ポストアタッカー

近未来アクションSF、ちょっぴりアンドロイド少女とのラブ。
戦後通信手段が破壊され盗賊強盗が闊歩する町で、特に重要な郵便物の速達業務を行う郵便局のポストエクスプレス。
その配達員は、ポストアタッカーと呼ばれていた。
ポストアタッカーのサトミ・ブラッドリーは、ある日追われて事故で大破した車中の女からアンドロイド少女エリーの配達を依頼される。
果たしてその行く手にあるものは?

>>その1(1〜3)
>>その2(4〜6)
>>その3(7〜9)
>>その4(10〜13)完結

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**お礼画面に掌編あります。(現在連載中の、赤い髪のリリスの短編です)

1、

戦争が終わり、祝砲が空に鳴り響く。
灰色だと思っていた世界に、青く澄み切った空がある事に気がついたその日。
当たり前の事に妙に脱力感を感じながら空を見上げた。
一体自分はどこを見ていたのか、ため息を一つ吐いて歩き出す。
サトミ・ブラッドリー、15才の春。
背には愛用の刀を背負ったまま、荷物と言えばバックパック一つ。
軍を除隊し、ゲートへと向かう。
パスはすでに返還したあとなので、除隊許可証がパスの代わり。
そのパスを片手に進んでいるとゲートの前で同じチームだったジンが立っていた。
腕を組み、ムスッとして見下ろす同僚は、同じ部隊でも気の合う方だ。
それでも最年少のサトミとは3つ年齢が違う。
サトミの除隊を最後まで渋った彼が、一応見送りに来てくれたのだろう。
手を挙げると、プイッと顔を逸らした。
「今更帰っても居場所なんかあるもんかよ。」
言われてサトミが笑ってうつむく。
「そうだな。」
「手紙の返事だって、一度も来た事無いじゃネエか。」
「前線じゃ、手紙が届く方が難しいんだよ。」
「いい方にばかり考えやがって。他の奴らにはちゃんと届いてただろ。」
返されてフッと寂しそうに視線を落とす。
「じゃあな」
サトミがジンの横をすれ違いざま、彼の肩をポンと叩く。
ジンが思わず声を上げた。
「帰って来いよ、誰もいなかったら。」
「大丈夫、きっと誰か1人くらい待ってるさ。家族は多いんだ。」
サトミがゲートをくぐり、外の世界へと出ていく。
ジンが振り返り、小さくなるその姿にため息をついた。
「戦争なんて、終わってないんだぜサトミ。俺たちは……殺しすぎた。」




2年後・・・・・


荒野を馬が5頭、土煙を上げて疾走する。
恐らくはその状況から、先頭を走る少年が後ろの4人の男達に追われているのだろう。
先頭を走る馬に乗る少年は、郵便マークの付いた大きな麻袋を積んだ馬に乗り、そしてその腕には赤い生地に郵便マークを染めた腕章を着けている。
その腕章の郵便マークには、郵便局の速達配達人『ポストアタッカー』の印である稲妻マークも重ねてあるのだが、どうやらそれを見て盗賊と思われる男達も追い始めたのかもしれない。
この時代、第4次世界大戦の終了からようやく2年。
すでに戦争で壊滅的に壊された治安状態から、郊外では盗賊化したテロリストの残党が闊歩し、資源の枯渇はガソリンの慢性的な不足、そして金属の高騰からケーブルの盗難と通信手段、輸送手段を奪い、辛うじて武装した郵便局のみが頼りとなっているのだ。
よってその中でも急を要する時に利用するエクスプレス・・速達は、重要書類や金銭などの貴重品が多い。
その速達は主郵便局間は列車や車を使用することになるが、細かい配達は配達人任せとなる。よって最も盗賊に狙われる命がけのその配達人を、ポストアタッカーと呼んだ。
ポストアタッカーは、主に1人で行動する為に軍人上がりが多い。
戦闘力、判断力、また逃げ足の早さなど、求められる物は多々あるだけに、郵便局でもスペシャリストだ。戦うポストマンと言ったところか。
しかし少年は、見た目ひどく盗賊達を油断させる理由がある。
それはまず馬、
まるでロバのように小さく、走る姿も不格好だ。
そして少年。
弱冠17才と言ってもその身長の低さに、穏やかな童顔。
大事な荷物を預けていいものかと迷いそうな容姿だが、しかし彼の背には大きな日本刀があった。

「ちぇっ、町は目の前ってのによ」
追われる少年、サトミ・ブラッドリーが手綱を握りしめ舌打つ。
振り返るまでもなく、追ってくるのは下卑た盗賊達だ。
「待てこるぁ!このガキ、荷物よこせや!」
盗賊が銃を撃ってくる。
丁度その時、「ここよりロンド」のさびた標識を過ぎた。
かすむ弾にビッグベンはひるまず走るが、サトミが一息ため息をつく。
「クソ野郎、相手してやるよ!」
サトミがピョンと馬の背に立ち、そして背の日本刀を抜く。
そして刀身の柄にある小さなスイッチをサトミが触れた。
日の光を反射する刀にスパークが弾け、刃に電気が走る。
サトミの日本刀は、帯電日本刀エレクトソードなのだ。
サトミが刀を上段に構え、数発の銃弾をはじくとベンから飛び上がり盗賊に飛びかかる。
「いやあっ!」
「オオオッ!」
銃で身を庇う盗賊に、峰打ちする。
「ギャッ!」
刀身が身体に触れた瞬間、盗賊がビクンと跳ね上がって目をむいた。
その身体がゆっくりと馬から落ちてゆく。
サトミはその馬の背に着地して、次の盗賊の馬へ。
甘く見ていた少年の思わぬ反撃に、盗賊達がひるんだ。
「な、なんだよこのガキは!」
撃ってもさっぱり当たらないこの少年は不死身なのか、それとも魔法でも使っている魔物なのか。
身軽な身のこなし、撃つ弾はことごとく紙一重で避け、刀で切り捨て弾いて行き、物ともしない。
迫る刀に悲鳴を上げながら、ほくそ笑む少年の顔にゾッと血の気が下がり今更後悔した。



倒れている盗賊の1人が、うめき声を上げながら見上げる。
「お、お前は化け物かよ!」
「失礼な」
ドカッとサトミのスニーカーがその頭を踏みつけた。
「死にたくなかったら、ポストアタッカーには二度と手を出さないようにお願いします」
「こんの野郎……覚えてやがれ!」
この期に及んで啖呵を切る盗賊の鼻先に、日本刀が刺さる。
その刃の美しいほどの鋭さに、悲鳴を上げて思わず息を飲んだ。
「ひっ!」
「ポストアタッカーは、郵便物を確実に送り先へ届ける義務がある。それを遮る者に対しては、これを排除する許可を与える。それが戦後、混乱の中この国で確立された法律です。2度目は、峰打ちでは済まないとご覚悟下さい。」
「は……はい。」
ニッコリ、サトミがうなずいて刀を地面から抜き、日の光を反射させながらさやにもどしてしまった。
「この……」
隙をとったように他の盗賊の1人が銃をサトミに向ける。
サトミの瞳が光り、左手がその盗賊へ向けられた。
その瞳に吸い込まれるような、惹きつけられるような奇妙な感覚。
「え?あれ?う、動かない」
盗賊は、ストップしたまま動けない。
やがてサトミの動きをトレースして、盗賊の銃が震えながら自らのこめかみに当てられ引き金に指がかけられた。
「ひ……ひいっ!や、やめてくれ!」
目が見開かれ、ドッと滝のように汗が流れる。
目の前が真っ白になり、目前の死に気が遠くなった次の瞬間。

ターーーン……

「お仕置き」
青空に銃声が響き、空を指さすサトミがつぶやいてほくそ笑む。
空に向けて銃を撃ち、盗賊は泣きながら失禁していた。
「ま……さか、ハーフマダー(半殺し)のマジシャンアタッカーってお前のことかよ。」
電撃を受けて、辛うじて意識を取り戻した1人が胸を押さえて苦虫をかむ。
盗賊達にニッコリ微笑み、サトミは胸に手を当て丁寧に頭を下げた。
「では、ポストサービスエクスプレスを今後ともよろしく。どんなお荷物も、確実に届けてご覧に入れます。」
日本刀のポストアタッカー、サトミ・ブラッドリー。
それがこんな少年のこととは、気が付くのが遅すぎた。

2、

廃墟都市ロンドの、大きなクレーターを囲む町並みが続く。
大戦末期に大型の爆弾が投下されたらしいが、新型爆弾なのか放射能の汚染はなかった。
が、街の半分がこれで吹き飛び、死者は数千と言われている。
人口密度に対して死者が思ったより少ないのは、爆弾が落ちる前、そこに大きな湖があったからだ。
ところがその湖の下に、軍は軍事基地を作っていたらしい。
らしいとは、人のうわさでしかなくいまだ明確に発表がないのだ。
元々大きな湖の下、橋の代わりにトンネルが掘られていたのは誰もが知っている。しかしそれも閉鎖され、戦時中は工事も中止されていた。
数千の死者を出して、当時の軍主導政権から今の政権にうつっても、何故かこれはうやむやの発表のままで終わっている。
一時は解明しようという声も上がったが、生活に追われてその声さえもいつの間にか収まってしまった。
当時ロンドからは人口が一時流出もしたが、今では人も戻り復興も進んでいる。
しかし崩れかけたビルは、今だクレーターを中心に放射状に傾いていた。

サトミが馬に乗りクレーターに架かった橋を渡り、ひどく寂れた廃墟の数軒の家をまわって最後に小さな家に手紙を届けてお辞儀して出てくる。
橋の向こうは、けっこう配達物が多い。
伝票を確認し、大きく伸びをした。
「えーと、こちら側はこれで終わりかな。次はビルか。あー、あの崩れそうなところ、まだ住んでるんだなあ。」
また橋を渡って傾いたビルが並ぶ道を進み、伝票を確認してビルへ入って行く。
ナナメに傾いた階段を上り、並ぶドアの一つを確認して叩く。
中から老人のしわがれた声が、小さく返してきた。
「はい、はい、どちら様?」
「ポストサービスエクスプレスです、お届け物をお持ちしました。」
ドアの横のカメラがジイッと動く。サトミがニッコリ微笑み、荷物と身分証明書をかざした。
そうっとドアが開き、チェーンがガチャンと音を立てて引っ張られる。
やがてドアのスキマから、老人の顔が覗き込んできた。
「こんにちは、ラルス・メインさんから速達の郵便です。」
「おお!そりゃ息子じゃ!待っておった。」
明るい声が返り、慌ててドアを開いてサトミから包みを受け取り朗らかに笑う。
「良かった、バアさんの薬なんじゃよ。送料は?」
「元払いです、こちらにサインを。」
老人が受け取りにサインする。サトミが胸に手を当てお辞儀した。
「またごひいきに。ありがとうございました。」
「助かったよ、またお願いします。」
「こちらこそ、どうぞお大事に。」
ホッと胸をなで下ろして手を挙げる老人に、挨拶してドアを閉じる。
薄暗い廊下を歩き始めた背後で、キイッと別のドアが開いた。
サトミが足を止めると、慌ててバタンとドアが閉じる。
強盗、傷害、頻繁に起きるこの町では、常に危険がつきまとう。
階段を下りて外へ出ると、道端の草をはんでいた馬が顔を上げた。
「ベン、お待たせ。じゃ、本部にいったん帰るか。」
「むぐむぐ、終わったのか?」
馬が不味い草に不満なのか、機嫌悪そうに声を出した。
「しゃ、しゃべった?」横に寝ていた浮浪者が驚いて飛び上がる。
目を丸くして気味悪そうに、路地へと逃げ込んだ。
「ああ、持ってきた時間指定分の配達は終わり。あとは本部に届ける分だな。向こう側の配達ってさ、午前中指定が多くて困っちゃうな。まあ、気持ちはわかるけど。」
伝票を確認して、荷物の確認をする。
盗賊が狙いそうな物なんて今日の荷物にはありもしないのだが、彼らにはなにを言っても無駄だろう。
「クレーターの向こうはいやだ。」
「フフ……ここロンドは国境だったからな、前線で戦闘が激しかったんだからしかたねえさ。」
「腹減ったぞ、申し訳ありません御主人様といえ。」
サトミが苦笑して馬の首を叩く。
「了解ビッグベン、俺もだ。1時か、あの盗賊のせいで昼飯遅くなっちまったな。」
「ニンジン食いたい。」
「仕事中。」
「ちっ」
サトミが乗り込み、本部へと渋々歩き出す。
彼の馬の名はビッグベン、ロバのように小さい馬だが何故かしゃべる馬だった。



突然、あたりに車のタイヤが軋む音が響く。
やがて黒塗りの車がシルバーの車に追われ、タイヤを撃たれてスピンした。
通行人が慌てて飛び退き、車は街頭にぶつかった反動でひっくり返る。
シルバーの車が横に止まり、中から3人の背広姿の男が銃を片手に降りてきた。
運転席の血だらけの女が車から這い出すと、銃が突きつけられる。
「キーを返して貰うぞ。解除コードも渡せ。」
女が銃口を前に、後部座席を見る。
ひっくり返った車の中、後部座席の撃たれて死んだ男の横で、ワンピース姿の少女がシートベルトにつながれたまま無表情な顔で真っ直ぐに前を見ていた。
ゴリゴリと、銃口が女の額に当てられ息をつく。
「キーは確認した、あとはディスクだ。」
他の男達が車を覗き込み、少女に手を伸ばした時、女がハッと顔を上げた。
サトミが、ベンにまたがったままこちらを見ている。
サトミの腕にある、ポストアタッカーの腕章に気が付き必死で声を上げた。
「ポストアタッカー!依頼を!キーを届けて!」
女がすがるようにサトミに手を伸ばす。
「了解した」
サトミがうなずきベンから飛び降りると、男達へ向け風のように向かいながら背の刀を抜く。
「なにっ?」
驚いて男達が銃を向ける。
サトミが身を伏せ、渾身の力で刀を振った。
鋭い音を立てて風が巻く。
「うおお!」
「ぐっ!」
剣圧をまともに受け、男達が叫びを上げて車に倒れ込んだ。
サトミが指で、刀の柄にある電圧メモリを最大まで上げ、刀を返して刃を表にする。
胸を押さえ、慌てて銃を向ける男に、サトミが刀を振った。
「ギャッ!」
刀が鮮やかなほどに銃を切り、男の胸を浅く切り裂いた。
瞬間、身体中にスパークが走り髪を逆立て、泡を吹いて悶絶する。
他の2人が驚き、1人が銃を向けた。
「この!ワケもしらな……ぐあっ!」
ヒュンッ!キーーン!
腰を落とし、問答無用でその銃をサトミが切った瞬間、腕から肘にスパークが抜ける。
男がたまらずうめいてひっくり返った。
「引いて頂けますか?」
サトミに刃を向けられ、残った1人がポカンと口を開けたまま銃を降ろす。
「く……」
騒ぎを聞いて、ザワザワと人が集まり始めた。
「仕方ない、いったん引こう。」
腕を押さえた男がまわりを見回し、気絶した男を引きずり慌ててシルバーの車に乗り込み立ち去る。
サトミが刀をもどし、女のかたわらに膝をついた。
「依頼の件ですが。お届けの品は?」
女が血を吐き、そして震える手で後部座席の少女を指す。サトミが残念な顔で首を振った。
「それは困りました。生き物は郵便法で配達対象物と認められません。」
「あ…あれは……キー。人じゃ、無い。」
「ああ、そうでしたか。でしたら対象になり得ます。で、どちらに?」
「ミ…ミラノ博士……ミラノ・タチバナの家に。それと、私のバックにディスクが。
い、急いで……早く……」
サトミが車を覗き、開いたバックから飛び出しているディスクケースを拾い上げる。
中には一枚の小さなディスクが入っていた。
「こちらですね。で、お急ぎでしたら特急便となります。送料ですが、大きいですし少々お高く……あれ?」
女がうつろな顔になり、次第に息が細くなる。
「もしもし?住所をお願いします、特急便の場合お代はできれば先にお願いしたいんですが?」
困った顔でサトミがバックを差し出し、彼女の顔を覗き込む。
しかしその顔は意識も薄く、すでに死が目前に迫っていた。
「渡して……お願い」
消えそうな言葉をつぶやき、とうとう女からガクリと力が抜ける。
サトミがディスクケースで、こつんと自分の額を叩いた。
「しまったなあ、送り主が死亡の場合は着払いだけど、特急便の上に荷物が大きいから結構な額になるし……相手に聞いて、それからかな。」
遠くから、小さくサイレンが近づいてくる。
サトミが女のバックから身分証明書を見つけ、荷受け証の書類に書き込んだ。
「えーととりあえず、車から出なきゃね。」
車内の少女と目を合わせ、腰から小刀を取りだし口にくわえる。
車に潜り込んで、彼女の腰を押して支えながらシートベルトを切った。
サトミに覆い被さるように落ちてきた少女は無表情で、ひどく暗い顔をしている。
鍵というからにはアンドロイドだろうがなぜか良い香りがして、スカートを押さえる仕草に少女らしさを感じた。
「大丈夫?」
顔をつきあわせたサトミの言葉に、少女の機械の瞳孔が開く。
うなずき、彼の顔をじっと見つめた。
いくらアンドロイドと言っても、少女と鼻をつき合わせていると気恥ずかしい。
苦笑いで視線をはずし、ちらりと外に視線を向けた。
「ごめん身動き取れない、先に出るから自分ではい出せる?」
「ええ」
ようやく返事が返り、サトミがニッコリ微笑んでうなずく。
先に出て彼女の手を取ると、彼女も自分で車からはい出て来た。
「ケガは?」
「壊れてないわ。」
「ふふ、そっか。ああ、腹減ったな。」
丁度横にパトカーが止まり、降りてきた警官がサトミ達を覗き込む。
「大丈夫かね?君は?事情徴収をいいかね?」
「げっ」
サトミが少女と顔を見合わせ、ヒョイと肩を上げベンを見る。
「ちっ」ベンが大きくため息をつき、また道ばたの草をはんだ。

3、

町の中心部から少し離れた場所にある、ロンド郵便局本局。
郵便と貯金部門を業務しているが、ロンド市内の金融機関が現金を扱わないプリペイド事業に切り替えた為に、現金はここでしか扱っていない。
その為に、何度も武装した強盗に襲われたこともあり、厳戒態勢の中で通常業務を行っている。
局周辺は駐停車禁止。高い塀と金網に囲まれ、少し離れた駐車場から歩いてゲートで身分証明を掲示して入るのだが、天気が悪い時は足下が悪く極めて不評だ。
しかし、挙動不審な者は装甲車で連行されることもあるので、心なしか来局者の顔はこわばって見える。
中に入るとまず、普通郵便の受け付け。その奥では貯金部門が、金網と防弾ガラスで完全に仕切られた形で業務していた。
ポストサービスエクスプレスは、窓口は同じだが中では普通郵便部門とドアで仕切られて一つの事務所が与えられている。
実際の郵便は各所から集められて個々の区分で配達するわけだが、エクスプレスは人材不足で荒野を隔てた隣のシティまでもが区分に入っていた。おかげでいつも、盗賊に狙われるハメになる。最近郵便物が増えて忙しいので、みんなグロッキー気味だ。
ドアを開けるとソファー2つにテーブルの応接セット、横に質素な事務机が並んでいる。
事務は仕分けの作業にも出るので、常時ここに座っているワケじゃない。
ソファーにはポストアタッカーのダンクが、ゴロンと寝て背もたれに片足を上げて休んでいた。
「どけよ、ダンク。お客さんなんだからよ。」
「ん……あー?客?ふあーーあ……あっ!」
少女を見て、慌てて飛び起きてシャンと座る。
ボサボサの髪を、手ぐしで急いで整えニッコリ微笑んだ、
「すいません、さっき帰ったもので。えーと、俺に客?」
「バーカ、彼女は荷物だよ。」
「荷物?!なんだアンドロイドかよ。キャミーは?」
「外で会った。ちょっと調べてくるってよ。」
「そっか、あー眠いー」
気が抜けてまたゴロンと横になろうとした背中に、サトミが刀のさやをドンと突き立てた。
「いてっ、なにすんだよこのガキ。」
「誰がガキだよ、たった3つ違いだろうが。座ってろ、ものぐさ野郎。」
「なにい!この野郎」
「うるさい、空きっ腹にひびく。明日にしてくれ。」
「なにい!」

グウウゥゥゥーーー……

いきなりサトミの腹が、大音響で鳴った。
結局あれから昼を食い損ねて、空腹も限界だ。彼女はパトカーで送ってくれたが、ベンは空腹で激しく機嫌を損ねていて、なんとかなだめて帰ってきた。今ごろ馬屋でたらふくエサを食っていることだろう。
「チッ、この野郎、覚えてろよ。」
「あーもう忘れた。ああ、気にせずにどうぞ座って。ちょっと俺、メシ食うから。」
怒る気も失せて、ブツブツ言うダンクが気だるそうに座る前に、少女が綺麗に足をそろえ座る。
金の柔らかにカールした髪と澄んだ青い瞳が美しく、整った顔立ちはなるほど人間離れしている。水色のワンピースがよく似合い、上品な仕草は一般家庭にいたとは思えない。
トラブルを伝え聞いていたダンクは、訝しい顔でマジマジと見つめ立ち上がった。
「ふうん、こんな可愛いアンドロイドって初めて見たな。」
立ち上がって眠気覚ましにインスタントコーヒーを入れ、立ったままで飲み始める。
どんな用途のアンドロイドだろうかと、詮索しながら彼女を見ていた。
「そうか、ダンクは前線に出たこと無いんだな。前線にはアンドロイドって結構いたらしいけど。」
「ああ、サトミは前線にいたのか?」
「さあね、戦時中の事なんて忘れた。
あーあ、腹減って死ぬかと思ったぜ。ベンにもブツブツ言われるし、冗談じゃねえあのポリ公、何度も何度も同じ事聞いてよ。」
待ちかねたように包みからバーガーとコーラを取り出し、バクンと食いつく。
次いでごくごくコーラを飲み、プハーッと息をついた。
「ハイ、サトミ元気?」
ドアが開いて、エクスプレスの事務をしているキャミーが入ってくる。
彼女は赤毛をポニーテールにした、小柄のややふっくらした23才の女性だ。
とは言っても度胸は据わっていて、以前強盗が押し入った時はサトミが来るまで銃で撃ち合いをしていた。
「ああ、グレそうになったけど。」
「アハハ!じゃあ特別に豆から美味しいコーヒー入れて上げるから機嫌直すのね。」
ソファーに座る少女の視線に気がつき、サトミがハンバーガーを一個差し出す。
「食べる?」
うなずき、貰って包みを開き食べ始める少女になんだか驚いて、男達が目を丸くした。
「へえー、なんだ、やっぱり食うんだ。」
「私が何で動くかわかってないわ。」
「え、メシ食って動くの?じゃ、排泄は……」

バーン!

後ろから、いきなりトレーが飛んでくる。
振り返るとキャミーが思い切りにらんでいた。
「いてえ!何すんだよこのババア!」
「ふん」
無視してドンッとサトミにコーヒーを出し、ニッコリして少女にコーヒーを出した。
少女も彼女の笑みに釣られるように、ようやく微笑む。何となく人間くささを感じて、キャミーが彼女の隣に座って覗き込んだ。
「ごめんなさい、野暮でがさつな奴らばっかりで。」
「ありがとう、お茶がある方がエネルギー効率がいいの。」
「ふうん、大変ねえ。」
「キャミー、それでミラノ・タチバナの住所はわかったのかよ。」
サトミがコーヒーの香りにホッとして、一口口に含んだ。バーガー屋にはコーラしかないので仕方なく買ってくるけど、じつはあまり好きじゃない。
まあコーヒーも、ミルクをたっぷり入れたカフェオレの方が好きなのだけど。
それを言うと子供っぽいと言われそうで、ガマンしてる。
「ええ、それがちょっとおかしいんだけどね。」
「何が?」
「それがどうも、書き換えが今日されてるのよ、今日よ。偶然にも見えないし、なんかトラブルっぽくない?」
「そりゃあ十分トラブルだろうよ、誰かに追われているのは間違いない。俺らは言われたように届けるだけさ。特急便だしな。」
「登録住所はダスト地区になってるわ。あまり家のない空き家ばかりのところよ、滅多に配達物がない場所だけどちょっと遠いわね。着払いになるし、電話連絡しようかと思ったけど、電話は通じなかったわ。恐らく電話線が切られてるわね、人気のないところだし。盗まれてるんじゃないかしら。」
キャミーがサトミに地図を渡す。
「ま、そのおかげで俺たちの仕事も成り立つんだし、文句は言えネエな。ダスト地区か、物騒な所だぜ」
言いながらワクワクした顔。
普通のポストアタッカーは、手練れでもトラブルを回避する努力をする物だが、サトミはまったく無頓着だ。それでも今まで一度も配達物に不着がない。人によってはサトミを名指しする客もいるほどだ。
「あなたはミラノ・タチバナさんの家は知らないの?」
キャミーが少女に尋ねた。が、少女は黙って首を振る。何か大きな事が背後にあるようだが、彼女の口は重い。サトミも深く立ち入ることはしなかった。
「……ミラノ・タチバナは、私のマイスターです。しかしそれ以上申し上げることが現在できません。」
「いいさ、俺はあんたを送り届ければそれで良いんだから。話せないなら話さなくていい。」
彼の言葉に、キャミーが少し呆れて首を振る。
「サトミも物わかりがいいわよねえ。まあ、危険を危険と思わない奴だし、サトミって。」
「悪かったな。」
「そう言えばそこで2ヶ月前、普通郵便の配達員が車を強奪されたわ。今じゃ車は高級品だもんねえ。何よりガソリンも高くて維持費が大変だけど。
こっちは車より郵便物盗られた方が痛手だけどね。」
キャミーが手を挙げため息。ダンクがドスンとサトミの隣に座り、意地悪く笑った。
「へっ、お前の駄馬なら奪われる心配もねーだろうさ。短足胴長、良くあれで早く走れるぜ。」
「はっ、どんなにデカイ馬でも、根性無しの臆病な奴ならいないと同じだろうよ。」
「てめえ!俺のエリザベスをバカにしやがったなあー!」
ダンクが立ち上がりソファーに足をかけ、グーをプルプル震わせる。
サトミも立ち上がり、ダンクと顔をつきあわせた。
「お前がベンを短足胴長のワガママで口が悪い駄馬って言うからだろうがよ!おう、いつでも勝負してやるぜ、かかってきやがれ!」
「何い!」
「やめんか!」
シュッと二人の顔の間にトレーが入り、左右にそれを振ってバンバン2人の顔を叩く。
たまらず2人とも鼻を押さえてうずくまった。
「「いってえ!」」
「まったく、顔合わせればイチャイチャするんだから。」
「「誰がイチャイチャだっ!」」
ドアが開き、窓口嬢が顔を出す。キャミーを見つけて、指を立てた。
「ダンク、隣町へ特急のご依頼よ!キャミー受付お願い」
「ハーイ、……今からじゃ帰りは暗くなるんじゃない?大丈夫?」
「ダイジョウブイ、俺を誰だと思ってるよ!仕事だ仕事だっ!行ってくるぜ!
じゃな、サトミ!」
「ああ、行け行け!行ってこい!」
サトミとダンク、互いに親指を立てる。仲が悪そうに見えて、やっぱり気の合う友人なのだろう。
ダンクがガンベルトを腰に付け、少女にウインクして出て行った。
「ああ、やっと静かになった。」
サトミがようやく落ち着いて椅子に座り、少女に向かった。
「届け先まで、また追われるかもな。
まあ街中突っ切るからそんな派手なこともできないだろうさ。」
「何故追われるか、聞かないのね。」
少女が不思議そうに聞く。普通興味は派手な方に向きそうだが、彼らは少女を届けることにしか興味がないようだ。
「まあね、俺たちは手紙を届けることが仕事で、手紙の中身に興味がない。そんな物さ。」
「でも、この現状の場合、情報は少しでも多い方がいいと思われるわ。」
サトミがふうんと足を組む。
まあ、話すというなら聞かないこともない。
「なるほど、では簡潔に話してくれる?」
少女が返答にうなずき、まばたきを止め、じっと目を見開いた。
「了解、簡潔にまとめます。
私はある施設に従事していましたが、12時47分おおよそ男5名、女1名構成の人間が施設に押し入りました。
目標は私の確保だったと思われます。的確な私の存在位置の把握による迅速でピンポイントな作戦行動は、計画的犯行約85%と推測されます。彼らによって私は確保され、私はミラノ博士に危害が加えられるのを防ぐ為に同行することになりました。その時自閉モードに入るよう命令された為、その後の情報は収集できていません。」
「ほんとに簡潔だな。しかし、ミラノ博士ってミラノ・タチバナだろ?」
「そうです、が、余計なことを話すなと命令されましたので、余計なことの対照をミラノ博士に関係することと判断をいたしました。よってこれ以上お話しできません。」
「あんたは良くできてるけど、ムラがあるな。妙に人間くさいかと思えば、無機質になる。」
「そう感じることがあるかもしれません。会話は通常会話形態D—124—Aに設定されていますが、情報関係に入りますと処理能力の低下を防ぐ為スタンダードに切り替わります。」
「わかった。ミラノ・タチバナの家が、そのあんたを拉致した奴らの落ち合う場所というわけだ。さて、ミラノ・タチバナ本人の確認が必要なんだけど、果たして家にいるのかわかんねえな。
あんたは今、彼女の命を救うためと言った。つまり彼女は人質になっていると推測される。」
「お話しできません。推測は推測の域でしかありません。その確率は50%です。」
「別にイイさ、さっきも言ったろ?俺はあんたを届けることにしか興味はない。
あんた、馬に乗ったことは?」
「ないわ。」
「落ちたら壊れる?」
「そんなボロじゃないわ。それに私はER、『あんた』と言う名称ではないわ。」
またしゃべり方が変わった。
面白くてサトミが苦笑する。
「そりゃ悪かったな、俺はガサツでね。で、あんたの弱点は?」
弱点?
何かとんでもないことを聞かれて、キョンとする。
「あなたはバカ?」
「は?そうだな、ちょっとバカかもな。」
「私の弱点を聞いてどうする気?あなたの問いは、私を運ぶという目的に対する情報として、逸脱しつつある。」
「そりゃ悪いな。しかし聞いてなきゃ、いざというとき守れない。水は?」
「私はお風呂が好きよ。ボディ中のサーモスタットが働いて、強制冷却に入る瞬間のゾクゾクする感じがたまらないの。」
思わぬ答えに、サトミが手を挙げ首を振る。
彼女のアンドロイドとしての情報量は、普通より遙かに人間くさいほどあふれている。
余程稼動時間が長いのか、完成度の高い優れたAIなのだろう。
言語もそのミラノ博士が設定したのだろう、確かに味が出てる。
「あんたとは気が合いそうだ。」
「そうね、私もそう思うわ。」
二人、顔を合わせてサトミが笑うと、少女がふと目を逸らした。
「ここ、3人なの?」
「いや、他にもポストアタッカーはいるぜ。人数は言えないけどな。」
「事務は他の部署には沢山いらっしゃるのに、ここは1人なのね。」
「ああ、先月強盗に入られてさ、重傷負ってやめたのさ。エキスプレスは貴重品を届けることが多いから、狙われやすいんだ。求人はしてるんだけどね。さてと……俺の名はサトミ・ブラッドリー。君はERでいいの?」
「私はER11(イーアールイレブン)。みんなERと呼ぶわ。」
サトミが荷受け表に記入して、彼女に笑う。
「エリーだな。」
「え?」
「ほら、なんとなくエリーって読めるよ。」
少女の唇がトレースして動く。
「エ……リー……」
「さて、と。」
サトミが書類を持って立ち上がり、釣られてエリーも立ち上がる。
しかし、彼女のワンピースを見て困ったようにアゴを撫でた。
「その服、可愛いけど馬には乗れねえな。」
「カワイイ?」
スカートをつまみ覗き込む。
服なんて人間に与えられた物で、彼女にとってはただの服でしかない。
「ああ、似合ってるぜ。」
「似合ってる?」
エリーが不器用に笑い顔を作り、サトミが思わず赤くなって鼻の頭をかく。
「ちぇっ、何か狂うなー」
額を荷受け台帳で叩き、ドアを開けてキャミーに声を上げた。
「キャミー、作業服でイイからズボン借りてきてくれ。」
「ハーイ!」
エリーが窓に映る自分の姿に気が付き、そっと覗き込む。そしてくるりと一回転回った。

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