10、

薄暗いもやの中、ここはどこなのか光を捜して辺りを見回す。
ここは、どこだろう。
ベリーはどこに行ったんだろう。
恐る恐る歩いていると、もやの向こうに木が一本も生えていない荒野が見える。

ああ、イヤだ、あそこには行きたくない。
あれは昔のカイン。
きっとまた殺し合いの世界。
餓えと乾きにさいなまれる地獄

帰りたい……

どこへ?


どこ………………
わからない………………
俺はどこへ帰ればいいんだろう…………


自分の場所が、すっぽりと暗くなる。

『レディ』

声に、思わず振り向く。
誰なのか、声が遠くてはっきり聞こえない。

『レディ、レディアス、捜したよ。
さあ、一緒に帰ろう』

もやの中から差しのばされた、白い手。
男なのか、女なのか、その手は白く輝いてよく見えない。
でも、はっきりとそれは自分に向けて差し出されている。

ベリー?違う……?
まさか……グランド?それともダッド?

恐る恐る手を伸ばし、その手を握る。

『捜したよ。ずっとレディアスを捜してたんだ。ああ、会えて良かった』

捜して?俺を捜してくれたんだ。
そっか、やっぱり俺を捜してくれてたんだ!

両手でしっかり握って、待ちわびたその手に胸が熱くなった。

『レディアス、お前は俺にとって一番大切な人だ。さあ、一緒に帰ろう』

一番?一番……!俺が、一番?
ああ、うれしい。
うれしい!
俺が一番聞きたかった言葉。
やっと、やっと迎えに来てくれたんだね。
もう、この手を離さないようにしなきゃ。
俺のこと、本当に一番なんだ!
うれしい、うれしいよ。

『お前が一番だよ。もう何も心配いらない、帰ろう』

うん、うん、俺を一番って言ってくれるんだ。
こんな俺を、心から必要にしてくれるんだね。
嬉しくて顔を上げ、相手の顔を見るのによく見えない。

ああ……でも、だれだろう?
グランドならいいのに。
ダッドならいいのに。
誰だろう。

懸命に目をこらし、ぼやける顔を必死で覗き込む。

『わからないのか?俺のことが』

まぶしくて、よく見えないんだ。

『俺のことがわからないなんて、やっぱりお前は偽物のクローンなんだな』

違う!違うよ!ちゃんと、ちゃんとわかるから。
待って、俺を一番って言ってくれるんでしょう?
待って!


『ああ、そうだな。一番だよ、家族だもんな。お前は兄弟、家族の1人』


グ、グランド?!


『でも俺の隣は、お前じゃないよ』

突然、相手の顔を包む光が消えてグランドの顔が現れた。そして突然実体を失ったように、レディアスの手からスルリと抜けて離れて行く。
いつの間にか彼の隣には、いつものようにグレイが並んで腕を組み、仲良く背中を並べ歩き出した。

『面白くない奴』

吐き捨てるような声が聞こえる。
あれは、グランドの本心なんだろうか……
いや、あれはいつだったか聞いた、誰かの言葉。
俺は人との付き合い方が良くわからない。
もう、何もかも忘れてしまった。
俺はこの世界にいながら、すでに死んでいる。

グランド…………

ああ……
また…………繰り返し。
とぼとぼと、楽しそうな2人の背中を見て歩く。そのいつもの光景。
どうして、どうして俺の隣には誰もいないんだろう…………
どうして、彼の隣が自分じゃないんだろう……


ああ、
ああ……グレイ。
グレイ、俺の場所を……僕のグランドを…………


取らないで…………


「……ザー、フェザー、起きて。」
ハッと目を覚まし、辺りを見回す。
かたわらで服に着替えたベリーが見下ろし、微笑んでいた。
窓の外はすでに暗く、どのくらい眠っていたのか見当が付かない。
「俺、ずいぶん眠ったのかな?」
「うん、1時間くらいかな。そろそろ食事に行かなきゃね。」
「うん……」
「ちょっと、うなされてた?」
「うん……ちょっと、嫌な夢だったから。」
「夢なんてね、その時の気分次第だよ。フェザーはずっと不安で仕方がないでしょう?だからじゃない?
眠る時はいつもこんなに小さくなって眠るし、野宿するとひどく眠りも浅いでしょう?もっとゆったりできればいいのにね。」
ベリーが心配して、慰めるように彼の頭を撫でた。

11、

ドアの向こうから、人々の笑い声がかすかに聞こえる。
旅行者が廊下を楽しそうに歩いている姿が思い浮かぶ。食事に行くのだろうか、ベリーが振り返りそしてフェザーに微笑んだ。
「きっと今夜はいい夢が見られるよ、ここは平和だもの。ね?」
「うん、ベッドだと何かよく眠れる気がする。ここは静かで森の匂いがして気持ちいいし。」
「そう、良かった。じゃあ気分直しに食事に行こうか。面倒だけど着替えて。あの2人がおごってくれるって言うし、行ってみようよ。」
「あの?さっきの2人?」
フェザーはあまり気乗りがしない様子だ。
確かに軽そうな奴らだけれど、まあベリーは夕食くらい付き合ってあげてもいいなと思う。
久しぶりに感じる、あの強引さに惹かれてホッとするのかも知れない。
フェザーといても彼は全てが受け身で、まるでクローンのようだから、立場が逆転した状態は実は意外とストレスがかかっていると思う。
「さあ立って!着替えて下さいな。」
立ち上がろうとしないフェザーに、彼の手を引きグイと立ち上がらせる。
イヤイヤ立ち上がって着替えた彼を、ベリーは今度、強引に椅子に座らせた。
「ほら、髪を少し編んであげる。」
「髪?なんで?」
「だって、顔にかかって鬱陶しいんでしょ?ずっと気になって仕方ないって顔してるじゃない。脇を取って編むと、顔にかからなくなるよ。」
「いいよ、面倒だろ?」
「僕がやりたいの!せっかく綺麗な髪なんだから、綺麗にしたいんだ。」
ブルーの紐を用意して、ようやく乾いた彼の銀色の髪を取り、耳のところで細かく編んで行く。
「ほら、綺麗な銀色の髪じゃない。大事にすれば輝きも増してもっと綺麗になるよ。」
「こんなの……汚い色だよ。」
「そんなこと」
「昔は、もっと…………」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
時間は戻らない。
過去はやり直せない。
それが人間に従属する事を強いられた、子供の頃の自分を思うと心が重い。
髪だけがその時の状況を、懸命に主張し続けていた。
「綺麗な子供だったんだろうね、レディの小さい頃って。」
ベリーのつぶやきに、フェザーが顔を上げた。
記憶を探っても、昔のことほど幸せなはずなのに、幸せな頃ほど思い出せない。
「良く……思い出せない。でも、何かキラキラして綺麗なイメージがある。」
「思い出せないの?小さい頃のこと。」
フェザーが目を閉じ、手で宙を探る。
そして苦しそうに、指をかんだ。
「昔の、きっと幸せだった頃のこと聞かれても、カスミがかかったようによく思い出せない。沢山の苦しい、つらいことばかりが邪魔をして、光を覆い尽くしてしまう。
俺は……なんてバカで……頭が悪いんだろう。思い出話なんて、ぜんぜんわからないんだ。聞いてるとつらくて、逃げてしまう。」
ベリーが少し驚いて、彼の顔をちらりと見る。
研究所に来るたびに彼とは接していたけれど、特別管理官の彼はいつも仕事に忙しそうで、これほどいろんな事に悩んでいるなんて見えなかったのに。
「でもフェザーは昔栄養状態が極端に悪かったから、脳へのダメージも強かったんでしょう?それにドクターマリアが、凄く恐い体験は自己防衛で記憶の底に沈めてしまうんだって言ってらした。フェザーは何も自分を責めることはないよ。
必要なのに忘れたことは、もう一度勉強しなおせばいいじゃない。」
「うん……でも、俺は本当にバカなんだ。どうしようもなくて、兄弟にも沢山迷惑かけてた。」
沈むフェザーに、ベリーが小さくため息をつく。
「まったく、フェザーは自分のいい所がぜんぜん見えてないんだから。」
「……うん」

自分に、いい所なんてあるのかな。
いいところって、どんな物なんだろう。
それがあると、誰かの一番になれるんだろうか。

じっと目を閉じているフェザーに、ベリーが穏やかに口を開いた。
「ねえ、レディ。」
何故かフェザーと呼ばない彼に、ふとフェザーが目を開ける。
「僕はね、生きていて良かったと思うんだよ。こうしてレディの為になれてね。
僕たちクローンはね、人間の役に立ちたいために生まれてきたんだ。こうしてフェザーの為に、一生懸命尽くすのが僕の自然な姿。
でもね、それ以上にレディアスは、僕の大切な友人であり家族であり、恋人なんだよ。」
返答のないフェザーは、また目を閉じうつむいて何かを考えている。
編み終わった髪をキュッと紐で結び終わると、ハイッとベリーが肩を叩いた。
「終わったよ、ほら違うでしょ?」
「うん。」
「じゃあ、行こうか。フェザーが帰りたい時は言ってね、一緒に帰るから。」
くるりとドアへ向かうベリーの手を、思わずフェザーが掴む。
「え?」
「……べりーは、べりーの、一番は、誰?」
「一番?」
「一番の、人。」

一番の人…………
フェザーの、それは最高の表現なのかな。

「僕の……一番はね、まだ見つかってない気がするよ。でも人に順番なんて付かなくていいんだ、みんな好きで大切。そして自分も大切にされてる。それがわかっているから。」
「でも……」
ベリーが不安そうな表情のフェザーの手を両手で包み、そして真っ直ぐに見つめる。
「聞いて、フェザー。いいえ、レディアス。みんな、あなたがとても好きなのに、あなたはそれから目を逸らしてる。過去は終わったんだよ、時間は戻らないんだ。
誰もあなたの昔は知らない。
フェザー、あなたの本当の顔を見せて。
フェザーはレディアスという箱の中から少しも顔を出してない。
僕は言うよ、あなたの為に。
もっと自分を見て。あなたは過去じゃない、今を生きてるんだよ。」
フェザーの手が、びくりと震える。
全てを見透かしたような瞳のベリーは、研究所でも保護されたクローン達を真っ先に面倒見る立場にあった。それは、多くは人間不信の状態にあるクローンを扱うのに慣れていると言うことだ。
自覚はないがベリーは実際、テレパスではないだろうかと言われていたほど、カンのいい優れた研究所の職員だった。

ベリーを信じられなくなった、この自分の不信感を見られている。

フェザーが息を飲む。
隠し事など、無駄でしかない。ベリーだからこそ、胸の中は吐露してしまった方がいい。
彼は、真剣に自分の味方になってくれるだろう。
それが仕事だからなどと考えず、本当の友人として。

何が間違いなのか、俺には元よりわからないのだから。

フェザーは思い切って、今の胸にある物を素直に吐き出した。
「……わかってる。わかってるんだよ、頭の中じゃ。でも……でも自信が持てないんだ。兄弟達もみんなパートナーを、仕事じゃなく生きる上でのパートナーを作ってるのに、俺は気がついたらとなりに誰もいなかった。
俺、……俺は思いこむばかりで、人がどう思ってるのかわかんなくて……
自分が人の一番になれたんだって、そう思っていた時はあんなに強くなれたのに。それが思い違いだとわかって、足下が崩れたような気がするんだよ。どうしてだろう。
どうすれば、みんなのように誰かの一番になれるのかわからない。
ベリー、ベリーのことも、ほんの一瞬信じられなくなったんだ。ごめん、ごめんよ。
俺は……俺はちゃんと生きていくって決めたのに。でも、何の為に生きていけばいいのかわからないんだ。」
一息にフェザーが心の内を話し、そして息をつく。
上手く話せたのかわからない。
でも、彼にだけは何も隠したくなかった。
「フェザー、なんてことだろう。」
ベリーが潤んだ瞳で彼を見つめ、そして嬉しそうに抱きしめる。
「ありがとう。フェザー、ありがとう。」
「ベリー?」
「あなたは僕を信じてくれた。僕はこれで、あなたの一番に近づけたね。」
「俺の……一番……」
ベリーが彼の前に、両手を握る。そしてうなずいた。
「ゆっくりでいいんだ。ゆっくり。」
「なにを?」
「一緒に、ゆっくり考えよう。僕らは何の為に生きればいいのか、そして愛するって事がなんなのか。
あなたの中の、うつくしいものは消えちゃい無い。そうでしょう?」
「う……ん、でも…………」
「急がず、ゆっくり、よく考えて。そして大事に、そのうつくしいものを育てなきゃ。
フェザーは急ぎすぎだよ。僕らみたいに、寿命が短いわけでもないのに。」
特別に能力のないベリーのようなクローンは、長くて4,50年。
べりーにはあと何年残っているんだろう。
でも……
「俺だって、あと何年生きられるかわからないんだ。」
「フェザー……」
「俺の手足はクローンの物なんだ。
それに、ドクターに言われてる。病気…………また再発するかもしれないって…………」
重い表情の彼を、ベリーが抱きしめる。
その先にどんな言葉があるのか、ベリーは十分わかっている。
兄弟の中で彼だけが定期的に研究所へ通わなければならなかった理由。
それはグランドさえ知らない。
旧カインの、核による放射能汚染の進んだ戦場。
放射能などその存在も知らされず、消耗品として扱われていたクローン達とずっと野外で行動を共にしていた彼が、それを浴びないはずもない。
そこから帰還した彼だけが、コールドスリープから目覚めたときの検査で重度の放射線病になっていた。
兄弟と1人離されていた彼は、死を覚悟しながら秘密にして欲しいと願い、そのただ一つの願いをドクター達は聞いてくれた。
でもずっとそれを心に秘めているからこそ、早く早くと自分の居場所を求めていたのだ。
「大丈夫。人間は決して立ち止まっちゃいない。毎日前を見て進歩してる。何かあっても、何も心配いらないよ。再発しても、またきちんと治せばいいんだ。」
ベリーのからだが包み込むように暖かい。
フェザーは目を閉じ、ホッと息をついて彼にもたれかかった。
「うん。」
彼の力強い言葉が、心の重しを少しだけ軽くする。
「ベリーも、長く、長く生きて。」
「もちろん、僕はクローンの最後の1人までお世話しないとね。」
「フフ……」
ベリーらしい答えに、珍しくフェザーが笑った。
2人いるから乗り越えられる不安もあるのだと、フェザーはベリーのぬくもりに感謝していた。

12、

「お待たせ。」
ザワザワとした食堂の奥。
冴えない顔で顔をつきあわせて飲んでいた男2人の表情が、ベリーの一言で振り向きざまにパアッと明るい顔に変わった。
「おお!来てくれたのか、ラッキーだぜ。」
グッと指を立て、いそいそと立ち上がり椅子を引いてベリー達をエスコートする。
さっそく酒と料理を注文して、さあさあと2人に差し出した。
「来てくれないかと思ったよ。どこかに行ったのかい?」
「違うよ、彼が寝てたの。」
「そうか、温泉は慣れないと疲れるからな。まあ食ってくれ、お前さん達少し痩せすぎだ。
……と、その前に、自己紹介しよう。
俺はバラン、こいつがデュークだ。イカスだろ?」
赤毛のバランがパチンとウインクする。
「自分で言うかよ、アホ。」
黒髪デュークはやや呆れてそっぽ向いた。
ベリーが、クスリと笑って顔を上げる。
「まったく強引な人だね、あなたは。
僕はベリー、こちらはフェザー。」
「へえ、ベリーさんとフェザーさんか。ピッタリだな。綺麗な名だ。」
「さんはいらないよ、バラン。」
「そっか、じゃあベリー……でいいんだな。
あらためて乾杯だ!」
バランが頬を赤く染め、酔ったようにガチャンとグラスを合わせる。
横では無言で黙々と食べるフェザーを眺め、デュークがちょびちょび酒をなめた。
「……あんた、やっぱきれいだな。」
デュークがぽつりと思わず漏らす。
「ほら、誉められてるよフェザー。」
フェザーがベリーにちょんと小突かれ、なに?と顔を上げた。
しかし彼は自分を見つめるデュークが苦手なのか、眉をひそめて皿を手に取り、横を向いてまた食べ始める。
デュークはそのあからさまな態度に、ぽかんと口を開けて酒を落としそうになった。

まさか、俺って嫌われてる?

「ヒヒヒ……嫌われてやンの」
ガーンと来たデュークを、横でバランが笑った。
「あまり見つめると、彼逃げちゃうよ。シャイだから。うふふ……」
「え?なに?こんなに美人なのに、シャイで純?」
「そ。」
「なるほど……そうか、シャイね。」
ベリーが微笑むと、なんだか気恥ずかしい。
「まあ、見てるだけで酒がうまいと思ってね。」
「そうだな、シャイな所も可愛いじゃねーの?な。」
「あ、ああ。」
真っ赤になったデュークを、手を止めたフェザーがくるりと向いた。
彼は可愛いという言葉に軽く反応する。
「かわいい?可愛いって、男に言う言葉?」
首をかしげて、ようやく初めて一言話した。
「おお!」
ドキンとバランが身を乗り出す。
「いいな、おい。やっぱお前さんいい!」
「おい」ちょっと酒が回り始めた彼を、いい加減にしろとデュークが押しながら言う。
「まあ、男に言う言葉じゃねえよな。男らしいの正反対だ。」
「ふうん。」
生返事でも、初めての会話らしい会話だ。
舞い上がるデュークが、酒をグッと飲む。
「ワハハハハ!今夜はいい夜だよな、デュークよ。幸せだなー、おい。ワハハハ!」
バンバン!大きな手で背を叩かれ、手の酒がバシャンとこぼれた。
「チェ、単純な奴。」
「なあなあ、ところでさ、ベリーさんよ。」
「なに?」
「俺と付き合わない?」
「はあ?」
「このバランさん、君に一目惚れって奴よ。
なあ、旅やめて俺と付きあわねえかって聞いてるの。世界中で一番大事にするぜ。」
バランの赤い顔がべりーに迫る。
ベリーはしかし、彼の一番という言葉にドキッと不安が走った。隣のフェザーにちらりと目をやる。
フェザーは黙々と食べて、気にかけていない様子だ。ホッと息を吐いた時、ヌッと人影が迫った。

「デューーークッ!」

背後からいきなり女性が、彼の耳をつまみ上げた。
「いてて、なにすんだよ。」
「ちょっと!久しぶりに帰ってきたと思ったら、美女を前に嬉しそうじゃない?」
プンプン腹をかいているその女性は、ここで給仕をやっている同じ年頃の女性だ。
デュークと同じ黒髪に、茶色の瞳でキッと睨んでいる。
「なんだ、メイか。」
「なんだじゃないわよ、ご挨拶ね!ちゃんと帰ってきたって顔くらい見せてもいいじゃない?」
「だから来てるだろ?」
「ドクターがまた、薬の仕入れを頼みたいって言ってたわよ。明日行ってみるのね。じゃ、仕事あるから。」
いきなりまくし立て、言いたいことを言ってさっさと背を向ける。
ベリー達がポカンとしているのを見て、気まずそうにヒョイと肩を上げた。
「幼なじみだよ。恋人気取りでさ、まったく……」
「恋人だろうがよ、帰れば必ず会ってるくせに。」
「冗談、ずっとガキの時から一緒だから、家族みたいなモンだよ。恋人とか、そんなのじゃねえよ。」
話題に上がっているのも知らず、メイは鼻歌交じりにステップを踏みやって来る。
「デューク、浮気しちゃ駄目よ。はい、私のおごり。」
メイが、ゆでたソーセージを一皿デュークに差し出す。そして、投げキッスでまた仕事に戻っていった。
「おお、アピールしてるじゃん。」
「いちいちうるせえな」
「へっ冷たい奴、デートだってしてるくせよう。彼女嬉しそうに言ってたぜ。」
「あれはあいつの勘違い。そんなんじゃねえよ、兄弟みたいなもんさ。大体タダの家族と恋人は同じじゃ無いっての。いい迷惑だよ。」
大きな不安感がベリーを覆った。
フェザーは手を止め、無表情に皿を見つめている。
「フェザー、大丈夫?」
ベリーが怖々と彼の背中を撫でた。
一体何を考えているのか、傷口をえぐるような言葉は、フェザーに向けた物ではない。
神に祈り、思わず胸のクロスを握りしめた。

早く、話題を変えなきゃ……

頭を思いめぐらせる。
「か、可愛い人ね。ねえバラン、僕もお酒もう一杯たのんでいい?」
「ああいいぜ、メイ!酒—!」
グラスを上げて叫ぶバランに、デュークが嫌な顔で横から脇腹を突いた。
「やめろよ、メイなんかに頼むなって。あいつがいるとちっとも面白くネエだろ。」
「デュークさん!」思わずベリーが叫ぶ。

ガチャン、

フェザーが顔色を変え、手からフォークを落とした。
「フェザー、大丈夫?」
「あ……うん、俺…………帰る。」
「フェザー!」
立ち上がり、背を向ける彼の手を慌ててデュークが掴んだ。まだ、ろくに食べていない。
「俺、なんか悪いこと言った?」
「言った。」
パッと手を振り切り、逃げるように去る彼を追ってベリーが立ち上がる。
デュークがそれを遮り、自分が行くと手を挙げた。
「俺が悪いんだ、俺が行くよ。」
「デューク!彼はあなたの彼女に対する言葉に怒ったんだよ!」
叫ぶベリーに手を挙げ、デュークが駆けてゆく。
「デューク!どうしたの?」
「いや、ごめんな。すぐに戻るから。」
「デューク!」
メイが心配そうな顔で駆け寄りながら、ドアから出て行く彼を見送った。

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