桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

サスキアでの日常 インターバル

特別管理官の6人兄弟の説明も兼ねた短編です。
カインの贖罪は20年ほど前、小説を書き始めた頃に始めた物なので、かなり説明不足なところがあります。
物語として非常に稚拙なものは削除したので、補うために短編を書きました。
ただし今と昔ではずいぶん人物も変わってきているので、違和感があるかもしれません。
ご了承下さい。

うっそうとした山の中、青年が警戒しながらそろそろと古い地下施設へと入って行く。
すでに古い施設は痛みも激しく、落盤しないか心配だ。
後ろから付いてくる同年代の女に、チラと振り向いた。
青年の顔を見ると、女の頭の中に青年の声が響く。
チェッと舌打ちして、女が不機嫌そうにつぶやいた。

「わかってるわよう、こんな所で暴れたら生き埋めじゃん。」

「しいいーーっ!」

声が響くと、パラパラ天井から土砂が落ちてきた。
まったく生きた心地がしない。
かなり崩れ落ちた中を発光体を置きながら進み、さび付いてドアが開かない場所は諦めて、開くドアは中を確かめて行く。
発見者に描いて貰った地図を開き、ペンライトでもう一度確認する。

「うーん、かなり崩れがひどくなってるなあ。カプセルはもう少し先か。」
「生きた心地しないわさ。ねえ、ドア確認するのやめて先急ごうよ。」
「うん、そうだな、どうせ骨しかねえし。でも一応開けた痕跡があるのは見ないとさ。」

言いつつ一つのドアを開けると、ドサンとコンクリートのかたまりが落ちてきた。
首を振ってブルリと一つ震え、やっぱりカプセルを優先することにする。
迷路のような廊下を地図の通りに進むと、開きっぱなしの地下室へのドアが見えてきた。

「あれだ」

「あたいが行く?」

「いや、俺が確認する。」

青年が一応銃を持ち、そろそろ降りて行く。
中にはすでに腐食して崩れ果てた物資の残骸と縦2mはある大きなカプセルが3つ並んでいるだけの、まるで倉庫のような場所だ。
青年は3つのカプセルをのぞき込み、発光体を多めにおいて写真を撮り始めた。

「どう?ブルー。」

「うん、一体だけ使ったんだな。カラが1本に2本はそのままクローンが寝てるよ。
でも1本はバッテリートラブルだな、骨になってる。」
「じゃあ1本は生きてるの?」

女が降りてきてのぞき込む。

「ああ、ほんとだ。」

そこにはつやを消した銀のカプセルの保温層が2重になったガラスの向こう、18才くらいの端正な顔をした少年が眠っている。
カプセルの土台にある操作盤をブルーと呼ばれた青年が操り、出てきた画面を写真に残していった。

「えーっと、このタイプのクローンはサイコキネシス型?俺と似たような奴だな。」
「どうするの?」
「残念ながら、処分しかねえよ」
「仕方ないね。」

あっさりとした二人の判断も知らず、少年はコールドスリープカプセルの中で凍ったまま200年を眠って生きてきた。
ブルーは他のカプセルも確認が終わると施設の中も数枚撮って、女と二人並んでカプセルの前に立った。

「あたいがやる?」
「セピア……いや、俺がやるよ。
……じゃあな、いい夢を。」

ブルーがカプセル表面に手を伸ばす。
精神を集中させ、眠る少年の顔に目を閉じた。

バシッ!

一瞬で強化ガラスの一面にヒビが入り、カプセル表面が真っ白に変わる。
そして、次の瞬間ガラスがはじけ散った。

眠る少年の顔がガラスで埋まり、セピアと呼ばれた女が手を伸ばしてそっとガラスを払う。

「じゃあね、また生まれ変わったら会おう。」

外気に触れて一気に溶ける少年は、もう生き返ることはない。
ブルーは破壊したカプセルの写真を撮って爆発物を数個おき、セピアとその場をあとにした。

「あれってさあ、蘇生して連れて帰ったら駄目なのかな。」

「確かにさ、もう残ってるのは数少ないんだろうけど……
それでもクローンは人間に嫌われてっからなあ。」

いつもいつも、眠ってるクローンを殺すのは気が重い。
それでもたまに、発見者がパネルをさわって蘇生がかかってたり、拉致者が故意に蘇生させてたりするとそれはそれで大変なんだが。
それでも蘇生してトラブルのないクローンは、運が良ければクローン研究所で保護することになっている。
とぼとぼ出口に向かう二人だが、ふとセピアが立ち止まった。

むにゅ

足の裏に、異様な感触

「な……なんかムニュッとしたよ、ブルー。」

「大声出すなよ。いいな、大声出すな!」

思わず上げるブルーの声が反響して、パラパラ激しく天井が崩れてくる。
セピアがそうっと足を上げてみると、苦し紛れに大きなヘビが彼女の足にギュッと巻き付いた。

「ぎゃああああああ!!」

ズズズッ……パラパラパラ……

慌ててセピアの口を押さえるブルーが、セピアにささやいた。

「静かに、走れ!」

脱兎の勢いで二人が駆け出す。
地下施設は本格的に崩れ落ち、二人が飛び出すと同時にブルーが起爆スイッチを押したこともあって,完全に埋没した。




軍の輸送ヘリが爆音を上げヘリポートに降りてきた。
かなり旧式のヘリは、それでも燃費を抑えるために心臓部のエンジンは新しい物に変えてある。

「燃料の補給終えたらすぐに南部基地へ帰るよ!」
「じゃあ、補給まで中で休んでいってくれよ。まあ、貧乏な管理局だからコーヒーはインスタントだけどね。
じゃあ、サンクス!」
「ありがとん!」

ブルーがパイロットに礼をして、セピアを連れ大きな荷物を背にヘリをあとにする。
任務の終わりは次の任務までデスクワークの始まりだ。
それでも久々に家に帰れるとホッとする。

「お帰り!」

整備スタッフが1ヶ月ぶりの二人に手を挙げ、にこやかに迎えてくれた。

ここはカインの主要都市サスキアの郊外に、地味なようで意外とこの星には重要な任務を帯びている、その施設「連邦管理局総本部」。

このカインは200年ほど前に星を二分した大戦が長く続き、その戦争遺跡が未だ多く残る星だ。
その戦争遺跡を管理し、トラブルに対応する機関として連邦軍はサスキア郊外に連邦遺跡管理局を発足させた。
軍直下の機関だけに、ここに配属されているのは軍人。
つまり、遺跡には軍が出なければならないモノが眠っている。
それは、多くが特殊能力を有するクローンだった。



廊下を行き、管理官室に荷物を降ろすとさっそく局長に挨拶と報告に行く。
管理局局長は、デリート・リーという軍の中佐で怖いおばさんだ。
相変わらずビシッと報告と行かないブルー達にため息をつきながら、始末書を要求してきた。

「えー、あたいなんかしたっけ?」

「さあ、今回はごく普通にコールドスリープカプセル壊して終わりましたけど〜」

仕事には鈍いセピアが白を切ってブルーに訪ねる。
局長がどんっとセピアに請求書を見せた。

「こういうモノを壊すのはお前のほかない!」

「ええ〜??」

二人請求書をのぞき込む。
そこには途中立ち寄った支局のヘリを一機半壊とある。
覚えがあるのか、セピアがああとつぶやいた。

「お、お前なんでヘリ壊すんだよ。てか、いつ壊したぁっ!」

ブルーが半泣きでセピアに迫る。

「だってえ、なんか小さいのが近いところに置いてあったから邪魔だったんだもん!
飛ぶんだから押せば動くかなあって思ったらあ、ランディングギアちょっと折れちゃって、傾いたからドア押したらへこんでえ。
で、テール持ったら握りつぶしちゃってさあ。」

「ブリッ子してんじゃねええ!!この馬鹿力女!」

ブルーが泣きながらセピアの首を絞める。
ギャアギャアケンカする二人は、結局ため息をつく局長に一括され、ぽいと廊下へ蹴り出された。



「そう言えば、グランドたち部屋にいなかったね。」

セピアがブツブツ怒っているブルーに、何となく話を変えた。

「ああ!そう言えばレディとグランドもいるんだっけな。
グレーとシャドウは出てるらしいけど。」
「訓練棟じゃないかな?行ってみようよ。」

セピアがピンクのツナギのジッパーを降ろし上を脱いで腰でそでを縛った。
ツナギは片足を太腿上部で切っている。
どうもこれが気に入っているのか、どのツナギも片足だけショートだ。

二人は疲れも見せずに軽いフットワークで別棟の訓練棟へ向かう。
そこからは、聞き覚えのある青年の悲痛な叫びが聞こえてきた。

「いてええ!……ギャアアア……ぐあああああああっ死ぬう!!」

訓練棟のジムをのぞくと気合い棒持った爺さん、ボクサー軍事顧問に絞られている。
よほど負荷をかけられているのか、ジムの機器で悲鳴を上げていた。

「よう!なかなか楽しんでるじゃね?」

笑いながら二人が入ると、グランドがゼイゼイ言いながら力を抜いた。

「誰が……楽しんでるって〜〜??」

「こりゃ、誰が止めていいって言った?」
ボクサーが、びしびしグランドを叩く。

「もう勘弁してよ、爺さん。
兄弟がしばらくぶりで顔合わせるんだからさ〜、お願い〜〜」

なんだか、グランドに泣きが入ってきた。
よほどきついんだろう。
結局爺さんも人の子、ちっと舌打ちながらも渋々今日の所は許してくれた。
ロッカー隣のシャワールームで汗を流す間、ブルー達はボクサーと楽しそうに話をして待っている。
ブルー達は派遣先から帰った日は,一応家に帰っていい事になっている。
グランドもこれで終わりらしいので、一緒に帰ろうというわけだ。
3人は兄弟。
いや、特別管理官の6人は、血のつながりのない兄弟だ。
それぞれ2人ずつペアを組んで、今のところ彼ら3組だけとなっている。
特別の意味は、それだけの力を持っていると言うこと。
つまり、彼らの出生には局員も知らない、不明な点が多い。
謎の多い兄弟達だった。

シャワーを浴びてさっぱりしたグランドが、二人と一緒にようやく逃げるように訓練棟を出た。
歩く姿はギクシャクとして、筋肉痛に悲鳴を上げる。

「ねえ、なんでしごかれてんの?」

セピアが彼の腕を掴むと、ぎゃあと悲鳴が上がった。

「こないだの出先でさあ、俺がレディの足引っ張ったわけ。」

「なあんだ、いつものことじゃん。レディは?」
「研究所でいつもの健康診査。帰りによって拾って帰るの。」
「じゃあ、俺ら買い物行くから、グランド拾って来いよ。今日は俺らが好きな物食うし。」
「了解、じゃあそうしようかな。」
「シャドウとグレイは明日帰ってくるんだって?」
「うん、久しぶりに6人顔合わせるな。なんか一気に家が狭くなりそうだぜ。」
「ねえねえ!どっか行こうよ、ほら遊園地とかさあ。」
「冗談、やっと帰ってきたんだぜ。俺は家でゆっくりしたい訳よ。」

元気の有り余ってるセピアと違って、男達は同じ年なのに黄昏れている。
セピアはむうっとむくれた。

「うちの男どもは!みんなジジイばっかりだわさ!」
「ハイハイ、じゃあお前の大好きなお買い物に行こうぜ。」
「もう!」

3人分かれてグランドが自分の車へ向かう。
ドアを開けようとして、腕の筋肉が引きつった。
筋肉痛が辛いから、ブルーが帰ったことは家事分担できるので非常に助かる。

「まあ、そんだけ筋肉使って無いって事なんだろうなあ。
ああああ、いてええ……」

車を走らせ、山の麓にあるクローン研究所に向かう。
ここは旧時代の戦争で利用されたクローンを保護したり、クローンの研究がされる軍の機関だ。
グランドとペアを組む青年は、体調を崩しやすいので派遣先から帰ったらまずここで健康診査とかやっている。
研究所のゲートでパスを見せ、中に入ると広いロータリーを回って玄関先に車を止めた。
すると中から、非常に不機嫌な様子でジーンズ姿の18,9の少女と言うには大人びた美しい女が姿を現す。
女は日の光に輝く長い銀の髪をお下げにして、結び目に小さな花までくっつけていた。

「ぷっ、ぎゃはははっ!なんだよお前その髪!」

グランドが笑い転げていると、女はくるりと建物を振り返る。
見ると建物の強化ガラスが2重になった小さな窓から、子供達がにこやかに手を振っていた。

「ちぇっ」

子供達に、飾りを取るなと言われたんだろう。
舌打ちして、細面の人形のように整った顔をムスッとしたままで、車の助手席のドアを開けた。

「手えぐらい振ってやれば?アイドルのくせに。」
乗り込もうとする女に、グランドが子供達を指さしていった。

「るせえな、好きにさせてたらこうなったんだよっ。」

「まるで女の子じゃね?よく似合うじゃん。」

グランドの言葉にムカッと来たか、女は乗り込むなりボカッと彼を横から殴った。
「いてえ!何しやがるよ!」
「俺は男だ!この野郎!」

そう、どこからどう見ても繊細な美しい女に見える彼は、少々がさつな男だった。



自宅のマンションについて、エレベーターで上がって行く。
女のような男は、お下げを取ろうかどうしようか迷った様子で自分の髪を掴んでぐいぐい引っ張った。

「気になるなら取ればいいじゃん。」
「だって……約束させられたんだ。やっと三つ編み覚えたって言ってたし……」

クローンの子供達が、にこやかに指を絡めてくる。
『指切りだよ!レディアスはお家に帰るまで髪をほどいちゃ駄目!ね?』

人に強要なんて知らないクローン達が、こういう言うことを何気なく言えるのは相手が彼だからだ。

男の名はレディアス。皆略してレディと呼ぶ。
クローンの子供達も、クローンから生まれた子供ではない。
子供の状態で、コールドスリープで旧時代から眠っていた子供達だ。
クローンには生殖能力はない。
それぞれ色んなきっかけで目覚めて、運良く保護されたクローンだった。


「義理堅い奴。そう言えば、お前タバコは?」

エレベーターを出て、ふと気がつき、暇さえあれば吸っていたレディに尋ねた。
彼は誰から聞いたのか『男らしく見せるため』にタバコに手を出し、とうとう止められなくなっていた。
身体に悪いことはわかっている。
吸い始めて、さっぱり体重が増えなくなって食欲まで落ちた。
だから、研究所のドクターには秘密にしている……つもりだったらしい。
が、

「バレて取られた。これかんで我慢しろって。
ちぇっ、俺だって理由があるから吸ってんのに。」

その手にはニコチンガム。
説明書が入っているのを、気にもしないでポイと捨てた。
グランドが慌ててそれを拾い、服用の仕方を読んで行く。
どうせ彼は管理ができない、グランドが口うるさく言わなくてはならない。

「やっぱりなあ。お前の身体にゃ,毒でしかないと思うぜ。
じゃあ、タバコはこれで終わりだな。残念でした。」

まあドケチな彼がやっと自分で金を使うことを覚えても、まさかタバコに金を消費するとは思わなかったから、グランドとしてはほっとする。
できればもっと健康的なモノに使って欲しい。

家に帰ると、すでにブルーがキッチンに立って食事の準備を進めている。
セピアはテレビに向かって、ゲームして遊んでいた。
中は靴を脱いで過ごすことに決めているので、玄関先で靴を脱いで上がる。
レディはぶらぶらと居間に行き、熱中するセピアの横に座って膝を抱え、ボーッとし始める。
グランドはブルーと並んで食事の支度。

サスキアにいるときは、心休まる普通の生活が送れる。
それは彼らの存在意義に反する物だが、次の派遣までの間、彼らには貴重で大切な時間だった。

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