桜がちる夜に

HOME | 赤い髪のリリス 戦いの風拍手お礼4

更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

いつもご愛読ありがとうございます。
戦いの風は自分でも最長不倒記録になりそうです。
長らくお付き合いいただいてる読者の方へ、拍手お礼に短編を掲載しています。
この短編には、リリスの小さい頃や周りの人々との関わり、そしてサブキャラの違う顔を知っていただくために楽しんで書いています。
更新で消えるので、読んでいなかったという方々へ、どうぞ楽しんでいただければと思います。
また、あれがもう一度読みたいという方は、拍手コメントからどうぞ。
データーが残っている物は、載せていきたいと思います。

13、精霊王の宝石

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13、精霊王の宝石

人間の命は、尽きることを知らない彼らにすれば、とても、とても短いものだ。
だからこそ、その美しく聡明な少年の成長を眺めることは、退屈な彼の密かな楽しみになっていた。

そこはアトラーナでも辺境の痩せた土地。
少年は貴族とは言え領民も少なく裕福と言えない小さな村の領主の息子で、それでも彼らは毎日領民と共に糧を分かち合い、平和に暮らしていた。

その美しい少年は身分などとらわれず小まめに使用人の仕事に手を貸し、本が好きでたまにやってくる行商人を楽しみにしている。
声も綺麗で高く澄み渡り、時折小鳥のように美しい声で歌を歌うと人々も手を止め、その声に耳を傾け疲れを癒やした。

領主の跡取りながら仕える農民騎士から剣を習い、その剣の腕はなかなかの物で時には騎士を打ち負かそうとする。
良い剣が欲しいと父親にねだっては首を横に振られ、その理由が貧しさだとわかっていても、ふて腐れて森で動かない木を相手にカンカン叩いては木の精霊が泣き付くのに気がついてない様子だった。

見ていて飽きない、その輝くような美しさ。
緩やかにウエーブした金の髪は風の精霊がしきりに触れたがって群れ、真っ直ぐに先を見る宝石のような緑の瞳は、聖域の泉のように汚れを知らず澄みきってキラキラと輝き、見る者を引きつけた。
白い肌はきめ細かで透き通るように白く、整った顔は一分の狂いもなく見事な造形で完璧を成している。
森で初めて見たとき、それが精霊か人間かわからなかったほどだ。
彼はその少年が成長し、これから青年へと変化していく様を見るのが楽しみだった。


しかしある年、彼は自分の半身とも言える人間の巫子を今にも亡くそうとしていた。
巫子は長年連れ添ったが長寿とは言え年には勝てず、時々今にも旅立とうかと具合が悪くなる。
彼はその半身の黄泉への旅立ちを見送るために、ずっと巫子の側に寄り添い少年の様子を見に行く事が出来なかった。


それは、永遠を生きる彼にはほんの一時のことでしかなかったが、人間には半年という長い時間だ。
やがて巫子を失った彼は人間達の行う神事に付き合い、巫子の生まれ変わりを探しに旅立つことにした。
そして、途中楽しみにしていたあの少年の様子を見ようと、いつもの村に立ち寄った。
たった数ヶ月の間で、どれほどあの子は変わったろうか。
もしかしたら、異性の思い人が出来たかもしれない。
どんな顔で恋を語らうのか、初々しく恥じらうその姿、またそれを見るのも一興だ。

だが、彼は愕然とした。
それがあの村とは思えなかった。
あの、小さな村は消えていた。

消えていたと言っていいだろう。
その村は、何かに襲われたのか畑も家も焼き討ちされ、破壊し尽くされていた。
血のあとが至るところ地面に残り、近くには墓らしい土の盛り上がりがいくつもあって自分が支配する土の下には沢山の骸が眠っているのがわかる。
だが、そこにあの少年の骸を感じない。
助かったのか、どこかに逃げたのか、……生きている。なぜかそれだけは確信できた。

一体何が起きたのか。
ここで戦でも起きたのか、周辺には争うような村もない。
隣国が攻めてきたという話しも聞かない。
いつもの彼なら気にもとめなかったろう。
だが、あの宝石のような少年が気がかりで、彼は配下の精霊に調べさせた。

その村は、彼が来なくなった数日後に、この国でも悪名を馳せていた盗賊に襲われていた。

つまり、すでに半年も前だ。
だが、その盗賊は彼が知る限り山をいくつか越えた国境に巣くい、盗賊行為をしている人間達だ。
王から討伐に力を貸して欲しいと話しがあったが、気が向かないのでうやむやな返事で放って置いた。

しかしこの村に、彼らが狙うような物はない。
ただ、あるとしたらあの宝石のような少年。
どの人間の女よりも美しい。
その美しさは遙か離れた本城の王でさえ耳にしており、貴族たちの間でも噂になっていたほどだ。

もっと配下の精霊を使って詳しく調べれば、捕らえられているなら精霊の王である彼には容易にわかるだろう。
だが、彼はすぐにそうした行動に出なかった。

彼は、しばしその朽ちた村で少年の幼少の頃からこれまでの姿を思い返しながら過ごした。
何事もなく立っている木にやどり、目を閉じて風に身を任せれば、あの少年の小鳥のような歌が聞こえてくる気がしてくる。

すぐに、そうしたことには飽きると思っていた。

だが彼の胸には懐かしさがつのり、狂おしいほど愛情を持って見守っていた事に次第に気がついて行く。
人間に対して、そんな感情を覚えたのは巫子以外の人間では初めてで、どうしていいのか考えも浮かばず混乱していたと言うのが本当だろう。

巫子と違って、自分には必ず存在しなくてもいい人間だった。
それよりも、どこかで生まれ変わる巫子を迎えに行かなくてはと、心のどこかでせき立てる声が聞こえる。
あの子は巫子ではない。
忘れよう。
くだらないことだ、人間の生き死になど自分には関係無い。
また他に楽しみを探せばいいだけだ。

思いを馳せて気がつけば、雨が降り続いたのか村はすっかり湖のようになってしまっている。
彼は村に見切りを付け旅だち、気分を変えようと、友人に合うため風の神殿を訪れた。
人間に関わることを嫌う彼女らしい小さな神殿には、人の良い年老いた巫子が身寄りのない子供を育てている。
別棟から聞こえる子供の声が、今日はなぜか不快に聞こえた。

出された香り茶の香りをかいで、ぼんやりと遠くに見えるアトラーナの城を眺める。
盗賊は討伐されたのか、相談して来たときの王の顔がぼんやり浮かんだ。
人間のことに、なぜ精霊である自分を頼ろうとするのか。
盗賊も不快だが、王も不快だ。
何もかも不快でかかわりたくない。
そう思った。

室内を風が通り、いつのまにか横にセフィーリアが立っている。
何用かと問われても、特に用はない。
彼女のいつもの無表情な顔が、怪訝に歪む。
なんて顔だと苦笑して、彼女にどうしたと尋ねた。
が、返ってきた答えは問いだった。

「なぜ泣いているのだ、ヴァシュ。そんなに泣きはらして、まるで泣き妖精だ。
それほど巫子が死んで悲しかったか。」

まさかと苦笑して頬を指で拭いた。
そして、ハッとして周囲を見回す。

目からはまるで泉のように水が流れ、気がつけば周りに水たまりが出来ている。
まさか、あの村で雨だと思っていたのは自分の涙だったのか。
村が水浸しになったのは、自分の流した涙が原因だったことに初めて気がついた。
そして、ようやくそこで自分の気持ちがはっきりとわかった。

「巫子ではない人間を失ったことが悲しいのだ。
巫子ではないのに、なぜだろう。
巫子が死んだ事よりも、その子が消えてしまった事が悲しいのだ。」

「お前が悲しいなら、それはお前の巫子であろう。」

「そうであろうか。」

「巫子とはそう言うものだ。巫子は我らが決める。
たとえ王であろうと口出しさせぬ。」

セフィーリアの言葉はもっともだと思う。
ずっと見守って、これほどまでに愛でてきたのだ。
これほど愛しているのだ。
あの少年は、自分の伴侶に欲しい。永遠を共にしたい。

なのに、守ってやれなかった。

あの平和だった村の惨状に、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
今、あの少年がどれほどの苦難に遭っているかを考えると、その怒りは地鳴りを起こしビリビリと地面をゆらす。
セフィーリアの館の窓がガタガタ音を立て、廊下で誰かが小さく悲鳴を上げた。

「さすれば……」

心を決めた。
ヴァシュラムが、涙をふいて顔を上げる。

「盗賊め、我が巫子を奪った罪は重い」

呪いを吐くように、重く、暗く吐き出す。
初めて聞く彼のその暗い声はセフィーリアの心をゾッと冷やし、あたりには季節外れの寒風が吹きすさんだ。

彼、ヴァシュラムは、すでに見つけていたのだ。
永遠の時を共に生きる伴侶を。
だが、少年は彼の存在さえ知らない。
そして少年は普通に生きる事しか望まない、ごく普通の人間でしかなかった。