし波紋のごとき危機がありますならば、そこには必ず精霊王が姿を現し力をお貸し下さるでしょう。
我が主のお力にとって、我ら巫子の力の大小など些細な事でございます。
よって、この未熟者でも何ら問題ございません。」

難なく返すアデルに、王が苦笑する。
どこかで聞いたような口ぶりに、思いがけなく気鬱が晴れていった。

「くく、なんと口の達者な子供が増えた物よ。
お前の力を見せよと言うたら見せられるのか。地の巫子よ。」

「もちろん、喜んでお見せしましょうとも。
ですが巫子の力は見世物ではありませぬ故・・。
実は、やたら見世物にしますと、私は恐ろしい大兄様に怒られてしまうのです。」

大兄はセレスの事か、あの美しい巫子が恐ろしいとは面白い事を言う。
「まあ、」「なんと」
皆がクスリと笑う。

「然り!セレスは見かけによらず厳しく恐ろしい。はっはっは!」
にっこりやり過ごすアデルに、王が声を上げて笑った。

「良い、賢い子だ気に入ったぞ。
で、ほこらの調査と聞いたが、何が封じられていたのかわかっているのか。
先に調査に来た神官は些細な物だと言うたが。」

「いえ、実は古に封じるべき物とヴァシュラム様がご判断なされた、とても悪い気をまとった剣一振りと記録にございます。
これは地の神殿でも悪用を恐れた極秘の事でしたので、城付きの神官も口にするべきか迷ったと申しておりました、どうか御容赦下さい。
しかしながらとにかく、我が主の封じた物は解放してはならぬ物が定石ゆえに、それは戻さねばなりませぬ。
どうか調査のためにも城内での自由な行動にお許しを頂きたく存じます。」

動じる事無くしっかりした物言いに、王の表情が変わった。
にやりと口角を上げ、大きくうなずく。

「よかろう!許可する。
皆の者、この調査に関しては巫子の言葉は我が言葉と同じと思え、速やかに協力せよ。
忌まわしき剣で犠牲者が出る前に見つけ出すのだ。」

横に控えていた騎士や貴族たちが、一同そろって頭を下げて返す。
ずいぶんとこの小さな巫子は気に入られたらしい。

「ありがとうございます。
ですが申し上げます。封じられていた物の力の大きさがまだ知れません。
封じるというのは、ただそれを箱に入れて出られぬようにしていた物と同等です。
時がたって弱っているか、それとも力をそのまま有しているのか、たまに恨みを重ねて増幅している物もございます。
どうか、常、お気をつけなさいますように。何かありましたらすぐに参じます。」

並ぶ貴族たちが、ヒソヒソと騎士を横目に話し始める。
騎士は自分の剣に思わず手をやり、ちらちら仲間と目配せた。

「わかった。
トランの騒ぎも魔導師か魔物の仕業と聞く、我が国も二の舞はするまい。
アデルよ、今宵夕餉を共にせよ。お前ならきっと后にも気に入られよう。
お主の聡明さに期待する。」

「はい、この三の巫子アデル、地の巫子の名に恥じぬよう全力を尽くします。
我が王よ、お心遣いありがたく存じます。」

アデルが手を胸に一礼する。
その幼い顔は、自信に満ちているとは思えない。
だが不安も見えず、自然体の姿は一回り大きく見えた。
王は、その姿に自然とリリスが重なり物憂げな顔になる。

あれは、五体無事なのだろうか・・

さらわれたと聞いてから、その後助かったとだけ連絡を受けた。
平静を保ちながらも無事を見ないと心配で、ひどく会いたい気持ちに押しつぶされそうになる。
もう、すでに我が子である事は、城に近い者には知れ渡っているとも側近から聞いた。
フレアゴートの言葉は重い。
王子として迎える事が出来ないなら、せめて火の巫子を認めてやりたい。
それが、親子を名乗り合えなくても、もっとも近しくなれる事となるだろう。
サラカーンは反対するだろうが、后もそれを望んでいる。

ちらりと横の王子を見る。
最近しっかりしてきたとサラカーンが喜んでいた。
若く次代を担う者たちも良く一緒に動いている。
取り巻きが増えるのは良い事だ、それだけこの子にも人を引きつける力が出てきたというもの。
王位継承者として揺るがぬ安定を見せれば自ずと人もついてくる。
今なら、きっとキアナルーサもわかってくれよう。

ふと、それまでうじうじと考えていた事が、巫子の姿を見ているうちに心の中でまとまった。
静かに王が目を閉じ、天を仰ぐ。
傍らに后の姿は無く、また彼女は部屋に閉じこもりがちになってしまった。
自分がまいた種なら自分が摘み取らねば。

「大義である。」

大きく深呼吸して立ち上がる。
王は小さな巫子に微笑むと、視界が明るく迷いが吹っ切れたような気がした。

155、

王子が取り巻きを連れ、謁見の間を出てぞろぞろと廊下を過ぎ階段を降りて行く。
自室の応接室へ一行がなだれ込み、不機嫌にソファーへ腰を落とす王子を取り囲んだ。

「巫子がいきなり来るとは思いがけない事で。」

王子の側近である次男ゼブリスルーンレイアの失踪、そして長男オルセウスの婚約破棄と家の大事が続き、権威を落としつつある貴族長レナパルド家に取って代わろうとするガーファルド家の長男ケルディムが、そそくさと王子の傍らに寄り声を潜める。
彼は次の王子の側近にと声が上がり、張り切っている一人だ。
最近懸命に王子の機嫌を取ろうと近づいてくる。

「巫子など経でも唱えておれば良いのだ。
誰が壊したのか知れぬが、ほこらが壊れたからと言って何も変わらぬ。
すぐ帰るさ。」

他の貴族の子が囁く。
キアナルーサはフンと息を吐き、一同を見回した。

「計画は順調だ。このまま裏で話を進めよ。
血判はどれだけ取れたのか。」

「はっ!はい。」

慌てて横からケルディムの取り巻きのバスリーが懐から紙の束を取り出す。
ばさばさと王子の前に広げ、二人の機嫌を取るように愛想笑いを振りまいた。

「こちらを。
すでに諸公のご子息や近しい者34人。
さすが誉れ高きガーファルド家、一番数を取ったのはケルディム様です。
次はアッサム家のライナー殿、貴族院の上級貴族の子息はだいたい把握できました。」

「騎士はどうした。
貴族だけでは成り立たん。」

騎士の一人が前に出る。
だが、彼もまだ名のある剣も持たぬ見習いで、腕はない。

「は・・騎士は・・騎士長の偉功もありなかなか厳しくて・・あ、このエミリオ殿はレナント出の田舎騎士ですが、魔物に襲われ叔父を亡くしており決起の折は王子の盾になると奮起しております。」

騎士がいなくては話にならない。
強い騎士だ。威圧感ですべてを押さえつけるような・・

そうだ、ザレルのような・・

無理な話はわかっている。
強い騎士たちは皆ザレルと親しく、彼を師と仰いでいるような者ばかりだ。
あまり無理に話を持って行っても、自分の計画が漏れて台無しになるリスクの方が高いだろう。
これも予定の内とも言える。
どうせ国境の諍いもなりを潜め平和にどっぷりと浸かったこの時代、国内の騎士はふぬけばかり、そのために国外からも金を使って自分の兵をそろえたのだ。
王子が舌打ちして黒髪の少年を呼ぶ。

「フェイク、ジレを呼べ。血の結束を固めるのだ。」

「はい」

取り巻きの一同がゴクリとつばを飲む。
ジレとは昔魔導を外れて呪術で人を呪い、魔導師の席を追われた者だと紹介された。
キアナルーサがどこから聞き及んだのかこの人物を探しだし、密かに呼び寄せたと皆は聞いている。
だが、内心皆は気味が悪く、その姿に思わず一歩引いた。
ローブをすっぽりとかぶった老人が、フウフウと息を吐きながらゆっくりと奥からやってくる。
果たしていくつなのか、年も定かでは無い妖怪のような人物だと思う。

「お呼びでございましょうか、我が王子よ。」

「ジレ、血の結束だ。」

「ホホ・・これはお仲間が増えましたな、喜ばしい事で。
このジレがお心を一つに束ねて進ぜましょうぞ。」

長い爪のシワだらけの手を伸ばし、ジレが懐から血のように赤い大きなルビーを取り出した。
王子が紙の束を差し出し、それにジレが宝石を掲げる。
怪しげな呪を唱え、ゆっくりと手を伸ばして回す。
するとルビーがゆらゆらと光を放ち、その中心に赤く灯がともった。

「ゼナ ギルド ギラス、
・・・・・・に誓いを立てし者ども、その血を持ってここに結束する。
血の主はその血ある限り・・に従属し、その血を捧げ、僕となる。
ぬるき血よ、ここに楔となるがよい。」

バサ!バサバサッ!
火のように燃えるルビーに向け、血判状が赤く燃え次々と吸い込まれて行く。
ルビーはそのたびに容積を増やし、真紅に燃えて美しさを増して行った。

「うう・・」

取り巻きの一人が、胸を押さえて顔をゆがませた。
胸苦しさに、咳を数回して息をつく。
ルビーは血判状を吸い込んだ後、輝きが消えてジレの手に収まる。
ジレは咳をするその青年を見て、ククッと不気味に笑った。

「迷いがあるな、その方。
血の誓いは迷いさえ許さぬ。
心してかからねば、このルビーの呪いを受けよう。」

「そ、そのルビーの??」

「クックック、知りたけば王子を裏切って見せよ。
お主にその勇気があればな」

老かいの不気味な笑みにゾッとして立ちすくむ青年に、王子が歩み寄り背に手を回す。
ジレに下がるよう手で払い、王子は心配するなと皆に手を一凪した。

「血の結束は我も同じ。それだけ重い事を我らは成そうとしているのだ。
この決起はその時まで準備を慎重に、密かに行わねばならぬ。
外部に漏れると皆の命が危うい。
良いか、我らはこの国を根本から変える、革命を起こすのだ。
見よ。
隣国に害をなされても報復もせず、緩慢と話し合いで済ませる老人どもの生ぬるいやり方を。
何が精霊王か、精霊などに何が出来る。いまだ姿も見せぬではないか!
そんな者に頼り、剣も持とうとせぬ者たちにこのアトラーナは任せられぬ。
隣国に攻め入られる前に、この国を鍛え上げ、大国へと成長させるのだ。
このアトラーナを守るために、我らがこの国を変えよう。」

キアナルーサの言葉に、青年たちの顔が輝いた。

「おお・・、キアナルーサ王子!おお!変えましょうとも、我ら若い力で。
その為にも、あなたこそ王になるべきだ!」

「王子こそ玉座に!是非僕にも微力を尽くさせて下さい!
若いからなど言わせません!あなたには皆を導く力がある!」

声を上げた青年に、王子がしっと指を立て、大きくうなずいて微笑む。
皆が同様に指を立て、そしてクスクスと笑い合った。
王子が一人一人と握手して、しっかり手を握り合う。

まだ15というのに、なんて器の大きい人間なのだろう。
一体何が今まで王子を押さえつけていたのか、側近がいなくなったのが良かったのか、新しい魔導師が来てからなのか、まるで生まれ変わったように生き生きしている。
不安を感じていた青年たちは、彼についていけば間違いないという、根拠の無い自信を持ち初めていた。
魔法のような王子の言葉と行動力が、人を引きつけ仲間を増やし・・いや、ルビーに血を吸われた瞬間から、魔術にかかっているのかもしれない。
彼らには王子がひどく希望を持てる対象となり、現王がなぜか色あせて見えている。
王子はそれを知ってか傭兵まで次々と雇って、見た事もない屈強な男たちを配下に集め始めた。

怠惰な毎日が、自分たちで変わる。変えるのだ。
窓から見える景色が広がる気分がして、高揚感で満たされる。
その行為が、この国を揺るがしかねないという不安は、一掃されてしまっていた。

156、

王への挨拶を済ませ、アデルがほこらのあとへとルークたちに案内されて行く。
今回アデルには、側近のミスリル「オパール」と、身の回りの世話をする巫子仕えの青年マリク、それに神殿騎士としては壮年のキリエが付いてきている。
キリエは若い頃から「魔切りのキリエ」と言われるほどの剣技の持ち主で、すでに体力的には引退も近いが経験があるので補佐として付いてきていた。

「ふむ、これは・・最近争ったあとがございますな。
だれか、急に不在になったとか死んだとかはございませんかな?」

周囲を一目見るなり、キリエがルークに聞く。
次々と指を指された方を見ると、確かに普段足を踏み入れない所に足跡が一つ、生け垣の枝振りが乱れ、石垣には白く傷がある。
驚いて、ルークがすぐに浮かんだ事を話した。

「そう言えば、王子の側近が行方知れずになっている。
ちょうど昔許嫁だった女性も消えたので、駆け落ちだと言われておりますが。
真偽までは・・水鏡で占ってまではいませんし。
でも確かに急に仕事を放り出す青年では無かったと思います。」

「王子の・・ふむ。なるほど少々解せませぬな。
この下の森は警備はどうなっておられるのか?」


「城下の森は、日に朝夕二度見回りがある。」


急に後ろから、聞き覚えのある声が返答した。
皆が振り返ると、ザレルが部下二人を連れてアデルに一礼する。

「失礼、私は総騎士長のザレルと申します。
二人は私の部下、副長のアールと近衛師団騎士長イスラエル。
お見知りおきを。」

「ああ!ザレル殿、リリのお父様ですね?!
私は地の三の巫子アデルです。これは側近のオパール。
こちらは神殿騎士のキリエと申します。」

そろって一礼し、キリエがザレルに手を伸ばし握手を交わした。

「お久しぶりですな、ザレル殿。
もうお会いしたのはずいぶん前の事のように思います。」

「ええ、リリスの供で地の神殿へ行ったのはもう5,6年前だと思います。
息子が世話になりました。」

「養子縁組おめでとう存じます。いや、良くも頑張られた。
失礼ながら、ご身分は相当の壁であったでしょう。」

「ええ、これも良く出来た息子が自分で成したこと。素晴らしい子です。」

「ほほっ、これはかなり惚れ込んでいらっしゃる。
確かに、あの子であれば納得でありましょう。
で、先ほどの話だが下の森に異常は?」

キリエが真剣な顔で腕を組む。
もし落ちたなら、死体なりともあったと報告が来ているはずだ。

「いや、調べさせたが下には異常なかった。
見つけられぬとしても、死体があるなら虫が教える、気が変わって精霊が騒ぐ。
だが、そう言う物も無い。」

「この下には森があるだけで?」

「ああ。・・・いや、裏手に墓場があるな。
かなり昔、城で処刑された者の墓場だと言われているが、もう荒れ果てている。
昔は罪人を縛り上げてここから下に放り投げていたそうだ。」

そこは、下まで一体何十メートルあるのだろうか。
間違いなく即死だろうし、下まで死体を運ぶ手間も省けるというのだろう。
昔は血気盛んだったのか、城内で抗争も多かったと言われている。

「昔の墓場か、あとで確認に参ろうか。」

キリエの言葉に、慌ててイスラエルが前に出た。

「いけません、近づかない方がよろしいでしょう。
私は見たこと無いのですが、どうもたちの悪い墓守精霊が出るそうです。
先代第二騎士部隊長が若い頃ひどい目に遭ったと仰っておりました。」

「ふうむなるほど、それは難儀ですな。」

「ここにはいわく付きの剣があったとか?」

ザレルがほこらをのぞき込むアデルに問う。
アデルは壊された蓋の部分に手を当てうなずき、空となった中をのぞき込んだ。

「ええ、とてもたちの悪い剣です。
・・・確かに・・うん、強い術の気配が残って・・。
城外に持ち出されたとは思えませんし、何かしらの過去の意識が働いたのなら王家に仇成そうとしているのかも・・・・え?・・こ・・こは・・・・
オパール、手を。」

「は」

ふわりと、懐かしい香りがほこらの中から立ち上った。
身を乗り出し、落ちそうになりながらオパールの手を借り、手を伸ばしてやっと届く程度に深い、ほこらの底に手を当てる。

指の間から、ポウッと、緑色の光が漏れる。

「道が・・開いた?」

細い、らせんの強い光が地の底からアデルの手に向かって上がってくる。
それは手を伝い、胸に届くとはじけて消えた。
アデルが飲み込むように一つ大きく息を吸い、細く長く息を吐く。


「わかりました。御心のままに、ご心配なきよう。」

アデルが小さくつぶやくと、安心したように光が消える。
彼は底から手を離し、オパールの手を借りて身を上げた。

「アデル様、今のは何事でございますかな?」

キリエが訪ねると、アデルはにっこり笑う。

「ちょっと、伝言です。」

「伝言?誰からの?」

「私にとって、とても・・それは大切な、大切な・・御方様ですよ。」

「大切な・・おんかた・・?どちらかの貴人で?」

アデルは胸に手を当て笑みで返し、戻りましょうと引き返し始める。
一同は顔を見合わせ、首を傾げながら城の中へと歩みを進めた。
ルークが途中、問いかけようかとアデルに視線を送る。
しかしその横顔が、どことなく寒気がするような奇妙な笑みをたたえて見える。
それは普通の幼い子が見せない、なにか老いた狡猾さ・・とでも言うだろうか、異様に違和感を感じて話しかけずにいられなかった。

「アデル様、なにか?」

話しかけた瞬間、スッといつもの無邪気な顔に変わる。
可愛らしい顔で、ぺろりと小さな舌を見せた。

「いえ、ちょっと・・ずっと探していた物が見つかりそうなので。」

ずっと?

ルークが怪訝な顔でそれは何かと考える。
アデルがちらりとルークを見て、彼の腕を引き甘い息で耳打ちした。

「あなたも知ってるモノですよ、もうお気付きでござりましょう?いにしえの火の神官殿。」

ルークが驚いて目を見開く。

「・・・何を・・馬鹿なことを・・」

アデルが唇に指を立て、これ以上無いほどに顔をほころばせてにやりと笑った。

「くくっ・・やはり、やはり来て間違いなかった。」

まるで何か隠すことをやめたように、あの自信なげだったアデルの雰囲気が変わった。
ルークの顔が一瞬険しさを見せ、そして穏やかに微笑んで一言告げた。

「アデル様、後ほどお話があります。」

「いいよ、王との会食が終わったあとだ。
でも僕は忙しいからね、ルークにも僕の用に付き合って貰うかも知れないよ?」

「承知しました。」

事も無げにクスリと笑い、数歩ステップを踏んで楽しげに歩く。
オパールにたしなめられ、ぺろりと舌を出す仕草は、自分の知っているアデルに戻っていた。