22、

誰かが時々肩を揺り動かす。
ふかふかの布団が気持ちよくて、身体が布団と一体化してる。
眠い。
眠くて目が開かない。

どうかほっといてくれ。
ああ、でも腹減った……

「……べるんでしょ?!」
ベリーがなにか耳元で叫んでる。
無理矢理布団から引きはがすように起こされ、座らされた。
なんだか、凄く身体がだるい。
「ほら、しっかりして。食べたらまた寝ていいから。お腹すいてるでしょ?お腹がグーグー言ってるよ。」
グラグラする頭でコクンとうなずいた。
「じゃあ口開けて、ほら!ちゃんと飲み込むんだよ。」
何か、どろっとした物が口の中に流し込まれた。更に激しく肩を掴まれ揺り動かされる。
まぶたが重くて目は開かない。
でも何とか飲み込んで顔を上げると、横でベリーが大きく溜息をついた。
「一体何日寝るつもり?もうブランカ達もため息付いてるよ、フェザー。僕はすっかり温泉でお肌がツルツルになっちゃった。」

……何日?って?

無理矢理まぶたをこじ開ける。
しかし猛烈な睡魔に、うっすらと見える部屋の景色がぐにゃりと曲がった。

やっぱり……駄目……

せめて言葉を。
大きく息を吸い、精一杯言葉を吐き出した。
「……な……にち…………」
「あら、やっとしゃべった。もう今日は3日目だよ。あの夜の、次の日から数えて3日。
フェザーったら、ご飯とトイレ以外ずっと寝てるの、覚えてないでしょ?」

3日……3……日?!

パチッと、ようやく目があいた。
「目、覚めた?」
あいたけど、また閉じてしまいそう。
「ダメダメダメ!起きてよ!もう!」
ベリーがやや乱暴に、濡れたタオルでゴシゴシ顔を拭く。そしてボサボサ頭でぼんやりした顔に、プウッと吹き出した。
「フェザーったら、究極疲れてたんだ。まったく、休みたいなら休もうって言ってよね!
ベッドに寝たとたん何日も爆睡じゃ参っちゃうよ。」
部屋を見回すと、相変わらずホテルの部屋。
「俺、ずっと寝てた?」
「寝てたよ、帰ってきた時は泥だらけでメイドのマリナさんにずいぶんお世話になっちゃった。あの日の夜は熱が出たけど、良いお薬貰ってすぐに熱も引いたし。良かったよ。
で、オーナーにはね、悪いから部屋代払うことにしたんだ。
あのカード、凄い金額入ってたからね。」

はあ……

大きくため息をついて、ゴシゴシ目をこする。
窓から見える山の緑が、目にまぶしく輝いていた。
「盗賊は?」
「みんな捕まった。誰もフェザーの姿を見て無くてね、いきなり誰かに襲われたって言ってるらしいよ。首領が逃げていたから、ポリスは仲間割れじゃないかって。
今はポリスの数が増えて、観光客が一時的に減ってるかな。クローンも逃げたのが幸いしたよね、結局軍は出てこなかったよ。」
「そう……結果的に良かったのかな。」
ほんの少し残っている皿のリゾットをかき込むと、余計ハラが減ってくる。お腹がグーと鳴った。
「結果的には良かったよ、フェザーよく我慢したね。もうてっきりキャンプは惨殺死体で埋もれてるかと思ったけど。」
「うん、殺すよりきつかったかな。」
笑いながら、平気で恐いことを言うベリーは確かにクローンだ。
まあ、それを気にかけるフェザーではないのも異常かもしれないが。
「さあ!フェザーも起きたことだし。」
ベリーがやる気一杯、そでをめくり上げる。
しかしまたフェザーはウトウト。
「もう!また寝てる。さあ、お風呂に行くよ、なにがなんでも連れて行くからね!」
「ん……え?」
ようやく起きたとは言ってもグラグラのフェザーはその後、目を覚ませる為にと風呂へ引きずられ、そしてオーナーに顔を見せるために今度は食堂へホテルを出ていった。



いつもは沢山の客でごった返す通りも、騒ぎの直後で客が少なく空いている。
それでも、カインの人々はこういう騒ぎには慣れているので、すぐに客も戻るだろう。
町の人々はさほど暗い顔には見えない。
ホテルを出て歩きながら、またどうも眠そうなフェザーにベリーは、何か話しかけなきゃと頭を巡らせた。
「もう寝るのは夜にしてよね。」
「うん……うん、わかってる。」
「疲れるといつもこんななの?そう言えば去年だったか、一度研究所へひどく眠いって検査に来てたよね。」
「……ん、うーん、何日も寝ちゃうのはこれが3度……目かな。そう言えばその時も連続して外地で行動した時だったっけ。」
「3度?!呆れた、無理が利かないんだ。」
「うん、グランドは冬眠だって呆れてた。やっぱり定期的に休まないと駄目なんだろうな。すっかり忘れてた。」
「冬眠ね、まあ身体壊すよりいいけど。
そう言うこと、もっと早く話し合っておかないと大変なことになったかもしれないよ。まわりがいい人ばかりだから良かったけど。僕ビックリしちゃったよ。」
「うん、ここは居心地がいいから気が抜けたと思う。」
「まあ、いいけどさ。
そう言えば寝てる間に一度だけ、博士にはちょっと連絡入れたんだよ。」
「そう」
フェザーが視線を落とす。
ベリーはしかし、体調を崩した彼にひどく不安になって、そうせずにいられなかったのだ。
「フェザーも話したかった?ごめんね。でも、みんな元気だって。研究所で静かに暮らしてるらしいよ。」
「そう」
「みんな、フェザーを心配してるって。」
「うん」
ベリーが彼の顔を覗き込み、そしてギュッと手を握る。
「ね、みんなどれくらい心配してるかな。」
「…………さあ……ほんのちょっと。」
「うそうそ、きっとハカリが振り切れるくらいだよ。帰ったら、グランドなんて心配してツルツルにハゲてるかもしれないよ。」
笑うべりーにフェザーがようやく顔を上げ、クスッと笑った。
「笑ったね。フェザー、笑った方がずっときれい。」
「俺は男だよ。」
「男でも綺麗なんだから仕方ないよ。きっとレディは、綺麗に年をとっていくよ。」
「……レディアスか、その名は忘れた……」
プイッと前を行く。
「忘れたなんて……もう、ほんっとに困った人だね。」
ベリーが肩をヒョイと上げ、とにかく挨拶を済ませたらコートを買いに行こうとフェザーを誘う。しかし、相変わらず何ごとにも乗り気でない彼だ。
「ベリーだけ行ってくればいい。俺はいらないから。」
「何言ってンの、ガタガタ震えてたくせに。
ほら、デュークに帽子借りたの。僕の髪はあまり目立たないけど銀髪は珍しいからね、フェザーがかぶればいいよ。」
「うん」
ボスッとベリーがツバの広い帽子をフェザーの頭にかぶせ、ツバにあいた穴に通した紐をアゴに止めた。
「かーわいいじゃない?」
キャッ!声を上げて笑う彼にムウッとしながら、フェザーがギュッと顔が見えないよう深くかぶりなおす。
頭がぼんやり働かないおかげで、今のフェザーはどこか角が取れた感じだ。
「だって、ホントに可愛いんだもん。」
「可愛いって、こう言う時使う言葉じゃねえだろ。俺だって、そのくらいはわかってんだから。」
「あら、そんなこと無いよ。フェザーはもっと勉強しなきゃね。」
「意地悪だ、ベリーは。」
「ダメダメ、怒る時はもっと憤慨して言わなきゃ。フェザーはホントに感情の起伏が少ないんだから。」
「フ……フンガイとか、わかんない言葉言ってもさっぱりなんだよ。」
「だからフェザーはもっと本を読んだ方がいいって言ってるでしょ?」
「本なんて面倒くさい。」
「ほら!ラクばかりで勉強しようとしないから、いつまでたっても言葉やつづりを間違えるんだよ。」
グッと詰まって何も言い返せない。一々調べながら本を読むのが嫌いなだけなのだが、まったく勉強は進まず、おかげで軍の装備も手取り足取り教えて貰ってようやく使えた。ただし、ディスクリーダーやパソコンはいまださっぱりだ。
「やっぱりベリーは意地悪だ。」
「今度本を貸してあげるよ。勉強して、帰った時みんなをビックリさせて上げよう。」
「う……ん……」

帰る時って……本当にあるのかな……

ほんの少し、不安が走った。
「おっ!ベリー、なんだ相棒やっと目え覚ましたのか?」
「よう」
「あ、バラン、デューク」
食堂に入って行くバラン達に、ベリーが微笑んで手を挙げた。
物知りで頭のいいベリーは、誰とでもすぐに仲良くなる。
3人の仲のいい様子に、帽子を押さえながらフェザーは明るい顔のベリーを羨望のまなざしで見上げた。

……もしかしたら、勉強したら、誰かが好きになってくれるのかな。
俺ってバカだから、誰も相手にしてくれないのかな……
きっと、頭が悪いから何を信じていいのかわかんないんだろうな……

考えていると、また眠くなって景色がぐにゃりと揺らぐ。
まぶたが重く、懸命に開きながら軽く首を振った。
「よう、ずいぶん寝てたんだな。具合はどうだ?」
ドンとデュークに背中を叩かれ、フェザーがよろめく。慌ててベリーが腕を引き寄せた。
「やだ、しっかり歩いてよフェザー。」
「ハハ、悪い悪い。帽子、似合うぜ。良かったらやるよ。」
「え?ホント?」
「あ、ああ」
ぼんやりした顔で珍しく微笑んだフェザーに、デュークがドキッと顔が燃え上がった。

か、可愛い!男って事忘れそうだぜ。

「あら、良かったねフェザー。帽子買わなくて済んだじゃない?」
「うん、じゃあ俺何も買わなくていいね。」
「コート!コート忘れてるよ!もう!起きてる?」
「……うん」
グラグラ、眠くてもつれる足に、デュークがベリーと反対側の腕を握った。
「こりゃ、まるで強制連行だな。何ならお姫様抱っこでもしようか。」
端で見ていたバランが、ヒヒヒと下品に笑う。
「結構です!」
なぜかプイッとベリーが怒ってフェザーの腰を引く。
「冗談だよ、冗談。」
「僕、冗談は嫌いだよ。」
そう言ってフェザーを引きずるように、さっさと先を急いだ。

23、

熱いコーヒーを勧められ、ようやく少しはっきりしたフェザーが、ぼんやり店内を見回す。
いつもより少ない客に、今更気がついて帽子を取った。
「少ないんだな。」
「そうだね、騒ぎが起きてすぐだし。」
「でも、いい宣伝にもなったから、すぐに客足も戻るだろうさ。心配いらねえよ。
ところでベリーよ、ホントに俺とつきあわねえ?」
「だから、お断りしたでしょ!しつこい男は嫌いだよ。」
「なあ、彼も一緒にここに住めばいいじゃねえか。用心棒でもいいし。」
用心棒という言葉に、ベリーがギッと彼をにらむ。バランがドキリと顔を引き、誤魔化すようにニヤリと笑った。
「もちろん俺が面倒見るからよ。な?優しくするからさ。」
「もう、しつこいなあ。僕は男なの!」
「俺はベリーが好きなんだよ。だいたい恋に性別を持ち出すなんざ、今どきナンセンスだろ?子供なら、養子を貰えばいい。」
バランがベリーの手を取り、何度もキスをして握りしめた。
フェザーがそれを、じっと見ている。ベリーがそれに気が付くと、慌てて彼の手を振り払う。
その時フェザーの脳裏には、ダッドの顔が思い出されていた。

寂しくて不安でどうしようもないあの頃、彼は手を握り、そしてバランと同じような優しい言葉をかけてくれた。
バランを見ていると、彼の姿が重なってくる。
でも、2人には大きな違いがある。
バランの心から本当の気持ちと違って、ダッドはウソ……芝居でしかなかったのだ。
あの、うれしくて暖かくて不安な気持ちを、ベリーは体験しているのだろうか?
いや、きっと、本当の物にはもっと重さがあって、どんなに大きな幸せを感じるんだろう。
ベリーの中の美しい物が、どんどん輝きを増している。まぶしいほどに。

……ああ、なんて綺麗なんだろう。ベリー……

2人を見ながらまぶしそうに目を細め、フェザーが頬杖をつく。
真実の、一番の人との愛情なんて、うらやましくて仕方がないと思う。
仲が良い2人はグランドとグレイを思い起こさせる。しかしベリーがグランドと違うのは、その場にバランがいても決してフェザーの前に出ないことだ。
いつもフェザーと並んで、それが当たり前のように腕を組んできたり手をつないでくれる。
サスキアでグランドと並んで歩いていても、グレイがいると、何となく隣をグレイに譲ってあとをついて行くのが普通だった。
2人のむつまじい背中を見ながら追いかけて、2人の背中がうらやましくてたまらなかったのに、そんな嫌なドロドロした気持ちにならなくて済むのだけが、この旅に出て一番ホッとしたことだ。
しかしもう、それも遠い昔の出来事だった気がするけれど。

ああ、今は、ウソでもいい。
誰かの優しさを夢に見たい……
暖かい手のぬくもりを……ウソでもお芝居でもいいから……夢でいいから…………

うとうとと、重いまぶたが閉じて行く。
偽りの幸せを求めて……

「……からね、バランの入り込むスキマなんて無いよね。」
いきなりギュッと腕を掴まれ、ハッと顔を上げた。
「やだ、また寝てたの?フェザーったら。」
「え、あ……うん。」
「もう!はっきりしないんだから。」

「なんだ、まだボウッとしてるんだね。」

オーナーが、食事を手にテーブルまでやってきた。
差し出された料理は、肉がコートされた卵が金色に光るピカタで、添えられた揚げたポテトがカリカリで美味しそうだ。
続けてメイが、スープやパンなど運んできてくれる。
「さあ、暖かいうちに食べな。これはおごりだよ。」
「おお、バアさん美少年には太っ腹。」
ニイッとバランがオーナーを冷やかした。
「そうだね、あたしゃ薄汚いヒゲ面が大嫌いなんだ。」
がくっ
「ちぇっ、墓穴ほっちまった。」
ガッカリするバランにベリーが笑いながらふと横を見ると、フェザーがスプーンを持ったまま、またウトウトしている。

「こら」肘でドスッ!

「ん……うー、痛い。」
「痛いなら目え開けてご飯を食べるんだね。」
「うん、わかった。」
フェザーは相変わらず半覚醒で、時々ガクッと手が落ちる。そのたびにハッと気が付いては背伸びをする様子にオーナーが笑った。
「まるで、小さい子が眠いのをガマンして食べてるようだよ。ホホ……可愛いこと。」

また可愛い……

言われてガッカリ。
「俺、男らしくない?」
ゴシゴシ目をこすり、キッと顔を締まらせてオーナーに聞いた。
「あらまあ、お前さんは男らしいって言われたいのかい?そうだねえ、あたしから言わせると、お前さん達は羽根の抜け替わり始めたヒヨコみたいなもんさね。今からどうとでも変わるよ。」
なんとなく、例えがピンと来ないフェザーが,
ぼんやりした頭で首をかしげた。
「ヒヨコ?」
「おや、まあ」
まったく、そんな仕草が可愛いのに、この子はわかってないねえ。
オーナーがクスクス笑う。
「お前さんは半分寝てるくらいが丁度いいよ。初めて見た時は、触れば切れるような顔してたじゃないか。あれじゃあ誰も近づけやしない。風切り羽根は風を切るもんだ、人を切っちゃいけない。」
「……うん……」
ウトウト、話しを聞いてるうちにまた眠くてたまらない。
「フェザー、ちっとも聞いてないね。」
ベリーがまたドスッと脇をついた。
「目が覚めるのに、あと3日は必要だろうさね。」
「まあ急ぐ旅じゃないけど、フェザー、あと2日にしてね。」
こっくり、スプーン片手にまた寝てる。
「ぷうっ!」
「くすくす」
皆で笑いながら、ベリーは初めて見るフェザーのぬけた姿に、写真を撮って博士達に送ってやりたい気持ちだった。



町の入り口を、武装した数人のポリスが警戒している。盗賊を捕まえたことで、仲間の報復を懸念しているのだ。
大きなトラックが町を出てきて、そしてポリスの脇で止まった。
「お疲れさんっす。」
バランがニッコリ、ポリスに運輸に関わる車の証明証を渡す。デュークがヒョイと顔を見せて、親しげに手を挙げた。
見知った人間なのだろう。
「荷物は?」
「空箱と、町からの荷物が少し。見ますか?」
「イヤ、外からの分を警戒してるからね。いいよ。」
「軍からの応援、結局来なかったですね。」
「来るよ、遅いけどね。明日何人か来て貰って、捕まえた盗賊の装備を見て貰うんだ。入手経路とか調べるらしいけど。」
「ああ……なるほど。じゃ、また。」
「ああ、気をつけてな。
デューク、今度来る時は良い酒仕入れてきてくれよ。サスキアに行くんだろ。」
「いいよ、何か見繕ってくる。」
「楽しみにしてるぜ。じゃあ……」
手を振って見送るポリスの横を通り過ぎ、そしてしばらく走り続ける。
荷台の中では積み上げた空箱の向こうで、フェザーとベリー、そして動物たちが息を潜めて隠れていた。
2人は町を出て、ほどほど離れた場所で降ろして貰うことになっている。
車に慣れないブランカをなだめるべりーを、フェザーがちらりと横目で見た。
このまま、また旅に出るともうバランとベリーは会えないかもしれない。それで良いのかフェザーは胸が苦しい。自分のせいで彼を不幸にしないかと思えば、つらくてうなだれ目を閉じた。
「ベリー」
「なあに?フェザー。」
「やっぱり俺、この先は1人で行くよ。」
「まだそんなこと言ってる。怒るよ。」
「でも……ベリーはあいつといた方が幸せになる。俺のことは心配いらない。ガブリエルもいるし、1人でも目的地に行ける。あと少しだし、博士達にはあとで理由を話せばいい。」
「駄目、それは僕が許さない。……それに、フェザー忘れてるよ。
僕は……クローンなんだ。人間じゃない。それを彼が知って、それでも同じ言葉を言ってくれるとは限らない。僕は…………」

それを聞くのが恐いんだ。

このまま、いい思い出のまま別れたほうが、僕はそれを心の支えに生きていける。
「ベリー、そんなこと……」
「フェザー、それよりこれからドンドン寒くなるよ、目的地はかなり北だから。町を見つけたら度々休まないとね。いい防寒服も買えたし、オーナーから薬も貰えたし、とりあえずは旅も問題無さそうだね。」
「あ、ああ、うん。馬は大丈夫かな。」
「うん、馬は寒い場所じゃフサフサになるらしいよ。フェザー見たことあるんじゃない?
ブランカもノワールも、どんな姿になるんだろ。ウフフ……」
「うん……」
明るく笑うベリーに、自分は何もしてやれない。
自分はどうしてクローン達の足を引っ張ることしかできないんだろう。
悲しい。
胸が痛い。
そこまでしてくれる価値なんて、俺にはないのに……
何と言えば許されるんだろう。



日が高く昇り始め、気温が次第に上がってきた。
大きな一本の木を見つけ、運転するデュークがそこを目指す。
「ああ、さびしいなあ。」
ぽつんと漏らし、ガックリ頭を下げるバランを横目に苦笑いして、スピードを落とす。
「じゃあ、このまままた町に引き返そうか。」
「へっ」
「連絡先くらい聞けばいいじゃないか。」
「追われてる人間が話せるわけ無いじゃない。バカ!だとよ。」
「残念でした。フフ……」
どうしようもない別れが近づいている。
そうしているうち、やがて大きな木は目の前に迫ってきた。。


車が止まり、デューク達が運転席から降りる。荷台のドアが開き、まぶしい光が中を照らした。
2人を隠す為、積み上げていた空箱をどけてデュークがニッコリフェザーに手を挙げる。横でいきなりバランがべりーに抱きついた。
「ちょっと!いいかげんにして!」
「お前はホントにドライだよなあ。ベリー、また会う為にはどうしたらいい?」
「無理だね、僕のことはいい思い出にして。」
「さびしい奴、俺はきっと探し出すからな。」
「駄目だよ、僕のことは忘れて。バラン、優しくしてくれてありがとう。さよなら。」
頬にキスをして、彼から離れるとブランカを荷台から降ろして行く。
「じゃあ、元気で。」
「ありがとう。」
「気をつけてな。」
先に降りていたフェザーと共にデュークに別れの握手をすると、ベリーはブランカに乗った。
「フェザー、行くよ。」
先を行くベリーの背中を見て、フェザーが迷うように彼を見送るバランを見つめる。
「フェザー!早く!」
叫ぶばかりで振り返らない彼は、きっと泣いている。
「キュウ……」
ガブリエルがフェザーにすり寄り、迷う彼を促した。
「おい、行かなくていいのかい?」
バランがさびしそうに、ベリーを指さす。
「あいつ、よろしくな。」
豪快な男が、しぼんで見える。
フェザーはギュッと両手を握りしめ、そしてバランに顔を上げた。
「か……彼の……」
「え?」
「か……れの……眼、本当は……あ、赤いんだ。」
「え?赤ってそりゃ……」
「ガブ、行こう。」
フェザーがきびすを返してノワールに飛び乗り、続けて彼の後ろにガブリエルが飛び乗ってふせた。
走らせてブランカを追いかけると、ベリーもブランカの足を速める。
彼を追いかけながらフェザーが手綱をギュッと握りしめ、眉を寄せて歯を噛みしめる。
あれで良かったのか、自分にはわからない。

赤い瞳はクローンの証し。
カインの人間ならば誰もが知っている。

ベリーは2度と会おうとはしないだろう。
でも、バランにただ一つヒントを提供できたら、彼はきっと探し出してくれる。
そう信じたい。
人間を信じて、そして裏切られたことは数限りなく、自分自身信じることを忘れていた。
あれで追っ手が迫り自分を殺すことになっても、ベリーの為になるのならそれでかまわない。
キッと顔を上げ、真っ直ぐに前を見た。

「ベリー!」

名を呼ぶと手で顔を拭く仕草をして、ベリーが振り返り明るく笑った。
「さあ、行こう!フェザー!」
並んで青い空の広がる荒野を、目的地へ向け走り出す。
茶色の瞳の眼を赤く腫らし、ベリーが何故か片手を空へ向けて何かを追いかけるように掲げる。
フェザーはその時、彼の心にも大きな穴が空いてしまったのだと直感した。

ベリー、俺は……

自分の存在がまわりを苦しめるのだろうか。
ベリーは俺を憎んだろうか。
でも、
それでも、今は生きたいと思う。
何か自分の存在が、いつか本当に意味のある物になるなら。

フェザーは青い空を見上げ、神という物を信じて祈ってみようと思った。

>>風切羽根が変わる頃7へ