桜がちる夜に

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更新日 2018-05-20 | 作成日 2018-05-20

1、壊して直して騙されて

   (こわしてなおしてだまされて)
少女ピアが父親を探して行き着いた街で、ふらりと立ち寄った酒場のライトとダークの凸凹コンビ。
どう見ても二十歳にしか見えない悪口雑言性悪美青年のダークと、どんなに見ても10歳くらいにしか見えない一見良い子、返せば嘘つき野郎のライトはなぜか双子。
二人は家から盗まれた黒ダイヤを追って、バラスと言う男を追っているのでした。
ハイスピードアクションコメディー。1話

 ヒュウウゥゥゥ
ここは、とある国の歓楽街の裏通り。
カジノやマフィアが横行し、裏を通れば一文無しがうろうろ。
そんなところに夜の零時、18才の少女が1人でキョロキョロ。彼女は大きな鞄を片手に、メモを持って何かを捜している。
やがて彼女は寂れた酒場に入り、疲れた顔で入り口に近い端っこの席にガックリと座った。
「すいません、ジュース下さい」
顔を上げると、カウンターのスミに美しい女性が1人。大きくスリットの開いたブルーのドレスから、惜しみなくスラリとした足を出して組んでいる。
綺麗に結い上げた黒髪から後れ毛が白い首筋にかかり、女から見ても艶っぽい。
無口な髭もじゃの背の低いマスターがドンッとオレンジジュースを置くと、少女は顔を上げた彼女と目が合った。
わあ、綺麗な人。
黒曜石のような瞳が気怠く溜息をつき、自分がタヌキに思えてくる。
あと、2年後にはああなりたいと思うけど、自分には到底無理だろう。
壁には数枚のポスターがあるけど、みんなお尋ね者のポスターだ。強盗、殺人、美人局と、それぞれ色んな罪名が並んでいる。
二口ほど飲んで落ち着くと、少女は勇気を出してマスターに声を掛けた。
「あの、この辺にカーバイト商会ってありませんか?」
「カーバイト?」
「ええ、大きな建設業者さんで、色んな建物を造ってて」
「で?あんたは?」
「あ、はい。家が農家と焼き物を兼業してまして、煉瓦を大量に特注いただいたんですけど、急に連絡が取れなくなって」
「つぶれたよ」
「え?」
「倒産したよ、ついこの間。残念だけど」
「そんな」
「くすっ、くっくっく」
あんぐり口を開ける彼女に、女が笑い出す。
なにがおかしいのか、ムッときた。
「な、何がおかしいんですか?人の不幸を」
「あんたが不幸だから笑ってんのさ」
「まっ!ひどい人ですね」
「ああ、知らなかっただろ?煉瓦に埋もれて途方に暮れるあんたの姿が見えたのさ」
グッと来て、本当のことに言い返せない。
だから遠く離れたこんな所まで来たのだ。
「あんた金は?」
「持ってるなら、電車に揺られてこんな夜中に着かないわよ!」
「なあんだ」
急速に女が彼女への関心を失ってゆく。
すると持っていると答えたら、力にでもなってくれたのだろうか?
少女は溜息をついて鞄を抱きかかえ、俯いて肩を震わせた。
「宿は、捜さないのかい?」
マスターが声を掛けると、少女が顔を上げる。
その顔はポロポロ涙を流していた。
「ここは、何時までですか?」
「ここじゃ、夜明かしできねえよ。もうすぐ閉めるんだ」
「はあーー、やっぱり」
とぼとぼカウンターに歩いてくると、女の隣りに立つ。そこには飲みかけのグラスが一つ。
口紅がうっすらと付いている。
「ここで、雇って貰えませんか?」
「ガキに酒は御法度だ」
「ガキじゃありません」
「乳くせえガキだな」
「ガキじゃないもん!」
ガッとグラスの残りを、一気にあおる。
「あ」マスターが思わず手を出す。
が、遅かった。
「ほーりゃ、ガキにゃにゃいもん」
ドターンッ!思い切りひっくり返った。
水割りだと思った琥珀色の液体は、思いっ切りストレート。
「まあ、お約束なガキだ、追い出すか」
呆れた女のつぶやきにマスターは首を振り、大きな溜息をついた。
 ドカッと、背中を誰かに叩かれた。
ン?感触が靴の裏。硬い。しかし目を開けようとしても、頭がガンガンと異常に痛い。
その上ムッと吐き気がして、口を押さえながら渋々目を開けた。
「ガキ、起きて店を掃除しろ。てめえ、タダで泊まろうってんのか?金払え、泥棒野郎」
言われてズルズルようやく起き出すと、スッと横から水が差し出された。
「あ、ありがと」
ゴクゴク飲むと、爽やかレモンの香りでスッとする。彼女が目を開けると、そこは狭い部屋に小さなキッチンがあって、目の前には皿が並んだテーブルが迫っていた。
気が付くと、自分は粗末なソファーに横になっている。長髪の痩せた20歳前後の男がフンと不機嫌そうに木箱に座り、13才前後の少年と向き合って朝食を取っていた。
「ここは、どこですか?」
「店の2階だ、パン食べなよ」
ポイッと、少年がロールパンを2個。
吐き気はしても、昨夜から何も食べていないのでとりあえずペロリと食べた。
「食ったら金置いて出ていけ。帰れ」
痩せた男が、また思いっ切り睨み付ける。
「お金、取るんですか?」
「昨夜の酒、宿賃、今のパン。200ドルだ」
「そ、そんな、ボッタクリじゃないですか」
「じゃあ、サツだな」
げげっ!と彼女が青くなる。
「じゃあ、雇ってください、何でもします」
「へえ、何でもするとよ。身体で稼ぐか?」
「ええっ!」
潤んだ目の彼女に、少年が天使の様な微笑み。
「じゃあ、炊事洗濯、店の掃除に後かたづけ、3度の飯はおまけ程度、それで給料無し」
「そんなあ」
「じゃ、さよなら。幸運を祈るよ」
最悪の条件に、考えても行く当てはない。
「兄貴は緩いね。隣の大家のレストランのさ、ウエイトレスもやって貰おうぜ。そしたら宿賃削れる」
「えっ、兄貴って、兄弟?あなたが弟?」
見た目、どう見ても少年が弟だ。
「気にいらねえ、やっぱり出て行け」
「いえ!もう言いません。だから置いてえ」
と言うわけで、彼女ピアは雇われることになった。
 「ピアの家は?」
店で、夕方の開店前に少年ライトがコップを磨きながら聞いた。
「それが、2人暮らしの父さんがカーバイトに会いに行くって、それっきりで」
「じゃあ、誰もいないんだ」
「ライトさんは?」
「俺達は家を出たんだ。でも、家のことはダークには言わないで」
あの、痩せた弟がダークという名だ。
「ええ、でもどうして?」
「捜してるのさ、人を」
「この街で?」
「いや、旅してね。ここは一時の留守番」
一体いくつなのか、兄弟どちらの見た目の年齢だろう。ダークはどう見ても成人してるのにガキっぽくて、ライトは小さいが大人っぽい。
ピアが考えながら床を掃除していると、トンとモップが壷に当たった。
「あっ」
ガシャーンッ!
「きゃああっ、どうしよう、高そうなのに」
ダークが飛んで来やしないかと、ドキドキする。慌てて破片を集めようとする彼女に、ライトがスッと止めた。
「大丈夫、僕がやるよ」
ライトが手をかざすと、まるでフィルムを逆回転するように破片が壷に戻ってゆく。ポカンと口を開けるピアに、ハイッと元に戻った壷を差し出した。
「便利だろ」
「本当、凄い超能力ね」
「超能力じゃないけどね」
そこへ、上からトントンッとダークが降りてきた。サングラスに髪を上げ帽子を被って、ちょっと見ダークに見えない。
「兄貴、俺やっぱり見てくるよ。気になる」
「でも、そのホテルで見たとしても、泊まっているとは限らないだろう?」
「聞くだけ」
出てゆくダークに、ライトがピアを見る。
「ピア、付いていって」
「ええっ、私が?」
「あいつが何か騒ぎを起こす前に止めてよ」
「ああ、ハイッ、お任せ」
ピアはにっこり頷くと、ダークの後を追った。
 数歩先をさっさと歩くダークを、ピアはハアハア息切れしながら小走りで追いかける。
「何でお前が来るんだよっ」
むかついているらしい彼が、この街で一番大きなホテルに入って行く。
広いロビーをぐるりと巡り、見渡せる場所にストンと座った。
ピアが隣りに座ると、嫌そうに離れて座る。
何となく、本当に人の出入りを見ているだけでボウッと時間が過ぎた。
「ねえ、何してんの?」
「うるせえ、帰れよ」
「もう、意地悪」
コチコチ時間が虚しく過ぎる。
ピアは飽き飽きして溜息をつくと、立ち上がって伸びをする。
「あ」ダークが漏らし、「ふうん」と新聞を広げた。
「どうしたの?」
「うるせえ、黙ってろ」
うるせえうるせえって、人を何だと…
「お願いします!お願いします!もう一度やり直したいんです。仕事を下さい」
ホテルの入り口で、いきなり薄汚い中年の男がパリッとした男に土下座している。
この賭け事の街であまり珍しくもない光景だが、みんな物見高い様子で視線が集中した。
「あんた、カジノで負けたんだろ?羽振りがいいときで止めないからそうなるんだよ」
「お願いします、もう一度」
相手は大きな車へ乗り込むと走り去ってゆく。
残された男は一人、道に向かって頭を下げていた。
「何だか可哀想ね」
「あれ、カーバイト」
「えっ!うそっ」
「カジノで深入りしすぎたのさ、だから止めろって言ったのに」
「あんた、その時いたの?」
「俺は一応止めたんだぜ」
呆れてピアが、カーバイトの後ろ姿に思わず立ち上がる。自分こそ一文無しだけど。
「どうする、あいつ金なんかもたねえよ」
「別に、あたし借金取りじゃないもん」
「甘い奴。慰めなんか、余計惨めになるさ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
何だか父親を見ているようで、涙が浮かぶ。
ダークは溜息をつくと、ポケットから1ドル取り出してピンと投げた。
「グリーンて大きいカジノへ連れて行きな。いいか、俺が指示したとき、それにあり金賭けるんだ。と言っても1ドルか」
「え?それって」
「ルーレットだ。右をウインクしたら赤、左をウインクしたら黒。数字は指を立てる」
「え?え?右が、赤」
「間違えたら終わり」
行けとダークが指で合図する。
ピアはカーバイトの所へ行き、訳を話して頭を下げる彼に、せめて少しでもお金が欲しいと無理矢理カジノへ引っ張っていった。
「おじさんは、もう賭け事は止めたんだよ」
「で、でも、あたしは困るんだもん、これ、1ドル貸すからルーレットに行こう」
「1ドルなんて、嫌われるよ」
モタモタ嫌がるカーバイトを連れ、指示通りの街でも一番大きなカジノへ行く。
沢山の人が賑わい、ピアは場違いな雰囲気にめまいを感じながら、何とかルーレットまでたどり着いた。
顔を上げると、いつの間にか向かい側にダークが立っている。
サングラスをはずして目配せすると、さっさと台に付けと催促してきた。
「ほら、ほらおじさん」
「こんな、たった1ドルなんて賭けにならない、恥ずかしいよ」
言いながら、渋々台に付く。
ピアが顔を上げると、ダークが右をウインクして指を2本立てている。
「おじさん、赤の2よ、賭けてみて」
どうせ外れても1ドルだ。こんな事で儲かる分けないとピアもくだらないと思う。
カラカラとルーレットがまわり、コロンと赤の2で止まった。
「あっ!やった!」「うそ」
ざわめく人々の中、ダークは大きなあくびをしている。
信じられないが、その後も彼の言うとおりに進めていくと、どんどんチップが増えてゆく。それは、実に100%の確率だった。
「ワハハハハ!あんたは勝利の女神だな!」
そしてとうとうおじさんの前にはチップの山が築かれ、その頃にはダークも飽きたのか、ピアに首を振って最後は消えてしまった。
「おじさん、もう止めようよ、これだけ有れば十分でしょ」
「何を言うんだ、これからだよ!これを賭けないでどうする、ようやくついてきたんだ」
「おじさん、それで失敗したんじゃない!」
ハッとカーバイトの顔色が変わった。じろりと赤い顔で睨むカーバイトは、尋常でなく恐ろしい。ピアは思わず恐怖に後ろへ下がって、ダークの姿を探した。
「あ、いた!」急いで歩み寄ると、ダークは何かを見つめて立ち止まっている。やがていきなり走り出すと、赤いワンピースの女を捕まえ、腕を握って引き寄せた。
「あんた、昨日バラスと一緒にいただろ?」
「失礼ねっ、バラスなんて知らないわよ」
「名は変えてるかもしれない、左目が義眼だ」
「あ、ああ」
「やっぱり!ここにいるんだな」
すると、女の視線がダークの後ろに走る。
くるりと振り向くダークの後方で、ぶくぶくと太った狡猾そうな顔のハゲ男が、トランク片手にこちらを訝しそうに見ている。
ダークが女の腕を放し、帽子を脱ぐとパラリと黒髪が腰まで落ちる。
「こっ、壊しの…ダーク!」
ハゲ男バラスがみるみる顔色を失い、トランクを抱きしめて一目散に裏手へ走り出した。
「バラスッ!泥棒野郎!」
ゴオッと、カジノの中を一陣の風が吹いた瞬間、バーンッと一帯のガラスが砕け散る。
「キャアアッ」「わあっ」「なんだっ」
ピアが呆然と見ている間に、ダークはカジノの中を、一気に駆けてバラスを追いかけた。
「ま、まってえ」
慌ててピアも追いかけるがダークの足は速い。
そしてついにダークが裏口近くであたふたと走るバラスを捕まえる瞬間、横から現れた一人の黒服の男に、それを遮られてしまった。
「遅いぞっ!こいつを殺せ、いいな」
バラスが言い捨てて裏口を出る。
丁度走ってきたタクシーに飛び乗り、とうとう逃がしてしまった。
「くそう、やっと捕まえたのに!てめえ、邪魔しやがって許さねえ」
ダークの怒りがビリビリと空気を揺るがせる。
ガシャーン!
廊下に花を飾る大きな壷が音を立てて弾けた。
「あ」様子をうかがっていたピアの目に、男が銃を取り出す姿が飛び込んでくる。
「だめえっ」
思わず彼女はダークに駆け寄ると、後ろから飛びついた。
パンッパンッ!キーン、バンッ
「ひいっ!」
ダークを押し倒した彼女の目の前の床を、弾丸が弾けて煙が上がる。
「何だ?」「銃声だ」「向こうだぞ」
バタバタと多くの足音に男は舌打ちして逃げ、ピアは動かないダークの身体にガタガタと震える。
「ねえ、ねえ、死んじゃったの?ねえ」
顔を覗き込むと、ギンッとダークが睨む。
キャッと、思わずピアが引いて怖々笑った。
「てめえ、邪魔しやがって殺すぞ」
「だって、だってえ」
「逃げるぞ、グズグズするな」
慌ただしくバタバタと迫ってくる足音に、ダークは飛び起きてピアの腕を掴み、ダッと外へ逃げ出した。
 店へ帰ったダークは、ぶつけて腫れ上がった腕を氷で冷やし、ピアは今更ドキドキしてライトが出した水を飲んで落ち着かせていた。
最後は銃を出す相手なんて、そんな人と関わりになって大丈夫だろうか?とっても不安。
「ねえ、あのバラスって人何?かたき?」
「泥棒だよ、母さん殺されて、俺んちにあった宝石を盗まれたんだ」
「こ、殺されたっ?」
「あーあ、あいつ、もうこの街にはいねえな。くそ、いてえ」
「ねえ、それに何?あなたが怒ると、どうしてガンガンまわりが壊れちゃうの?」
「関係ねえだろ」
「関係あるもん、一緒に暮らすんだから」
「俺等がここにいる間だけだろっ」
ライトは、開店準備に付け髭つけて、すでにマスターに変身している。ふうんと考えて、テーブルに座るピアを、カウンターの席に呼んだ。
そして、後ろのお尋ね者のポスターを指す。
そのポスターには、いかにも悪そうな顔の写真が載っていた。
「あれ、壊しのライタスと、直しのタルク、変な名前だろ?」
「そうね、すっごくへン」
「俺達が本物、壊しのダークに直しのライトさ。あれはちょいと手が入ってる」
「え?ええっ、なんで?」
「ダークが警察署長たぶらかして」
「たぶらかすって、男なのに?」
「昨日見たろ?ここに女装して座ってたの」
黒髪の美女と、このガサツなダーク。
「うそっ」
「化け上手だろ?喋るなよ」
「け、警察に?」
「バーカ、客にだよ。サツが怖くて署長をたぶらかせるかっての」
「エッチしたの?」
「チューだけ…って、なに言わせるかっ」
ボケッと殴られた。
なんだか。
何だかちょっと怖くて、ちょっと面白い兄弟。
「で、一体いくつなの?」
「何が?コーヒーに入れる砂糖?」
「んなわけないでしょ、年よ、年」
「ああ、俺達双子」
「ええっ」似ても似つかない双子?
「だから2人とも、15才」
ひえええええええっ!
ピアがクラッとめまいを起こす。
人に乳臭いと言っておいて、自分は15?
「宝石の、呪いって奴」
「盗まれた宝石?」
「そう、この成長のばらつきも、変な力もね」
「ルーレットの目を当てるのも?」
ドキッと、ダークが顔を逸らす。
「お前、また行ったな?」
「いいじゃん、勘が冴えてんだもん人助けさ」
あれが勘?怖いくらい当たるあれが?
「勘以上じゃない?変よ」
「変って言われても、俺には見えるんだもん」
「見えるって、先が見えるの?」
「全部見えるなら、普通に生きてるよ!あっ」
ドキッと、何だか慌ててダークがカウンターに隠れた。
コンコンコン、キィー
いきなり店のドアが開き、男が顔を出す。
「すいません。あっ、あんたは」
驚く男は、あのカーバイトだった。ピアを見て頭をかき、申し訳なさそうに頭を下げる。
「あんたには悪かったな。実は、せめてここの飲み代だけでもと思って」
「えっ!じゃあ、あれで止めたの?」
「いやあ、半分すっちまって。それでも全部無くならなかったのはあんたのおかげさ」
ああ、そうなんだ、とピアが思わずにっこり笑う。でもカーバイトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「でも、事業はまたゼロからやり直しでね、あんたのところの煉瓦、お金が払えねえ」
「いいよ、早く買えるようになってよ」
「甘い奴」
いきなり小さな声がカウンターから漏れた。ギュッとライトが足を踏む。
「ギャッ…」悲鳴を飲み込む弟をもう一度蹴り、ライトが台帳にある金額を告げる。カーバイトはその金額を払い、深々と頭を下げて帰っていった。
「いいのかい?それで」
「うん、商品収めてるわけじゃないしね。おじさん、凄く明るい顔だったね」
「ピアもさ、親父さん早く見つかればいいな」
「うん、まあ焦らず騒がず、のんびり探すよ。あんた達も、早く宝石見つかるといいね」
ピアはそう言って立ち上がり、店の掃除をはじめた。
「ランティスの、黒ダイヤか」
ライトが遠い目で呟く。
バラスの手にある盗まれたそれが、すでにこの街を出てしまったのか、知る術はない。ただ、せめて自分達の身体が、普通に戻ることを願って追い続けているのだ。
ダークがライトの足に寄りかかってくる。
ライトは弟の頭をそっと撫でると、小さな溜息を漏らして気楽に見えるピアを羨ましそうに見つめた。