3、悪いやつは片付けろ

風邪で寝込んだダークの為に、ピアとライトは薬を買いに買い物へ。
しかしそこで、ライトはダイヤを盗んだ一味の女を見つけます。
接触を試みる彼ですが、その方法は?

 ダークが、風邪を引いて寝込んだ。
「ヘックションッ、うう熱はないだろ?」
ピアが体温計を覗き込んで首を振る。
「駄目、38度。今日は寝てるのね。15の子供のクセに、あんな薄いドレス着てカジノなんか遅くまで遊んでるから。天罰よ」
子供と言っても、見た目は二十歳近い。
「だって、客から誘われて仕方なくさあ」
「で?やっぱり勝ったんでしょ?」
ジイッとダークが少女ピアを見て、後ろの小さな少年、ライトからも目をそらすように布団へ潜り込む。
「俺は付き合っただけ」
「うそっ!いくら勝ったか言いなさいよ」
「駄目駄目、ダークはね」
ツカツカと後ろからライトが来てピアをのけ、布団をめくる。そして思い切りダークのパジャマの胸をはだけた。
「わーっ、兄貴のエッチ!」
胸元に握る手の中からはチェーンが伸びている。
そのダークの手の上に、ライトが手をかざした。
「あ、あ、兄貴の泥棒!」
ダークの指の隙間から、赤い水滴がライトの手に吸い込まれる。
「なあに?」
ピアが不思議な顔で覗き込む。
ライトがギュッと手を握り、ピアに向けると手を広げてみせた。そこにはコロンと赤い石が一つ。
「キャア、綺麗でおっきい」
「やっぱり、このネックレスはルビーだな」
チェッとダークがネックレスから手を離すと、トップの石が消えている。
ピアが、あれ?と双方を見比べた。
「あれ?この石がついていたんでしょ?そのネックレス」
ブスッと不機嫌な顔で、ダークが諦めて大の字になる。憎々しそうな顔で、小さな身体の兄を睨み付けた。
「兄貴はウィザードさ。宝石の組成に容積まで自由自在に変えちまう。石を水みたいに変えて吸い取られちまった」
「え?じゃあ、壊れた物もどすのは?」
ポカンと見るピアに、ライトがにっこり笑う。
「あれはね、おまけ。だから言っただろう?以前、超能力じゃないよって。まあ、おまけだから大した物は元に戻せないんだ。これが僕へのダイヤの呪いかな?でも、力を使うたびに背が縮む気がしてね。僕としては凄く不安なんだよ」
すると、ライトはこのままじゃどんどん背が小さくなるのだろうか?ピアは何となく可哀想に思う。でも、だからこそ彼らは「呪いのダイヤ」を追っているのだ。
「で?いくらなんだ?このルビー」
ライトが話をもどした。
「違うよお、トルマリン」
「5千ドル?いや、7千500?この吐けっ」
言わないダークの、脇腹をくすぐる。
「わーんっ、キャアア、兄ちゃん許してえっ」
「じゃあ、吐け」
「7千だよっ」
「嘘だな、兄ちゃんの目を見ろっ」
「わかった、言いますよ、ルーレットで3万」
「3万っ?うそっ、でこれ買ったの?」
「2万口座に入れて、1万でこれ買った」
「もったいない、全部口座に入れればいいのに。まあそれはいいとして、病院へ行こうよ」
「行かない、寝てれば治るもん」
「ダークってばあ、肺炎になるよ」
「根性で治る」
「もう、じゃあ薬買ってくるね」
「ピア、俺も行くから下で待っててよ」
「ライトも?わかった、じゃあね」
ピアが溜息をつきながら部屋を出る。背の小さなライトが隣の自分のベッドにちょこんと座った。
「駄目だった?」
「うん、あの女会長なかなか接触できないね。馬鹿勝ちすれば出てくるかもしれないけど、程々のところでルーレットは機械操作に切り替わって、勝てなくなってるんだ」
言いながら、ダークがネックレスの鎖をライトに渡す。ライトはそれを受け取ると、難なくトップの金具にルビーをはめ込んだ。
「八百長だって、騒ぐとポリスに掴まるか」
「ポリスもあの女の手の内さ。無理だよ」
「バラスのバックがあの女会長、ドーラだってやっとわかったのにな」
「資金源を断てば、バラスも身動き取れないはずなのに、ここまで来てムカツク。俺があのカジノをぶち壊そうか」
「バーカ、お前は黙って寝てろ」
先日、2つビルを壊したのが浮かぶ。ライトは苦笑いでダークの頭を軽く叩き、部屋を出ていった。
この15才の双子はこの数年、「ランティスの黒ダイヤ」という家から盗まれた呪いのダイヤを追っている。そのダイヤは2人の家で代々守ってきた物だが、バラスという男達に母親を殺され盗まれたのだ。
2人は守ることが出来なかったために呪いを受けて、成長もまばらでライトは壊れた物を直し、ダークは破壊するという変わった力を持っている。
おかげで2人は「直しのライトと壊しのダーク」という異名まで持っている。
そして今、ダイヤを持って逃げ回るバラスの、資金源とも言える女への接触の機会をずっとうかがっていた。
 ライトが、店で出すつまみのリストを見ながらピアとマーケットで買い物をしている。
ライトはいつもあまり買い込まないだけに、その日その日でストックを置かない。ピアがブウッとむくれながら粉の大袋をカゴに入れると、ライトが小さい袋と入れ替えた。
「もう、あんな宝石買って、馬鹿みたい」
むくれる原因は、そこかとライトが笑う。
「いや、ダークは大きな金が入ったら必ず貴金属に変えて身につけるんだ。最初はみんな変えてたからびっくりしたよ。旅役者に習った、世渡り術らしいけどね。確かに何度かは助かったよ」
「ふうん、でも便利な力よねえ」
「あいつ、人生はアンラッキーだけど、運だけはラッキーなんだ。おかげで旅に出てから金に困ったことはないよ」
「お金で困らなくても、一カ所に落ち着けないのはやあよねえ」
「仕方ないさ、バラスは宝石持ってずっと逃げ回ってる。あいつが落ち着かないから、こっちもずっと旅してるんだ」
「向こうも良くお金が続くわね。持ってるだけじゃお金は出来ないのに。ダークもさ、あいつと会った時鳥肌立ってたよ。嫌いなんだ」
「まあね、それと、白衣と注射も大嫌い」
「ああ、なるほど」
見かけは二十歳でも、確かに中身は15才。
泣き虫ダークにクスッと二人して笑った。
 食料を買い込んで、さてと薬局へ向かう。
「症状聞いて来るの忘れたわ、どうしよう」
「いいさ、どうせクシャミ鼻水くらいだろ」
カジノがあるだけに街にはブランド店が並ぶ。
ピアが立ち止まり、ウィンドーに見入った。
「いいわねえ、こんなの1回くらい着てみたいわあ。似合わないだろうけど」
「似合うかは着てみないとわからないだろ?」
「あら、格が違うもん」
「たかが洋服だよ、格があるの?」
クスッと、ライトが笑って立ち止まった。
「どうしたの?」
「あの女は」
先の方に、食器の一流ブランド店から中年女性が1人出てきた。VIPなのか、2人の黒服を連れている。手には袋を提げているから買ってきての帰りだろう。車を待っているようだ。
「なんて事だろ、俺はてっきり自分がアンラッキーだと思ってた」
「何で?何するの?ライト」
「俺、小学生くらいに見える?」
「そうね、悪いけど10才くらいかな?」
ピアと向き合ってウィンドウを見ながら、ライトは野球帽をピアに渡し髪を手櫛で直した。
「じゃあ、よろしくお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
パッと、ライトがキャアキャア笑いながら走り出す。アッと手を出す黒服の隙間を縫って女性にぶつかると、女性は手の袋を落としてしまった。
ガチャンッ!
「あっ」
「ああ、まあ、どうしましょ」
「きゃあ、どうしよう、どうしよう、お姉さんごめんなさい」
ライトがウルウルと、涙を潤ませ愛らしく女性を覗き込む。うっく、うっくとしゃくり上げながら紙袋を持ち上げると、中の物はガチャガチャと派手な音を立てた。
「まあ、お姉さんなんて上手な子ね、そんなこと言われたら怒れないわ。ホッホッホ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ひいっく」
後ろから、恐る恐るピアが歩いてくる。
「あの、弟が何かしましたか?」
「いいのよ、護衛も悪いんだし、私も急ぐから何かで変わりにするわ」
丁度その時車が滑り込んできた。大きな黒塗りのロールスロイスのドアをガチャンと黒服が開ける。
ライトは慌てて女の腕に飛びついた。
「お姉さん!お詫びに行きたいの、何処に行けばいいのか教えて。ママに怒られちゃう」
思いっ切り可愛く、ライトが媚びる。女は困ったように頭を撫で、大きくそびえるビルを指さした。
「まあ困ったわねえ、おばちゃんはほら、あの大きなビルのグリーンハウスルーレットって言うカジノのね、会長さんなのよ。いつでもいらっしゃい、お菓子をご馳走するわ」
「ありがとう!僕、きっと行きます」
グスグス嘘泣きの涙を拭いて、ライトがちょこんと頭を下げる。ピアも引きつった顔で、深々と頭を下げた。
バイバイと手を振り、車を見送る。
「ふっ、まあこんなもんか」
ガシャンガシャンと紙袋をゆらしながら、ライトが先を歩き出す。ピアはヒクヒク引きつった笑いを浮かべて後を追った。
「あんた、いつもあんな事してるわけ?」
「まあね、ほんじゃ、鼻たれダークの薬買って帰るか」
「あの女の人が誰か知ってたんでしょ?」
「当たり前ジャン、この辺で知らない奴の方が少ないよ。カジノババアだもん」
バ、ババア…
「やっぱり双子ね、そっくりだわ」
何て奴と呆れながら、ピアはライトのあとを離れて歩いた。
 「くしゅんっ、ウー、鼻水が出る」
食欲がないと言いながら、ダークがガツガツ食事を食いあさる。
「ああ、何か食欲ねえな。食パン半分しか食えねえ」
食パン半分は、一本の半分だ。
「で、そのおばさんに会いに行くのかな?」
「行くんじゃねえの?あのババア、バラスの一味だから。その為にこの街に来たんだもん」
「心配じゃない?あんな怖そうなおばさん」
「俺あ兄貴の方が怖いからな」
「ダークと違ってライトは優しいよ」
クスッとピアが笑う。
「まあ、そう思ってればいいさ。ピアも店を手伝いに行けよ」
「あ、うん、ちゃんと寝てるんだよ」
「わかってるよ、うるせえな」
ピアが、トントンと階段を下りてゆく。
ダークはそれを見送り、電話を手に取った。
少し考えて、受話器を取る。
「…あ、大家?そろそろ潮時かなと思ってさ。近く出るつもり。ツケの台帳はテーブルに置いて行くから。うん、置いていった物は好きにしてよ、じゃ」
部屋を見回し、フッと微笑む。
テーブルの真ん中には、カジノババアが落とした花瓶がライトの力で元に戻り、花を飾られている。
ツンと弾くと、キンッといい音が響いた。
「花瓶は花瓶、1ドルも1万ドルも花を飾るしか脳がない」
物の価値なんて、余程自分にはパン1個の方が有り難い。腹を空かして路頭に迷うなんて、惨めなことはしたくない。だからこそ、女装もするし人もだます。それは自分を捨てた父親に対する意地でもある。
ピアの作った食事はまあまあの味だ。食べて食べて、ゴクゴクとチャイニーズティーを飲む。さっぱりしたところに、うっかり忘れた薬を飲んだ。
「さあて、寝るか。明日は忙しいぞっと」
ダークの仕事は、今のところ健康を取り戻すことの1本だ。鼻歌交じりにベッドに戻ると、別れを惜しむようにふかふかの布団を身体に巻き付けた。
 「じゃあ、行ってくるから」
「ああ、こっちはまかせてよ」
ライトが頷き、にっこり笑って家を出る。
少年のいでたちに、野球帽。昨日とファッションは変わらない。
心配そうなピアは、後を追うべきか迷ってダークの顔を見る。
「ねえ」本当に大丈夫なの?
言いかけたとき、ダークが立ち上がった。
ニヤリと笑う顔には、ほんの少し緊張感が見て取れる。
「ダーク?」
「覚悟はいいな」
「え?」
いやーな予感が走る。それはしかし、間違いのない女の第六感といえた。
 グリーンハウスルーレット、そこはこの街でも最大のカジノだ。一晩で天文学的な金が動き、一晩で金持ちを生み出しては一晩で身ぐるみ剥がされる。
そんなカジノの頂点に立つのは女会長ドーラ。
がめついので有名な女だ。特に宝石の収集は、病的な物がある。
そんな場所に、ちょこんと少年が顔を出した。
追い出しにかかる警備の男に、にっこり笑って会長の知り合いだと告げる。
昨日の花瓶のことを詫びたいと、ライトは小さな箱を手にぺこりと可愛らしく頭を下げた。
『ああ、昨日の子ね。どうぞ、丁度空いているから案内して』
「わかりました」
内線電話のやりとりのあと、やがて秘書らしき女が現れ、ライトの手を引いて案内してくれる。
「わあっわあっ、これなあに?これなあに?」
「これはね、大人の人が遊ぶ物よ」
ルーレットに駆け寄り、ガアッと手で回してみる。
テーブルの下に潜り込むと、秘書が慌てて上着を引いた。
「坊や、会長がお待ちですよ。早く行きましょ」
「あれ?あれ?ねえお姉さん、このテーブルやけに厚いね。まるで間に機械が隠れてるみたい!」
ギクッと秘書の顔が引きつった。
ルーレットには、損を押さえるための機械が埋め込まれている。もちろんそれは合法的なものではない。
「ま、まあ!オホホホホ、何を言うのかしらこの子ったら。さ、行きますよ」
「へえっへえっ!ワアッ、綺麗だね」
スマしたライトのカジノを初めて見たようなはしゃぐ様子に、秘書はホッと微笑んで一番上等のケーキを出そうと考えていた。
 「さ、こちらですよ。会長、小さなお客様をお連れしました」
黒服の立つドアから秘書に促され、小さなは余計だと思いつつ元気に部屋へ飛び込む。
「こんにちは、お姉さん!」
洒落た部屋は、ライト達の部屋の数倍の広さがあり、最上階だけに最高の見晴らしだ。
「わあっ、すごーい、綺麗な景色」
窓に張り付き、へっと鼻でせせら笑う。
クソババア、馬鹿ほど高く上る。
「ホッホッホ、本当に来てくれるとはねえ、おばちゃんも嬉しいわ。さあ、美味しいケーキを召し上がれ」
ドーラは大きな机に付いたまま、ジャラジャラと宝石を付けた手でどうぞと椅子を勧める。
「わーい」
秘書が運んできたチョコレートケーキは、しかし子供にはちょっと洋酒が効きすぎていた。
「わあ、おいしい!」
ニッコリ嬉しそうにしながら、チッと舌うつ。
苦い、まずい。何が入ってんだ?無性に臭い。
「美味しいでしょう?世界でも指折りのパティシエの作る、最高の材料による最高のケーキよ。沢山あるからどんどん食べてちょうだい。普通じゃ滅多に手に入らない物よ」
「わーい、うれしいな」
ニッコリ微笑み、グサグサとフォークでつついた。
こんな物、ガキに食わすな、鼻血が出る。
「そうだ、ねえお姉さん、僕昨日のお詫びにってママからこれ預かってきたの。これ」
ピョンと立ち上がり、机上に差し出す箱には昨日ダークの胸にあったルビーのネックレス。
しかしドーラは、それを見ると苦笑して自分の指を見せた。
「まあ、可愛い石だこと。でもおばちゃんは、オモチャは付けないのよ」
その指には、一目で桁が違う宝石の指輪がずらりと並んでいる。
そうだろうな、1万ドルぐらいのルビーは、あんたにとっちゃオモチャだろうよ。
「そっかあ、うちにはもっと大きい黒ダイヤがあったけどなあ」
「黒……ダイヤですって?まさか」
フッと子供の言う事に笑う。
「あれ?おばさん信じてないんだね?
一番知ってると思ったけど」
「ふ、私が何を知ってるですって?」
「ずっとね、ずうっと前に盗まれちゃったんだ。
うちの大切な家宝の黒ダイヤさ、ミセスド−ラ」
ビクッとドーラの顔が引きつり、スッと引き出しを引いた。
「お前、何者?」
ライトがドーラの前に立ち、俯いたまま不気味にニイッと笑う。
「ランティスの、黒ダイヤ。母さんを殺してまでも欲しかったのかい?」
「ひ、あんた、息子?」
引きつりながら、思い直して銃を取りライトに向ける。そしてライトが丸腰なのを見ると、声を上げて笑った。
「ホッホッホッホ、で?ここに何しに来たの?ケーキを食べに来た訳じゃないでしょう?」
にっこり、ライトが天使のように微笑む。
「あなたを捜すの苦労したよ。まさかカジノのオーナーとはね。バラスの資金源、ようやく掴んで裏にあなたがいるのを知って、この街に来たんだ」
バラスの裏口座、それをようやく掴んで銀行員から秘密裏に入金先を聞き出したのだ。
うんざりするほどダークはその銀行員と付き合い、色々な約束を交わしてようやく聞き出し、そのままドロンした。
ダークの駆け引きは、違った意味で命がけだ。
「バラス、ここに来たんだろう?ここで彼に会ったよ」
「ああ、あなた達ね?あの騒ぎの主は。あれで彼も街を慌てて出てしまった。彼は臆病で困るわ。こんな子供相手に」
「何処へ行った?」
「聞いてどうするの?ここで死ぬのに」
「彼も可哀想にな。手元に置くと呪いが怖いから、金を渡して預けているんだろ?持ってるだけで金になるが、持ってるために一所に落ち着けない。それが彼への呪いかな?」
「ランティス家の人間が死ねば落ち着けるわ。しつこく追うあんたがね」
「で?バラスはどこに?」
「そうね、死ぬ前に教えてあげる。ヨークよ」
ドーラが引き金を引こうとして、ウッとひるんだ。身体が何故か動かない。次第に、猛烈な眠気が襲ってくる。
「な、なに?こんな、馬鹿な」
信じられない面もちで、ドーラがライトを見る。
「ヨークか、確か南にあるリゾートだっけ?」
スッと伸ばされたライトの手が、あの小さなルビーをぶら下げていた。
「僕の2つ名を知ってるかい?直しのライト」
「知らないわよ、そんな物。直し?じゃあ昨日の花瓶も直してくれたのかしら?ホ、ホ」
ルビーの輝きが増して眩しく、強がりながら何故か恐怖が足下から襲ってくる。ドーラはグラグラと身体を前後に揺すりながら、そのルビーの輝きに引き寄せられそうな気がした。
「もちろん上等の花瓶だからね。でも、その名にはもう一つ意味があるんだ」
「な、なに?ルビーが」
ドーラの目前に小さかったルビーが幻なのか、急激に巨大化して迫り、逃げようとしても足が動かない。
「ああ!ああルビーが、ルビーが大きくなる。ル、ルビーがっ、た、助けてっ」
恐怖に銃を机に落とし、身体を小さく丸めた。
輝きが部屋を満たしてルビーはどんどん巨大化し、やがてそれは紅い水のようにユラユラと揺らめき、形を失っていく。そして輝きと共に大きな水の塊となって、生きているようにドーラの身体を覆い尽くそうと襲いかかった。
「キャ…ガブ、ブクブク…」
紅い水の中で溺れるドーラを、ライトが冷ややかに見ている。
「眠れ、ルビーの中で眠れ」
暴れるドーラが次第に静かになって、重い瞼を下ろして眠りに入る。
ライトがその水の塊に手を差し出すと、急速に水は凝縮して小さなルビーに戻り、ライトの手の中へ戻っていった。
光にかざすと小さなルビーには、小さく身体を丸めたドーラがアリのように眠っている。ライトはクスッと笑ってルビーを首にぶら下げ、机の上の銃を引き出しに片づけた。
「なおしのライトは片付け上手のウィザードさ、何でも宝石になおしてしまう。僕の力は宝石を分解して組成に容積まで変えられる。でも何故だろうね、ずっとそうしていたら、宝石に何でも隠せるようになったのさ。宝石の中は時間が止まる。今度目覚めるときは留置場の中だったらいいけど、早くその日が来ればいいね。でないと、知ってる奴は誰も生きていない」
コンコン
「失礼します」
秘書が書類を持って入ってきた。
「あ、お忙しいそうだから僕帰ります。苦いケーキご馳走様でした」
ぺこりと挨拶して、にっこり笑う。
「あ、ああ、苦かったかしら?まあごめんなさいね。じゃさようなら、気を付けてね」
「はい、さようなら」
丁寧に挨拶して、ライトがその場をあとにする。
「会長、こちらの書類を…会長?あら」
秘書は会長を捜し、トイレかしらとテーブルのカップを片付ける。
ライトはスキップを踏みながらカジノを出ると、裏の路地へ入り一目散に家を目指した。
カタタン、カタタン、カタタン
電車の中で、忙しく黒服の男達が誰かを捜している。
「いるか?黒髪のガキだ」
「隣りも探せ」
余程緊急事態か、男達は断りも入れず男の子達を捕まえては、防犯カメラに写ったぼんやりとした写真と見比べている。
やがて一人の男が隣の車両に移るとき、ドンッと金髪のストレートに大きなリボンをした、ワンピースの愛らしい少女にぶつかった。
「きゃんっ」
「ああ、ああごめんごめん、急いでるんだ」
「まあ、すいません、娘が何か?」
娘と同じゴージャスな金髪の美しい母親が、慌てて少女に駆け寄り男に頭を下げた。
「あ、いえ、私が悪いので、綺麗なママだね」
ポンと少女の頭を撫でると、にっこり微笑んで頷く。
「自慢のママなのよ」
「おいっ!次で降りるぞっ、ここにはいない」
男が仲間に呼ばれて手を上げる。
「じゃあ、良い旅を」
「ありがとう」
親子は男に手を振って、席に戻った。
「俺って自慢のママ?」
「綺麗って言われると嬉しいだろ?」
「まあね」
向かいの席で一部始終を見ていたピアが、呆れた顔で溜息をつく。ピアはすっかり少年の姿で、トイレも男性トイレに行かされた。
「僕、いつまで僕なの?」
「さあ、ヨークで考えるさ」
「まあね」
「あたし、あんた等のテクニックが、少しわかった気がするわ」
「へえ、ちっとは勉強して男でも騙してみやがれ」
ボソッとダークが漏らし、上品にホッホッホッホッと笑う。
「あんた、性転換したら?」
何だかピアの目が座ってきた。
リゾートとは言っても田舎町のヨークに果たして何が待っているのか、ピアは胸がドキドキする。窓には何処までも田園風景が広がり、ヨークもどんな所か行ったことはない。ただ青い空を見ていると、なぜか暗い不安を感じないのが不思議だった。