2、親父の背中に馬鹿と叫ぶ

小さい頃、壊す力が災いして父親に捨てられてしまった過去を持つダーク。
ピアの父親の情報を求めて、彼は彼女に力を貸します。
ピアは父親と会えるのでしょうか。

 そこは、小さな街には不釣り合いの美しい劇場だった。
確か上演していたのは、ライオンの子供がはぐれた両親を捜して旅をする、そんな話だったと思う。
劇にワクワクして見入っていた俺に、父さんは確かこう言った気がする。
「ライトを預けている叔父さんに連絡してくるから、いい子にして見ているんだぞ」
馬鹿な俺は、その時元気に頷いて父さんの大きな背中を見送った。
とても楽しい劇で、終わった後懸命に拍手しながら、ここにライトがいないことがひどく残念だった。
そして幕が下がり、次第に親子達が楽しそうに帰って行くのを見送りながら、俺はじっと父さんが帰ってくるのを待っていた。
ようやく手に入れたと父さんがかざすチケット2枚。諦めていたのに、父さんが選んだのはお利口な手のかからないライトではなく、壊しまくって叱られてばかりの俺だった。
嬉しくて、羨ましそうなライトにチケットを盛んに見せびらかしたのを覚えている。
馬鹿な俺は、父さんに選ばれ嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
暗く電気の消えた劇場。客の姿もまばらになって行く…
嫌な予感をうち消しながら、必死で祈るように涙を堪えていた。
でも、とうとう父さんは戻らなかった。
大好きだった父さんは、二度と戻らなかった。
 「んー」と、紅い口紅を引く。
ちょっと歪んだ。ふき取って、もう一度塗る。
「んー、まいっか」きりがない、仕方なく妥協した。
「お前何度口紅塗ってるんだ、馬鹿」
口ひげ付けてマスターに変身したライトが、鏡を覗くダークを馬鹿にして言った。
「俺はね、兄貴みたいに張って終わりじゃねえんだよ。どうも最近夢見が悪くて、化粧ののりが良くねえ」
そう言って立ち上がり、長い黒髪をまとめてピンで留める。ドレスの裾を上げ、スニーカーからブルーのハイヒールに履き替えた。
仮の宿の1階の酒場、ノルマを達成しないと家賃に響く。大家はケチだ。女装のダークがいるといないでは、売り上げにまで響くのだ。
 2人は15才の双子。しかし身長は兄のライトは小学生並みで、弟のダークは二十歳にも見える程差がある。
2人は家で代々守っていた「ランティスの黒ダイヤ」を追っている。それは母親を殺され奪われた、呪いのダイヤなのだ。
守ることが出来なかった家の幼い2人は、その呪いを受けてライトは壊れた物を直し、ダークは壊しまくる。
「直しのライトと壊しのダーク」今は裏で、そんな異名を付けられてしまっていた。
 「で、誰に習ったの?そんな女装なんて」
ピアが、皿を拭きながら声を掛ける。
ライトがチラと顔を向けた。
「昔世話になった女。劇団と一緒に旅してた」
さらっとダークが答える。
「ふうん、旅役者かあ」
「おめえより色っぽいだろ?じゃな」
ウインクしてダークが店に降りてゆく。しかし酒にはまったく口を付けないらしい。飲むフリだと言うが、本当なのか怪しいもんだ。
「ピアは何するの?」
ライトがマスターらしく、派手なベストを着て蝶ネクタイを付けながら聞いてくる。白髪交じりのカツラをつけて、鏡を見てきちんと整えた。確かに15才には見えない、どう見ても背の低い中年のおじさんだ。
「貴重な自由時間だもん、お父さん探しに行くよ」
「そっか、ねえピア」
ライトがちょっと俯き、言いにくそうにしている。
「なあに?」
「あまりダークの前で親父さんの話しないでくれる?」
「なんで?」
ライトが、ちらっと階段を見る。そして小さく溜息を漏らした。
「ダーク、小さいとき親父に捨てられたんだ。あの壊しまくる力が災いしてね」
「えっ、じゃあ旅役者って」
「地方の劇場に置いて行かれて、旅役者に育てられた。2年前再会して、そして一緒に盗まれた宝石探す旅に出たんだ」
「何で?そんな大層な宝石守ってるなんて、大きい家じゃないの?」
「いいや、宝石守っていたのは巫女って呼ばれてた母さんで、婿に来た親父は農業やってたんだ。大きな蔵に廟があって、そこに安置してた」
普通の男の父親が、肩身の狭い思いをしていたのは知っている。でも、父親なりに一家の大黒柱として、母親を後ろから守っていたのだ。宝石の存在を除けば、普通の家族だった。
「宝石、探してどうするの?」
「俺達は宝石を持っているバラスや、母さんを殺した奴らも捕まえたいんだ。あの一味全部ね。そして宝石を廟に戻す。それできっと、この呪いも解けると思うんだよ」
「そう…ごめん良く知らないで」
「いいんだけどね、ピアだって親父さん探してるんだし。でもあいつ最近よくうなされるから。きっと悪い夢だと思うんだ」
ピアの心が重く沈む。家に置いて行かれた自分と、知らない街に置いて行かれたダーク。どちらが心細いかわからない。でも、ピアは近くに親戚もいたし頼れる人がいたのだから、条件は随分良かったと思う。
ライトが言うには、ダークが他人に心を許すのは珍しいことのようだ。しかしピアには何故か、それがひどく寂しく思えた。
 珍しく忙しかった店がはけて閉店が迫った頃、1人疲れた顔の中年の男が入ってきた。
ライトが水割りを作り、男に差し出す。
フッと溜息付いて、ちらりとダークを向いた。
「あんた、美人だね」
「まあね」
「うちの娘は田舎臭くて器量も悪いが、母親にそっくりでね。タヌキを見るとどうしてか思い出すんだ」
「ボロクソだね、タヌキかい」
「誉めてるんだよ、俺あタヌキが好きなんだ」
「変なほめ方だね」
フッと、男の表情がほぐれて見える。ダークもチョビチョビと酒に口を付けて、変な親父とクスリと笑った。
「ああ、でも俺あそんな娘をよ、家に1人置いてきちまった。心配してるだろうなあ。手紙でも出そうかと思っちゃいるが、捨てられたと思ってやしないかねえ」
ドキッと、ライトの手が止まりダークを見る。
ダークは無表情に、息を飲んで水割りをあおった。
「出て行けよ」
「ダーク、裏に行きな」
「出て行けよっ、このクソ野郎」
パーンとダークの手元にあるグラスが割れる。
「ダーク!」
「いいんだ、俺が悪いんだから。じゃあな」
男は寂しそうに、コインを置いて帰って行く。
ライトは大きく溜息をついて、割れたコップを直して元に戻し、カウンターにいるダークの背をドカッと蹴った。
「お前、あのくらいでいちいち客追い出すな」
「るせえ!あのクソがあんな事言うからだ」
顔を上げるダークは、ボロボロ涙を流している。また、ドカッとライトが蹴った。
「いちいち泣くなっ、この泣き虫」
「るせえ!兄ちゃんの馬鹿野郎っ」
ダークがドレスを踏みつけながら2階に上がってゆく。すると上からわんわん泣く声とバンバンとガラスが割れる音、そしてピアの悲鳴が響いてきた。
「父さんの、馬鹿野郎」
そう言う自分達も、報復のように父親を捨ててきた。でも、どうしようもない親でも親だ。
ライトは潤む目を拭き上を見上げると、壊れた物を直しに2階へと上がっていった。
 「この、バカ双子っ」
わーんと、今度はピアが泣いている。
朝食を取りながら昨夜あった事を話すと、それは自分の親父かもしれなかったというのだ。
「ああ、そういやそうだな」
タヌキを見れば思い出す。
ジイッと、ライトとダークがピアの泣いてグシャグシャになった顔を見る。
「ぷっ」「ひゃはははははは」
何故かゲラゲラ笑われて、ピアがムウッとむくれた。
「なによう」
「確かに、お前の親父かもしれねえ。娘の特徴がピッタリだ」
「あら、やっぱり美人だって言ってた?」
「まあね」
プウッと兄弟顔を会わせて笑い、ンーッと考える。
「あの時間、仕事帰りだったな」
「うん、随分手が荒れてたな。裏方かな?土木でもなさそうだ」
ダークは目ざとい。ピアにほれ、と手を出した。
「お前、写真持ってる?あるなら出せよ」
「うん、でも若い頃のしかなくて。あたしも探し回ったけど、駄目なんだもん」
差し出す写真は、昨日の男とは別人のようにパリッとした若者だ。
「ああ、これじゃ駄目だよ。全然違うもん」
ライトが首を振って溜息をつく。
「くたびれたおっさんだったぜ、なあライト」
ああ、そうかもしれない。父親は、かなり借金を作ってしまったらしいから。
人がしんみりしている横で、兄弟はガツガツ食べている。人ごとかと溜息をついたとき、2人はグッとジュースを飲んで立ち上がった。
「それじゃあ、探しに行こうか?ダークは?」
「探すの手伝ってくれるの?!」
「俺も行くよ、お前が親父の話ばっかりするから、最近どうも夢見が悪いんだ」
「あたしも行く」
あたふたと片付けるピアも一緒に、結局3人でぞろぞろと街へ出た。
 ブルーのワンピースをヒラヒラ風になびかせ、カツカツとヒールを鳴らして歩くダークと、何となく離れて歩く。ピアがひっそりライトに話しかけた。
「ねえ、何で女の格好なわけ?」
ライトは普通の少年のような姿に野球帽と違和感がない。
「人を訪ねるときは女の格好がいいんだよ」
「私は駄目だったわよ」
「ピアはね」
「どういう意味よ」
言っている間に、ダークが食堂を兼ねた居酒屋へ入って行く。今はまだ、何処も準備中だ。
表は開いてないので、裏へと回った。
「裏へ行っても客の顔は知らないんじゃない?」
「裏だから女の格好で行くのさ」
不思議な顔で、そうっとピアがダークの後を付いて行く。近くまで行き、中をうかがった。
「父さんがいないと私、本当に困ってるんです。去年の秋から行方不明で」
「気持ちは分かるが、そう言う人は多くて」
しくしく、ダークが嘘泣きしている。
「お、ね、が、い、ね?」
首を振るコックの手にダークがそっと手を添えると、コックは一転して真っ赤に顔を燃え上がらせ、何度も頷いた。
「そ、そりゃあ大変だな、ちょっと待ってくれ、中にも聞いてくるから」
「ええ、お願いします」
中で、従業員の男達は、今いる従業員全てにも懸命に聞いてくれている。
結局わからなかったが、娘を一人残してなどと話を聞いたことがあったら、すぐに連絡を入れると約束してくれた。
「確かに役者譲りだわね、あの演技力」
「だろ?いい女らしいのさ、ダークは」
「ふうん」
思い返せば、ピアは何処へ行っても玄関先で追い出され、まったく相手にされなかった。
女としてちょっと腹が立つ。
「んー、じゃあ次行くか」
ダークが嘘泣き用のハンカチを直し、また先を歩いて少し大きい食堂へ入って行く。
「食うところバッカね」
「食わなきゃ生きていけないからね。ピアはどこ捜したの?」
「あの、ホテルとか、カジノよ」
「そりゃ見つからないよ」
あははっとライトが笑う。
「そうみたいね」
ピアがハアッと溜息をついた。
それから数軒をまわり、ダークが泣き落としに飽き飽きしてきた頃。みんなのお腹がグーッと鳴った。
「昼飯、食うか。腹減った」
「じゃ、ハンバーガーでも買ってこようか?」
ピアが2人の好みを聞いて店に走る。ライトがバーガー2つにポテトにシェイクSで、ダークがバーガー4つにポテトLにシェイクLとナゲット。こんなに食べてどうして太らないのか、ダークの細いウエストを見るとムカツク。
「43番のお客様」
「はーい」商品を受け取ってくるりと振り返ると、2人は何故か電柱の陰に隠れてピアに手招きしていた。
「どしたの?」
「よしっ、走るぞ」
「え?え?ええーっ」
ダアッと走り出した3人の後ろで、「ああっ」と男の声が上がる。
「あいつ!サルビアだ!待てーっ」
いきなり追いかけてきた。
「キャアッ、追いかけてくる」
「ピアッ、こっち」
ライトに手招きされてサッと路地に入り、カジノの地下駐車場を通って裏のゴミ置き場に出た。
臭い中をじっと潜んでいると、遠くをバタバタと足音が遠ざかっていく。
「あー、行ったか」
「サ、サルビアって、誰?」
ハアハアと息をつき、ピアは袋のバーガーを潰しそうだ。
「以前他の街で俺、あいつに結婚指輪貰ってドロンしたの。まさかこの街で会うとはなあ」
涼しい顔でダークがうそぶく。
「ドロンって、じゃあサギ?」
「しらねえ、俺うんって言わなかったし、勝手にくれたんだもん」
「その指輪は?」
「1万ドルで売れた。いい金になったよなあ」
「なっ」売るな、馬鹿!ダークは全然罪悪感ゼロ。
「なったよなあって、それ立派なサギじゃない。怒るの当たり前よ」
「へえ、そうなのか。そりゃ悪い事したなあ、じゃあ飯食おうぜ」
「ダーク、本当に反省してんの?」
「俺も走ったらお腹空いたよ。ここは臭いから向こうに行こうか」
「ライト、あんた兄ちゃんでしょ!」
「ピア、何怒ってんの?」
はあああ、こいつらの性格ちょっと破綻してる。
ピアが愕然としていると、ガサッと後ろでゴミを出す音がした。
「あっ、ピア、後ろっ」
ライトが後ろを指さす。バッと振り返るピアの後ろで、昨夜の男がコック姿でゴミを出していた。
「お父さん!」
「ピ、ピア」
ハッと男が驚いた顔で、思わず逃げ出す。
「待って」「待てよ、親父さんっ」「何で逃げるんだ!」
3人が追いかけ、慌てて父親の腕を捕まえた。
「お、俺は、帰ろうと思ったんだよ、ピア」
「じゃあ何で連絡の一つもくれないの?」
「そ、それは…」
言葉が見つからず、責めるピアから顔を逸らし、父親は俯いて目を閉じる。
「いたぞ!待てーっこのアマ!」
運悪くその時、後ろからダークを追いかけていた男達が現れた。
「あーもう!何て間の悪い連中だよ」
兄弟の前方にはピアが父親と見つめ合い、後ろには追ってくる男が迫ってくる。
やがて男は距離を置いて立ち止まり、じわじわと近づいてきた。
「見つけたぞ、このアマ」
ハアハアと汗かいて、スーツ姿の男は昔よりも更にガラが悪くなっている。
「よ、久しぶり」
ダークが嫌そうに手を挙げた。
「お父さん、どうして私を置いていったの?」
「サルビア、なんで俺を置いて行きやがった」
ジリッと男が迫り、後ろでは父親がジリッと下がる。
「お父さん、黙ってないで何か言って」
「黙ってねえで何か言いやがれ」
ビクッと、父親が顔を上げ、ドキッとダークが顔を逸らす。
「お父さん、私が嫌いなの?」
「サルビアー、俺はまだ愛してるんだぜ」
ブンブンと、父親とダークが首を振った。
「お父さんっ」
「サルビアッ」
イライライラ、ううううー。
煮え切らないピアの父親と騙されたしつこい男、ついでに空腹も限界に来てダークが今にも切れそうだ。
「ダークッ駄目だ」
ライトの声も、遅かった。
「えーい、クソ!いい加減にしろーーっ」
ドーーーンッッ!!
ガーンッ、ガシャーンッ、バキバキメキッ!
「ひえええっ、な、なんだあっ」
路地にいただけに、両側のビルの壁一面にヒビが入り、ガラスが弾け飛び鉄格子がアメのように折れ曲がる。
柱が折れて、ズズズズッと片方のビルが傾きかけ、中からキャアキャアと悲鳴が漏れ聞こえ、ビルの壁がバラバラと落ちてきた。
「な、なんだ一体こりゃあ!」
ガクッと男の腰が抜ける。
「ピア、ピア、危ない」
アワアワと、父親がピアの手を握って引き寄せ、ダークはその姿にブワッと涙が浮かび、忘れかけた父親の顔が何度も瞼に浮かんだ。
「親なら…う、う、親ならちゃんとしろよ!子供を不安にさせるなよ!泣かすなよ!」
「ダーク」
ライトがダークの手を握る。
「兄ちゃんっ、兄ちゃんっ、くそお」
バラバラと、コンクリートの破片が頭から散ってきた。
バキバキ、メキメキメキ。
ぐらりと次第にビルの壁が迫ってくる。
「ギャアア!逃げろおっ」
男はバタバタと逃げ、ピアも父親と手を取って逃げ出した。
「あーあ、またやってくれた」
「うっく、うっく、ごめん、兄ちゃん」
「こりゃあ、無理だね」
「そっかな、ううっく」
「逃げろ!!」
ドドドドドッッドーーーンッ
逃げる2人の後ろで、人々が逃げまどう中2つのビルがゆっくりと崩壊してゆく。
もうもうと舞い上がった煙の中、真っ白になりながらごった返す人々を横目に、その場を離れた。
グスグス涙を拭くダークは、化粧とホコリでひどい顔だ。ライトも帽子を取り、それでバンバン身体を叩いた。
「ああ、またやっちまった」
破壊魔王が溜息をつく。
「仕方ないよ、済んだことは」
あっさりライトがなぐさめた。
「ううー、ホコリで涙が止まらねえ」
「ピアよりお前が泣いてりゃ世話ねえな。泣き虫ダーク」
「泣き虫じゃないもん!」
「ひでえ顔」
ライトがクスクス笑って、ポケットから取りだしたハンカチをダークに渡す。ダークはそれで顔を拭き、ああと大きな溜息をついた。
「ああ、腹減った。ピアがバーガー持ったまま逃げちゃったな。ちゃんと持って来るかな?」
とぼとぼ歩きながら、家を目指す。
身体を叩いて、真っ白なほこりを上げながら言うダークに、ライトがきっぱり告げた。
「もう、ピアは来ないよ。親父さん見つかったんだ。一緒に暮らすさ」
ダークの手が止まり、立ち止まりじっと俯く。
「寂しいのか?きっと荷物を取りに来るだろうから、また会えるさ」
ライトが下から覗き込むと、プイッと顔を逸らす。
「さ、さびしかないよっ」
プンと歩き出すダークの目からまた涙がポロリとこぼれる。バフッと、ライトが背を叩いた。
「泣き虫ダーク」
「泣き虫じゃないもん、兄ちゃんの馬鹿」
寂しいのか、羨ましいのかわからない。親子で手を取って逃げる後ろ姿。小さい頃、泣きながら劇場を探し回った自分。父親の後ろ姿は、いつもダークにとって幻のようだ。
ライトがダークの腰に手を回してきた。
「泣くなよ、俺がいるじゃんか」
「…うん、兄ちゃん」
ダークがライトの肩に手を回す。
「親父に、電話してみるか?」
プルプルとダークが頭を振った。家を出てから、これまで4回無言電話をかけた。親父はそれが、自分達からの電話と分かっている。元気か?と気遣いながら、それでも絶対2人揃って帰ってこいと言わない親父の、くだらない意地がライトには腹立たしい。宝石を取り戻すまで、絶対に帰らないと心に誓った。
「宝石、早く取り戻そうな」
「うん」
めそめそと泣く女を、少年が手を引いて歩く。
変わった取り合わせの兄弟は仮の宿に向かって真っ直ぐ顔を上げ、前を向いて歩き出した。
タンタン、ジャアアッ
美味しそうな匂いに、大きな欠伸をして起き出す。起きてベッドを降りると、兄弟2人顔をつきあわせた。
「あれ?兄貴じゃねえの?」
「俺は今起きた」
まさか、泥棒?バットと鉄パイプをそれぞれ片手に、そうっとドアを開ける。
「フンフンフーン」
鼻歌交じりに、見慣れた少女がヨッとオムレツを返す。
「ピ、ピア!何で?」
「あー、おはよう。朝ご飯だよ」
「だから何でここにいるわけ?」
ピアはさっさといつものように食事の用意をして座る。ジュースを注ぎ分け、頂きますと手を合わせた。
「あのクソ親父さあ、あの年で料理人目指してるんだって。その上女と暮らしてたのよ。冗談じゃないしぃ、あたし雇われてるからって出て来ちゃった。首になるまでよろしく」
「よろしくって……俺達いつ旅に出るか」
「いいわよ、別に。父さんはもう自分の人生進んでるんだし」
「はあ、なるほど」
何だか納得できるような出来ないような。
「ま、好きにするがいいさ、こき使うんだし」
ダークがにっこりライトに笑う。
ライトもまあいいかと席に着き、3人はいつものように朝を迎えた。