桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

13、

フェザーが食堂を飛び出して、ホテルへ足を向ける。
運悪く人通りの乏しいホテルの玄関先で、恋人同士が抱き合ってキスしていた。
神様って奴は、とことん自分が嫌いらしい。
引き返し、表通りに出た所でデュークに腕を掴まれた。
「なに?」
不機嫌に返すと、彼が手を離して横を向く。
「イヤ、悪かったよ。」
「ヘンだよ、何故俺に謝るの?」
「うー」歯がみして、デュークが頭をかく。
じゃあどうしろって言うんだ。
「わかった。後で彼女にははっきり言うよ。あんたはそれで気を悪くした、それも謝る。」
人目を気にしてデュークが彼の腕を引き、一軒先の路地に入ってゆく。
そしてぺこりと頭を下げた。
「悪かった。頼むからさ、食堂へ戻ってくれるか?みんな心配してるし、この町で嫌な思い出なんか残して欲しくない。」
キョンと、フェザーが彼の顔を見上げる。
暗い裏通り、コソコソ謝る彼に良くわからない。
自分は彼の言葉がグランドの言葉に聞こえて、ちょっとショックだったんだけど。
無言で不思議そうな彼に、ばつが悪そうにデュークがそうっと覗き込む。
「で、許してくれた?」
「さあ、わかんない。」
「はあ?あんた俺に怒ったんだろ?」
「いや、あんたの言葉に怒ったと思う。」
「じゃあ俺に怒ったんじゃねえか。」
「イヤ、ちょっと違うと思う。」
「はあ????意味わかんねえ。」
プウッと後ろで吹き出す声がして、振り向くとベリーとメイが並んで笑っている。
「な、何でお前らがいるわけ?」
真っ赤な顔のデュークに、とうとう笑い出してベリーがフェザーの元に行き手をつないだ。
「僕はフェザーが心配で、だよ。」
「あら、私はデュークが浮気しないか見張りに来たの。」
メイがグッと彼の腕に手を回し、ガッチリ抱き込んだ。
「なんだよ、やってらんねえな。ああ、もう食い足りねえ、帰るぞ。」
デューク達が背を向けた瞬間、フェザーがぴくりと誰もいない後ろを振り返った。
「どうしたの?」
シッと彼が指を立てる。
「ベリーは先に行って。」
気が付かなかったメイ達が角を曲がった瞬間、フェザーはきびすを返して駆けだし、助走を付け窓のひさしを途中足がかりに、ポンと家の屋根に飛び上がった。
「もう、一体何?フェザーったら。
僕だって、そのくらいは出来ないわけ無いでしょ。」
ブスッと一息吐いて、ベリーも同様に屋根へと飛び上がる。
ベリーが着地したとたん、屋根がミシッとかすかにきしみ、ドキッと心臓が脈打った。
あまりにも久しぶりのことだけに、ちょっと隠密行動には自信がない。
さっさと先を行くフェザーに溜息をつきながら、彼もそうっと足を潜ませ追いかけた。

ルーナの明かりに気を配りながら、少し人通りからはずれた家の屋根の上で下を気にかけ腰を落とすフェザーにようやく追いつき、ベリーが隣に並んだ。
「どう……」
声をフェザーが指で遮る。
どうやら下で話す声に耳を傾けているようだ。
デューク達と話しをしながら、こんなに離れている場所の声が認識できたのだろうかと、フェザーの耳の良さには呆れる。
そして耳を一緒にかしげた。

「……さすがに景気のいい町だ。だが、守りが薄いな」
「ああ、しかし近く人を雇うらしい。やはり今だ」
「見取り図を」
「東は4と7、そして12だ。」
「西は3と7」
「わかった、じゃ今夜いつものように。」

声は3人、男の声だ。
やがて1人の男が、闇の中裏の森の方角へと足音も立てず走り出す。
残った男達は表通りに出て、どこへともなく消えた。
「何?あの人達……」
べりーにはどこか覚えがあるような、このシチュエーション。
「気になってたんだ。」
「なにが?」
「この町に入る前、ちょっと大きめのキャラバンを見かけた。でも、この町にその姿はなかった。」
「それが?」
ドキッとベリーは思い出した。
昔の主……盗賊団の元へいた頃を。
あの、人殺しと盗みの毎日。
そして次第に裏切り合い、騙し合い、心を削るような主達、人間達の最後の争い……
結局誰もが救われたのは、軍やポリスに逮捕された、その時だったのだ。
主のストレスのはけ口であった自分は、あのままだったら死んでいただろうと思う。
いや、確かに死にかけていた。
それが、そんな物が、まだ他にも存在しているだなんて。

愕然とするべりーに、フェザーがちらりと横目で気がつき、そして少し考えた。

こんな時って、どうしたらいいんだろう。

どうやらベリーが良くない昔を思い出しているのはわかる。
顔を上げて、チラとベリーを見上げた。
彼の肩に手を回すのもいいような気がするけど、たった十センチの背丈の差が何かやけに遠い。
まわりの誰もが自分より高くて、抱きしめることがやもすれば抱きしめられる結果になるのが少し悔しい。
2人無言で立ちつくし、うつむくべりーにちょっと首をかしげ、フェザーは結局彼の手をギュッと握った。
顔を上げたベリーが、フェザーと見つめ合い、そしてウフフッと笑う。
「元気づけてくれるの?」
「うーん、こう言うの、難しい。」
「フェザーがこう言う時、して欲しいことでいいんだよ。それが正解。」
ドキッと、フェザーの胸にダッドが思い浮かんだ。

『手をつなぎたいって、顔をしてるよ』
『したいこと(をするの)が自然なのさ』

ああ、そっか。
そうだった。


フェザーが、べりーにニッコリ笑う。
「でも俺、もう少し背が高かったらな。」
「あら、僕はフェザーの全部が好きだから、その背の高さも好きだよ。」
「へんなの」
ちょっとブスッとフェザーがむくれる。
その様子がなんだか可愛くて、ベリーは思わず吹き出した。

14、

「さあさあ、とにかく食事に戻ろう。彼らに相談した方がいいでしょ?」
「相談?……した方がいい?手を出すの?」
不思議そうな彼に、一つ溜息をつく。
見て見ぬふりなんてできっこないけれど、本当はその方がいいのはわかってる。
トラブルは命取りだ。
自分たちも追われる身。
でも、盗賊の事だって自分が一番良くわかっている。思い出したくもないけれど。
「盗賊団って、中途半端にすると報復に来るから、根こそぎ捕らえないとかえって危険なんだよ。だから、ポリスか軍を呼ばないとね。間に合えばいいけど。」
「じゃあ、今夜出発する?」
「手を貸したいけど……そうなるね。」
あわただしい物だ、とんだ邪魔が入ってしまった。
コートを買っておけば良かったと後悔。
「ベッドに一日くらい眠りたかったね。」
ベリーがまた溜息をついてとなりを見る。
するとフェザーが視線を山の方角へと向け、腰のナイフに手をやった。
「ダメだよ!フェザー!」ドキッと慌ててその手を押さえる。
「でも、あの斥候を殺した方がいいよ。その方が時間が稼げる。
それに、俺ならあのくらいみんな殺せるよ。」
その言葉に、ベリーは研究所が襲われた時の凄惨な様子が思い出され、ゾッと背中がすくんだ。
相手は盗賊でも普通の人間。
物音一つ立てず、全滅させることなど簡単にやってのけるだろう。
彼は、殺人機械とまで言われていたのだ。
グランドがいる時は、管理局の管理官でいた時は、辛うじてその存在がストッパーになっていた。
が、べりーには自分にそれが出来るか自信がない。
彼は今、何も捕らわれる物が無く解放されている。
「そ……そんなこと簡単に言っちゃ駄目だよ。そんな恐ろしいこと、考えちゃ駄目。
僕を力づけてくれたフェザーのこの手は、人間を殺したりしない。そうでしょう?」
「うん……でも武装してたから。殺される前に殺さなきゃ。」
「ここは戦場じゃないんだ。犯罪者は、軍かポリスにまかせるんじゃなかったの?」
「管理官の時は協力して捕まえたこともあった。でも、今は何も権限がないし、軍を呼ばれたらまずいだろう?静かに殺せばわからないよ。」
ベリーの足下が、大きく揺らいだ気がした。
まるで旧カインで聞いた、戦場へ出るクローンのような冷たい言葉。
今の平和な時代を生きながら、なんて恐ろしいことを優先するのか。
ドクター達があれほど命の重さを教え込んで、管理官としてもクローンの保護を率先して行ってきたようなのに、本質は変わっていない。

『ベリー、君が彼をコントロールするんだ』

クローン研究所所長に頼まれた時の言葉の意味を、ヒシヒシと感じる。
これが、彼の本当の姿なんだろうか。
手を握ってくれた時は、変わったと思ったのに。
「フェザー……」
何を言えば、こんな時どうすればいいのかわからない。彼を傷つけず、諭すなんて器用なこと出来るはずもない。
ベリーはフェザーの身体を抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。
誰かがこうしていないと、彼は冷たい機械になってしまう。
誰かが愛情を与えないと、心が凍ってしまう。
「ベリー、苦しいよ。」
フェザーが不思議そうなニュアンスでささやいた。
「フェザー、僕らは傍観者にならなくてはいけない。それが追われる者の選択なんだ。」
「でも……きっとみんな死ぬよ。いい人間は死なない方がいい。」
「わかってる。だから相談するんだ、彼らに。フェザーは殺すとか考えちゃ駄目。どんな人間でも、殺したら駄目だよ。」
「うん。」
フェザーが目を閉じて身体を任せる。
そうだな、いつからこんな昔のような言葉しか出なくなったんだろう。
「フェザー、僕がずっといるから。ずっと一緒にいるから安心して。フェザーを決して1人にしないよ。」
ルーナの輝きが2人を優しく包み込む。

ありがとう、ベリー

腰のナイフから手を離し、フェザーは彼の顔を見上げようやく微笑んだ。
「さ、みんな待ってるよ。もどろう。」
「うん。」
屋根から飛び降り、ベリーがフェザーの手を引いて行く。
その手の温かさにフェザーは目を閉じ、なぜかふとダッドの姿を思い出していた。

15、

店に戻って再度食卓に付いた2人を待っていたのは、すっかり酔いの覚めたバランとデューク、そしてメイとオーナーだった。
すぐにたちたい2人だったがが、何も知らないオーナーがゆっくりするようにと告げる。
優しい彼らが気の毒な気もして、ベリーは胸が詰まった。
しかし、とにかく先ほどのことを耳に入れなくてはならない。
ベリーが食事をしながら話すチャンスをうかがっていると、フェザーがオーナーに口を開いた。
「ここは、守りはどうなっている?」
「なんだい?藪から棒に。」
「問題がある。」
ドキッとベリーも心臓に悪い。
この、人の多い場所で話すことではないと思うからだ。
「フェザー、ここでは……」
ちらりと冷たい目でフェザーがうなずき、そしてまたオーナーの顔を見る。
オーナーはその鋭い顔にゾッと寒気を覚え、唇に指を立てた。
「静かに。なにか、あったんだね。」
「あった。今夜盗賊が来る。」
「なにっ?!」
「なんだって?!」
愕然とした顔で、オーナーやバラン達の顔色が変わった。
「なぜ?なぜわかったんだい?」
「下見の奴らが話しているのを聞いた。ポリスの規模は?近くに軍はいるか?」
「ポリスは……常駐が3人。でも何かあった時は近く……と言っても1時間はかかるけど、まわりの村から集まって来る。
犯罪なんてほとんど無いからね、でも最近客が増えてるから来月増員と聞いているんだよ。
軍はあんた達の方が知っているだろう?こんなへんぴな所に、軍の基地なんて無い。2つ山を越えたもっと向こうさね。」
「とにかく、ポリスに軍を要請して……!」
ガタン!
デュークが蒼白な顔で立ち上がる。
しかしバランがその手を押さえた。
「駄目だ、軍は間にあわねえ。」
バランはどうしたものか、アゴのヒゲをモジャモジャ指でかき回す。
「ふーむ、で?あんたはどうした方がいいと思う?」
「頼るモノがないなら戦うしかない。ポリスが来るまで時間を稼ぐか……それに手を貸すことなら出来る。ただし、俺たち2人は追われている。目立つことは出来ない。」
「フェザー!駄目だよ!」
つい声が大きくなって、ベリーがハッと口を押さえる。
「とにかく、奥に行こうかね。ここではまずかろう。それと、ポリスも呼びに行かせよう。」
大きくベリーがうなずいた。
「ええ、僕もその方がいいと思います。すでにこの町は見張られている。」
「わかった。メイ、ポリスのクラウドを呼んできておくれ。人の多い表通りから行って構わないよ、裏に回るとかえって目立つからね。うちに来たら家の玄関から入って客間に頼むよ。」
「は、はい、オーナー。」
メイが不安な顔でデュークを見る。そしてたまらず彼の服を握りしめた。
「どうした。」
「デューク、危ない事しないで。」
デュークが少し驚いて彼女の手を握り、ポンと頭を撫でる。
「大丈夫だ、心配いらない。無茶はしないから。ほら、呼びに行くんだろ。」
メイが涙を浮かべ、コクンと小さくうなずいた。
何も知らない人々が、近くのテーブルでは楽しそうに声を上げてグラスを合わせている。
「じゃあ場所を移すよ、おいで。」
オーナーの声に、一同が立ち上がり付いていった。



そこは、店のカウンター横のドアから入り、厨房を横目に過ぎて廊下を進んだ先のオーナーの自宅だった。
やや狭い家だが、店の2階部分まで部屋があるらしい。
何も知らないスタッフが穏やかに挨拶し、緊張感を解かれてデュークがボソリと、2階の方が広くて自分の部屋もあるのだと言った。
「ホテルにいないで自分の部屋に帰ればいいのによ。」
バランが呆れて言うと、デュークは無言で手を挙げる。
どうもこの気の強いオーナーとは、親子でありながら少々確執があるらしい。
とは言いつつ、母親を気遣う様子はちゃんと見て取れるのだが。
「どうぞ。ここならいいだろう。」
案内された部屋は、質素だが上品な家具がそろった客間だった。
ソファに並んで座り、フェザーの正面にオーナーが座ると、ふと仕事でここにいるような錯覚に襲われる。
心配そうな隣のベリーに目をやり、一つ息を吐いてフェザーが顔を上げた。
「敵はすでに準備は万端だろう。騒ぎになると、攻撃が早まる可能性がある。
静かに、事を運ばなければならない。」
「なるほど、それはわかる。でもどうやるんだ?俺たちだけで歯が立つとは思えねえな。みんな銃さえ日頃使うことがねえ奴らばかりだ。」
渋い顔のバランに、フェザーがまたベリーの顔を見た。
ベリーの心臓が、ドキンと脈打つ。
彼が、何かを決心したのを確信した。
でも、この状況で今更どうやって止められるだろう。それは恐らく、この優しい人々を見殺しにすることだ。
それにフェザーが傍観者でいることに耐えられなかったのならば、それは彼の優しさかもしれない。
言葉が出ないもどかしさに思わず彼の腕を握り、グイグイ引いてゆらす。

ああ、僕は……僕はどうすればいいんだろう。
ドクター、たとえ悪人とはいえ人間を、彼が殺戮するのは許されない。でもどうやってそれを止めればいいんでしょう。
ドクター……教えて下さい。

不安そうなベリーの手を握り、フェザーがオーナーの顔を見る。
「俺が、奴らのアジトに出て頭に会ってくる。」
「なんだって?また命知らずなことだよ。会ってどうしようと言うんだい?」
「説得。」

「ぷっ!」

ゲラゲラと、バランが笑い出す。
デュークも横で、呆れて首を振った。
「お前さんのようなヒョロヒョロの口べたが、一体何で説得するってんだ?顔か?
無理だよ、死にに行くようなモンだ。」
「そうだよ、相手も話なんて通じないに決まってる。」
フェザーが、しかしゆっくりと首を振る。
バランはふと、奇妙な寒気に襲われ身体中の血がストンと下がった気がした。
目の前の、女のような男のその雰囲気はガラリと変わり、こうして近くにいても身震いが出る。
何か、恐ろしいモノを前にしているような気さえして、知らず腰が浮いた。
「まさか……マジでやる気か?」
「それでも、やってみるしかない。少しでも時間稼ぎになるなら。
ポリスへの連絡と、町のことは任せる。奴らが俺を突破してきた時のことを考えて、町の男達で森の入り口を固めてくれ。
ただしさっきも言ったが、奴らがすでに準備を終わらせているとしたら、騒ぐのは逆効果だ。」
「しかし、あんた1人でなにが……」
「駄目だ、あんた1人でなんて行かせられない。俺も行く、俺はこの町の人間だ。」
デュークがたまらず立ち上がった。
「1人でいい、足手まといだ。お前はお前に出来ることをやるがいい。」
デュークの顔が、カッと赤くなる。こうもはっきり言われると、ぐうの音も出ない。ふと母親の顔に視線をやると、見たこともないほどに厳しい顔でじっと自分を見ている。
「しかし……とにかく1人でなんて危険だ。」
どうにも出来ないデュークが拳を握った。
命を賭けるなど、親を前にして言えるわけがない。自分はたった1人の息子だ。
「わかった。じゃあ村の奴らと数人で……」
じっと目を伏せ考えていたベリーが、とうとう顔を上げバラン達を遮った。
「いいえ、あなた方は村で待機を。彼とは僕が一緒に行きます。」
「ちょっ、待ってくれ。」
たまらずバランが立ち上がる。
「なら俺も行く!」
「いいえ、どうか僕らにお任せを。
僕らは軍に追われていますが、軍で訓練を受けた者です。」
「しかし……」
バランの眼が、ベリーを心配そうに見つめる。
「ダメだ、ダメだよ、そんなコトさせられねえ。こんな……こんな細っこい腕じゃあ盗賊どものいいようにされちまう。ダメだ!」
「大丈夫だよ、心配しないで。僕はこう見えて力が強いんだ。」
「しかし……」
心配するバランへニッコリ微笑み返すべりーに、フェザーはちらりと視線を送り立ち上がった。
「いい、俺は1人で行く。足手まといだ。」
さっさとドアに向かう彼に、ベリーが慌てて追いかける。
「駄目だよ、僕はいつもフェザーと共にあるのが……」

ドスッ

フェザーの重い拳がベリーの鳩尾に当たり、言葉も発することなく彼の身体がガクンとフェザーに倒れかかった。
「おいっ!」
「ベリーを頼む。出来ればポリスの目に触れない所に……」
「わ、わかったよ。でもあんた……」
バランが彼の身体を受け取り、顔を上げる。しかしその時すでに、フェザーの姿は消えていた。
「彼は?」
「いっちまったよ、何のためらいもなく。」
オーナーが大きくため息をつき、胸で大きく十字を切って手を合わせる。
「なんて事だろう。いつかこういう日が来ることはわかっていたのに。
カインのこの辺境で生きると言うことがどういう事か、一番知っているのはあの子だったのかもしれないねえ。」


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