桜がちる夜に

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更新日 2019-07-20 | 作成日 2018-05-20

**お気に召したら拍手お願いします、創作の力になります。よろしくお願いします。

赤い髪のリリス 戦いの風 56

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166、

数十歩進むと通路が3つに分かれ、すべてが曲線で先が見えない様になっている。
ホムラは立ち止まりリリスの指示を待つ。
来たことがあるのか無いのか、良くわからない奴らだとブルースがまたヒゲをザリザリ言わせる。

「・・右に、この方向へ進む道はどれでしょう?」
リリスが指さす。

ホムラが迷い無く中央の道を行く。

「右なら右じゃ無いのかい?」

「そう、思うのが人間の浅はかさよ。ここはヴァシュラムの作らせた道だ。
当たり前は通じぬ。」

「はあ、なるほど。ひねた精霊王様だ。」

歩いていると、ぐるりと回っている感覚がある。
普通なら方向感覚がわからなくなるが、リリスはエリンの上着の裾を握り目を閉じて感じる方角をじっと指さしている。
指は次第に左を指し、そして後ろを、また右に戻り、そして右後ろになる。

「一体何だってんだ?!一回りしたって言うのか?」

登りになり、下りになり、息を切らせてブルースがたまらず声を上げる。
急に道は狭く、脇道も無く一本道が延々続く。

「・・・ここは・・この道は、生きている。」

ホムラが不意につぶやいた。

「はあ?まさかなんかの腹の中とでも言うのかい?ここは城の真下だぜ?」

「そうだ、人間のくせに良くわかったな。
さて、ここから出るのは至難ぞ。」

ブルースが、口をあんぐり開けて思わず立ち止まった。
皆、息をのんで足を止め振り返る。
背後は暗く、松明で照らしてもまるで灯りが吸い込まれるように先が見えない。


「ば・・バカな・・一体・・いつから・・」

「怖じ気づいたか、真ん中の道に入っただろう、あのあとすぐに地龍の中に入った。」

「うーん、そう言えばなんか様子が変わったと思いましたが、そうでしたか。」

のんびりとリリスがつぶやき、ずっと指さして上げていた手を下ろし、ほぐすように肩を回す。

「なにのんびりと・・中に?食われたって事か?
そうでしたか、なんて言ってる場合か!なんですぐ引き返さなかった!
こんな、デカい生き物が動いたら城なんか一気に崩れちまわないか?
俺たちは出られるんだろうな?」

「出られるかどうかは地龍の心一つ、今我らは試されている。
食われたままでいたくなければ静かにせよ。」

「静かに?静かにか。ううむ、・・わかった。
で、進むのか?それとも戻るのか?どうするんだ?巫子様よ。」

低く静かに返すホムラと違ってブルースの声が酷く焦る。
他の皆、周囲を見回しリリスを見た。
考えていたリリスが顔を上げ、パンと一つ手を叩く。
音が反響し、思わず皆がドキリとした。

「ここが地龍様の腹の中とは!これ以上安全な場所がありましょうか!」

「は?何言って・・・」

「慈悲深き地龍様、我ら迷い人を大いなる庇護の元において頂き感謝致します。
ですが、私は火の巫子、指輪のありかを探さねばなりません。
私はそれが無くては前に進めないのです。
その為にはたとえ何かがございましても、ここを出なくてはなりません。
どうか、このまま城下の道を先に進むことをお許し下さい。」

手を合わせ、どんどん狭くなる道の先に願う。
だが、反応は無い。
口を開こうとするブルースに、しいっと指を立てる。
ガーラントや神官達は、じっと様子を見て待つ。

タッタッタ・・・タッタッタ・・・

道の先から、軽い足音が聞こえる。
目をこらすと、額に短い一本の角を生やした小さな小狐のような動物が姿を現した。
少し離れて立ち止まり、ブルリと身体を震わせると一回り大きくなったように見える。
反射的に騎士二人は麻に包んだ剣に手が行き、リリスがサッと手で制した。

「どなた様でございましょう?」

見た目の可愛らしさに惑わされること無く、リリスの声が固い。
小狐はじっとこちらを見ている。
しばしの静粛のあとに、ようやく小狐が口を開いた。

「クククカカ・・ツイテ、コイ」

抑揚の無い笑い声のような声を出し、奥へと歩き出す。
だが、リリスはきっぱりと言い放った。

「あなた様が何者か存じませぬうちは信用出来ません、付いていけば何があるというのでしょう。」

「・・・・・・・・・・・」
思わぬ問いに、それに答える知能があるのか無いのか、振り返り呆然と口を開けている。

「・・・・ツイテ、クル?」

戸惑うように、ククッと首が180度回る。
不気味さに、リリスを庇いながらホムラが前に出た。

167、


「お待ちを、ここは城の中、ここで騒ぎを起こすのは良しとしません。
お前は何者か?なにゆえお前が地龍様の中にいるのか?」

「・・チ、リュ、ウ・・ノ、シジ」

「指示?お前は地の精霊では無いでしょう。
ここで何をしているのです。」

「ココノ、モリ・・マモリ」

「お前が?ここの守?もう一度問います、お前は何者か?」

「・・ワ・・カラ・・ナイ・・・」

急に小狐がニュッと首を伸ばして振り返ると、ブルブルッと身体を震わせた。
その形が崩れ、容積を増して二つに分かれる。
そしてそれが2匹の一本角の痩せた犬に変化すると、一匹が元来た道へ走り出して消えた。
残った一匹が、その場に座ってまた首をぐるんと回す。
あり得ない角度まで回すから不気味なのだが、そう言う仕草を見たことがあるのだろう。

「急に、・・どうしたのです?」

「ムコウ、ナニカ、イタ。オ、イ、ハ、ラ、ウ。オマエ、クル?」

「他にどなたが・・・・兵でしょうか・・」

「いや、兵なら守は動かないのではないか?
だいたいこんな地下通路なんてうわさくらいしか聞いたことが無い。
一般兵は知らんだろう。」

ガーラントが後ろから耳打ちする。
それはそうだ、ここは王家だけが知る逃げ道なのだ。
他に知るものがいるとしたら、精霊と魔導師だろう。

「なるほど・・、わかりました。警戒して進むしか無いでしょう。
一本角のあなた様、・・お名前はないのですね。
・・・形を変えるところを見ると、一度見た物に変わっているのでしょうか。
地龍様とはお話し出来ますか?」

「・・ワ、カラナイ」

「そう・・
地の精霊でもないようだし、あなたは一体何なのでしょう・・地龍様の使い魔でしょうか?」

問いがわからないのか、自分がわからないのか、犬のような物は首がねじ切れそうなほどぐるりと回す。

「・・・・オマエ、クル?」

リリスがクスッと笑って大きくうなずいた。
「よろしくお願いしますね。」

犬はぴょんと跳び上がり、リリスの周りをくるりと回って先頭を行く。
「では、行きます。」
エリンがそれに続き、リリスが後に続いた。

「このような貧相で不気味な物が信用足るのか?」

珍しく、リリスの横に並んでホムラが問いかける。
リリスは人ごとのように、さあ・・とつぶやき、ホムラが驚いて口を開く前にまたしいっと指を立てた。

「地龍様のご指示であることに間違いは無いような気がします。
不気味な物が信用出来なければ、私など誰からも信用されません。」

「な・・」

それは自分も同じ事、ミスリルである自分にも跳ね返ってしまう。
何故か不意に懐かしさがこみ上げて唇を噛んで考えると、何度もリリサレーンに同じようにたしなめられた記憶がよみがえる。
リリスの横顔を見て、一つ息を吐く。
もう、とっくに彼を認めている自分がいる。
後ろの二人も同じだろう。
否定の言葉などつぶやきさえ聞いたことも無い。

顔を上げ、彼の前に出る。
「お主はわしの後ろだ、忘れるな。」

「あ、そうでした。」
リリスがペロリと舌を出してホムラの後ろに付く。

「お主は我らの後ろで堂々としているのが仕事なのだ。
前に出るのはおこがましいと知るがよい。」

「うふふ、それはなかなか慣れません。でも心に留め置きます。」

ホムラが小馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らす。
小さく笑いながらリリスは、その背中が頼もしく見えた。

168、


暗く、どんどん狭くなっていく道を、一本角の犬のあとを付いていく。
松明の火の光も吸収されるのか、火はあるのにどんどん暗くなって行く道に、皆の心が不安で鉛のように感じていた頃、フッと急に辺りが明るく照らされた。

「あれ?出られたんでしょうか?」

「そのようだな、ここは覚えがある。」

リリスが明るく振り返ると、皆が一様にホッとした顔に見える。
守られているのか、捕らわれているのかはっきりしない状況は、異様なストレスで心臓に悪い。
気がつくと、あの一本角の犬は消えていた。

「で、どうするかね?巫子殿。
いきなり放り出されても、どちらが出口かどこにいるのかもさっぱりだな。
風一つ無い・・ここは本当に城下なのか?」

ガーラントが腰に手を置き、一息を付く。
辺りを見回すが、地龍の姿などどこにも無い。
動く音さえ聞こえないのは不気味でもある。
あれは本当に地龍だったのかという疑問は後で考えるとして、城の地下にいる状況は変わらないのだ。

「ここがどこであれ、私が感じるのは・・・向こうです。
行くにしても、出口の方向を確認する必要はありますね。
その手段があればの話ですが・・」

リリスはまた目を閉じ、スッと右を指す。
通路の前を見ても後ろを見ても同じような暗闇が続く。
どちらが奥になるのか出口になるのか、とりあえずホムラを見る。
ホムラがゴウカに目配せすると、ゴウカがうなずきリリスの前に来て頭を下げた。

「ゴウカの名は身を滅ぼす火の意だそうです。
この力だからこそその名が付いたと思いますが、リリサレーン様はそうでは無いと仰せでした。

様子を見て参ります・・驚かれるな、ごめん。」

リリスにそう語り、床に伏した。
ゴウカの身体が一瞬影が消えて真っ白になり、ぼやけて見える。
そう感じたのは目の錯覚では無い、彼の身体は突然灰のようになり、風も無いのにサッと通路の両方へと散っていった。

灰は瞬く間に通路の隅々まで飛び、扉を見つけるとそのスキマから別の通路へ侵入して一瞬で戻る。
その灰のような粒子一つ一つに意思があるのか、ゴウカ自身にもわからない。
灰のように別れても、彼は一人なのだ。
まるで通路を俯瞰してみるような彼の目が、現在地を確認する。
そうして通路すべてを把握して、一時もたたずまたリリスの元へと戻ってくる。
リリスの前で灰がらせんに巻き上がると、人型になりゴウカの姿を成してリリスに膝をついた。

「お見苦しい物をお見せ致しました・・ですが、状況は把握出来ました。
御手で指されたのは奥、現在地はこの通路の8割ほど来たところでございます。
恐らくは城の中央、やや魔導師の塔があった場所に近いかと思われます。」

ゴウカは一息にそう告げ、目を閉じて動けなかった。

しんと、空気の温度が下がったように感じる。

皆が息をのみ、言葉を選ぶ。
ホムラが目をそらし、探るような目でリリスを見た。

バケモノと、何度その言葉を聞いてきただろう。
この子も我らをそう言うのだろうか・・

リリスも無言で皆の表情をうかがっている。
子供には荷が重いかと息を吐いた時、ずいとリリスがホムラに顔を近づけ首を傾げた。