ポストアタッカー

近未来アクションSF、ちょっぴりアンドロイド少女とのラブ。
戦後通信手段が破壊され盗賊強盗が闊歩する町で、特に重要な郵便物の速達業務を行う郵便局のポストエクスプレス。
その配達員は、ポストアタッカーと呼ばれていた。
ポストアタッカーのサトミ・ブラッドリーは、ある日追われて事故で大破した車中の女からアンドロイド少女エリーの配達を依頼される。
果たしてその行く手にあるものは?

>>その1(1〜3)
>>その2(4〜6)
>>その3(7〜9)
>>その4(10〜13)完結

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**お礼画面に掌編あります。(現在連載中の、赤い髪のリリスの短編です)

7、

橋を渡るとそこはまた違う町のように思えてくる。
同じロンドでありながら、橋が出来るまで復興には手つかずだったために大きく町の印象が違う。
インフラ整備はかなり進んだが、町は今だ荒れ果てて、こちら側はとにかく泥棒が多い。
工事途中で鉄や機材が盗まれる為、なかなか工事がはかどらず白昼堂々と強盗事件まで多発して、工事を請け負う業者がなかなか手を挙げないのだ。
たったクレーター一つを境にして生活環境の違いか次第に人の目が鋭くなり、服装が貧しくなる。
なにか薄暗い町の印象に、エリーが無表情にサトミに回す手に力を入れる。
明るく輝くブローチを見て、ふと顔を上げた。
「ブローチが光ってるわ。」
「ああ、こっちに来たら盗まれないように注意するんだな。」
「あなたがいれば大丈夫よ。」
「フフ、まあもうすぐお別れだけどね。」
お別れという言葉に、何故か気持ちが揺れる。
こんなに人間と密着するなんて、初めてだからかもしれない。
でも……それ以上に…………あなたのことが知りたくなってきた。
「あなたは強いのね。どうして強いの?」
サトミが、突然の問いに視線を落とし口をつぐむ。
「……いいの、ごめんなさい。」
サトミの背には、大きな刀。
それはこの厳しい仕事の中、彼が命を預けるたった一つの武器。
「……どうして、刀なの?銃の方が効率がいいし安全だわ。」
「フフ……どうしてだろうな。俺にもわからない。」
わからない。そう返す言葉が、何故かひどく寂しい。
「きっと、この刀はあなたのために生まれたのね。
私は……誰のために生まれたのかしら……」
「きっと出会えるさ、あんたを待つ人に。」

私を待つ人……
それが、あなたのような人間ならいいのに。

目を閉じ、サトミの背に顔を寄せる。
なぜか、エリー自身の人工血液を送るポンプの音が、耳の音声集積回路に鳴り響く。
それは身体中をリズム良く打ち鳴らし、いつもと違う違和感にしかし何故か心地よく、うっとりと耳を傾けた。
「私、心に何か別のスイッチが入ったのかしら。」
サトミの背に耳を当て、静かな鼓動が次第にエリーのポンプの音と共鳴するかのようにリズムを奏でているように聞こえる。
彼女はそれに耳を傾け、安心したように目を閉じた。


闇のように黒い馬がジャリッと荒れた地面を踏みしめる。
建物の影で、その馬に乗り自動小銃を持った男が携帯の電話を切った。
「来るぞ、クラウス。」
マガジンを引き出し、重さを確認して再度銃に差し込む。
「フフ……ポストアタッカーか、どれほどの手並みか拝見しよう。」
クラウスが、腕の筋肉をほぐす。
「甘く見るな、とお達しだ。」
「わかっている、ベリアル。」

傾いたり崩れかけた家の並ぶ廃墟の中を、ベンが早足で進む。
ここは特に貧しい人々が暮らすエリアだが、さすがにポストアタッカーに手を出すバカはいない。目つきの鋭い者が怪訝な顔で見送る先で、次第に周りの人々がスッと建物の陰に隠れて行く。サトミはすでにそれに気がつき、顔を引き締めていた。
ビリビリと、肌に緊張を感じる。

大物が出てくるな。

高揚する心に反して身体の芯が落ち着き、神経が研ぎ澄まされて行く。
やがて建物のかげから、大きな黒い馬に乗った軍人の男二人がヌッと現れた。
1人は銃器をいくつも装備し、アーミージャケットには複数のマガジンが見える。
もう一人は隆とした筋肉を黒いスーツの下に感じさせ、ハンドガンと馬に折りたたみ式の刀を装備していた。
ベンが視線を左右に走らせる。
「やはり追っ手は軍か」
サトミがほくそ笑んで息を飲み、腹にあるエリーの手を軽く握り合図する。
エリーがハッと見回し、その手に力を込めた。
「ベンッ!」
「おお!」
ベンが鼻息荒く、突然走り出す。
男達が手綱を振り、馬の腹を蹴った。
ベリアルが小銃の照準をエリーの背から、ベンの尻へと移し引き金を引く。
ベンの尻に数発銃弾は当たったが、弾は肉に押し出され、スピードが落ちる気配はない。
「ちっ、なんだ?あの馬は」
クラウスに目配せ、クイッとアゴで指す。
男2人が馬のスピードを上げ、ベンはあっと言う間に追いつかれて左右の黒い馬にはさまれた。
「そのアンドロイドを渡せ!」
左右の男が銃を構え威嚇する。
「荷受け人に届けるのが俺の使命だ。」
「若くして死に急ぐこともあるまい!」
今まで何度聞いたろう、その言葉にクスッと笑う。
そして次の瞬間、サトミの顔つきが変わった。

「俺を、銃で殺せると思うな。」

ハッと男達がその鋭い気に気圧される。
サトミが、背中から刀を抜くと同時に居合いで右手のクラウスに振り下ろした。
「むんっ!」
刀が剣圧が巻いて男を襲い、反射的に手綱を引いて後ろに逃げる。
馬の鼻先をブオンと風が鳴り、馬が驚いて目をむいた。
「くははっ!刀でなにができるか!」
左からベリアルが銃を撃つ。サトミが身を引いてそれを避け、ニヤリと笑った。
「ならば刀の怖さ、教えてやろう」
一旦はスイッチを入れた刀の柄にある電撃を、親指でレベルを下げスイッチを切る。
刀からスパークが消えた。
「ふん、刀は届くまい」
右利きのサトミにニヤリとほくそ笑んだ瞬間、ベンが一気に左のベリアルに身体を寄せる。
「なにっ?!」
反射的に小銃を連射するがサトミは両手で刀を持ち弾丸を切り、弾いて行く。
そしてそのまま右手を離して刀を左に持ち替えた。
「ふっ!」
一気に上段からベリアルの胸と銃を持つ右腕を切り裂く。
「ぐあっ!ま、まさか!」
右腕は半場まで切られ、銃をたまらず落としてしまった。
血を吐きながら顔を歪め、左手で肩に担いでいた自動小銃をさぐる。
「ベリアル!」
クラウスが追いつき、サトミを背後から数発撃って援護した。
しかし身体をねじり、難なくそれを弾いて刀を手の中で返し、反撃の間を与えず一気に刀を振り下ろす。
なんというちゅうちょの無い攻撃か。
血しぶきを上げ、数発反射的に撃ったベリアルの動きが愕然と止まった。
走り続ける馬に身体が後ろへ傾き、銃が音を立てて2つに割れる。
ベリアルは白目をむいて、馬から落ちて行った。

8、

「おのれええ!!」
相棒が倒され、クラウスが憤怒の形相でベンと並び、ハンドガンを数発撃つ。
エリーが思わず身を縮めた瞬間、サトミが大きく身体を左に傾け弾を避けた。
「ぐうっ!」
クラウスが気がつくと、銃を持つ手に小刀が刺さっている。
サトミが日本刀を口にくわえて身を避けた格好のまま、左手で手綱を持ち、右手で小刀を投げたスタイルでニヤリとほくそ笑んでいた。
「このっ!」
腕から小刀を抜き、銃を腰にもどして馬に取り付けていた折りたたみ式の刀を抜いた。
片手に持って大きく振り、遠心力でジャキンと金属音を放ち柄を伸ばす。
長い柄の先には大きな刀が波紋をうねらせ、日の光に妖しく輝いた。
「へえ、長刀(ナギナタ)って奴か。」
馬だからこそ、接近戦で長刀ブレードの使い手がいるとは聞いていたが、サトミも見るのは初めてだ。
「フフ……その短い日本刀で!」
頭上で両手を使い長刀を一回転させる。
風を切る音がうなりを上げ、クラウスがほくそ笑んだ。
「これに勝てるか?!」
一気に突きを繰り出す。
サトミは身を起こしながら刀を右手に持ち、見事に突きをはじき返してゆく。
刀同士の戦いに火花が弾け、エリーが恐怖も忘れてそれに見とれた。

まるで、それは剣舞のように芸術的でもある、隙のない美しさ。

しがみつくサトミの身体は、服の下でしなやかに、そして鋼のようにうねりを繰り返す。

「うおおお!」

大きく弾かれた長刀が、よどみなく弧を描いて風を切り、再度刃がサトミの首を狙って前から来る。

キインッ!ギキッ!

サトミはそれを、手綱から手を離し左手を刃に添えて刀で受け止めた。
刃が合った瞬間、耳をつんざくような金属音を上げ、火花がサトミの顔に飛び散る。
サトミは目を閉じ、身を伏せながら刀を上へ流した。
「やるな!だがただの長刀と思うな!ダマスカス特殊ブレードぞ!」
クラウスがぐるりと長刀を一回回し、手に持ってニヤリと笑う。
「ご大層な名前だな。」
サトミがフフッと笑みをこぼし、クラウスが茶化されカッと顔色を変えた。
「おのれ、その首貰った!!」
ぐるりと回して腰に長刀の端をかけ、てこの原理で一気にサトミの後方から刃を向ける。
ハッと思わず頭を下げるエリーの頭上を、後方から長刀がサトミを襲う。
サトミが目を閉じたまま、身を起こし刀を返して右手で渾身の力を込めて後ろに振った。
長刀の柄が火花を上げて2つに切られ、ヒョイと顔を引くサトミの鼻先を切れた柄がヒュンと過ぎて行く。
先の刀は、クルクル回って呆然と見守る浮浪者の髪をそり落とし、民家の壁にドスンと突き刺さった。
思わぬ攻撃にクラウスが馬上でバランスを崩しながら、呆然とその切られた柄の先を見る。
「貴様!」
その柄を槍のように、サトミに向けて突き出す。
サトミがベンに合図し、ベンが左に避けてサトミが刀で槍をなぎ払う。
「クッ!」ならば!
クラウスがとっさに馬をベンに寄せた。
槍を後ろから振り、2人が避けた瞬間エリーに手を伸ばす。
一瞬その腕を切ろうとしたサトミが、エリーの存在にちゅうちょした。
「キャ!」
むんずと彼女の腕を掴む手に、サトミの目がカッと見開く。
「エリー!目を閉じろ!」
そう言った瞬間、男の大きな腕は肘から切り落とされていた。

「ぐああおおおお!」

咆哮を上げ、男が柄を放り腰のハンドガンを抜いて引き金に指をかける。
しかしその瞬間、その指がピクピクと震えながら動きが止まった。
愕然とサトミを見た男に、彼は真っ直ぐ刀の切っ先を向け微動だにしない。
クラウスは動きを止めたまま、恐怖に声を震わせた。
「身体が……動かない!何故だ?!」
「何のことはない、お前と気を合わせたのだ」
その瞳が鋭くキラリと輝く。
高速で走り続ける馬の足。
後ろからようやくサイレンを上げパトカーが追いかけてくる。
刃の向こうで、サトミがニヤリと笑った。
ゾッと全身の血が下がり、心なしか歯が小さく鳴る。

これが、恐怖か!!

この鍛え抜いた身体で、こんな少年に抗うこともできず死ぬのか?!
「き、キサマは何者だ?!まさか……まさか血の…!」
サトミが言葉を遮るように刀を一気に後ろへと振った。
それをトレースするようにクラウスの身体が後方へ吹き飛ぶ。
「うおおお!!」
馬から落ちながら、恐怖の表情でとっさに頭を庇った。
迫るパトカーの中で、警官の顔が引きつってハンドルを握りしめる。
悲鳴を上げて、クラウスの目が大きく見開かれた。
次の瞬間、その身体がパトカーのフロントガラスにつっこんで行く。
パトカーはそのまま壁に突っ込み、あとにはクラクションが鳴り響いた。

9、

後ろから、追ってくる気配はない。
家が途切れ、舗装されていない道をベンがスピードを落とし、歩き始める。
草の生い茂った空き地が点々として、崩れた家と新しい家もちらほら見えた。
しがみついていたエリーが、ようやく頭を上げる。
サトミは標識を見て、林の広がる方向へとベンに合図した。
「ケガは?」
「大丈夫、壊れてないわ。」
「恐かった?」
「いいえ、感情をオフにしていたから。」
違う、本当はそれさえも忘れていた。
でも、彼がいるから恐くはなかった。それは一つのバグかもしれない。
でも、本当に、まるで目の前で繰り広げられる演舞のようだと思えたのだ。
サトミがフフッと笑みを漏らす。
「君が普通の女の子じゃなくて良かったよ。」
「あなたが普通の男の子じゃなくて助かったわ。」
エリーが手を緩め、左手で乱れた髪を押さえる。ブローチの無事を確かめホッとした。
サトミが手綱を持ち、左手でベンの首を軽く叩く。
しばし考え、口を開いた。

「俺、昔……目が見えなかったんだ。」

「目が?」
「ああ、でもある日軍人のスカウトが来て、目を治してやるって言ってきたのさ。交換条件は、見えるようになったら軍に入ること。親は反対したけど、俺はどうしても見えるようになりたくて飛びついた。バカだな。」
「いいえ、当たり前だわ。」
「戦争行って、死に物狂いで生き残って。ようやく家に帰ってみると、街の真ん中にでっかいクレーターはできてるし家族は生死も居所さえもわからない。声だけしか……顔も、知らないんだ。
目が見えるようになっても、一度も帰ることを許されなかったから。
はは…見たこともない家族なんて、捜しようもないじゃないか。俺…俺って本当にバカだよな。今じゃさ、家族はコイツだけだ。」
自嘲するように寂しく笑う。ベンが振り返り、サトミが答えるようにベンの首元を撫でた。

「でも、あなたのおかげで戦争は終わったわ」

エリーは静かに青い空を見上げ、そして彼の耳元に優しくささやいた。
「平和な世界にはまだ遠いけど、だからこそあなたのような人が必要なのよ」
エリーの温かな言葉に、撫でる手を止めて目を閉じ、そして顔を上げる。

家族の声しか知らない。

だからこそ、ずっと声を追い求めている。ポストアタッカーを選んだのも、それが理由の一つだ。
でも、いまだ家族の声は聞けない。
だんだん記憶も曖昧になっていく気がして不安だった。
ベンが顔を上げ、そして振り返りニイッと笑う。
「色男」
人の気持ちなんて、ほぼ考えてねえ。
まったく、こいつの軽い脳みそには救われる。
サトミがボカッとベンの首を殴った。
「痛いじゃないか、ごめんなさい御主人様といえ」
「フフ……いいから急げよベン」
「へっ」
ニイッと笑ってベンが足を速める。
エリーが青い空を見上げ、そしてブローチを撫でた。


郊外の林の中を、車一台やっと通れるほどの細い小道が続く。
空き家が多いところとは聞いていたが、確かに町から遠すぎる為かあまり人の気配はない。
静かな中に、鳥の声が響いて羽ばたいていった。
サトミがポケットから荷受け表を取りだし、住所を確認する。
「この先の一軒家だ。お疲れ」
「もうすぐお別れね」
「また会えるさ」
エリー、うつむき目を閉じる。

「そうね……」

サトミもわかっている。
恐らくもう、二度と会うことはないだろう。
彼女のマイスターだというミラノ・タチバナは、この家にいない。
軍と敵対する何かが、彼女を欲して、そして連れ去ってしまうのだろう。
「あなたがいてくれたから、安心だったわ。ありがとう。」
「いや……」
これも仕事だ。だいたいこの子はアンドロイドじゃないか。

でも、こんな気持ちは…………何故だろう、胸が、痛い。


ゆっくりと、2人と1頭を遠くから追う車が、林道に入る彼らを見送る。
運転席の若い男が、ちらりとバックミラーを見た。
後ろの席のスーツ姿の男が、電話を耳に、車を止めてそのまま待つように合図する。
「あのポストアタッカーは……そうか。なるほど、わかった。」
『目標確認しました。外に6名、中は確認中。スナイパー2名待機していますが、位置につけますか?』
「いや、待て。ミラノ博士は?……わかった、そのまま待機しろ。
敵も相応の武装をしているだろう、死傷者は最低限に抑えなくてはならない。作戦の合図を待て。」
電話を切って、しばし考える。
部隊を突撃させるとリスクはどう変動するか。

死傷者の予測は……
周辺の被害は……
あの、キーを人質に前面に押し出された場合の対処は……

「利用できるものは、利用するか……」

男の鋭い目が林に向き、またコールが鳴る電話を忙しく取った。



木立の間から、小さな家が見えてくる。
しかし庭先は荒れ果て、人が住んでいないことを思わせる。
エリーの手が、不安そうで落ち着かない。
いわく付きを感じさせるように、建物の玄関先にはスーツ姿の男達が数人うろついている。
しかし時は無情にも、待ちかねたようにサトミ達を迎え入れた。




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