ポストアタッカー

近未来アクションSF、ちょっぴりアンドロイド少女とのラブ。
戦後通信手段が破壊され盗賊強盗が闊歩する町で、特に重要な郵便物の速達業務を行う郵便局のポストエクスプレス。
その配達員は、ポストアタッカーと呼ばれていた。
ポストアタッカーのサトミ・ブラッドリーは、ある日追われて事故で大破した車中の女からアンドロイド少女エリーの配達を依頼される。
果たしてその行く手にあるものは?

>>その1(1〜3)
>>その2(4〜6)
>>その3(7〜9)
>>その4(10〜13)完結

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**お礼画面に掌編あります。(現在連載中の、赤い髪のリリスの短編です)

10、

門前に来ると、エリーがギュッとサトミの身体を抱きしめる。
サトミは彼女の手を握り、そして二人ベンから降りた。
足の進まない彼女の手を取り、玄関までゆっくりと進む。
ひどく冷たく見えるドアの前に立ち、チャイムに手を伸ばす。
しかしそれを押す前に、ドアが勢いよく開いた。

現れたスーツ姿の若い女が、サトミとエリーの顔を見る。
一呼吸置いて、エリーを見て明るい顔になり嬉しそうに作り笑いを浮かべた。

「ER、良く無事で!心配していたのよ。」

サトミが一礼して、身分証明書を見せる。
「こんにちは、ポストサービスエクスプレスです、お届け物をお持ちしました。
ミラノ・タチバナさんですか?」
「ええ、そうよ。」
「失礼ですが、住民IDカードを。」
「待って」
女がジャケットのポケットから住民IDカードを取り出しサトミに渡す。
「失礼します。」
サトミが腰のディーバックから器械を取りだし、カードを通して確認する。
「こちらに指を置いて頂けますか?」
器械をさしだし、女がパネルに指を置く。
ブルーランプがつき、サトミはうなずいてカードを返した。
「ありがとうございます。確認取れましたので、こちらの受け取りにサインをお願いします。それと、着払いになっておりますが。」
「いくら?」
「はい、エクスプレスの特急便に、サイズが150を越えますので130ドルになります。」
「高いのね。」
「申し訳ありません。特急便には特に危険料金も含まれております。」
金を渡して書類にサインすると、サトミがディスクを女に渡す。
エリーが家に入り、そばにいた男に着替えたいと頼む。うなずく男が一つの部屋を指さすと、エリーが振り向いた。
「ちょっと待ってて、お借りした服を返しますから。」
「ああ、わかったよ」
女がエリーをにらむが、エリーはかまわず白いドアに消えて行く。
辺りを見回すサトミに、女が訝しい顔で聞いた。

「あなた、ポストサービスに入る前はどこに所属していたの?」

「申し訳ありませんが、答える義務はありません。」
「フフ……ずいぶん腕が立つそうじゃない。日本刀なんて珍しいのね。」
「ええ、ありがとうございます。」
「剣なんて誰に習ったの?」
「父が趣味で、自己流ですよ。おかげでなんとか食っていけます。」
「趣味ねえ……クク。どう?私の下で働かない?
郵便局の安月給より、うんとマシよ。もったいないわ、その腕。」
「お気持ちだけ受け取っておきます。俺も長生きしたいので。」

ほくそ笑むサトミに、女がムッと眉をヒクつかせる。
白いドアが開き、ワンピース姿のエリーが作業着を袋に入れながら出てきた。
「ごめんなさい、待たせて。」
「いや、いいよ別にあとは帰るだけだし。」
エリーがサトミに袋を手渡し、その手を袋の下でギュッと握る。
そして満面の笑顔で笑った。

「ありがとう、会えて良かった。ブローチ、大事にするわ。」

それだけを言って手を離し、胸のブローチに愛おしそうに両手を当てる。
無言の言葉が、サトミの胸に届いた。

「エリー……」

サトミが複雑な顔で彼女に見入る。
女が横で急かすように咳払いし、サトミがハッと我に返った。

「いや、あの……」

「さあ、ご苦労様でした。もう帰って結構よ。」
女が二人の間に割って入り、サトミとエリーが女を戸惑いながら見る。
エリーが後ろに下がり、サトミに笑って手を振った。
これ以上、何をどうすればいいと言うのか、彼女はただの荷物だ。
自分はそれを届ける、ただのポストマンでしかない。
サトミが諦めて、苦笑いで頭を下げた。
「ありがとうございました。またのご利用をお願いします。」
「じゃ、また縁があったら会いましょう。それまで生きている事ね。」
女がフンと鼻を鳴らし、サトミの目の前で玄関のドアを重く閉じる。

袋を手に、とぼとぼとベンの元へ戻った。
ベンが、フンと一息鼻でため息をつく。
「ベン、じゃあ帰ろう。」
サトミが袋を肩にかけ、ベンに乗り込み歩き出す。
これから彼女はどこへ行くのか。
家を囲む男達の視線はかつての戦場を思い起こさせ、誰もいない背中がひどく寒々としていた。


林の小道を心なしか寂しく歩く、ベンの足。
振り返っても、木立に隠れて家も見えなくなって行った。

「いいのか。」

「仕方ないさ、仕事なんだ。」

静粛の中、木が風にざわめき、鳥がさえずりながら飛んで行く。
ベンが振り返り、呆けたサトミにため息をついた。

「隙だらけだ」
「そうだな」
「死ぬぞ」
「そうだな」

日が傾いて、もう少しで沈み始める。
明るいうちに橋を越えないと、無用な戦いをしなければならないかもしれない。
サトミが顔を上げ空を見る。
雲が、風に流され形を変える。

「俺は……何を見たくて目を治したかったんだろう……」

答えはごく簡単なはずなのに、本当に見たい物はまだ何も見ていない気がした。




林が途切れ、目前に開けた道が続く。
サトミがふと目を辺りに走らせ手綱を引き、ベンが足を止めた。

「お前、軍の人間だな。何の用だ」

黒いスーツを着た男が、木の陰から出て前に立つ。
髪をオールバックになでつけ、上着の下には銃が見える。
何か威圧的な雰囲気が、かなり上の人間だろうと臭わせていた。

「君は、また会えると思うのかね?あの彼女に」

サトミは、無言で男を見据える。
「彼女がここへ来た理由をわかっているのか?」
「さあな、彼女を届けるのが俺の仕事、それだけだ。」

「彼女は、この町を破壊する為にここへ来たんだ。」

サトミの目が大きく見開かれた。
「あれは、核爆弾の起爆スイッチを入れるカギだ。戦時中、最後の審判者として彼女は作られた。」
「何の為に」
「さあ、容易に人間がそのスイッチを入れない為……かね?核など望まない者の最後の抵抗だろう。」
「……だろうな」
「爆弾は地下にあり、いまだ信管の撤去が終わっていない。しかもそれは、このロンドにある。」
サトミが眉をひそめる。
「クレーターの下にあるのだよ。あれは軍の地下基地を攻撃されたのだ。爆撃機に積み込むため、信管を入れた所であの爆発。
核は爆発を逃れはしたが、あの下に眠っている。今回クーデターを起こそうという者達は、それを利用しようとしたのだ。」
サトミが一つ、ため息をついた。
結局軍の内紛でしかない。それに巻き込まれた彼女が可哀想だ。

くだらない……

「信管入れたまま放置した、軍の怠慢だろ。」
「それは……否めんな」

「軍って奴は、マジでくだらねえ。そのクーデターを起こそうって奴だって、どうせ軍の造反組だろうよ。よほどこの平和が気に入らないのだろうさ。内輪で殺し合ってろ。」

サトミが吐き捨て、ベンが歩き出す。

「しかし、そう言う君もいまだその刀を振るっている。」

サトミが無言で通り過ぎる。
黒服の男が思わず声を上げた。
「サトミ・ブラッドリー、君は利用されて悔しくないのかね?この町がどうなってもかまわないと?」
「俺はポストアタッカーだ。何であれ、頼まれた荷物を届けるのが俺の仕事。あんたは誤解している。」
「特殊殲滅部隊……血の十字軍、ブラッディークロイツか。戦時中、最も恐れられた部隊だ。まさか、その1人がこんな所で郵便配達とは恐れ入った。軍に戻る気はないかね?
金なら前の倍を出そう。」
そんな部隊名、もう聞きたくもない。
体のいい殺し屋部隊だ。
時には味方さえ、口封じに夜間襲撃を命令された。
人を殺すのに慣れた自分がどんどん嫌いになって、鏡さえ見るのがイヤになった。
余程今の方が、生きていることに充実している。
戦場で家族からの手紙を待ち続けた自分には、手紙を待ち望む相手の気持ちが良くわかる。

結局、自分には家族から一度も便りは来なかったけれど……

手紙を受け取る人達の笑顔が、この冷え切った心の救いになっているんだ。

「同じ命をかけるなら、俺はポストアタッカーを選ぶ。それだけだ。
金なんかじゃねえ。」

歩みを進め、男から次第に離れて行く。
男が舌打ちし、声を上げ振り向いた。
「ミラノ・タチバナは奴らに拉致されている。彼女はすでに引退した老婆だ。」
サトミがベンを止めた。
やはりあの女は本人ではなかったのか。
「ERは軍の施設から強奪されたのだ。産みの親の彼女を人質に取られ、今は大人しく従っている。サトミ・ブラッドリー、我々は今後、もちろんERを利用する予定はない。核は撤去を予定している。それでも立ち去るのかね?」
ベンがジロリとサトミに視線を向ける。
サトミはうつむいて目を閉じ、そして鋭い視線を前に向けた。

「お前を利用しようなんて、あいつお前よりずる賢い。」

確かに。

公にしたくない、こいつらの口先に乗るのもしゃくだ。が……
「ふふ……ベン、荷物を取り返しに行くぞ」
ベンがパッと明るい顔になった。
「おお!」
ベンとサトミが目を合わせニヤリと笑う。
そしてきびすを返し、一息に男の脇を通り過ぎていった。

11、

ミラノ・タチバナの家……となっているのだが、その家の中では客間に女や男達が集まり、ソファーに座るエリーを取り囲んで出発に取りかかっていた。
部屋にいるのは女1名に、男4名。
家に残されていた家具をそのまま使っている。
最近まで人が住んでいたらしい形跡はあるが、すべて残されているのを見ると持ち主が死んだのか夜逃げでもしたのか。
おかげで利用しやすいと目をつけ、鍵を開けて勝手に利用した。
彼らのアジトの一つだ。
しかしエリーが届いた時点で、ここは軍にしれたと判断していい。
即刻退去する予定だ。

「私は、どうなるのですか?」

エリーが無機質な声で問いかけた。
「まあ、何が心配?」
「いえ、これからどこへ行くのかと思いまして。」
不安が、エリーに質問をさせた。
女が怪訝な顔で、ムッとしたのか冷たく彼女を見下ろす。
「ずいぶん口数の多い子ね。命令に従えばそれでいい、ロボットが質問なんかするんじゃないわ。」

「あ……」

タバコを吸っていた女が、エリーが膝の上に組む手の甲でタバコを消した。
「痛みがあるって言うなら、質問にも答えてあげるけどね。クク……」
人工皮膚が焼けこげ、白い手に薄く煙が上がる。
痛みのないその手が、人間ではないことを強く印象づけた。

サトミ……サトミ……
ああ…………私は、あなたにとっては一体何だったのかしら。

女が視線をはずすとエリーは悲しい顔で傷を撫で、そしてそっと目を閉じた。
「では、2班と落ち合おう。」
「ええ。」

ピンポーーン


皆が立ち上がりかけたとき、チャイムが室内に鳴り響く。
怪訝な顔で、ドア近くの男が軽く手を挙げた。
「俺が出る」
男が廊下を歩きながら銃を後ろ手に隠し、玄関のドアを開く。
ドアの向こうでは、サトミが刀を片手にニッコリ笑っていた。
「なにか?」

「荷物を、返して頂きます」

「何?!」
外にいた男達は、すべて倒されているのが見える。
サトミが刀を男の鼻先に突きつけ、そしてスパークの散る刃をキラリと輝かせた。

「ポストアタッカーを舐めて貰っては困りますね」

サトミが静かに、そして鋭い声で告げる。
少年の一変した雰囲気に圧倒され、男が恐怖にすくみ慌てて銃を構えるが遅い。
振り上げた刀に、声もなく男の身体が感電して倒れて行った。
サトミが目を閉じ、耳を澄ませ人のいる場所を探る。
そして確信を持って顔を上げた。




落ち着かない人間達の横で、エリーがまさかと予想される事態を想定する。
でも、何度頭の中でこれまでの情報を処理しても、それを無視して感情が強く声を上げる。
胸のブローチが、それを後押しする。

サトミ?まさか……いいえ!サトミだわ。彼は、きっと来てくれる……
……いいえ……違う、そんなことあるわけ無い。私はただの荷物だもの。
でも、でも、彼は…………


「玄関、遅いわ。」
ソファーに座る女の言葉に、若い男がふと顔を上げ、胸から銃を取りマガジンを確認する。
そしてドアに向かった。
「俺が見てくる。」
ドアに手をかけた瞬間、一番戦績がある顔に傷のある男がハッと顔を上げた。

「待て!」

「え?」
若い男が振り返りざま、ドッとドアを突き抜け刀が肩を突き抜ける。
「ギャッ!」
瞬間、身体をスパークが走り、髪が逆立った。
ドカッと、勢いよくドアが開きサトミが姿を現す。
エリーが振り向き、ハッと口を開いた。

「エリー、目を閉じ耳をふさげ。そこを動くな。」

静かに継げる彼の言葉に、エリーがうなずいて手を合わせ、目を閉じじっと座る。
彼の言葉はいつもと変わらず、何ら動揺も見えない。

サトミ……サトミ・ブラッドリー…………

エリーは何度もその名を心の中で叫び、そっと胸のブローチに手を当てた。

12、

サトミが刀から電撃を切り、ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。
そして女に向けて刀で指し、鋭い視線を送った。
「あなたは偽造したIDカードでミラノ・タチバナを名乗りましたね。彼女、返して頂こう。」
女が舌打ち、慌ててバックを取り銃を向ける。
「無事に届けて貰って感謝するわ。でもすでに用は終わった、ポストアタッカー!」
女が銃を放つ。

キイン、キンッ!

サトミが刀を振り、銃弾を切った。
「えっ!まさか!」
女が驚き、顔に傷のある男が身を乗り出す。
そしてハッとした顔でサトミに銃を向けた。

「貴様!戦時中見たことがあるぞ。」

「それは、お久しぶりです。」

サトミがクスッと笑う。
「この!殺人狂が!」
男2人が銃を撃つ。
刀を横に振り弾丸を2つ切って、他を避けながら身を低く落とし踏み出し飛び上がる。
風を切り、傷の男へ刀を振り下ろした。

ギィィン!

「うおっ!」
辛うじて刃を銃身で受けるが、なんと力負けして切っ先が顔に迫る。
ギラギラと輝く鋭い刃を目にして恐怖に汗がドッと噴き出し、顔を背けた。
しかしその刀が、じわじわと下がって行く。
サトミはニヤリと笑って刃を滑らせ、グッと突き出した。

「ぐあっ!」

刃が男の右の肩口へと突き刺さる。
サトミの冷笑が、魔物のように見えて寒気が走った。

「黙って彼女を引き渡して頂けませんか?」

苦悶の表情で、刃を受ける銃が震える。
「く……くそっ!」

「離れなさい!」

横から女が銃を数発撃った。
それを腰から取った小刀で受けてはじき返す。
「ひっ!」
跳弾が一発、窓際の男の腹に当たった。
「い……つ!」
窓際にいる男が、腹を押さえてうずくまる。

「おや、当たってしまいましたか。申し訳ありません。」

馬鹿にしたような軽い言葉に、サトミの余裕を感じる。
「この……くそ!」
傷の男は苦悶の表情を浮かべながら左手で探り、近くのスタンドを握ってサトミに投げつけた。
サトミが引いた瞬間、窓際の男が腹を押さえながら銃を撃つ。
受け止めたスタンドを盾にしながら、そのままその男に投げつけた。
「うわっ!」
スタンドが銃弾を受け壊れながら、男に当たる。
傷の男は右肩を押さえ、よろめきながら壁に背を当て震える手で銃を上げた。
しかし容赦なく刀が閃き、男の胸を真横に切る。
「がっ!」
切れたネクタイが飛び、とうとう傷の男が胸を押さえてひっくり返った。

「うわああ!」

悲鳴を上げ、窓際にいた男が震える手で銃を放つ。
サトミがヒョイと顔を逸らしてそれを避け、軽やかに飛び上がりソファーに足をかける。テーブルを飛び越えながら刀を返し、悲鳴を上げる男の肩口に峰打ちを打った。

ガターン!

声もなく白目をむいてひっくり返る男には目もくれず、サトミがくるりと女を向く。

「ひい!」

すくみ上がり、震える手で女がエリーに銃を向けた。
「う、撃つわ!近づいたら、う……」
かまわずサトミがテーブルを走り女に向かう。
刃を女の鼻先に突きつけ、そして顔を見合わせた。


「撃つ前に切る」


感情さえ感じないその言葉は、容赦などみじんも感じさせない。
女が凍り付き、大きく目を見開いてサトミを見る。

相手が、悪すぎた。

ポストアタッカーを使ったと聞いて、利用できると思った自分はなんと甘かったのか。
それよりも、この少年のことをもっと調べさせるべきだった。

ふと、エリーが目を開き顔を上げた。
銃の向こうには、女に刀を突きつけるサトミの姿。
小さく首を振り、そして微動だにできず凍り付いた女の手から銃を取り上げた。

「終わったわ、サトミ。」

「ケガは?」
「大丈夫、壊れてないわ。」
しかしその手に、タバコのヤケドを見てサトミの目が見開く。
「それは……」
「このっ!」
その一瞬を突いて、女が袖口からナイフを抜き投げる。
とっさに避けたサトミに、間髪入れず腰からサバイバルナイフを抜き斬りかかった。

キイン

それを刀ではじき返し、何を思ったかサトミが開いた左手を女の顔に向ける。
「な…………?!」
何か言いようのない恐怖に、女の顔が引きつる。
サトミは瞬時に気を一点に集中し、一気に発勁をかけた。

「ハァッ!」

「ひっ!」
まるで、見えないハンマーが襲ってきたように感じた。

「……ぐがッ!」


大きな衝撃が、女の顔にまともにぶち当たる。
グシャリと鈍い音がして、女は歯が折れ鼻がつぶれ、口から血を吐いて白目をむき後方へ吹き飛んでいく。
床に横たわる女を冷たく見下ろし、サトミは刀を一振りしてさやに収めた。


「な……んて奴。」

傷の男が、うつろにつぶやく。
胸の傷は浅いのか、今は肩の傷だけを押さえて横たわっている。
サトミはエリーのヤケドの様子を見て、いたわるようにハンカチでしばり、そしてちらりと傷の男に視線を向けた。

「俺は、男も女も容赦しない。だが、無駄な殺生はできないのでね。俺は今、ただのポストアタッカーだ。」

テーブルの女のバッグからディスクを取り出し、確認してポケットに入れる。
これで荷物は取り戻した。あとは本物のミラノに渡すだけだ。
「クソッたれ。こんな死神を野放しにして……軍は何考えてる。
こんな事で作戦が失敗するとは……」
口惜しそうな男の言葉に、エリーがうつむきそしてサトミに寄り添った。
「……いいえ、私はきっと、あなた方のお力にはなれなかったと思います。
私は、あなた方の命令を聞く気はありませんでした。」
「馬鹿な……たかがロボットが……」
「私は…………ロボットではありません。私は、エリーです。」
エリーが顔を上げてサトミの顔を見る。そしてハンカチを巻いた手で愛おしそうにブローチに手を当てた。

「ふざけやがって……この…………覚えてろ……よ…………」

傷の男の言葉が途切れ、意識が遠のいていく。
「いいや、忘れるさ。俺は前だけを向いて歩きたい。」
そう答えるサトミが彼を見ると、すでに気を失って聞いていない様子だった。


「この銃どうしましょう?」
「ああ、俺が預かるよ。」
サトミが彼女の手から銃を受け取った。

エリーに銃は、似合わない。
俺は、彼女を……ずっと……守っていきたい。

サトミは強烈に言いようのない気持ちがわき上がって、エリーを見つめた。
「そうだな、君はエリーだ。アンドロイドである前に、エリーという1人の女の子だ。」
突然ドカドカと、足音が響き渡る。
「行こう、エリー。」
手を引き、サトミが部屋を出て行く。
それと入れ違いに、数人の軍人が銃を構えフル装備で部屋に飛び込んで行った。

13、

軍人が家の庭先に倒れている男達を、次々に連行して車に乗せて行く。
結局あの黒いスーツの思惑通りに、サトミが動いてくれたことになる。
それも考えると腹立たしい物だが、今はエリーが無事で何よりだ。
彼女が彼らの思い通りに動かないとしたら、彼女がもし彼らの言うとおりに動いたとしたら。
どちらにしても、事態は悪化する以外何もない。

「助けに、来てくださったんですね。」

サトミとエリーが廊下を歩み、遅すぎる軍の介入を横目に庭に出る。
「……いや、えーと、結果的にはそうなるかな。受取人が別人だったってのが大問題だったんだけど。」
サトミが鼻をポリポリかいて、何となく視線を逸らす。

「私、何故かきっと来て下さると思っていたのです。何故でしょう、確率的にそれはとても低いことなのに。何かバグでしょうか?」

「……それは…………直さなくても良いバグだと思うぜ。」

「いいえ?バグはすみやかに報告しなければなりません。プログラムの不備が見つかる確率が高いからです。でも、サトミは何故報告しない方が良いと判断されたのでしょうか?」

「え?えーっと、そりゃあ、……うーん。
まあ…………好きにしてくれ。俺もあんたには負けるよ。」

何を言っても、今は問いで返される気がする。
こういうとき、サトミも上手い言葉が浮かばず頭が痛い。
庭の草をムシャムシャ食べていたベンが、サトミの言葉に耳を立てて近寄ってきた。

「終わったのか?」
「ああ」

丁度、そこへ門前に黒塗りの車が止まった。
中から黒服の男が降りてきて、年老いた婦人……ミラノ・タチバナを車から降ろす。
ミラノがエリーを見てホッとした笑顔を見せ手を挙げた。

「イーアール!」

「博士!」
エリーが駆け寄り、ミラノに手を差し伸べる。
ミラノは安心したようにエリーを抱きしめ、そして彼女の顔を優しく撫でた。
「ああ、良かった。ER、本当に無事で良かったわ」
「はい」
サトミが歩み寄り、ミラノに微笑み一礼する。
「ミラノ・タチバナさんですか?」
「ええそうよ。私はタチバナです。」
「ポストエクスプレスサービスのサトミ・ブラッドリーと申します。お嬢さんと、このディスクをお届けに参りました。」
サトミがミラノにディスクを渡す。
「ありがとう、サトミさん。あなたのおかげだわ、感謝します。」
受け取りにサインして、ミラノがサトミと握手する。そしてミラノが黒服の男を向いた。

「ERのことは、戦後もっと早く言うべきでした。この子は起爆スイッチなどではありません」

「は?それでは……」

黒服の男がポカンと口を開ける。
「では、起爆のためのカギは?テストでは確かに……」
「ERは、衛星通信により起爆スイッチの操作が可能なのです。カギなどではなく、むしろオペレーター的存在です。
スイッチを入れることは可能ですが、信管が入った時点でそれはロックされ、爆発させるのはそのロックを解除する必要があります。その為のキーは、あるディスクにある暗号コードプログラムで割り出します。」
「では、本当の鍵はディスクとなるのですか?」
「そうね、でも……」
ミラノがディスクをかざす。

「このディスクはダミーの方よ、本物は壊してしまったから。」

「こ、壊した?」

「ええ、だって私は核反対派ですもの。
生きてるうちは、キノコ雲なんて見たくないの。
でも、起爆スイッチはいつ誰が情報を掴んで操作するかわかりません。しかしたとえスイッチを入れられても、あの子はそれを強制解除することが出来ます。信管の撤去が急がれる今、あの子の仕事ももうすぐ終わることでしょう。」

黒服の男がディスクを見て呆れて笑い、ヒョイと肩を上げた。
つまり、あの核爆弾を無効化するためのアンドロイドか。
「先の大戦で、結局は核が使われなかった。でも、新型爆弾はどんどん開発される。
あのクレーターは何?信じられない愚かな行為よ。人間はどこまでも馬鹿だわ。」


横からベンが、サトミの腰をドンと小突く。
「帰りは乗員2名まで」
ハッと顔を上げ、サトミがベンと目を合わせる。
ベンがニイッと笑った。
サトミがクスッと笑い、ミラノに歩み寄る。
でも頭の中は、何を言っていいのか混乱していた。
こんな事、いまだかつて経験したことがない状況だ。
サトミらしくないギクシャクした様子に、ベンが落ち着かない様子でしっぽを振っていた。

「何かしら」

ミラノがサトミに微笑む。

「あの……」

サトミがミラノを見つめ、言葉を探す。
「えっと……」
何故かポケットから伝票を取り出し、パタパタと仰ぐ。

ああ、俺は何やってんだちくしょう。

ミラノがニッコリ微笑んだ。
サトミが引きつった笑顔で返す。
後ろから、たまらずベンが鼻を鳴らして急かし、ハッと思いたってシャンと背を伸ばした。

「あの!実は、郵便局で事務員を捜してるんです!」

意外な言葉に、ベンが目を丸くした。

「え?」

「だから、だから、ぜひエリーに来て欲しいかなって……」
サトミが頬を染め、鼻の頭をポリポリかく。
ベンが後ろでガックリため息をついた。
「エリー……って、ERのこと?まあ、ステキな名前。」
「はい」
エリーがニッコリ微笑みうなずいて、ブローチを撫でる。

「アホだな」

ベンが呆れて庭の草を、またもぐもぐ食べた。


郵便局の、エクスプレスルームでは、今日も忙しくキャミーが荷物の受け付けを行っている。
最近顧客の要望を受けて特急便の価格が変わり近場の送料がやや下がったので、やたら細々忙しくなってきた。
「人を増やしてから値段下げろよなあ。こちとら給料変わらねえし、お役所のやるこたあクソだぜ。」
ダンクが椅子に座ってハンバーガーをほおばり、半泣きでブツブツつぶやく。
まったく、のんびりメシ食うヒマさえありゃしない。

「どうぞ」

横から少女のコーヒーを出す手が伸びてきた。
「お、さんきゅ」
「いいえ」
エリーがニッコリ微笑む。
なんとなく、ダンクの顔も自然とほころんだ。
やっぱり女の子が増えるのは良いものだ。
パッと部屋が明るくなる。

「ダンクさん、休憩はあと2分35秒でお願いします。このあと、2時指定の特急便が控えています。」

ごふっ

のどに詰まった。
どんどん胸を叩き、コーヒーで流し込む。
「は、はい。」
まあ、明るくなったはいいが、アンドロイドだけに時間がきっかりしすぎてる。
以前がルーズすぎたのかしれないが。
部屋のドアが勢いよく開き、サトミが入ってきた。
「たっだいまー」
「お帰りなさい」
エリーが明るい顔で出迎え、サトミがエリーに微笑む。
エリーの胸には、ひっそりとペガサスのブローチが光っていた。



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