桜がちる夜に

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更新日 2019-04-23 | 作成日 2018-05-20

**お気に召したら拍手お願いします、創作の力になります。よろしくお願いします。

赤い髪のリリス 戦いの風 54

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160、

「そうか・・お前は誰よりも早く見つけたのだな。
だが、器は未完成だった・・・すまぬ・・
もうすぐだ。もうすぐすべてがそろう。
すべて・・そろったら・・・」

「僕は・・・、ここは、僕が本当にいる所?」

「どうしてここに来たかったんだと思う?」

「うん・・もう一人の僕は・・・・

うん、もう一人の僕は、あの子たちを探してるんだ。
ここに来れば、いるかもしれないって。
それにあの黒いのが、あいつしか頼る物がなかったから・・」

「なぜ黒いのの言うことを聞いた?」

「井戸で出会った黒い物が・・・・
怖い声が・・・黒いものから・・とても怖い声がしたんだ・・

うつわが、こわされた・・まりなをころされた。
あとらーなが、にくい、にくいって・・
ずっと、何度も,何度も、何度も何度も繰り返してたんだ。
だから、アトラーナを、王様たちを、滅ぼすんだって。
なにか黒い物が、そう、呪いをかけたんだ。
だから、もう一人は思い出してしまった・・うつわが死んでしまったことを・・
まりながいない、眠る所が無いって・・

もう一人の僕は、黒い声の方しか見なくなってしまった。
火が炭のような色に・・どんどん真っ黒になっていって、ただ・・ただ黒いものの言葉しか響かずに・・
黒いものの声の言うことしか聞かなくなって・・
そのうち、まりなって、なんだろうって・・・・なんだろうって!
忘れちゃったんだよ?

まりなを忘れちゃったんだ、もう一人は・・もう一人は変わってしまった。
まりなが死んであんなに悲しんでたのに・・ビックリして、とても怖かった。

でも、あの金色の人が現れると、真っ黒の火を沢山吸い取って・・・
火がね、すうっと減っちゃったんだ・・それで・・・
ああ、そうだ。
だから、僕は火の間から顔を出してみることにしたんだ。
ちょっぴり勇気を出して、怖くてたまらなかったよ。でもね、
あの、金色の光がとても綺麗で、こう、ふわっとあったかくて、ちょっぴり勇気が出たんだ。
でも、僕はもう一人も助けたい・・ずっと一緒だったから。

もう一人は・・もう、もう、ただ、赤い子のところへ帰りたかったのに。
僕は、僕は・・また火の中に包まれたくないんだ・・」

「そうか・・」

フェイクが薄く微笑み、リュシーの手からコップを受け取る。

「優しい子よ、疲れただろう、少し休め。」

「うん・・・・、もう一人の僕は、どうすれば元に戻るんだろう。
僕・・僕・・ずっと、ずっと、表に出られなかったんだよ。
僕は、どうすれば火から出られるんだろう。

・・・・・・・

ああ・・・ああ・・・、金色の人はどうなったのかな。
いっぱい、いっぱい黒い火を吸っちゃった、あの金色の・・
僕も消えそうで怖かったけど、あれは・・・金色の人が助けてくれたのかな?
あれは、誰だったんだろう・・

ああ・・ガーラの甘い水が飲みたい・・・
ぎゅうって・・して欲しい・・
僕は・・僕は・・・・ガーラ・・・僕は・・・誰だろう・・・」

すうっと目を閉じる。
沢山話をするなんて、何百年ぶりなんだろう・・・
言葉を忘れてしまったと思っていたのに、沢山口からあふれ出てくる。

フェイクの手をさわると、ガーラの暖かさを、優しい手を思い出してきた。
それだけで、ホッとして気持ちが落ち着く。
僕は、ずっとそれを探して、火に囲まれて、火の中で諦めて、ずっと泣いていた。
僕は・・・ガーラと、会えるんだろうか・・
僕は・・・ガーラに会ったら・・わかるんだろうか・・
僕は・・・・・会いたい・・わからなくても、会いたい・・・・・

ぎゅうってして・・・だっこして・・・・・ガーラ・・・・・会いたい・・



フェイクが、寝息を立て始めたリュシーの頭をなでる。
そっと、目を閉じ、そして、悲痛な表情に変わった。

「すまぬ、すまぬ・・・・」

大きくため息をつく。

「ああ・・・すまぬ・・・・・
無理をさせた為にお前の大切な者は死にかけてしまった。
今だ、我らはお前達を苦しめている。
なんということだ・・・・わしは、自分のことしか考えぬ愚か者であった。

わしは、傍観者でいることをやめた。
お前を飲み込んだ火は今飲んだ水の護りが押さえる、だから安心するが良い。
もう2度と燃え狂うことなど許さぬ、愛しいリリサレーンのような苦しみなど・・もう2度と・・
お前のことは、我らが守る。
だから、安心して眠れ。」

フェイクの髪が、一瞬ぼうと燃え上がる。
右の手を王子の部屋の方へ差し伸べると中の様子が、話し声が、まるで壁が消えたように見て取れる。
焦った様子のジレと、渋い顔で策略を練る王子である物。
その魂の色は、確かに見覚えがあるのだ。
フェイクがうめくように囁く。

「愚かな亡霊どもよ、お前達が憎くとも、復讐などと言う言葉、我ら精霊には縁が無い。

だが・・・・・

・・・たとえ千年過ぎようと、この怨み・・忘れることは・・・無い・・・・・・」

161、

日も暮れて、しっとりした柔らかな風が吹き木々がざわめく。
何も目印が無く、星が瞬きはじめた空しか見えないうっそうとした森の中、ホムラは迷いも無く真っ直ぐに先頭を歩いて皆の案内役を担う。
足下が次第に見えなくなり、小さな手提げランプ一つで足下を照らすがこの多勢で歩くにはいまいち見えにくい。
松明は目立ちすぎて、とっさに隠れるには都合が悪いのだ。

「やれやれ、ここに火の巫子様がいるのに、ちっとも明るくなりゃしねえ。
シールの実の油に水でも入ってるんじゃないのかね?
こんな事ならろうそくランプ3つばかり持ってくるんだった。
魔導が使えないなら、やっぱり松明(たいまつ)作るかい?」

「松明は目立つ、目をこらすんだな。」

わかってるんだがねとブルースが、ため息交じりでランプをのぞき込む。
この世界の人間には慣れた灯りだが、ランプは金属の箱の一部が透明度の低いガラス越しにぼんやり灯がともる作りで、リリスの魔導の灯りを知るとどうにも暗くてイライラする。
森の中、木の根に足を取られて時々転びそうになる。
事の前にケガでもしたら馬鹿馬鹿しい。
魔導を使うなと言う神官達を、恨めしく思って横目でにらんだ。

「我らは夜目が利くゆえ、ランプは貴方らで使えばよい。」

「はっ!そうですかい、俺たちは夜目が利かない普通の人間だ。
あんた達の時代はどうか知らんが、残念ながらいまだ灯りと言えばろうそくランプかシールの実の油ランプぐらいだ。
しかし明るい携帯のろうそくランプはせいぜい1時間、油ランプは長く使えはするがこの通り火が弱く暗い。足下ぐらいしか見えん。
よほど松明でも持った方が明るい。」

言っても仕方ないが愚痴も出る。
明るい夜の存在など、灯りを沢山ともした酒場くらいだ。
この世界、日が暮れたら一杯飲んで、さっさと寝るのが一番だ。

「火の精霊がおらぬ世の儚きことよ・・・」

グレンがつぶやき、暗い空を仰ぐ。

「星明かりもない森の中ではせんなきこと、リリス殿、魔導を使うがよろしい。
火の精霊もおらぬ世では、森に火が付けば大火になろう。たとえあなたでも精霊もおらぬでは火を操ることも敵いますまい。
・・・この森にあなたが足を踏み入れた時点で、すでに城の魔導師には知れておりましょう。
出てこないことを見ると、静観する気かと。」

城の方角に目をやる。
ルークに敵対心など見えなかった。
彼ならば、森まで見通すことなど容易なことだろう。

「承知しました、お許しが出たのでブルース様、愚痴はお控えなさいませ。」

笑ってリリスが、ポッといつもの光の球を浮かべる。
ボンヤリとした灯りは周囲を優しく照らし、リリスが目立たぬよう足下をと命令すると、2,3に小さく散って地面をポンポン飛び跳ねた。

「おやおや、なるほどこう言う技も隠しておいでか。」

「私の旅は昼夜問わずでしたから、遊びですよ。
子供の頃は家でも夜、沢山飛ばして遊んでたのですが、それがますます魔物説に拍車をかけたわけで。
私も村人には相当嫌われてしまいました。」

昔を思い出して苦笑する。
夜の灯火は心を澄ませ、色々なことが浮かんでは消える。

「なるほど、腕を磨くほど嫌われる。
我ら騎士にも言えること、ちょいと強くなれば狂戦士だと後ろ指指される。
強い者には強い者の悩みがありますからなあ。」

腕を組み、うんうんとブルースがさもわかった風にうなずく。
ガーラントが苦笑して、鼻で笑った。



ずいぶんと進んだところで、先方の木の間から一瞬緑色の小さな光がキラリと光った。

「何か見えなかったか?」ブルースがサッと立ち止まり、剣に手を置く。

「墓で先に待つミスリルだ。
緑は異常のない合図と聞いた。」

「聞いた・・って、そうエリン殿と決めたでしょう。
ホムラ殿ももう少し・・」

「ふん」

ホムラの投げやりな物言いに、ずっと黙っていたゴウカがとうとう呆れて囁いた。
ホムラは働きはするが、皆と少しも馴染もうとしない。
当てに出来るのか出来ないのか、ここへも率先して付いてきたクセにとんだ頑固者だ。
首を振り、ため息をつくゴウカが気まずそうにリリスの顔をチラリと見る。
リリスはゴウカと顔を合わせ、キュッと肩をすぼめてクスクス笑っていた。
可愛い人だと、ゴウカはリリスに微笑み返す。
まだ出会って短いのに、すでに付き合いが長いような安心感がある。

「ホムラ殿は昔からこうなのですよ。
でも、我らの中でも一番頼りになります。
リリサレーン様の一番の側近だったんですよ。」

「ゴウカ、余計なことを話すな。」

「やっぱりお強いのですね!それは安心。
実は皆様には来て頂けるのかと、心配しておりました。
なにしろこっそり忍び込むのですし。
高貴な神官の皆様にはとてもとても、こんなことお願いが出来ません。」

「そ、それは・・我ら神官、巫子殿の行くところへはたとえ地下であろうとですね・・」

慌てるゴウカにプッとブルースが吹き出した。
自分もまあ、リリスにはあっという間に引き込まれた口だ。
この子には不思議な魅力がある。
まさか自分がガルシアを離れて構わないと思うなど、考えもしなかったのだ。

「お待ちを、誰か来ます。」

グレンに言われて、リリスが光の球を散じた。
木に隠れようにもどこから来るのかわからない。
そっと身をかがめ、息を殺して動かない。

「リリス様、エリンです。」

小さく声がして、月の光が差し込み仮面の青年が音も無く姿を現した。

162、

「エリン様」
ホッと息を吐いてリリスが駆け寄ると、エリンは仮面を取ってリリスに膝をつく。
彼は自然に、リリスを主としていた。

「お待ちしておりました、墓場に変わりございません。
精霊避けの香り粉を焚いておりますゆえ、音を立てずに地下への入り口にお入り下さい。
場所は確認しております。」

「さすがエリン様、ご苦労をおかけします。
でも、香り粉など焚いては悟られませんか?」

「あれは濃度が一定にならないと効きませんので。
香りも少なく限定的で少々扱いにくいのですが、こう言う隠密行動には向いております。
今日は風が穏やかなので使えました。」

「ああ、本当ですね。
母上も邪魔はせぬと仰いましたから、風の精霊達も控えているようです。
道行き、お任せ致します。」

「は、お任せ下さい。途中までは下調べも済ませてございます。」

「途中まで?先に進めないのか?」
ブルースが墓場の方を見る。

「中は迷路ですが、あの手紙が途中までしか記述がありません。
ただ、迷路は間違えるとすぐに行き止まりや戻る性質のものですし、正解にも一定の法則があるので覚えやすいものです。」

リリスが感嘆してうなずく。
エリンの記憶力は驚くばかりだ。


先に行って様子を見に行くことを進言した彼は、リリスのカバンにある手紙に杞憂を持っていた。
ラグンベルクの手紙の存在が、本城に渡れば大変なことになる。
でも、だからと言ってこれをどうして良いのかリリスにはわからない。
それには城内へ入る道順と、宝物庫の場所が書いてあったからだ。
内容は酷く複雑で、とても覚えきれないと思っていた。
だが、リリスがエリンに手紙を渡すと、彼は一目で覚えて、リリスに許しを得ると火を付けて燃やしてしまった。

「このようなことこそ、我らミスリルにお任せを。
いまだ私のような者に頭を下げてしまうあなた様には酷かもしれませんが、我らミスリルは道具で構わないのです。
むしろそれこそ本望、あなた様の為なら命さえいといません。
どうか、この私をお使い下さい。」

そう言って、エリンは頭を下げた。
リリスは、しばし目を閉じ、意を決したように大きくうなずき彼の手を取ってギュッと握りしめた。

「命は、命だけはあなたの財産です。大切になさって下さい。
でも、そのお気持ちは私の財産となりましょう。ありがとうございます。」

リリスに出来ることなど今はその言葉しか無かったけれど、エリンにはその信頼が大きな力となった。



「先ほど兵のこの辺の見回りが終わりましたので、次の見回りまで間があります。
お急ぎを。」

「わかりました、とりあえず行きましょう。
案内をお願いします。」

うなずき、先を行くエリンが、リリスの手の感触を思い出すように手をグッと握りしめる。
心を集中し、耳を澄ませて周囲の気配を探りながら、主の命を預かる気負いで先を歩き始めた。