桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

僕の気持ちも知らないで

高校3年の同級生、芳紀と良一はもうすぐ卒業。誕生日に芳紀からプレゼントを貰った良一は、中を見て愕然とします。それはなんと、鼻血が出そうな4点セットだったのです。妄想に突っ走る良一の運命は?

1、

学校帰りの道行きで、芳紀が突然はたと立ち止まった。
「どした?」
昨日のテレビの話をやめて、良一がくるりと振り返る。
30分かかる家までの帰り道は、すでにもうすぐゴールも近い。
芳紀が潤んだ目で良一をじっと見る。
思わず胸がドキッとして、辺りをなぜかキョロキョロうかがう。
ここは表通りから入った路地で、一番人通りが少ない。
ひゅーっと風が走り、二人の髪がなびいて七三分けになった。
二人はもうすぐ卒業。
ずっと二人仲良しで、しかし不幸にも大学は別々だ。
同じ所と思っていたのに、勢いだけの芳紀はなぜか違う所を受けてしまった。
その時のショックは、良一は体重が3キロ痩せたほどだが、それを芳紀は知らないだろう。
もうすぐ別れと思えば、二人は余計寂しさが増していた。
「な、なんだよ。」
「良一…あの……」
何だ、大学のことか。
フッと良一が顔をそらして首を振る。
にやりとニヒルに決めて、ポンと肩を叩き背中を見せた。
「僕は気にしてないぜ。」
明るく言いながら、ぶわっと涙がボロボロ流れる。
「リョウ、俺……」
「ま、気にすんな。ゲホゲホ。あ、目にゴミが」
ひっくとしゃくり上がるのをゴホゴホと咳でごまかし、イテテとうめきながら涙を拭いた。
ごそごそと、後ろで芳紀がカバンを探る。
そしてリボンの付いたピンクの袋を取り出し、思い切り良一に突き出した。

「こ、これっ!」
ドスッ!

「うおっ!いでえっ」
背骨が折れそうな勢いで、袋の先が良一の背にぶち当たる。
「な、なに?」
振り向くと、芳紀が真っ赤な顔で袋を差し出していた。
「あの、これ、誕生日の…プレゼント!」
「え?あ、覚えてたんだ。」
ぎゅうっと押しつけられ、良一が受け取る。それは持つと堅く、ずしっと重かった。
「じゃっ!さいなら!」
「え?あ、あの、芳紀…あの、大学のことじゃ……」
だあっっと芳紀が家に走って帰る。
手を差し伸べて置いてきぼりの良一は、ぽかんと口を開けたままピンクの袋を抱えてそれをじいっと見た。
「なんだ、大学とちゃうのか。」
肩すかしを食らってがっかりしながら、ピンクの袋をくるくる返すと、中はなんだか本のような物と色々入っているようだ。
背中がまだ、ずきずき痛い。
「あいつは、昔っからそうだよな。」
もうすっかり肩すかしには慣れている。
ため息をつき、その場で開けようとしてふと思いとどまり、家に持ち帰った。


だあっと家に駆け込み、芳紀が赤い顔で台所に飛び込んで水を飲む。
「ああ、恥ずかしかった。クソ」
男がピンクの袋でプレゼントなんて、渡すタイミングも相当考える。
あくびをしながら入ってきた姉をギッと睨み、芳紀はドンとコップを置いた。
「あら、ヨッちゃん帰ってたの?」
「帰ってたの?じゃねえよ!あんなドピンクの袋に入れちゃって、恥ずかしいだろっ!」
ホホホッと大学生、漫研オタクの姉は人ごとに笑う。
「あーら、んな事言うなら自分で買いに行けばいいじゃない。エロ本くらい。」
「未成年には売ってくれないんだよっ!大体なんだよ、ゴロゴロ入れやがって、何入れてんの?」
「……そうねえ、まあ、そのうちいいかな?と思っておまけよん。」
「変な物入れてないだろうね!」
「ンまっ!優しい姉を信じないのね!ううっ」
姉は両手のグーを口元で握り、ブリブリ泣き真似をする。
「へっ、似合わねえよ、ブス。」
プイと部屋へ向かう芳紀を見送りながら、嘘泣きの姉がにやりと笑う。

その頃、良一は自分の部屋で袋を開けて、その中身に呆然としていた。

「こ、こりはいったい……」

入っていた本を手に取り、ぺらぺらとめくる。
ブッと鼻血が出そうになって、思わず鼻の穴に指をつっこんだ。
それは、濃厚なセックスシーン満載のボーイズラブ雑誌。
絶句して、しばらく意識が飛んだ。
「まだ、なんか入ってる……」
恐る恐る袋をひっくり返し、出てきた物に気が遠くなりバタッとひっくり返る。
ピンクにハート模様のトランクス、そしてチューブ入りのワセリンと、もう一つ。
それは、『優しくしてね』という商品名の、嬉し恥ずかしコンドームだった。

2、

翌日、良一はすっかり憔悴しきった様子で遅刻して登校してきた。
ぼんやりうつろな顔で、授業中も爆睡している。
「どうしたんだよ、寝てねえの?」
芳紀が肩を叩くと、彼を見てぽおっと赤くなる。
「なんでもねえよ」
顔を背けながら、妙に芳紀の触った肩がジンジンして感触が残った。
「本、そんなに刺激強かった?」
自分のせいかと心配そうに、芳紀が耳元に声を潜める。
「わあっ!」
ガタンと、思わず良一が反対側に椅子からずっこけた。
「ど、どしたの?」
「い、いや別に」
ブンブン笑って首を振り、めまいがして大きくよろけた。

いかん、妙に意識していかーん!
頼む、芳紀、俺に近づかんでくれ!

心で大きく叫ぶ。
椅子に座り直し、彼を無視してバタッと机に伏せ、心を抑えた。

ああ、何かおちんちんが痛い。
まさか、ホモの雑誌であんなに興奮するとは思わなかった。
興味は沸くし、いったん火がつけば行き着く所まで行かないとなかなか消えない。
男の生理は悲しく恐ろしい。
無駄な体力一晩中使って、朝はすっかり寝坊した。
今日一日がんばれば、明日は土曜のお休みだ。
一日ゆっくり寝て忘れよう。
あんな物、貰わなきゃ良かった。
よほど普通のエロ本がいい。
ああ……そうだ、芳紀が悪い。
芳紀が。
「うっ」

昨夜のことを思い出し、ボッとまた身体が熱くなってきた。
夜、恐る恐る貰った本を読んでる内に異常に興奮して、むつみ合う二人の姿がなぜか自分と芳紀に見えてきたのだ。
「なあなあ、リョウ。お前大丈夫かよ」
芳紀の心配する声も、一生懸命聞こえないふり。

落ち着け、落ち着くんだ。芳紀は今日休みだ、休みなんだ。これは幻覚だ。

つぶやきながら、ギュウッと足をつねる。
違うことを考えようとしてふと、貰った物がぽわんと浮かんだ。

しかし、あのワセリンと『優しくしてね』のコンドームの意味はいったいなんだ?
あの、ピンクの袋と、渡すときの態度……
ま、まさか、やっぱりそうなのか?
まさか!芳紀は……!

「ホ、ホモ?!」

がばっと良一が跳ね起きる。
「え?」「え?」「なに?」
周りのみんなが思わず振り返った。
ハッと我に返り、慌ててぶんぶん首を振る。
「あ、いや、ほー、もーやってらんないって感じ?」
なんだよ、と、ブツブツ言いながらみんなが背を向ける。
ホッと良一が額の汗を拭いた。

ふっ、芳紀、おめえは罪な奴だぜ。
それにしても危なかった……

「なあ、明日は映画見に行こうぜ!ほら、見に行こうって言ってた奴、あさってで終わるんだってさ」
ギクッと良一が横目で芳紀を見る。
「え、映画?」
「ああ、明日家に寄るよ。11時でいいか?見た後で昼はハンバーガー食おうぜ」
「はんがーばー?」

バーン!

「いてっ!」
思い切り背を叩かれた。
「あはははは!受けねえよ!バーカ。じゃ明日な」
ルンルンと、人の気も知らず芳紀は上機嫌だ。
ジンジンする背中を抱えて、明日を思えば気が重い。
良一は今日、図書館で哲学の本でも借りて帰ろうと思いながら、また机に伏せて眠った。

3、

翌日、二人は約束の映画を見に、沢山の商店が入った複合施設内の映画館へと向かった。
土曜なので、さすがに人通りも多く映画館も並んでチケットを買う。
始まる時間が迫って、イライラしながら何とか買うと、ドリンクを買う暇もなく座席へと向かった。
すでにオープニングも始まって、席もいっぱいだ。
端っこの二つ空いた席を見つけ、何とか座ることが出来てほっと一息ついた。
良一の隣は、男がやたらバリバリとポップコーンを食べている。
ぐるっと見回すと、SFなのにさすが恋人同士が多い。
良一がちらっと芳紀を見るが、すでに真剣モード。
芳紀は必死で字幕を目で追い、一語一句見逃すまいとしている。
何となく気もそぞろに、良一は楽しそうにこそこそ話す恋人達に目が行った。

ああ、いいなあ……

思わずしみじみと頬杖を付く。
良一は映画にのめり込むことも出来ず、時間が過ぎるのをぼんやり画面を見つめて待っていた。

やがて、映画は次第に話を進めてゆく。
次第にクライマックスとなり、気が付くと主人公と美しい女性がいい仲となってキスを始める。
良一がぼおっと思わず見入って、またもそれが自分と芳紀に見えてきてしまった。
ブスブスとくすぶり始めた腰のあたりに熱さを感じ、ドキッと身を起こす。
画面はすでにベッドシーン。

ああっ、いかん、男の生理がーっ!
違うことを考えねばっ!

良一がギュッと目を閉じ、明日の天気に思いを馳せる。
クスクスと後ろの席では、男女が何かをささやきあっている。
ハッと良一が目を開けて隣の芳紀の手を見た。

そうだ、手を、手を握ろう。
優しくしてね、と言うことは、俺からモーションをかけねばなるまい。
攻めたが勝ちだ!

ドキドキ弾けそうな胸を押さえ、ぶるぶる震える手を芳紀の手に伸ばす。
芳紀の手は彼の膝で、緊張気味に指をかすかに動かしている。
ギラギラとその手を凝視して、自分の手が今にも触れようかとしたときに、パッと引いてしまった。

ああ、でも、でも、本当に触っていいのか?
くそお、やっぱり嫌われたらどうしよう。
俺の思い違いとか……でもでも!
ああ、優しくしてねの意味がよーわからんっ!

苦悶する良一の膝が、ムッと熱くなる。
背中も、体中も全部が熱い!
……ん?しかし……
あれ?何で膝?
じっとそこを見ると、なんとそこには隣の男の手がある。
いつから置いていたのか、気が付くとじわじわとそれが上がってきた。

え?え?え?

妙に熱く、じっとりと湿り気を帯びて大きな手が太ももを上がってくる。
驚きと戸惑いでじいっと見てると、サワサワと内ももを撫で始めた。

こ、これって……

ち、ち、ち、か、んーーっっ!!

俺って、俺って男だよな。
なんで?なんで?ちゃんとズボンはいてるし、そんなポチャッとしてる訳でもないのに、なんでー!

隣の男は全神経をその手に注いでいるのか、身動き一つしない。
良一は頭がパニック状態で、ジッとその手を見ている。
しかし勇気を出して横目で視線を寄せると、画面の明かりに光るニヤリと笑う男の口が見えた。
ゾオッと背に冷水が走り、足が小さく震え出す。

こ、こいつ、俺を男って知ってる!
男で、男に…これって、ホモの痴漢だあっ!!

芳紀に目で懸命に訴えても、彼は映画に没頭している。

どうしよう、どうしよう

迷っていると、突然その手の動きが速くなり、股間を撫で始めた。
「ひゃっ!」
のどでようやくかすれた声が出た。
怖くてギュッと目を閉じる。

「リョウ!」

ガッといきなり芳紀が良一の手をつかんだ。
「出よう!」
「え?」
引かれて立ち上がると、芳紀がその男に思い切り蹴りを入れる。
ドカッ!
「ぅぎゃっ!」
「この変態じじい!」
言い捨てると手を引いて、一目散に逃げ出す。
映画館を飛び出して近くのベンチへ走り、追ってこないかと振り向いた。
「あーくそう、何で俺たちが逃げるんだ?腹立つなー!ラスト見損ねた!」
芳紀が憤慨しながら柱を蹴る。
「あ、あ、あー、怖かった」
へたっと座った良一がズボンを見ると、ちゃっかりファスナーはすでに全開だった。
「ひええ、下りてるー!」
慌てて上げて、手の感触を払うようにバリバリ足をかきむしる。
次第に落ち着いて、腹が立って涙が出てきた。
「クソー、何で俺だよー。何でだよお、男なんだぜ、俺はよお!」
べそべそ涙を流す良一に、ほら、と芳紀がハンカチを差し出す。
「ううー、さんきゅ」
ハンカチはぐしゃぐしゃで、ギュッと伸ばしてゴシゴシ拭いた。
「よう、腹減ったよな。バーガー食いに行こうぜ」
「う、うん」
昼も過ぎたし、ショックだけれど腹は空く。
とぼとぼ歩いていくと、美味しそうな匂いとバーガーのメニューにちょっと気が晴れてきた。

4、

「どれにする?」
「うーん、じゃあ俺、ビーフバーガーとポテト」
「うん、じゃあ一緒に頼むな」
芳紀が考えながら、レジへ向かいかけてくるりと振り向く。
ちょっと恥ずかしそうに、鼻をポリポリかきながら良一に笑った。
「俺さ!一度スーパーサイズのコーラ飲みたかったんだよね。お前どうする?」
ドキッと良一の胸が高鳴った。
このショップのスーパーサイズのコーラは、恋人達がストロー2本つっこんで、顔を見合わせながら飲むと言う、夢のような伝説の飲み物。
最初から、ストローが2本差し込んでくる。
「俺も、それでいいよ」
ぽおっと顔を赤らめて、良一がうんとうなずいた。

ハズいぜ、芳紀。なんて大胆な奴。
こんなところで、一つのコーラをこいつと飲むことになろうとわ!
痴漢からも助けてくれたし、芳紀、やっぱりドきゅんと来たぜ!くうっ!

良一が舞い上がったとき、芳紀がレジに立った。
「……バーガーと、それとスーパーサイズのコーラ2つね!」

ガーーーーンッ!!

「はいっ!ありがとうございまーっす。ではご注文繰り返しまーっす」
可愛い女の子の店員が、しばらくするとでっかいコーラをトレイに載せて差し出す。
「うわっ、やっぱでけえ!飲めるのかなー」

飲めねえよっ!

心で叫びながら、良一がニッコリ引きつった笑顔で受け取る。
ずしっと持ったコーラは重く、二人はお腹をガブガブ言わせて、結局全部は飲みきれなかった。


「あーなんかゲップが出る。苦しいぜ」
芳紀のつぶやきに、良一は当たり前だと思う。
今日は最低最悪だ。
痴漢には遭うし、コーラを1リットル近くも飲まされて吐きそうだ。
「なー、帰る前にゲーセン寄っていこうぜ」
「うん」
食事の後、店をブラブラ歩いて見て回り、最後にゲームセンターに立ち寄る。
映画を見たのであまり金がない。
アーケードゲームの新機種チェックが目的だ。
「お!あるある!これもう新しいの出てるじゃん」
遊んでいる奴の背後で、CGの出来を覗き込む。
最近のゲームは、絵が綺麗で見ているだけで楽しい。
「なー、良一。お前攻めと受け、どっちがいい?」
「え?」
「ほら、この絵、攻めと受けだよ!」

攻めっ!と、受けっ!

ボッと良一の顔が燃え上がった。
もう、何を聞いても頭は違う方向へと走る。
「お、俺、やっぱ攻めかな?」
男なら、攻めがいいに決まってる。
しかしちょっと恥ずかしそうに、芳紀は受けのポーズを決めた。
「俺はこのさ、受けがいいんだ。何かかっこいいじゃん」

受けがいい……
そうか、やっぱり受けがいいのか…

うんうんと、良一がうなずく。
「あ、そうだ。なあリョウ、お前こないだのエロ本見せろよ。何かすっごい良さそうじゃん」
「見せろって、見るの?」
うんうんうなずき、芳紀がグイと良一を引っ張る。
「いいじゃん、まだ早いし、お前んち行こうぜ」

ガーン、これって誘いエッチ?
俺の部屋でっつー事は、とうとうあの、『優しくしてね』の出番なのか?!

良一は体中が燃え上がりそうで、足下が大きく揺らめいた。
腹のコーラが全部蒸発したのか、やたらのどが渇く。
かすれた声でうんと返しながら、二人はいそいそ良一の家に向かい、誰もいない家の良一の部屋へと、こそこそ上がっていった。
人間、心のどこかやましいと、動きがコソコソとなってしまうのだ。

5、

「ほら、早く出せよ、本」
「本当に?本当に読むのか?あれ」
「バカ、当たり前だろ、やったの全部出せよ。俺がチェックしてやるから」

チェック!それは使うって意味?

良一が、震える手でベッドの下からピンクの袋を取り出す。
「おお、これこれ。どーれ」
芳紀が中身を取り出して、そして……

ガーーーーーン!

動きが止まった。
時間が制止した。
いや、気を失ったのかもしれない。
芳紀は呆然と袋の中を見た後、ガッとポケットの携帯を握って後ろを向き、誰かにTELする。
しかし相手は電源を切っているのかつながらない。
「あ、あ、あの、ババア!」
芳紀は姉の、オタク根性丸出しに笑う姑息な顔が思い浮かび、携帯を思わず投げようとして慌ててしまい込んだ。
「いや、これは手違いなんだ。うちのあのババアが。いや、姉ちゃんなんだけど、そいつに頼んだのが間違いだった!ごめん!」
パニックになって叫びまくる芳紀に、良一ががっくりとうなだれる。

やっぱり、間違いだったのか……
今日の俺って、いったい……

優しくしてね、のコンドームを取り、くすんとなぜか涙が浮かぶ。
「いや、ごめんビックリしたろ?俺も初めて見たときはビックリしてさ。あの、姉ちゃんはほら、漫研だから家にはこんな変な雑誌がいっぱいで。ごめん、な?泣くなよ」
芳紀が慌てて、良一の手からコンドームを奪い取る。
『優しくしてね』
その商品名にドキッと胸が高鳴り、めそめそしている良一の姿に、心臓がますますドキドキと脈打った。

な、なんか可愛いかも

雑誌の表紙は、男が男を襲ってる場面。
芳紀は見慣れているそのたぐいの本も、今はなぜか妙に興奮する。
家には誰もいない、二人っきり。
大学に行けば離ればなれだ。

これは、神の啓示だ。そうに違いない。

いきなり芳紀が良一を押し倒した。
「な、な、な、何すんの?」
裏返った声で、良一が目を丸くする。
「いや、こんなのもアリかなって」
アリかな?と言われても、襲われている今の状態は、良一の予定と大幅に違う。
芳紀も良一も、何となくお互い好きではあったし、あんな雑誌がきっかけではあるけど、つまり心の準備は出来ていたような気もするが……
「お前、受けがいいって言わなかった?」
「いや、あれはゲームだろ?」
「ゲ、ゲームって、そんな。ぅわっ!エッチ!」
いきなり、芳紀が良一のシャツに手を入れてくる。
慌ててガッとその手をつかみ、良一が真っ青な顔で引きつって言った。
「あの、こう言っては何ですが。俺たち、清い交際しない?」
「何で、準備万端じゃん」
手元にはワセリンとコンドーム。
ゾオッと良一は気が遠くなりそう。
「僕らまだ、高校生だし」
「ああ」
芳紀がやっと身体を起こし、なるほどとうなずいた。
「それもそうだよな。でもこういう場面でよく言わねえ?」
「なんて?」
「何を今更、ってさ」
「ちょ……うっぷ……」
にやりと笑って芳紀がキスをしてくる。
それがやけに慣れていて、良一はまたガーンと来た。

これって、これって、こんなはずじゃあ!
こんな事なら先に押し倒すんだったー!

「ちょ、ちょっと芳紀、待ってってば!」
言われてぴたっと芳紀が手を止める。
そして悲しい顔で良一を見下ろした。
「リョウ、俺嫌いなんだ」
「えっ?それはエーと、嫌いじゃないんだけど」
「じゃあ好き?」
「好き……かも」
「なら、いいじゃん、いいじゃん。俺もリョウ大好きだし、優しくするからさ」

ち、がーーーうっ!!

芳紀はさっさと良一のベルトをはずし、思い切りズボンに手を入れてくる。
「さあ、やっちゃえ、やっちゃえー」
「うぎゃーー!!」
後悔しても、もう遅い。
芳紀がこんなに積極的なんて知らなかった。
今日はやっぱり最悪の一日。
妙に手慣れた芳紀に翻弄されながら、心の中で叫びを上げた。

誰か、助けて〜!!