6、実家へ帰らせて貰います

3人は、バラスのいるランティスという村へ。
しかしそこは、双子の実家がある村。いまだ父親が独りで住んでる家があるのです。
帰るのを躊躇しながらも家に潜んで行きますが、そこにはバラス一味がすでに侵入していました。
父親を助けようと言うダークに、ライトは反対しますが……
2人は父親と和解して実家へ帰ることが出来るのか?
ラスト!

ボウッと、景色を眺めて黒髪の青年ダークが息を付き、足をひっきりなしにタンタンと足踏みする。
いつもは寝ない小さな少年ライトは、目的地が近づく毎にくりくりと身を返しながら寝たふりをする。
いつもと違う雰囲気の兄弟は、居心地の悪い電車の中でそうやってシュリンカーへ到着するまでを、奇妙なほど不自然に過ごしていた。
彼らは15才の双子。
家から盗まれた「ランティスの黒ダイヤ」の呪いにより、成長もまばらで不思議な力を持っている。
兄のライトは宝石の組成や容積を自在に操り、首に掛けたルビーのネックレスの中には、ようやく捕まえた犯人の1人を捕まえて封じているウィザードだ。普段この力の応用で壊れた物を直すので、弟のダークの何でも破壊する力と合わせて「直しのライトと壊しのダーク」という異名を持っている。
18才の少女ピアは、そんな双子の同行者だ。
そして今、バラスの夫人フレアからの情報で、双子の故郷へダイヤを持つバラスを追ってやってきた。
しかし、ダークは小さい時に壊す力が災いして父親に捨てられ、旅劇団に育てられた過去がある。だからどうしても、実家に帰ることに抵抗が強くて落ち着かなかった。
ポツポツと歩く駅からの道を、俯いていたダークがはたと止まる。
「じゃ、俺この辺にホテル探すよ。兄貴、変わったこと無いか聞いてきてくれるだろ?ピアも行けばいいよ、俺は1人でいいからよ」
サッと背中を見せて小走りで歩き出す。ライトは追って、一緒に並んで歩き出した。
「もっと、違う方法考えよう」
「違う方法なんて、面倒臭いだけだろ。直接聞いて来いよ、あそこは兄貴の家だ」
「お前の家でもある」
パッと足を止め、ダークがブンブンと首を振る。そしてまた、走り出した。
「俺の家じゃないもん!」
「お前の家だ!」
「ちょっと待ってえー!」
ヒイヒイと、ピアも懸命に後を追う。
ブオオオオオン、キキー!
走る3人の前に、いきなり小型トラックが止まった。
「あれえ?ランティスの坊ちゃんじゃないかい?家出して帰ってきたんかね?」
窓から真っ黒に日焼けした爺さんが声を掛けてくる。ついでに隣の婆さんが、目を輝かせて窓から覗き込んだ。
「おお、その人は嫁さんかいな?おんやあ!まあ!こちらの人、お母さんにそっくりなことお!まさか、弟さんが見つかったかい?」
「あ、はあ、どうも」
思いっ切り田舎パワーに負けて、3人がにっこり笑いながら思わず頷く。
「旦那さんもあんな大きな屋敷に独りで住んで、さぞ寂しかっただろうて!さあさあ、乗って乗って!お屋敷までお送りするから」
降りてきた爺様と婆様に有無も言わさずさっさと荷台に乗せられ、トラックが走り出した。
駅周辺の街を抜けて、畑の広がる道を行く。
美しい麦が黄金色にサヤサヤと風になびき、ダークは目を見開いて景色に見入った。
遠くに見える山も、景色はあまり変わらない。
車が川を越えたとき、思わず「ワアッ」と声が出る。
「なあ、兄貴、小さいときここで遊んだよね」
「そうだな、もっと上流だったな」
嬉しそうに、身を乗り出してダークが見回す。
ゆっくりとトラックが、廃墟の空き家から角を曲がった。その先の両側は、荒れた広大な畑がすでに何枚も見えている。
「随分荒れたんだな」
「俺が家を出た2年前でも、この辺はあとがいなくなってさ、荒れ放題さ」
ぽつりぽつりと語る兄弟に、ピアがそっと横から聞いた。
「ダーク、何年前に家を出されたの?」
「6年前だ。そうか、6年か」
「9才?」計算すればそうなる。
「ああ。ピア、俺の事初めて聞くな」
苦笑するダークにヘヘッとピアが笑う。聞きたくても、聞かない方がいいと思ったのだ。
「お父さんが我慢できないくらい壊したの?」
「我慢してくれたよ。でも、壊れると困る物があったから。だからだと思う」
「困る?」
そこで、黙って聞いていたライトが割って入った。追い出された理由なんて、何であろうとダークに言わせたくない。
「廟だよ。ダイヤを安置する廟を壊されると困ると思ったんだ。あれには結界が引いてあって、ダイヤの呪いを強力に封じる。でもダイヤの呪いで受けたダークの力は、容易に廟を壊そうとするんだ。ダイヤが戻っても、廟が無くては守れない」
「今まで盗まれたことあるの?」
「あるよ、これが3度目。1度目はすぐに戻ったらしいけど、2度目は何人もの手を渡って呪いを振りまき何人も死んだ。だから有名になってしまったんだ。それで廟を倉に収めたんだけどね」
家人を殺され奪われては手も足も出ない。
何故彼らがそんなものを引き継ぐ運命にあるのだろう。ダークが寂しい顔で笑う。
「ま、没落して残った物が呪いのダイヤじゃ浮かばれねえよな」
ピアの目にうっすら涙が浮かぶ。綺麗な景色が潤んで、ピントの合わないレンズの向こうのようだ。何かが間違っていると思えた。
「9才なら、家の住所も言えたんじゃない?」
思いきって言ってみた。ライトも顔を上げる。
でも、ダークは複雑に笑いながら景色に見入っている。
やがて、山の麓に大きな屋敷が見えてきた。
「わあ!大きなお屋敷」
「古くて大きなだけさ」
ライトがくさったように言う。
ダークが屋敷から背を向け、ピアに微笑んだ。
「住所、言わなかったんだ」
「どうして?」
「親父の気持ちも分かるから。劇団と一緒の生活も楽しかったぜ。親父に怒られてるより良かったかもな」
「うそ」あまりにも物わかりが良すぎる。
家族との暮らし以上に幸せだったわけがない。
でも、ダークは覚悟を決めた面もちで、ピアとライトに言った。
「絶対、何も言うな。俺の事」
コンコンと、運転席の窓を叩く。敷地の中へ入ろうとしたトラックが屋敷の前で止まった。
「じゃあね、お父様によろしゅうな」
「ありがとう、助かりました」
3人を下ろし、素朴で優しい爺様と婆様が、手を振って車を出す。遠く離れていく車を見送り、手が回らないのかやや荒れた庭に伸び放題の蔦が絡まるアーチの門を眺めた。
懐かしいけど、一歩歩んですぐに足が止まる。
ダークの胸はドキドキ張り裂けそうで、怖くて怖くてたまらない。
出て行けと言われるか、二度と来るなと言われるか、その前にお前は誰だと言われるか。
浮かぶセリフは悪いことばかり、でも浮かぶ顔は小さい頃の父親の顔だ。
「兄ちゃん、俺、やっぱ行けない」
ダークが泣きそうな顔で声を震わせる。
「行こう!あたしが付いてるじゃん」
ピアが元気に腕を組んでくる。
「うう、あんまし心強くねえ」
「んま!」
「よし、兄ちゃんもいるじゃんか」
ガシッとダークの両腕に2人がスクラム組む。
「泣くな、お前は堂々としてていいんだ」
「そっかなあ」ダークはいつになく弱気。
庭を奥へと入る毎に、歩みに力が無くなってゆく。ダークは引きずられるようにしながら玄関の大きなドアに立つと、ジイッと家の上まで見上げる。
「何か、やっぱじぶんの家じゃねえ感じ」
「帰るつもり無かったけどな」
何となく渋る双子を押しやって、ピアがさっさと呼び鈴を押す。
キンコーン、キンコーン
しかし、何度押しても誰も出ない。
「あれ?寝てんのかな?」
ピアがもう一度押そうとした手をダークが止める。ジイッとドアを見ていたダークは、ハッとした顔でライトを見て囁いた。
「ドアから悪そうな男が出てくる」
「諦めたフリして出よう」
ピアが、ルーレットの目を当てたダークを思い出す。たまに見える予知は、9割当たるが滅多に出ないので頼りにはならない。
門を出た3人は、少し戻って草陰からそっとドアを窺う。しばらくすると、やはりサングラスにスーツ姿の男がドアから現れた。
双子がうなづき合い、ダアッと裏へまわりダークがライトを肩車して塀の上から中を覗く。
「どう?」
ピアが囁きながら、まわりを警戒する。
ライトはダークの肩から飛び降りて、サッと木陰に駆け出すとあとの2人も追った。
「やっぱり、奥の蔵に1人見えた」
「あいつらきっと銃を持ってるぜ。それに、父さんがきっと掴まってる」
「殺されてるかもしれないよ、ダーク」
ライトが冷たく言う。ダークは首を振り、また泣きそうな顔でライトの袖を握った。
「駄目だ!助けようよ。助けなきゃ」
「ダークは許すのか?あんな奴」
ライトは許せない。ダークを連れて帰らなかった父親を。
あの時、知り合いに預けてきたという言葉が嘘だと、ライトにはすぐにわかった。
家ばかりを守ろうとする父親は間違っている。
これもダイヤの呪いだろうか?
「あんな奴、殺されちゃえばいいんだ」
ライトが吐き捨てるように言った。
「駄目だっ!」
グイと、ダークがライトの肩を掴んだ。ポロポロと、涙を流して泣きながら肩を揺する。
「兄ちゃん。俺だって辛かったよ、苦しかったよ。俺、あれからとうとう学校も行けなかった。行きたくても、劇団は施設じゃない。施設に行けば学校にも行けるけど、劇団にいれば、いつかあの劇場に戻れる。戻ったら、父さんがいるかもしれない。だから、どうしても施設に行きたくなかった。どうしても劇団と旅がしたかった。いつか父さんが探しに来てくれるような気がして。ねえ、兄ちゃん、俺だって憎いって、何度も思ったよ。でも、あれは父さんなんだ。あれはたった一人の父さんなんだ」
「ダーク、お前…馬鹿だよ、馬鹿だ」
ライトも、とうとう涙をこぼす。
弟の気持ちが痛いほど胸に突き刺さる。
しかしその時、ライトは弟が自分よりうんと真っ直ぐに育ったのだと心底思ったのだ。
そしてこんな弟を、あの父親に見せつけてやりたいと思った。
「わかったよ、ダーク。行こう」
ダークが力強く頷く。
「ああ、あんた達って、性悪だけど性格はいいんじゃない。もう!知らなかったわ」
ピアが、泣きながら横からハイッとハンカチを差し出す。
「チェッ、性悪は余計だろ」
ヘヘッと笑って兄弟で、一枚のハンカチを取り合うようにして涙を拭いた。
「私も協力するわ。どこかに武器はない?」
「じゃあ」
ライトがダークと顔を見合わせ、ニッと笑ってピアにハンカチを返す。そしてきっぱりと言った。
「じゃあ、思い切り走って貰おうか」
「走るだけ?」
「そう、ポリスを呼んできて」
そんな物、犯人を捕まえてから中の電話で呼べばいいじゃない!と言いそうになりながら、ピアが2人の顔をじっと見る。
「なるほど、足手まといなんだ」
「そんな訳じゃなくて、ポリスを誰かが呼びに行かなきゃならない」
むうう、気に入らないが、ライトの言葉も確かにそうだ。
「無理しないって、約束して」
「するよ」「死にたくはないからね」
小指を絡め、約束する。
ピアがライトに、そしてダークに抱きついて頬にキスをする。
「約束破ったら、今度はあたしが呪ってやるから!」
荷物を放り出し、腕まくりして道を走り出す。
ピアの姿を見送り、2人は彼女がキスをした頬をそうっと触った。
柔らかくて暖かい。
「出来れば今度は口にして欲しいなあ、キス」
ポソッとダークが漏らす。
ドカッと後ろから、ライトが蹴った。
「兄ちゃんを差し置いて、先に彼女作るなよ」
「あははは!さあね、俺の美貌をみんななかなか放って置いてくれないから」
「男が、だろ?」
キシシと、ライトが笑う。
「…うう、ヤローが寄ってきても嬉しくねえ」
「俺も育つとお前になるはずなんだけどなあ」
ライトがジイッとダークを見て呟く。同じように育っていた頃は、そっくりな2人はよく間違えられていた。
「まあ、バラスに返して貰えば何とかなるさ」「行くか」
頷き合い、家を見回す。しかし我が家ながら、門以外からはかなり侵入は難しい。
小さい頃庭木を上って抜け出していたところも、外からは上るのは困難だ。
「裏は?」裏門は、小さい頃簡単に鍵が開けられた。
「あそこは板が張ってある。やっぱ門だな」
2人、歩きながら門からサッと入る。そして庭木の間を隠れるように、裏へと回っていく。
柵を越え、鬱蒼と伸び放題のバラに身体中引っかかれながら何とか裏庭へたどり着くと、草むらに隠れて蔵周辺をうかがう。
やはり、蔵の前に男が1人、鍵を見てはドカッとドアを蹴っている。
やがてもう1人男が大きなバッグを手にしてくると、中から何かを取りだした。
「あ、あれ、爆弾?」
「みたい」
廟を壊すつもりか。ポソポソと、2人囁き合ってふむと考える。
「わざわざ、ここを壊しに来たのかな?」
ダークの問いに、ライトが思い出した。
「そうだ。廟の結界には、呪いを押さえる護布があるって聞いたことがある。バラスも限界が来てるんじゃないか?きっと、何か呪いを少しでも押さえる方法聞きに来たんじゃないかな?」
「しし、ブクブクがゲッソリしてたりしてね」
ダークが下品に笑った。
「バラス、中にいるかな?」「見てこよう」
ライトが屋敷の方へ行こうと指で合図する。こそこそ隠れながら、以前書斎として使われていた部屋を、ダークに担がれたライトが覗き込んだ。
「どう?」「誰もいない」
しかし、窓は鍵がかかっている。
ライトを下ろしたダークは、首に下げた中から1本のネックレスを選んではずし、窓ガラスにシュッと切り込みを入れた。
「何だよ、お前それ何?」
訝しがるライトに、ダークがダイヤのネックレスを見せる。そしてニッと笑った。
「色々なときのために、特製ネックレス」
「お前、劇団にいて何習ってたんだ?」
「んー、勉強は博士ってみんなが呼んでた大道具の人。その人色んな事教えてくれたんだ」
「泥棒やスリも?」
「まあね」
切り込みを入れたガラスをピンと弾き、割れたところをカチャンとはずす。
そこから鍵を開けて窓をそっと開けた。
先にライトを上げて、ダークが飛び上がる。
静かに窓を閉め、ドアへ向かうと小さく隙間を開ける。庭へ面した窓の並ぶ、古い家の薄暗い廊下。微かな話し声が響いているのを確認して、そっとドアを閉めた。
「話し声聞こえた。きっと居間だな」
ダークが隣との壁に耳を付ける。ここは居間の隣りなのだ。しかし、厚い土壁は声を通さない。静かな角の書斎は父親のお気に入りの部屋だ。
ライトが居間の見取り図を近くの紙に書く。
「覚えているか?きっと昔と変わらないと思うよ。ここからダイニングに行けて、その隣がキッチンだった」
「覚えてる。このドア、寒い廊下に出ないでいいように、父さんが作ったんだ」
「何人いるかな?キッチンから入り込もうか?」
考えるライトに、グッと指を立てダークが指をさす。それは居間の隣り、ダイニングと反対側のこの部屋。
「兄貴、ここにもう一つドアがあれば居間との風通しも良くならないかな?」
「居間がドアだらけになるだろ」
「じゃあ、あとでふさぐさ」
立ち上がるダークに、チェッとライトが舌打ちながら立ち上がる。ダークは壁に向いて立ち、スッと両手を差し伸べた。
ビシッ!
家が震え、壁一面にヒビが入る。
「行くぜっ!」
ダークが気合いを入れた。
バーンッ!ドッゴーンッ
「なっ!」
驚き、言葉も出ない男達を後目に、壁の破片を乗り越えバッと飛び込むと銃にもひるまず飛びかかる。
居間の中央にあぐらを組んで座る父親は、2人の男とバラスに銃を突きつけられていた。
「このガキッ!」
向けられた銃に、すかさずダークが力を向ける。バンッ!と手の中で弾ける銃は、弾を出す間もなく壊され、隙を逃さず1人をダークが殴り倒す。もう1人はライトが蹴りを繰り出し、不意に足をさらわれた男はガクリとひっくり返った。
「くっ!」
倒れた男がバシッとライトの足を掴む。
「甘い!」
ライトが思い切り顔を踏みつけ、得意の寝技に持ち込みギリギリと締め上げた。
「ひぎゃああああ!」
「チビと思ってなめるなよ」
「バラス!」
ダークが向かう父親には、バラスが銃を突きつけている。
「動くな、動くと殺す!」
バラスの手が小刻みに震える。
凶悪な顔はやや憔悴し、目がギラギラと狂気を満ちて、ゴリゴリと父親のこめかみから鈍い音が微かに聞こえる。
思わずダークの足が止まった。
ライトが懐からサファイアのネックレスを取り出し、2人の男の間に転がす。サファイアはブワッとその大きさを増し、青い水に変わって、まるで生きているように逃げようとする男達を次々に飲み込んでゆく。
「ワ、ワアッ」「助けて、助け…」
「ひい!この化け物!」
驚いたバラスがライトに銃を向けると、ダークが飛びかかる。
パンッパンッ!キュンッ、ガチャンッ!
撃った弾は天井のシャンデリアを壊し、壁に掛けた小さな絵に当たった。
ギリギリと、ダークがバラスの銃を押さえつける。
「バラス!あんたいつまでこんな事やってる」
ブヨブヨとした手の中の銃が、ダークに押しつけられてサラサラと砂のように変わって崩れ落ちた。
「フレアさんはずっと待ってるのにっ」
「うるさいっ」
「ダーク!」
ハッとライトが気付いて手を伸ばす。
バラスは懐からナイフを取り出し、シュッとダークに振りかざした。
「あっ」ダークがしまったと目を閉じる。
斬られたと覚悟した。
パタ、パタ…
血が、流れ落ちる。
「父さん」
腕から赤い血が流れ落ちる。
それは、ダークを庇って刃を受けた父親の手だった。
「父さん!」
バッとダークがバラスを引き倒し、その手からナイフを叩き落とす。
「この、よくもっ」
ダークはバラスに馬乗りになって、バシッと頬を殴り続けた。何度も何度も。
しかしその時廊下を、新手が駆けてくる音が近づいてきた。あの蔵にいた2人だ。
中の異変に気が付いたのだろう。ダークはその足音がドアの向こうで止まったとき、バッと手を廊下側ににかざした。
ガシャンメキメキ!バガーンッ
「ぎゃあっ」「うおおっ」
居間の壁ごとドアを壊し、その力が廊下の天井まで壊して男2人を押し潰す。
「こ、この、化け、物め」
呟くバラスに、ダークは唇を噛んでギュッと胸ぐらを掴み押さえつけた。
「化け物にしたのはお前だ。お前のせいで、みんな人生が変わっちまった。お前のせいで」
バッと手を離して立ち上がる。後ろに立つ父親が怖くて、ダークは振り向けなかった。
ヒュンヒュンヒュン…
遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。
ピアが呼んでくれたパトカーの音だろう。
バラスはハッと気が付いて、腫れ上がった顔でヒイヒイと息を付きながら立ち上がり、慌てて逃げようとした。
その肩を掴み、血だらけの手で父親がまた頬を殴る。バラスの顔はその血を受けて赤く染まり、消える意識の中でスーツの内ポケットからダイヤを取り出す。
「お、俺のだ、これは、俺の…」
美しく輝く黒ダイヤ、それを見る目はすでに狂気に取り憑かれ呪いに満ちている。
そして、バラスはもう一度起きることは出来なかった。
ダークが、立ちつくす父親の血だらけの手を見つめる。咄嗟に庇ってくれた手。
昔、大好きなその手は、楽しい思い出を残して自分を突き放した。
「ホー…プ」
父親が掠れた声でダークの本当の名を呼ぶ。
ダークが顔を逸らし、すっかり壊れてしまった居間と廊下を見て笑った。
「こんな壊してばかりのガキがホープ、希望なんて名前はおかしいよ。俺は闇のダークさ」
ダークが俯いて、見つめるライトの元へ行く。
どやどやと駆け寄る警察の足音を聞きながら、ライトは青い水から男達を吐き出し、青い水をサファイアに戻すと、首に掛けたルビーも同じように大きくして水のように変え、以前捕まえていたドーラという女の仲間を中から吐き出させた。
バラバラと、警察官が飛び込んでくる。
気を失った男達が次々と連行され、バラスは逮捕されてようやく意識を取り戻した。
「待てよ、バラス。これ」
ダークが首から下げていたフレアの指輪を差し出す。大きな指輪を見て、バラスはポロポロ涙を流すと、ダークの顔を見た。
「俺は、悪い夢を見ていた気がする」
バラスが、ようやくダイヤを手放してホッとしているように見える。
ダークとライトが、複雑な顔でフッと笑う。
「夢はいつか覚めるのさ」
ライトがぽつりと言って、ダークの手から背中に回ったバラスの手に指輪を渡す。
そうして、黒ダイヤを奪い、ライト達の母親を殺した一味は全て掴まった。
爆弾を処理する警察を待つため、皆が屋敷を出るように告げられた。
ピアが心配そうに、ライトの手を握ってダークを見つめる。
部屋を出ようとするダークに、ハンカチを巻いた手を父親が差し出した。
「許してくれとは、言えんな。あまりにも、都合が良すぎる。わしもあいつ等と同じ犯罪者だ」
ダークが、チラと見てプイと出てゆく。
ピアが追おうとライトの手をグイグイと引っ張る。しかしライトはその場から動こうとしなかった。ただ父親を、冷たく見つめている。
「ライト、このままでいいの?」
「ピア、俺はあいつの兄貴だ」
「なら、なんとかしなきゃ」
「兄弟だから、同じところまでしか許せない」
父親を真っ直ぐ見つめる目は、見たことがないほど冷たく冴えている。
父親も、出てゆこうとはせずただ立ちつくしていた。
ピアが真っ赤な顔でライトから手を離し、真っ正面に立つといきなりライトの頬を両手で挟むようにパンと叩いた。
衝撃で、ライトの鼻から鼻血が出る。
目をまん丸にしたライトに、ピアが噛みつくように言った。
「兄貴だから一歩踏み出さないでどうするの!ダークはお父さんに飛び込みたくても怖くて飛び込めないんじゃない!分からず屋、双子のクセにそんな事もわからないの?」
「ピ…ア…」
呆然と立ちつくすライトが、その目をキュッとつり上げる。
「わかってらいっ、このブスッ」
ギュッとピアの手を握り、ダッと父親に駆け寄る。そしてもう片方でギュッと父親の手を握った。
「来いよっ、犯罪者の馬鹿親父!」
ダアッと玄関を目指し、表の庭先に出るとダークを探す。ダークは、近隣の人で人だかりの出来た門で立ち往生していた。
「ダークッ、いや、ホープ!」
ダークが、ハッとしてくるりと振り返る。
ライトは小さい体で大きな父親を引きずって、ハアハア息を切らせながらダークの前に駆け寄った。
「馬鹿親父、あんたが何しようとこいつはあんたの息子だ。文句あるか!」
バッと、ダークの前に父親を押しやる。
ダークは俯いたまま顔を上げることが出来ずに、落ち着かない様子で一方後ろに下がる。
「覚悟決めたんでしょ、男らしく根性出せっ」
サッとピアがダークの背にまわり、そしてドンと父親に向けて押した。
ダークがぽすっと父親の懐に押しやられる。
その身体を、そっと父親が抱いた。
「大きくなったな。母さん、そっくりだ」
小さな声は、まわりの喧噪に消えそうだ。
それでも、ダークにははっきりと、優しくて大好きな父親の声で聞こえた。
顔を上げて見つめても、涙で潤んでよく見えない。どんどん、滝のように涙が流れる。
しゃくり上げて声も出せず、ダークはしっかり父親のがっしりした身体にしがみついた。
「ううー、うー、壊して、ごめんなさい」
「壊したら、直せばいい」
それは6年ぶりに聞いた、優しいお父さんの声だった。
廟に久しぶりに戻されたダイヤは、はたして呪いを鎮めたのか。
「どうなったんだろねー?」
呟きながら、ピアがグラスを磨く。
父親のいるカジノ街に戻って、ライト達が開いていた酒場を借りたピアは、何となくその生活が気に入って細々と営んでいた。
ライト達がやっていた頃ほどに繁盛はしない。でも、まあ1人食うほどにはやっていける。
そんな生活に慣れた頃。
バタンッ、といきなりそいつ等はやってきた。
「あー、きつ。あーやっぱり街は生き返るぜ」
「やっぱ、ここが性に合ってるよなあ」
ドカドカと、荷物を持って奥へ上がり込む。
ピアは呆気にとられて、止めるのも忘れ眺めていた。
「あんた達、お父さんは?」
「ああ、あいつとまた喧嘩してきたの」
「そうそう、今度は正式な家出」
そう言いつつ、ドカドカ2階へ上がり込む。
「家出って、なんで!」
やっと家に帰って、家族3人の暮らしは?
ピアのごく普通の問いは、双子には通じない。
「あの家に飲み屋開くって言ったらさ、火がついたように怒鳴りやがって、出て行けだと」
「いまさら学校なんてぬるいよなあ」
乙女の部屋も構わず、さっさとピアの荷物を出して、以前のような部屋に戻し始める。
「あ、当たり前じゃない、あんた達15よ!」
「もう16だよ。あ、ここ大家に言って買い取ってきたから。だから今度は俺達が大家ね」
「そう言うこと。よろしく、店子さん」
ガチャンッ
あんぐりしたピアが思わずグラスを落とした。
ライトがそれを元のグラスへ戻し、ハイッと渡す。
「あれ?力は?宝石戻したんでしょ?」
「宝石戻せば普通になると思ってたのに、何にも変わらないんだもん。サギだよな、サギ」
ダークがそう言って、勝手に冷蔵庫から食い物を取り出し次々平らげる。
サギなんて、こっちがそう言いたい。静かな生活は一体どこへ?
「店、何時から?」
ライトが聞きながら、椅子代わりの木箱に座りニッコリ笑った。
邪気がないのに性悪の、性格のいい悪ガキ。
ああ!負けた!負けました。
「よろしく、大家さん」
ピアはぺこりとお辞儀をすると、今夜はご馳走を作ろうかとメニューを考え始めていた。